第1話 異世界転生、そして。
初の投稿作品となります。
寛大なお心でお読みいただき
何かを感じてもらえたら幸いです。
基本、不定期更新です。
私は静かに空を見ていた。
どんよりと暗く黒い雲だけを見つめ、激しい雷雨の中
間もなく、体温が下がりきって死ぬのでは?
そう思いたくなる位、この状況に納得がいかなかった。
私の名前は石家種子。
元45歳、OL、独身、両親は既に亡くなっているし兄弟も居ない。
そんな私が、剣と魔法が織り成すファンタジーな世界に
前世の記憶を持ったまま、世間一般で言う異世界転生する事となった。
事の始まりは、とても常識の斜め右上くらいの出来事から始まる。
私は週末の金曜日、いつも通りに出社すると
上司がまぁいきなり怒っていた訳ですよ。
まず怒っている理由が、取引先への納品ミスだそうだ。
そして、取引先に謝罪に行き
会社に帰った時点で、私は上司の腹に1発拳を叩き込んだ。
くの字に折れ、横たわった所にマウントを取り
もう殴れるだけ殴った。
まぁ、いきなりそういう事になれば
会社内も騒ぎになる訳で、最終的に私は
力ずくで上司から引き剥がされ、現在社長の目の前で
正座中である。
ちなみに上司も、顔がボコボコに腫れ上がっているが正座中だ。
どういう事か説明してもらおうか、と言う社長の言葉に
私は丁寧に説明した。
まず、取引先が怒っている理由は
私が居ない間に届いた発注のFAXを、上司が勝手に
自分の営業成績にすべく、処理したのはまぁ良い。
どうせ会社としてはどちらの売上だろうが
プラスはプラスなのだから。
だたこの糞上司がやらかしたのは、まず取引先が怒った理由だ。
どこに1000個発注を10個、と打ち込むミスをするのか。
1桁ではない、2桁だ。
その上、私の責任だと散々怒鳴り散らした挙句
その大元はこの馬鹿上司だ。
それだけで、私はここまでしない。
すぐに取引先に手土産を持って謝罪し
明日朝一の手配をした事で、取引先の怒りは収まった。
ただ、この手前に問題があった。
あくまで私のミスだとし、俺への詫びは無いのか?
と、詫びの品まで強請り
手土産と含めて10万以上を私は自腹を切った。
だと言うのに取引先にいってみたら私は何の過失も無く
全てはこの糞馬鹿上司が全ての元凶。
それでいて詫び?
だが路上でやらかすと、警察が来ると
会社まで溜めに溜めて、戻ると同時に
腹にドボンと1発叩き込んだ。
この会社は一族経営なのも知っているし
この糞馬鹿野郎が社長の甥だというのも知っての所業だ。
それでも我慢したのは、これを仕事と割り切ってであって
どこにこれを我慢しつつ、お金まで払わねばならないの?
10万なんてこいつにとっては端金なのかもしれないけど
私にとっては、生活して行くのに必要な物だ。
それでも迷惑をかけたというならいざ知らず
どこも悪くないのに、詫び?
これで堪忍袋の緒が再生不可能な程に切れない人が居たら
私は聖職者の類か、神そのものだと崇めよう。
私には無理だった。
まぁ、社長もこれは流石に表沙汰にしたくないと
この場の示談で収まりはした。
いや、むしろ社長の意図は別にあるのだろう。
この上司、使い物にならない事は社長どころか
一族揃って解りきっている事だ。
むしろ、今の場所が私が我慢している事で
意外と持っている事が予想外らしく
糞上司を退室させた後に、頼むから辞めないで欲しいと
言われたのが良い証拠だ。
まぁ、あれに関してはやはり社長も色々と困っている上に
だからと言って遊ばせておくと色々と実害があるそうで
今回のような事が無いようにするのと
弁済もすると言う上に、殴った事も示談と言う形にすると
言う事で、まぁなぁなぁに終わり
家に帰るけど、怒りが収まる事など無い。
「今までどれだけ苦労していると……。」
家に帰り、晩酌しつついつもの漫画と小説の更新のネットサーフィンに
ネットゲームへのログインをして
スーパーで値引きシールのついたメバチマグロで一杯、二杯。
ただゲームは楽しみに来ているのに
愚痴る先では無いので、お酒はガンガン進み
そのまま私は泥酔、明日は休みだからと寝落ちしてしまったらしい。
気がついた時、何やら天神様と言う神様の前に居た。
そして衝撃の事実が天神様の口から出てきた。
まず私はあのまま寝落ちし、そのまま住んでいた
賃貸アパートの火災によって、私は亡くなったのだそうで
ここは死者が訪れる世界だと言う事だった。
何より衝撃なのは、まずよく私が目覚めもしなかった事だ。
いやいや、いくら深酒してたからって
身体が燃えて起きないなんて事があるのだろうか?と思ったけど
実際にそうだったんだから、仕方が無いだろう?
とむしろ諭された。
そしてもう1つ衝撃だったのは、これが放火であった事。
火をつけたのがあの糞馬鹿上司だった事だ。
天神様曰く、あの後まぁかなり怒られたらしいんだよね。
で、それを恨んでの放火。
っていうかこいつ怖いよ!!
つかなんて私の住所知ってるのさ、と思ったら
放火犯として捕まった挙句、家のパソコンから
住所録まで出てきたばかりか、まぁ盗撮だ盗聴だと
色々出てくるわ出てくるわ……。
あとご禁制品とかやばいものも出てきたそうで
まぁ社会的にも、終わってくれたのは朗報だった。
「で、私はこのまま何処に行くのでしょうか?」
「まぁ、予定では次の輪廻に回ることになるのだが……。
お主、異世界と言うものに興味はないか?」
「はへ?」
この天神様、と言う神様は
あの菅原道真公没後に、梅が好物であった事から
梅の種の中にある仁を天神様、として崇められた事で
地球がその原点となる神様なのだそうです。
しかし地球で生まれると、全ての世界に
同じ神様、つまり天神様が誕生するのだそうです。
世界とは、私達からすると地球が1つの世界であり
ようは宇宙人は異世界人、と言う事になるのだそうで
宇宙、と言うもので全ての世界は繋がっているのだとか。
まぁ、距離がありすぎて殆ど接点が無いだけで
移動距離とその手段だけ考慮しなければ
異世界と言うのは、いずれ行き来できる可能性すらあるものだそうだ。
何故私なのか、と思ったのですけど
そもそも誕生した理由からして、凄く狭義過ぎて
この天神様は、異世界では自然と消えゆく存在なのだそうだ。
神はあくまでその世界で信心なりがあって、その存在が維持出来るものであって
今、目の前に居る天神様も異世界の天神様だとか。
つまりそう遠くない未来に、消えてしまう存在なのだそうだ。
そこで私と言う存在に目をつけたのだとか。
その主たる理由が、私には非常に特異な部分があって
それが魔力の内包量、と言うものだそうだ。
簡単に言うとゲームで言うMPの最大容量の事だそうで
奇しくも魔法が使えない世界の輪廻をクルクルと回っている私には
無用の長物、塵芥、屑物、瓦落多。
そもそも魔法が使えない世界、という言い方が気になったけど
なんでも惑星の中心に、世界樹があるかないかだけだそうだ。
世界樹からは、魔力の素となる魔素と言う成分が出ていて
それが長い年月を掛けて、地中を抜けて地表に湧出。
それを呼吸などで体内に取り込む事で、魔力というものに変わり
魔法を使う為のエネルギーとなるのだとか。
つまり、私は容量だけあるけど地球には魔素が無いので
空っぽのまま、魔法を使う事が出来ないのだそうだ。
そして天神様はこう考えた。
なにやら天神様の持つ【種】と言う能力があるそうで
それを異世界で私に使わせれば、信心に似たエネルギーが得られ
天神様は、その存在を維持出来る様になるのだそうだ。
そして欠点は、消費する魔力が多い事なのだそうだ。
言い方が引っ掛かるけど、私くらい化け物のような魔力を持っていれば
魔力が切れる事も無く、十全に扱えるのだそうだ。
そして私に目をつけていた所、亡くなった事で
異世界への転生と言う形でスカウトしに来たのだそうだ。
「剣と魔法が織り成すファンタジーな世界で、魔物が跋扈する危険な世界?
丁重にお断りします……。」
まぁ異世界物とか嫌いでは無いんだよ?
いざ自分が行くってのは別の話だし?
で、貰える能力が【種】?
何か生きていける気が全くしない。
あ、天神様が超へこんでる。
解りやすく、地面?にのの字書いてるし……。
仕方なく条件を出し、それと引き換えに
飲みましょう!と言ってみたんだけどかなり無理があると言われた。
最後には、生まれが酷くても良いならと
まぁチートがあれば生まれが悪くても?
なんて安易に思ったのがいけなかった。
異世界に転生した私を待っていたのは、捨て子と言う状態だった。
私は静かに空を見ていた。
どんよりと暗く黒い雲だけを見つめ、激しい雷雨の中
間もなく、体温が下がりきって死ぬのでは?
そう思いたくなる位、この状況に納得がいかなかった。
「くっ……生まれが酷いってこういう事だったのか……。」
この身体自体が、放火による火災で燃えた事で
赤子からやり直すしか無い事は妥協した。
しかし、まさか誰も外を出歩かないような雷雨の中に
捨てられるとは予想の斜め上すぎた。
しかも篭は、上が大きく開いていて
私自身が完全に濡れていった事で、寒さが体中を支配してくる。
まともに泣く元気すら奪われていく上、そもそも豪雨で
泣いてもかき消されるような物凄く激しい雨の音。
それでも奇跡が起きたのか、私はどうやら孤児院の前に
捨てられていたようで、命は助かったようだった。