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荒田なつきの場合

田中まことが豹変したのは高校2年になって3ヶ月程経った頃だった。


「あたしが貧乏な家庭とわかっていて金を出せと言ってるんですか?」


反抗的な目で、こちらに明らかな敵意を向けて放った声は確かに田中まことではあるけれど、目の感情は何やらおぞましい色を帯びていた。正直ビビった。だが、悟られてはならないと顔に出さないことに徹した。

「早くしてよ」

お前と喋る気は無いのだと示すために答えずにいつも通りに催促する。もう、何年かの付き合いで何百回と繰り返した事だ。最初の頃の反抗心が再燃したと思えば、ひねり折ってやればいいのだという考えに至れる。


「貧乏人に金をせびるなんて、金持ちとしてプライドはありませんの?」


田中まことに低く呟かれた小声は、そんな冷静になろうとした自分の感情が沸騰させられるには十分すぎるものだった。


「いま……お前なんつった」

「耳が悪いのかと思って小さく呟きましたのに」


田中の目を睨み付けて気が付いた。やつの目は怯えなんて存在せず見開かれ笑ってすらいた。嵌められた。

小さな声で彼女は嘲笑い、聞き流せば良かったのだと気付かされた。いつもなら「なんでもない、です」と口にするが、今日は違う。まるっきり違う。


「金持ちで有名な、荒田なつきさんが、貧乏人のあたしにお金をせびるだなんて。荒田さん、……人間としてのプライドが無いんですか?」


はっきりとした物言いで真っ直ぐにこちらを見つめて、なんなら目は笑ってすらいる、彼女はそう言葉にした。



ここは、ホームルームが始まる前の教室。賑やかだったはずが、突然静まり返った。背筋が凍るような、顔から火が出そうな。そんな視線が周りから一気に向けられたのに気付くのはとても早かった。

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