初めて彼女ができました。20秒後に,フラれました。
低俗な短編です。
読みたい人だけどうぞ。
「起立,気を付け,礼。これで終学活を終わります,ありがとうございました」
「ありがとうございました~」
真夏の暑いある日の放課後,教室に終学活の終了を告げる号令が,鳴り響いたとき,鈴木の心臓の鼓動が一気に激しくなった。
――ついに,ついに今日という日が来てしまった……。
鈴木は緊張していた。そう,今日は鈴木にとっての運命が変わるかもしれない日なのだ。鞄を用意し,教科書と筆記用具を入れ,背中に背負う。いつも入れているはずの教材たちが,いつもより数倍重く感じた。
「……帰るか」
親友の田中が帰りの準備を完了し,鈴木の席へやってきた。田中は,少し緊張した面持ちの鈴木を見て,ニヤニヤしている。おそらく結果が待ち遠しいのだろう。
「だから……ついてくんなっつったろ?」
鈴木が訝しげな顔をしてそう言う。
「いいじゃねぇか,友達だろ?」
田中も簡単には引き下がらないようだ。
「あ~はいはい,そうですね,友達なら俺の頼みごとも聞いてくれると思うんだけどな~」
鈴木はからかってくる親友を適当にあしらう。今日だけはこんな奴には絶対についてきてほしくない。
――そう,今日は学年で一番の人気者,高木さんに告白する日なんだ……。
鈴木はそう思いながら,高木さんの,あの美しい笑顔を妄想し,顔がほころんだ。そんな幸せな妄想ができたのも束の間,親友の必死の叫びが鈴木の耳をつんざく。
「いやだって気になるじゃん? 俺だって結果を知りたいんだよ! 結果を!!」
急に耳元で叫ばれたことで,鈴木は不機嫌になり,小さく舌打ちをした。
「はぁ……チッ,少しは人の気持ちを考えたらどうだ?」
そう言って,田中をガッと押しのけた。
そして追いつかれないよう,ダッシュで教室を後にする。
「おい! 待てって,おい!!」
鈴木の予想外の行動に,田中も声を上げて追いかける。唐突な大声に,クラスの者たちが一斉に注目する。もちろん,二人は気にする様子もなく全力で走った。しかし,追いつかれてなるものかと命がけで走る鈴木に,田中は,結局追いつくことができなかった。
「はぁはぁはぁ,振り……切っ……た」
鈴木は必死に校舎を抜け出し,いつも家に帰る道とは別の方向へと走る。後ろを見ると田中の姿が消えているのが分かって一安心する。約束の場所はもう少しのはずだ。鈴木は走るのをやめて,息を整えながら約束の場所に続く裏道を歩く。左にはぼうぼうと草や木が伸び放題になっていた。
鈴木は今日の日のために,部活がオフの日には,いつも高木さんと帰るようにしていたのだが,いつもはこんな荒れた道は使わない。車通りの多い大通りから帰っていた。だが,公衆の面前で公開告白などは到底自分にはできそうもないので,今日はこの裏道のバス停で待ち合わせな,と伝えておいた。
「確か……このあたりだったはずだが……」
「鈴木君,こっちこっち」
いた。裏道の少し先に見える古びたバス停で高校指定の青いバッグを肩にかけ,笑顔で手を振る女の子がいる。この女子生徒こそが,学年で一番の人気者であり鈴木が今日,告白する相手,高木さんだ。
セミロングの美しい茶髪に,ぱっちりとした目,丸くて小っちゃいお鼻に桃色の唇が,なんともキュートな雰囲気を醸し出している。まるで漫画に出てくるかわいい女子高生をそのまま映し出したような姿だ。(そして豊満である。)
「ああ,高木さん,ごめんね待たせて。」
まずは謝礼から,女の子を待たせてごめんが言えない奴は男じゃない! というのが鈴木の信念である。
「うんうん,全然いいの。で,なんで今日はわざわざこっちなの?」
そう,なぜか。それは今日が鈴木にとって特別な日だからだ。ちなみに告白を成功させる努力を全くしてないのではないかと聞かれれば,そんなことはない。高木さんとはいつも1週間に1回,部活がない日は一緒に帰っているのはもちろん,実は鈴木はテニスの県大会で個人優勝を決めているため,学年では良い意味で,結構名の通った生徒なのだ。容姿はどうか,と聞かれれば返答に迷うが,俺の印象はそこまで悪くない……はずだ。と鈴木は思う。
――大丈夫。成功する!
鈴木は心の中でそう祈ると,口を開いた。
「き,今日は……そ……その……伝えたいことがあってここに呼び出したんだ……けど」
「うん,なぁに?」
鈴木は緊張で呂律が回らなくなる。彼女は依然として笑顔のままだ。草と木の生い茂る裏道を二人で歩く。だがその道は細く,二人で並ぶには少し狭すぎる。そのせいで,彼女との距離がいつも大通りから帰る時よりも近くなっていて,すごく緊張する。
「あ……あの……」
さぁ,今こそこのあふれんばかりの恋心を彼女に伝えるときだ。前置きは……短い方がいい。
「好きです,付き合ってください……!」
鈴木は彼女に頭を下げ,手を差し出す。いかにも王道と言わんばかりの告白だ。鈴木は顔を真っ赤にしながら彼女からの返答を待った。
「………………」
沈黙。彼女も唐突な告白に,状況の理解が追い付かないようだ。数秒間の間,あたりに草木の揺れる音と,小鳥のさえずりのみが聞こえた。そして――
「あ……あの……鈴木……くん」
彼女がついに口を開いた。鈴木の心臓が一気に高鳴る。唇をぎゅっと引き結んで,成功することを切に願う。
「あたしも……大好き」
その言葉を聞いた瞬間,鈴木は天まで飛び上がりそうになった。その衝動を必死に抑える。結局この気持ちを抑えることができずに鈴木は彼女に抱き着いた。この数秒間は本当に幸せな,忘れられないひと時だった。鈴木は彼女に抱き着いたまま,何度も「ありがとう」と言う,まさにその時!
「えっ……ひっ⁉」
それは突然の出来事だった。
彼女が少し悲鳴のようなものを上げたので,心配になってみてみると,なんと自分のことを見つめる彼女がひどく青ざめている。
「ご,ごめん,なんか悪いことした?」
告白に成功したばかりだというのに,彼女を傷つけるようなことなんてしているはずがない。しかし,鈴木には彼女が明らかに,何か得体のしれない物を見るような目で,自分の胴体の下あたりを見ているのが分かった。
――信じられない……自分では気づかぬうちに彼女を傷つけてしまったのか
鈴木は,彼女の,美しい顔の,あまりの歪みぶりにショックを受けた。告白を受けた今この瞬間から,今までも,そしてこれからも,高木さんの気持ちに寄り添える彼氏になろうと心の中で誓ったというのに,自分はこの数秒間で,その誓いを破り去ってしまった。
罪悪感で胸がいっぱいになる。そして次の瞬間,彼女の口から発せられた言動は,想像もつかぬようなものだった。
「もういい……鈴木君,嫌い」
「え? おい! ちょっと待てよ!!
なんでだよ,ついさっき俺のこと……!」
鈴木は驚きと戸惑いを隠せずに声を荒げた。そんな鈴木の叫びを聞くこともなく,彼女は草木の生い茂る小道を走り去って行ってしまった。
告白してから,フラれるまで,わずかたったの20秒。
鈴木の幸せなひと時は一瞬にして幕を閉じた。
§
「はぁ,言いたいことがあるんだろ,好きなだけ言えよ。
どうせ俺なんかあの程度の男なんだ……」
鈴木は投げやりになっていた。彼女にフラれただけでなく,その光景を
二人を偶然見つけた,振り切ったはずの親友である田中にも見られていたのだから。田中はどうせ俺の気持ちなど考えずに,好きなだけ煽ってくるのだろうなと鈴木は期待せずに答えを待っていると,田中はいたって真面目な顔で
「見るか?」
と言った。
「なにをさ」
鈴木が問う。すると田中はポケットからスマートフォンを取り出して,画面にとある写真を表示して見せた。それは紛れもない,告白が成功した直後の鈴木自身と青ざめた顔をした高木さんだった。
「撮ってたのか?」
「ああ……歴史的瞬間だったからな,思わず撮っちまった。」
「今すぐ消せって! 誰かに見られたらどうするんだよ!!」
鈴木は田中のスマホを慌てて取り上げようとした。だが田中はいたって落ち着いたままだった。
「やめろって,高木さんにフラれた理由が知りたいんだろ?」
「そうだよ,でもその写真は関係ないだろ」
そうだ,あるはずがない。高木さんとただ二人で話しているだけの写真だ。もっともその高木さんの顔が真っ青になっているところの写真だが――
そう思っていると,田中はスマホに写った写真をズームした。ちょうどそこには鈴木の股間がどアップで映っていた。
「おいおいおいおいおい! なんで俺の股前をズームするんだよ! 真顔でいやがらせすな!」
鈴木が頬を赤らめながら,そう言うと,田中は鈴木の股間がアップで映ったスマホをいたって真面目な顔で手渡して言った。
「フラれた理由がそこにある」
「八ッ,冗談だろ(笑)」
冗談ではなかった。そこにはズボンのチャックがガッツリと開いた鈴木の股間が映っていた。しかもそこからは鈴木のチ●ポが大きく突き出していた。なんとも綺麗な勃●である。写真は,アップで映すと画像が荒くなりがちだが,それでもなお,鈴木のチ●ポはその聖域へのトビラから,はっきりと“もっこり”を作っていることが確認できた。
「妄想,広がりすぎだよバカ野郎」
田中の言う通りだった。告白に成功したことによって,鈴木はこれからの事を妄想してしまい,テンションが上がってつい勃●をしてしまったのだ。不覚だった。こんな大事なところで自分の妄想癖と“うっかり”が重なって,最悪の事態を生み出してしまった。こんなものを見せられたら,いくら彼氏であっても,お付き合いを断念せざるを得ないだろう。完全に,不覚だった。
写真を見た鈴木は,全てを悟った顔で言った。
「田中,もう一緒に帰ろうぜ。」
§
あれから半年が立ち,鈴木は高校3年になった。塾と学校で勉強を強制され,受験勉強のことで頭がいっぱいで,学校であった恥ずかしいこと,嫌なことなどもすべて忘れてしまった。だが,あの日の時の記憶だけは鈴木の脳に根強く,鮮明にこびりついて,なかなか頭を離れようとしなかったのだった。
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