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湖城での療養 五



 そういえばキリエの記憶は眼前に迫る川の水面で途切れていた。冷たい水に叩きつけられた衝撃で気を失ったようだ。それはキリエにとって、ある意味幸運だと言えよう。

 アルシュは陸地に上がることなく川を下り、サプフィールへと帰国した。

 サプフィールは果ての見えない巨湖の上に築かれた水都だ。端から根のように伸びる川は、この大陸にあるほとんどの国に繋がっていることでよく知られる。


 そこまで聞かされればあとは想像がたやすい。

 つまりここはサプフィール国内であり、ついでに言えばアルシュの実家であるサプフィール王城内ということだ。

 わざわざ客室で眠る理由などないから、この部屋はアルシュの自室に違いないだろう。

 通りで窓から差しこむ光が眩しいはずである。波がなければ鏡にもなる水面はよく光を照り返す。特に晴天ともなれば明度は倍となり、真夏の太陽のように目を開け続けるのも困難だ。



「……僕はこれから、どうなるのかな」



 今後とるべき身の振り方がわからなくて、嗚咽の合間にぽつりとこぼす。

 アルシュに「自害するくらいなら私の国に来い」と言われたのはぼんやりと覚えているが、今のキリエは身分も財産も失ったただの人だ。否、それよりも状況がよろしくない。

 婚約者を蔑ろにし、盟友国の姫にまで手を出した不貞の王子。事実とは真逆の冤罪とはいえ、牢に入れと国王直々に命じられてしまった罪人だ。

 罪人に地位も財産もない。王族であるアルシュの側にいるのはつり合わない。罪人にまとわりつかれている光景など、アルシュを取り囲む周囲も嫌悪を顕にするだろう。

 王族とは高貴なる血を引くものだ。その隣にある者もまた、身なりがしっかりとした貴族や王族であるべきである。

 今、こうしてアルシュと向き合っているだけでも多大な迷惑をかけているに違いない。ふつふつと湧いてくる絶望感に、体の内側から冷えていく。幼馴染に迷惑と手間をかけさせるくらいなら、やはりあの時に何がなんでも自害すべきだった……。

 新たな涙を伝わせ、体を震わせるキリエに、アルシュが嘆息した。



「とりあえずは療養だな。……今は何も考えるな。食事をとって、しっかり休んで。少しずつあの女と嫌なことを、全部忘れるか昇華させるぞ」




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