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とあるタイムマシンの行方

タイムマシンに乗る男の価値

作者: 曖一

 男は、過去にタイムスリップをした。機内には宝くじの当選番号が記載された新聞があった。タイムマシンから外に出ると、そこは研究室だった。丸めた新聞を片手に男は自分自身と出会った。


「おい。お前…まさか」


「今は黙っていてくれ。お願いだ」


「…わかった」


 二人の同一人物だけが、研究室にいる。男は、自分自身に出会ってしまったことによって、矛盾が生じたことに気づかなかった。これで、この世界と、男の経験した未来との因果が少しずれた。


 男は、すぐに研究施設を出て自宅に向かった。


 彼には妻と子供がいた。子供は学校に行っており、妻は専業主婦で、家にいた。


「どうしたの? 今日は、帰ってくるの早いわね」


 不思議そうにしていた。男は、400000000円の札束が入ったケースを渡す。


「……」


 絶句していた。


「これだけの金があれば、働かなくてもいいな」


「どうしたのよ。このお金」


「宝くじを当ててきた」


「はあ⁉︎」


「だから、宝くじを…」


「そんなの、当たるわけがないじゃない」


 妻の困惑した顔。男は、この世界で働かなくていい権利を得た。しかし、肝心な問題は、同一人物が二人いることだ。未来からきた男が過去の妻と子供と一緒に暮らすと、もう一人の男は、どうすればいいのか。


 黄昏時になり、自宅にもう一人の男がやってきた。妻は二人の同一人物がいることに驚愕した。どちらが本者でどちらが偽者かを、話し合うことになった。


「俺が本物だ。俺は今日仕事をしてきたんだ。だから、こいつが偽者だ」


「いやいや。お前の方が偽者だ。俺は、俺が本物だってことを、俺だけが知っている。だからお前が偽者だ」


「何を言ってるんだよ。お前は、タイムマシンに乗ってきたこの世界とは無縁の存在じゃないか。なにを根拠に、お前はこの世界の俺を名乗るんだ?」


「根拠もくそもない。ただ、俺は金が手に入ればそれでいいんだ。あと、元の生活に戻れれば、最高なんだよ」


「じゃあ。お前は、金を手に入れる為に、未来から過去に戻った、偽者だってことだな?」


「偽者かどうかは、妻が決めることだろ? さあ、どっちがいい? 金のある男と、金のない男」


 妻は悩んだ末に、決断した。


「じゃあ、こっち」


「残念だったな。所詮しょせん、人の心は、金で動く」


 男は、自宅から出て行った。啜り泣く声が聞こえないように、誰にも、顔を見られないように注意しながら、たった一人で、目的のない道を歩いた。


 ••••••


 翌朝。男は、研究施設にいた。タイムマシンが現れたことは、現場で騒動になっていた。男はなにも知らないふりをして、いつもの業務をした。


 タイムマシンには、みんな興味津々だった。なので、男は、こっそり近寄るすきがなかった。男は、家を奪われたことで、投げやりになっていた。世の中が、金の力で動いているのなら、自分も過去に戻って、宝くじを当ててやろうと男は決心した。


 しかし、タイムマシンに近寄るにも人目があって、なかなか目的を達成できない。


 人気が少ない深夜の時間帯になって、チャンスが現れた。こっそりと、室内に忍び込み、タイムマシンの機内に入った。


「俺の、願いは、金だ」


 ズゥ…バン‼ ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド‼


 男は、タイムスリップに成功した。機内から出る時、丸めた新聞紙を片手に持った。そこに記載されているのは、年中ジャンボ宝くじの当選番号だった。


 すべてを失った今。目先のことしか、見えない。


 タイムマシンから出てみるとそこは、研究室だった。深夜の時間帯なので、人気があまりない。男は、自宅に帰ることにした。


 過去にも、男の同一人物がいる。家に帰ったあと、自分と同じ顔の人間と鉢合わせになった。


「おい。そこは俺の家だ。お前は出て行け」


「な、なにを急に…」


「黙れ。どうせ、結末は決まっているんだよ。世の中、金だけが、価値を示す絶対的なものなんだ」


「わけがわからない。とにかく、今すぐ帰ってくれ」


「ああ、じゃあこうしよう。俺は、明日、400000000円を持ってくる。そして、お前の妻に『どっちが本物』かを当ててもらうことにしよう。はん。もう、結果は決まってるけどよ。お前は、せいぜい、明日、時間旅行の準備でもしてればいい」


「ふざけるな。そんな未来、認めるわけないだろ!」


 男は、帰っていった。


 そして翌日。再び自宅にやってきた。400000000円の札束が入ったケースを持ってきて、妻に言った。


「さあ、どっちがいい? 金のある男と、金のない男」


「違う! 『本物はどっちか』だ!」


「ああ、わかってるよ。で、どうなんだ? どっちの男を選ぶ?」


 妻は悩んだ末に、決断した。


「じゃあ、こっち」


「残念だったな。所詮しょせん、人の心は、金で動く」


 男は、自宅から出て行った。啜り泣く声が聞こえないように、誰にも、顔を見られないように注意しながら、たった一人で、目的もなく道を歩いた。


 タイムマシンは、男の願いを叶える為に、過去に戻る。そして、次も同じことを繰り返す。未来の男の願いは叶うが、過去の男の願いは叶わない。だから、過去の男はタイムマシンに乗り、時空移動してお金を手に入れる。そして、過去の男は、未来人になった。


 誰かが損をするまで続く不毛の連鎖。誰かが止めなければならない。最早もはや、無限ループを止める方法は、男の我慢か、妻の一言に限られた。


 ••••••


 妻は、即決した。


「もちろん、こっち」


 正解を選んだ。なぜなら、男は20年前の過去に戻ってしまったからだ。若さには、お金では、勝てなかった。


 初めて、この世界で男は敗北した。仕方なく元の未来の世界に戻ることにした。


 ズゥ…バン‼ ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド‼


 到着した。機内の扉を開けると、そこに待っていたのは、タイムマシンの爆発によって駆けつけた、大勢の研究者達と、男の焼け焦げた、遺体だけだった。


「おい。なんで、俺が死んでるんだ」


「それは、お前さんの本者がタイムスリップに失敗したからじゃよ。人間の複製コピーが、過去に行っただけなんじゃ。つまり、偽者がお前さんじゃ」


 所長は言った。


「じゃあ、俺はなんなんだよ。俺は、こうして、元の世界に戻ってきたのに、俺が偽者って言われて、そんなの、どうしたらいいんだよ! なあ、教えてくれよじいさん!」


「わかっておる。では…本物になろうとする偽者になってはどうじゃ? 偽者なのに、本物だと勘違いする大馬鹿よりかは、まだマシだと思うのだがの」


「いいのか? だって、俺は偽者なんだろ?」


「偽モノが本モノより劣っているとは限らんよ。だから、嘘や、偽モノだけを、悪くすることはやめなさい」


「金はいらないのか? 金があれば誰だって俺を、選ぶ。偽者だとしても、俺に…」


「言っておくが勘違いするでないぞ。世の中。金だけが『全て』ではない。なにかだけを悪くするな。なにかだけを悪くすると、他のもの全てがよくなってしまうのじゃから。全か無かの思考はやめなさい」


 男は、この世界の住人になることにした。偽者が、本者の代わりになって、本者に負い目を感じながらも、この世界で生きていった。


 ••••••


 タイムマシンは、それから年月が経ち100%成功するように改良が進んだ。


「名夏菜野花といいます。今回の任務で、未来の全貌を明らかにしてきます」


「無事に帰ってこれることを、願うよ」


「問題ありません。このタイムマシンは、もう完全に近い状態に、仕上がっていますから、因果律が崩壊しても、ちゃんと元の世界にだって戻れます」


 ズゥ…バン‼ ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド‼


 未来に行った。

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