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Call of Dreamlands ――異世界の呼び声   作者: べりや
未知なる異世界を夢に求めて
6/70

盗賊 【盗賊の頭領視点】

(おさ)! めぼしいもんは馬車に積み込んだぜ」

「よし、後は夜まで女を楽しめ。酒はそこそこにしろよ。夕闇に乗じてトンズラこくから酔いつぶれたバカは置いていく」

「へい!」



 盗賊家業に勤しんで早三年。昔はCランクという中堅冒険者として腕を鳴らしていたが、盗賊家業はそれより危険も少ないし、実入りが良いしで転向して正解だった。

 そもそもモンスター討伐やダンジョン攻略なんて命がいくつあっても足りない上、冒険者としては平均的なCランクにいるものの、三十という身体が動かなくなってくる年齢とあってはこれ以上の実入りはおろかランクの昇格も期待できなかった。

 だから盗賊に身を落とすのは簡単だった。そもそも盗賊なら襲う相手さえ見極めれば大した危険も無く並の冒険者よりも荒稼ぎする事が出来た。


 しかし最近は冒険者ギルドや騎士団の見回りが厳重になってきたせいで狩るに適する獲物が減っていたからそろそろ他国にシマを移そうとしていたのだが、その前に逃走資金として一山当ててからトンズラしようと仲間達と話し合っていた。

 もっとも一週間くらい前から街道の結界が壊れたせいで一角狼と言ったCランク冒険者では苦戦する凶悪なモンスターが跳梁跋扈するようになってしまったせいで商人がめっきり減って稼ぎが無くて困っていたのだ。

 教会の僧侶共が必死に結界の修繕をしたり、街道に出て来たモンスターを冒険者が討伐しているらしいが、商人共が商売を再開する目途まで付かなかったし、こうした時分に行商に出るような奴はたいてい腕利きの冒険者を雇うから中々手出しできなくて財は減る一方だった。


 だから一気に稼ぐために小さな寒村を襲うことにした。

 前から付近で商人を襲う傍ら情報収集をした結果、この村の人口は百に満たない小村で、駐留する騎士も冒険者も居ない事は掴んでいた。その上、ステータスもめぼしい値の者が居ないと言うことも知りえていた。

 まるで襲ってくださいと言っているような村だったから、その望み通り押し入ってみれば半日も経たずに村人達は白旗を揚げた。



「おかげでやりたい放題だ。お前等! 溜まったもん全部出していけよ。次はいつになるか分からねぇからな!」

「「「へい!」」」



 盗賊団もいつしか三十人を越える大所帯になっていた。元は俺とジョンの二人しか居ないパーティーだったのに、一人が加わり、また一人加わりと数を増やし、ついにここまで来た。これだけの人数を擁する一団もそう居ないだろうし、冒険者でもこれほどのパーティー、いやレギオンを組む者も多くはない。



「さて、俺も楽しもうとするか」



 抵抗する村の男と斬り合っていたせいでたぎって仕方ない。

 それに先ほどまで売れそうな物の見聞や馬車への積み込み作業の監督をしなければならなくて女を抱く暇も無かった。

 ふっ。ジョンならそんなこと放っておいて終わるまでヤってれば良いとか言うだろうな。だが俺がやらなきゃこいつらは夜になっても積み込み作業を終えないだろうし、何より先陣切って戦った連中こそ先に女を抱く権利があるだろう。

 それにジョンには一人は手を着けずに残して置けと命じてある。頭目が焦って女を抱くなんてみっともない真似はしない主義なんだ。



「おい、ジョンの野郎はどこだ?」

「兄貴なら村外れの、あの家でさ。森の中をこそこそ走ってる女があの家向かってるって言って行っちまいました」

「あんの野郎。俺の分もあるんだろうな」

「さぁ? どうでしょうねぇ」



 ったく。女のケツばかり追いやがって。まぁアレで奴は剣の腕が立つのだからたまには昔みたく共に戦陣に立って欲しいものだ。

 アイツは盗賊にしておくには惜しい前衛職でもある。盗賊にならなければBランク冒険者にもなれたかもしれない逸材だが、最近は股に垂れ下がる神剣を振るうのに忙しいようだ。



「ん? おう! ジョン。どうした?」



 例の家の陰から見慣れた毛皮を着込んだ男が現れた。何度似合わないと言っても頑なに着るのをやめない毛皮のチョッキが相変わらず似合わないと苦笑を浮かべていると、ふとジョンの歩き方がおかしい事に気がついた。

 ふらふらと体のバランスを辛うじて維持するような危なっかしい歩き方。だが体のどこかを庇う様な足運びでは無い。まるで宙から垂れた糸に操られているような足取りに言いようのない不気味さと悪寒を覚える。



「おい? どうした? 大丈夫か?」

「兄貴? もしかして怪我でもしたんですかい?」



 部下の一人が不安そうに近づく。そう言えばジョンの手には愛剣が握られ、血が滴っている上、ジョンの胸元にもべったりとした血痕がついている。

 まさかどこか斬られたんじゃ――。

 そんな不安が鎌首をもたげると同時にジョンは愛剣を振りかぶり、近づいてきた部下をなんの躊躇いもなく切りつけた。



「ぎゃあああッ!? 痛てぇ!? ぐあああッ!」



 ジョンは次々に斬撃を放ち、そこに新たな血溜まりが出来上がる。



「――!? お、おい! ジョン! お前――」



 そして気がついた。ジョンの目は陸に上がった魚のように白濁した瞳をし、だらしなく開いた口元から血の混じった唾液を垂れ流しにしている上、その首には鋭利な剣が突き刺さっていたと思わしき傷口があることに――。



「くそ、ゾンビになってやがる!?」



 人間の死体を放置していと魔素(マナ)が腐って生ける屍――ゾンビになるから死体は燃やせと言う坊主の説法が蘇る。

 まさか誰かに返り討ちにあって死んでゾンビになっちまったのか? いや、魔素(マナ)が腐るまで一週間くらいかかるって話じゃ無かったか?

 どちらにしろジョンは死んでいる。くそ。



「うおおおッ!!」



 ゾンビになっている者――死体を蘇らせる魔法なんて物は存在しない。だったらひと思いに殺すしかない。

 苦楽を共にした仲間であるジョンを、斬るしかない。

 村人の血に濡れていた剣が弧を描き、ただ本能のままに剣を振るうジョンの腕を切り落とす。返す刃で渾身の一撃を叩き込めばスッパリと親友が大事にしていた毛皮のチョッキごと胸に一文字の傷がついた。

 その渾身の一撃にジョンは崩れ落ち、そのまま静かになる。



「すまねぇ。俺が積み荷なんかにかまけてなければ――!」



 その時、唐突に拍手が響いた。

 音の方向には黒い服をまとった浅黒い肌の男と村娘と思わしき女の二人組がたたずんでいた。

 拍手をしたのは男の方らしく手ぶらだが、女の方は胸元に何か塊と本を抱いている。



「素晴らしい。初めてにしては上出来です! どうです? 魔法が扱えた感想は?」

「あの、その、これ魔法なんですか? 思っていたのと違うような……」

「十二分に魔法ですよ」

「ナイアーラトテップ様がそうおっしゃるのなら……。魔法なんですよね」

「そうです。信じる心が大切なのです」

「お、お前等――!」



 いつの間にか静まりかえった村に怒声が響く。

 誰もが信じられない気持ちで二人の話を聞いていた。こいつらは、ジョンを殺してゾンビにしたと言うのか? それも魔法で?

 バカな。そんな人をゾンビに変えるような魔法なんて聞いたことも無いぞ!

 だが少なくともこいつらはジョンを殺している。なら、殺すには十分過ぎる理由だ。



「さて、ハワトさん。これからどうします?」

「……もっと、もっともっと殺します。盗賊、全員!」

「良い答えです。酔いの答えでもありますか。しかし貴女に魔力を与えたと言ってもそれは仮初めの魔力。元来貴女には魔力を行使する力が乏しいのは自覚していますね? 限界を越えた力を使うのですから無理がたたればただではすまないでしょう」

「それが、どうかしましたか――? わたしは盗賊が殺せればなんの問題もありません」

「くすくす。素晴らしい答えです。さぁページをめくりなさい。我が従者よ!」



 高らかに男は叫ぶ。笑うように。全てを嘲笑にするように。

 なんだこいつら。だがあの小娘が魔法を使っているのは間違いない。そして元冒険者としての本能が小娘に魔法を使わせるなと警笛をならしている。



「あの娘を殺せ!!」



 叫ぶなり地を蹴っていた。冒険者ギルドに所属していた時からパワーにとスピードには定評があったし、ステータスも前衛として持つべき物を水準並に持っていた。

 だから低ステータスの村人なんか一ひねりだ。

 そう思っていたが、娘が聞き慣れない、ただ不気味で嫌悪感の連なる音を紡ぐ方が遙かに、早かった。


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