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Call of Dreamlands ――異世界の呼び声   作者: べりや
未知なる異世界を夢に求めて
21/70

決闘騒動・6

 一週間と言う日付が飛ぶように過ぎ、いよいよ決闘の日がやってきた。

 もっとも時間指定をしていなかったので連絡役としてアウグスタを通してクレアと決闘の時刻などを取り決め、それに合わせて冒険者ギルドに向かうとそこには先週と変わらぬ賑やかさがあった。



「ふ、ふん。逃げずにやって来るとはたいしたものね!」



 その喧噪の中には堂々たる様でクレア嬢が待っていた。傲慢そうに腕を組み、片手では退屈を紛らわす様に自慢の赤毛を指に絡ませている。

 その灼熱色の瞳が強気の色を孕んでいるせいで強者の風格が漂っていた。が、腕を組む仕草は一見、自身を誇示しているようだが、別の見方をすれば自分を守るように己を抱きしめているようだし、髪を弄る仕草は体のどこかに触れて安心感を得たいと言うサインでもある。

 もしや内心では恐怖と必死に戦っているのだろうか? ならばその上皮に守られた柔らかい内心がさらけ出されるのをぜひ見てみたい。くすくす。



「アウグスタ。その、ごめん。すっごく迷惑をかけて……」

「気にしないで」

「でも――。ジークの事、貴女も――」

「クレアを元気にするのはジークだから」



 なんと睦まじい会話だろう。男を取り合うよりも共有しているかのような言いよう。

 ふむ、もしかするとこの世界では重婚と言った物がまかり通るのだろうか。

 もっとも肝心のジークの姿が見えたい。そう思っていたらギルドの奥から換金カウンターに居た受付嬢と共に彼が現れた。



「いやはや、お久しぶりですね。まだ決闘の話は続いておりますか?」

「当然よ! まぁ、でも偽魔法使いがLv23に到達していればの話だけどね。さすがにギルドの取り決めを破る訳にはいかないもの! それにそちらは不眠不休でLv上げしていたようね。大丈夫? 見るからに不健康そうだけど? それでLvはいくつなのよ?」



 精一杯の虚勢を向けられたハワトだが、クレアの不健康と言う指摘は正しい。

 村娘であったハワトの健康的だった肌からは生気が薄れ、目は落ちくぼんで隈を作り、髪は完全に白髪に変わっている。それは清潔で清廉な白――では無く、乾いて老いたような濁った白色。言うなればこの一週間、私が与えた加護を使い過ぎてしまった。

 その反動としてハワトは目に見える形で所謂副作用が現れてしまっているのだ。くすくす。



「――30です」



 ハワトの呟きにまるで時が止まったのではと思える静けさが生まれた。



「わたし、Lv30になりました」



 てへっと困ったように口元に笑顔の形が現れる。まぁ無理の結果を言えば私がギルドカードに細工をする間でも無く目標Lvを遥かに超えてしまった。まさに嬉しい誤算と言えよう! くすくす。

 そんな申告に「はぁあッ!?」と女性二人の素っ頓狂な叫び声という品の無いリアクションを返す。それにいよいよ冒険者ギルドは異変に気づき、いつの間にか見物人が集まってきてしまった。



「あんた、なにいってるの?」



 あまりにも現実離れしたハワトの言葉によって明らかにクレアの語彙力が低下している。



「か、カード! ギルドカードを確認させてください!」



 そして明らかに接客業に慣れていた受付嬢から敬意が減っている。

 そしてハワトが取り出したカードを奪うように手にした受付嬢の顔から血の気が引くのが見て取れた。



「ど、どうして? こんな短期間にこんなLvが上がるなんて!? 一体どういうことなの!?」



 現実では起こりえないと思われていた事が起こってしまったと言う非日常的な光景の前に受付嬢がわなわな震え、その隣に居たジークも彼女の肩越しにギルドカードを覗きこむ。



「嘘だろ!? おい、アウグスタ! どんなLv上げをしていたんだ?」

「それが……。よく覚えていない」

「覚えていないって、お前ハワトちゃん達と一緒に討伐クエストしていたんじゃないのか?」

「たぶん、していた。特に変わった事は無かったように思う。ただ記憶があやふや。ところどころ思い出せないことがある」

「は? なんだそれ?」



 アウグスタと共に行動した一週間は大変有意義であったが、一般人が知りえては困る事も散々やってきたので彼女の記憶を編集してある。その上、Lv上げの実験のために精神的従属の呪文を使ってアウグスタをコントロールしていた事もあり、この一週間の記憶を思い出す事が出来ないのだ。



「ナイアーラトテップさん……。これは、一体? どんなLvをしたのですか!? 教えてください!」

「くすくす。特別何をしたと言う事はありません。普通にモンスター()を倒していたらこのLvになった。そうですね、ハワトさん」

「はい、その通りです。ナイアーラトテップ様」



 そもそもLvと言う概念そのものが謎であった。モンスターを倒せば経験値が溜まり、Lvが上がる。このシステムの意味とは何か? モンスター倒す――殺すための技を磨く事を経験値と呼ぶのだろうか? つまり経験値とは知識の量の事であり、それが一定量溜まる事を“レベルが上がった”と呼称するのか?


 否。


 実験として同一のモンスターに対して様々な方法で苦痛を与えては癒しの呪文で体を復活させて再び苦痛を与える事をハワトに繰り返させても彼女のLvは不動であった。

 様々な殺し方を経験させたがLvが上がらない。だが殺し方に関わらずモンスターの息の根さえ止めればハワトのLvは上がった。(ちなみにどれほど相手を痛めつけようと得られる経験値は一定のように思えた)

 ここで驚いたのはハワトが精神的従属の呪文によってアウグスタに相手を殺させた場合、二人のLvが上がった事だ。

 つまり直接手にかけなくてもLvは上がる。例え人の手を介して――間接的にモンスターを殺しても、例え毒をモンスターに投与するだけでもLvは上がってしまうのだ。

 だがモンスターを殺すだけなら誰もがLvを上げてしまえる。しかしそれはジークがハワトに言っていた村人のLvが低い事の説明がつかない。そもそも村人とてモンスターと闘う以外にもその日の糧を得るために狩猟と言う形で対象を殺している。ならば年老いた名猟師は高Lvであるはずだ。だが村人は総じてLvが低いと言う印象と矛盾してしまう。

 よって一つの仮説が生まれた。



『Lvの上昇に必須な条件は対象の殺害とその認識なのではないか?』



 つまりモンスターの生命活動を停止させる事――ゲーム風に言うなればヒットポイントをゼロにし、尚且つレベリング行為だと認識する事でLvは上昇するのでは無いかと考えた。そうすれば村人のLvが低い事に説明がつく。

 村人はLv上げのために生物を殺害しているのではなく狩猟として殺害していると思い込んでいるためLvが上がらない。逆に冒険者はそれをLv上げと認識しているからLvが上がりやすい。

 もっとも検体がハワトしか居ないため証明のしようがないのが口惜しいところだ。



「と、特別何もしていない!? う、嘘よ! 普通のLv上げしてこんな短期間にLv30になれる訳無いわ!」



 驚愕に見開かれる灼熱色の瞳に思わず笑みがもれてしまう。

 あぁ、そうだとも! その通りだとも!! 貴女の推察通り“普通のLv上げ”では到底Lv30に到達する事は無かったろう。

 Lv上げのためにわざわざモンスターを探していては手間だし、戦闘となれば体力を消費し、疲労によって戦闘の継続が不可能になってしまう。

 人としての営みを送りつつ討伐クエストをしていては非常に効率が悪い。

 もっとも幸いにして経験値が稼げるのはモンスターだけでは無く、人間を殺害しても“経験値が得られる”と認識した場合、Lvを上げる事が出来た。

 故に各種検証を終え、五日間かけて周囲の村を襲う事にした。


 まず私がナーク=ティトの障壁と呼ばれる物理的に空間を遮断する結界に村人達を閉じ込め、次いでハワトが精神的従属の呪文を村人に施して村人同士を襲わせ、死体が出来ればゾンビの創造の呪文を使ってさらに村人を襲わせる――。コロッセオのように逃げ場のない闘技場の中で全員が死体になるまで戦わせるのだ。

 最終的に五つの村を使う事で彼女のLv30に到達する事が出来た。恐らくこれ以上の効率的なLv上げは無いだろうが、いささか作業が単調なので飽きそうになっていたのは言うまでもない。



「さて、レベリングの方法云々は置いておきましょう。大事なのはハワトさんが既定のLv23を超えている事です。さぁ、これで彼女達は正々堂々と決闘する事が出来る。違いますか?」



 優しくハワトの丸みを帯びた肩を抱く。夜空のような濃紺色のローブに包まれた肩がびくりと震え、嬉しそうに疲れ切った顔を緩める。

 恋慕の相手を伺う様な熱の入った視線を向けて来るハワトだが、彼女は同じ目で村人を洗脳して大勢の人間を殺めた張本人だ。この世界の法と刑罰がどうなっているのか知らないが、少なくとも『死』が妥当な罪状をしでかした彼女はいつもと変わりなく朗らかに笑う。


 完璧に壊れてしまったと言えるだろう。


 もっとも壊れてしまったのは心だけではない。体もレベリングにおいて私が与えた加護の酷使がたたり、目に見える形で変調をきたしてしまっている。その最たる特徴が彼女の白髪だ。色素が完全に抜け落ちてしまったその髪! 見ていて非常に気持ちが良い。他にも彼女は“人”としての範疇を外れ始めている。すでに彼女に空腹と呼ぶ概念は無く、睡眠も欲して居ない。すでに人間であるかどうかも怪しい所だ。

 もっとも本当はゆっくりと壊れて行く様を堪能したかったのだが、その点で言えば期待外れ。すでに壊れたモノは壊しようが無くてつまらない。本来なら適当に処分して新しい玩具を物色するところだが彼女の壊れようはどこか心を引いてくれる。いつになく素早く、そして従順に壊れてくれたせいだろうか? 愛着が湧いてしまっているため捨てるのが勿体なく思えてしまう。



「さぁ! どうなのですか? 決闘を執り行いますか? それとも――」

「や、やるわ! やるわよ!! あんたらがどんな汚い手を使ったのか知らないけど、わたくしは絶対に負けはしないわ! そこの偽魔法使いに格の違いを見せてあげるわ! そんで二度と詐欺が出来ない様にあんたも懲らしめるんだから!!」



 相変わらず威勢が良い。非常に耳障りだ。

 だが対戦相手とのレベル差が違い過ぎる。もっとも人間に放り投げられた芋虫が何をされたのか理解できる間もなく地に叩きつけられるかのように彼女は格の違いを見る事になるだろう。あぁその様を見てみたい……ッ!!


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