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Call of Dreamlands ――異世界の呼び声   作者: べりや
未知なる異世界を夢に求めて
16/70

決闘騒動・1

 見事に私達の存在が偽りのものである事を看破されてしまった。

 それに得意顔になるクレア。不安そうに顔を強ばらせるジークとアウグスタ。隣に立つハワトの顔も強ばっているのやもしれない。

 さて、どうすべきか。

 ハワトだけなら真実を話せば良いだろう。いっそのこと私も真実を暴露してしまおうか。宇宙的恐怖を振り撒くことになるだろうが、そうやってリセットしてしまうのも一つの手だ。



「な、ナイアーラトテップ様は――!」



 そう声を上げたのはハワトだった。彼女は頬に汗を流しながら震える声を張り上げ、私を庇うように立ちはだかってくれた。



「ナイアーラトテップ様は、い、偉大なる外なる神様なのです! 無限の中核に棲む原初の混沌たるアザトース様の使者として創造され、盲目にして白痴の王の代行者としてその意志を具現化するための存在ッ!! それこそ外なる神――ナイアーラトテップ様なのです!」



 ……くすくす。くくく、くすくす。そう来たか。長いこと外なる神をしているが、このように正体をバラされたのは初めてだ。

 思わず吹き出しそうになるのを堪えつつ周囲を伺うとハワトに反論の言葉を投げかける者は存在しなかった。もちろん彼女の言葉を受け入れたからではない。

 その証拠にどこからか苦笑が漏れ、それは徐々に爆笑へと変わっていった。



「なッ!? ほ、本当なんです! 村が盗賊に襲われていた時にナイアーラトテップ様は降臨なされ、わたしを従者として選んでくださったのですよ!!」

「くすくす」

「ナイアーラトテップ様!? どうしてお笑いになられるのです!?」

「いや、なに。あまりにも可笑しくて。くすくす。やはり貴女を従者にしたのは間違いでは無かったようですね」



 やはり人間は油断出来ない種族だ。このような暴露をやってのけるとはさすがに想像出来なかった。

 ここまで愉快な事はある人間の夢に出て以来だ。あの海産物が嫌いな顎の長いアメリカ人の小説家。アレだけで奴は混沌たる闇の何たるかを読み解き、体系化した世界を文字に納めてくれた。

 あの様も愉快であったが、今のそれも負けていない。あぁ愉快。愉快だ。



「わ、わたしは真面目に言っているんです!! ここにおわすこのお方こそ――」

「おいおい嬢ちゃん。それはここだから良いけど教会では言うなよ。異端審問にかけられちまう」

「そうだそうだ。冒険者の多くは不信心だから良いけどよ、よりによってその優男が神様? これは傑作だ」

「そりゃ神様なら十万ゴールドもの魔石を見つけてくるわな! がはは」



 各所でわき上がる止めどない笑いにハワトは顔を赤くして反論しているが、誰も聞いていない。くすくす。涙目になっているのがずいぶんいじらしい。



「さて、クレアさん。外なる神に免じてギルドカードを返していただけませんか?」

「な、何を言ってるのよ!? 意味が分からないわ!」

「神様がお願いしているのですよ。聞いてくださっても罰はあたりません。皆さんもそう思いませんか?」



 手を叩いて笑う聴衆に話を振れば愉快気に「そうだ! そうだ!」とヤジが飛ぶ。

 ハワトのおかげで緊迫した空気が和んでくれた。やはり良い拾い物をしたな。



「う、うるさい! この詐欺師め! こうなればわたくしが退治してやるわ! 【大いなる炎の精よ、わたくしに力を貸したまえ】」



 私を焼くつもりか? そんな事をされては私が死んでしまうだろう。なんと沸点の低い娘だ。

 少し身の程を弁えさせてやるために口の中で小さく対抗呪文を唱えて彼女の魔法を妨害する。だがこのまま彼女の魔法を不発にさせてはただ単に魔法が失敗して終わりと言う風に受け止められかねない。

 だから思わせぶりに右手をクレアの額に向ける動作を付加するのと彼女が「ファイヤーボール」と唱えるのが重なる。



「え? え!? なんで!? 魔法が――!? 嘘!?」

「くすくす。魔法で私と戦うとは片腹痛い」

「な、何をしたの!?」

「神の御業……。と言えば聞こえは良いですかね」



 周囲の笑い声が一気に止み、今度は不安を隠せない浮ついたざわめきが起こり出す。

 まぁこの程度の簡易な魔法など打ち消すのは朝飯前だが、この世界の住民にとっては何が起こったのか分からないみたいだ。そろそろ事態の収束するために畳みかけよう。



「実は私、ダニッチ村にて行っていた事業と言いますのが魔法研究でしてね。魔法を打ち消す魔法――反魔法を研究していたのですよ」

「そんなバカみたいな魔法、あるわけ無いじゃない」

「それがあるのですよ。まぁ研究資金が底をついてしまいましてね。気づけば借金苦です。まぁダニッチでは隠者のようにそうした研究をしていたので御領主様も認知されていなかったようです」

「う、うそ……!」

「嘘であるなら先ほど貴女の魔法を打ち消したのは神の御業と言うことになりますが?」

「じゃ、じゃあなんでその子は貴方の事を神様って――。いや、でも神様がこんな詐欺師のような事をする訳無いし――」



 残念ながらその(外なる)神様が盛大な茶番を打っているんだがな。



「先ほどの反魔法を見たでしょう。まさに神の御業に匹敵する魔法だと思いませんか? この娘がそれを成した私を神と崇めてくれる。くすくす。なんとも心憎い事ではありませんか」



 ふぅ。ここまで出任せを言えば気が済むか? まぁ無理のある理論だし、そもそも魔法を打ち消した以外の証拠がまったくない。それにカードの説明もまったくしていない。

 つつけばボロがたくさん出てくるだろうが、幸いな事にクレアは勢いに飲まれてぽかんとしているだけ。それほど魔法を消された事がショックだったのだろうか。そう言えばコイツはハワトに似非魔法使いと詰られていたな。少し仕返しをしてやろう。



「ちなみにハワトさんは私の優秀な信者であり、弟子であり、従者です。貴女が不可能と断じる魔法も扱えますよ。恐らく当代一の魔法使いと言えましょう」



 ふむ、これでハワトの面目も保てるだろう。中二病扱いしてしまった慰めにもなるだろうし、これで一件落着――。



「う、嘘よ! 騙されないで! そんな魔法あるわけ無いじゃない!」

「しかし私は先ほどそれを為したのですよ。貴女はそれを見ていたではありませんか」

「トリックがあるに決まってるわ! わたくしは騙されないわ!」

「そうは言われましても、ねぇ」



 周囲の冒険者達に同意を求めると彼らは苦笑混じりに曖昧に頷いてくれた。まぁ先ほどと違って面倒事の気配が生まれてきたからかかわり合いになりたくないのだろう。正直な連中だ。



「なら、冒険者ランクを賭けて決闘を申し込むわ!」

「く、クレアさん! 困ります!」



 何を言うかと思えば私闘の申し込みか? 私にとってそれにどのようなメリットがあると言うのか小一時間ほどプレゼンテーションしてほしいところだ。

 もっとも決闘と言う言葉に慌てたのは受付嬢だった。まぁギルドの加盟員同士でトラブルが起こるのをギルドは良しとは出来ないからだろう。



「初心者の方を相手に決闘だなんて! ギルドとしては認められません!」

「こんな詐欺師を野放しにしておくほうがギルドにとって害悪よ! それにこれはわたくし達の問題なのよ。受付嬢風情がギルドを語る方がおかしいんじゃないの!?」

「しかし……! 換金の仕方も知らなかった初心者相手にBランク冒険者が決闘を挑むなんて前代未聞です。よくお考えください!」



 受付嬢の剣幕にもしかして私の知る決闘とは違う決闘なのかもしれないと思い、二人のやり取りの間を縫うように決闘とは? と聞くと文字通りただの果たし合いらしいだと回答された。

 もっとも冒険者ランクを賭けた戦いと言うのはランク差がある冒険者が戦った場合、勝った方が高ランクの冒険者ランクに、負けた方は低いランクに降格になると言う下剋上的な制度らしい。

 なんでも冒険者は実力にあったランクに居るべきとの考えで制度化されたようだ。

 つまりEランク冒険者の私がクレアに勝てばBランクに昇進できるのか。まぁBランクになればより高難易度のクエストを受ける事が出来るようになって面白い事が増えるだろう。それはそれで退屈しないと言うメリットである。



「良いでしょう。その決闘、受けさせていただきます」

「ま、待ってください! 貴方がいくらすごい魔法が使えてもLv差がありすぎます!」



 そうは言うが私のギルドカードにはLvが書かれていないのだが。初心者冒険者と言う事で低Lvと思われているのか。

 まぁいい。



「ちなみに決闘にはルールがあるのですか? ルール無用の殺し合い、ではないのですよね?」

「……一応、故意に相手を死亡させる行為は禁止になっていますが、不可抗力で対戦相手を死亡させてしまったり、冒険者家業を続ける事が出来ないほどの後遺症が残る事もあります。

 武器を持った前衛職同士なら木剣などを使えば死亡するリスクは下がりますが、魔法使い同士は不可抗力でそうした事態になる事が多々ありますので個人的に推奨は出来ません。特に初心者の方はこれからランクを上げていく余地がいくらでもありますし、無理に決闘する必要もありません」



 なるほど。つまりルール無用の殺し合いと言う事か。それらしく手を抜くよう言い含められているがそれが尊寿される確証がない以上、相手を生死問わず戦闘不能にすれば勝利と言うべきだろうに。



「しかし制度としてあると言うことはそうしたリスクを承知で制度化しているのではありませんか?」

「それはそうですが……」



 受付嬢がちらりとクレアを見やる。



「あまりにもLv差があるとそのリスクも跳ね上がります。それにこれは冒険者達の同士討ちを推奨するものではなく、錬度を切磋琢磨するための精度です。それを私怨で執り行うのは制度の趣旨に反しています」



 ふむ、なるほど。まぁギルドとしては内ゲバするのではなく技量の向上のためにランクに囚われずに己を高めよと考えているのか。

 もっともこの制度が有効的に働いているのかは知らないが。



「なに、ご心配には及びません。腕には自信があるので――」

「わたくしが戦うのは貴方ではないわ! そこの偽魔法使いよ!」

「……わたし?」



 クレアがズビっとハワトを指し示し、口元にイヤな笑みを浮かべる。



「貴方の一番弟子なんでしょ。なら決闘の相手になっても問題ないのではなくて?」



 これはもしかして私に魔法を打ち消されたからハワトなら大丈夫と思っているのかもしれない。

 まぁ『ネクロノミコン』を授けたハワトは私と同じ魔法が扱えるから負ける未来が見えないが。



「ハワトさん。どうします? 受けますか?」

「えと……」



 いくらハワトが私の従者とは言え、これくらいの自由意志は認めてやろう。それにやるのなら自主的にやってくれた方が面白い展開に発展していくだろうし、何より後腐れ無い。



「決闘を挑まれたのは不本意ながら貴女です。死傷する危険もありますので貴女がよくよく決めてください」

「ナイアーラトテップ様が許して下されば、決闘を受けようと思います」

「良い返事です。ではクレアさんとの決闘を許しましょう」

「ありがとうございます! ナイアーラトテップ様!」

「ふ、ふん。逃げないのね。その根性は見直してあげるわ」

「ちょっと待ってください!」



 おやおや。それほどギルドは決闘をして欲しくは無いのか。



「クレアさんはBランク冒険者としての自覚が足りません! 初心者のEランク冒険者にムキになるなんておかしいでしょう。そこの貴女もよく考えて下さい。クレアさんはLv33なんですよ。貴女のLvは? 差がありすぎればそれだけ一方的な戦いになって怪我だけじゃすまないかもしれないんです。互いに自重を――」

「ではハワトさんのLvを上げればよろしいのですね」

「――え? それは、そうですが」



 Lv差があるのならそれを埋めれば良い。ゲーム風の世界と聞いているから恐らく戦えば経験値が溜まってLvが上がるのだろう。ならばそれをすれば良い。



「では一週間ほど時間をください。クレアさんと同等のLvと言う訳にはいかないでしょうが、やれるだけLvを上げましょう。ちなみに最低限どれほどのLvであればよろしいので?」

「それは――。クレアさんと同じLv33である事が望ましいですが、最低限Lv10差までは詰めて頂ければ――」

「ちょっとそれ一週間で初心者がそんなにLv上げる事なんて不可能じゃない!」



 受付嬢に噛みつくクレアの話によるとLv25に到達するには平均して五年ほどの月日が要るらしい。もっともクレアがLv33に到達するまで六年かかったそうだ。

 ふむ、受付嬢に乗せられたか。人を乗せるのは好きだが、乗せられるのは嫌いなのだ。



「そ、そんな怖い顔をしないでください。ギルドとしても新人を守るために提言しているのであって――」

「良いでしょう」

「……はい?」

「その条件で構いません。一週間でハワトのLvが23を越えれば良いのですね。クレアさんもそれでよろしいでしょうか?」



 だがクレアは納得していないようだ。どうも急なLv上げが出来る訳が無いと言う事とLv上げと称してモンスター討伐に勤しむフリをして雲隠れするのではと思われているようだ。



「ならばあなた方のパーティーから監視役をつけてもらって構いません。これならどうでしょう」

「良いわ。そこまで言うのなら一週間だけ時間をあげる。精々逃げる算段でも整えておくのね!」



 やれやれ。完全に勝った気でいる。もっともハワトを見ると彼女も不安を隠せそうに眉をひそめていた。

 なに、ゲームの攻略法を見つけるのもまたゲームの楽しみだ。まずはLvがどうしたら上がるのか確認しなくては。あぁ楽しくなってきた。やはり異世界に来て良かったな。くすくす。


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