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幻想に塗られた世界に、  作者: ネギの人
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【2040年 6月12日】

「……で、あるからここの式は…」

 私ははぁ、とため息を吐いた。毎日毎日、みんな勉強とかバイトとか部活とかやってて疲れないのかなとふと思う。高校に入学してからあっという間に一年が経ち、私は高校二年生になったが未だに自分が高校生という実感が持てず、一年生の時はろくにバイトや部活動に励みもせず放課後は家に帰って本を読む、そんな生活をしていた。というか今の私は中学生の時の私から何一つ変わっていないと思う、多分。特に胸とか身長とか頭の良さとか、逆に劣化してるかもしれない。私がバイトや部に入らないのも理由がある、興味が持てないんだ。私には趣味が本を読むこと以外何もないのだ。


今年は何か部活に入ってみようかなとついこの前突然思いつき、どんな部に入ろうかと悩みに悩んだ末が、コンピューター部だった。せめて、うちの高校に文芸部があったらよかったのにと部を探していた時に思ったのだが今の社会には文芸部は合わないのだ。アナログな物を何でもかんでもデジタルに変換していく現社会の体制のせいで荷物にかさばるという理由で本が殆ど無くなり、その代わりに電子書籍が大量に増えていった。まずパソコンで文字を打ったり、原稿用紙に文字を書くということを殆どしなくなったこの社会にアナログな時代の読み物である小説を書けと言っているほうが社会から白い目で見られるだろう『動画やSNSで情報が調べれるのになぜそんな長ったらしい娯楽本をわざわざ読まないといけないんだ。』と多数の大人に言われるかもしれない。


 そして話を戻すが、姉が部長を務めているコンピューター部に先日体験入部をしに行ったのだが、今のご時世パソコンなんて殆ど使わないし、多分パソコンなんてマイナーすぎる代物を知っているのはこの学校で人間の先生とコンピューター部の部員ぐらいだろう。だって今の社会にはタブレット端末というパソコンより持ち運びが便利で、さらにパソコンを超えた容量と機能が今のタブレット端末にはあるからだ。


 私はもう一度深くため息を吐いた。結局のところあの時は入部はしなかった。しかしそれからというもの、姉が私が少しでもパソコンに興味があると思ったのだかなんだか知らないが、家ではパソコンについての話題などを積極的に話してくるようになった、それはもううざったいぐらいに。


 私は授業を受けるのが退屈になったので机に突っ伏して寝ることにした。しかしいつもこう突っ伏して寝ようとするが、いつも寝れない。体育の授業の後や学校に遅刻しそうになって走った時とかは疲れているので寝れるのだけど。なんか楽しいと思うこととかないものかな。


    ※


「里奈ちゃん起きて、もう四時間目終わったよ。一緒に食堂にいこ?」と机に突っ伏して寝ている振りをしている私に友達はそう言いながら私の肩を揺すった。私の数少ない友達の一人である、中乃遥だ。理事長の娘で生徒会副会長でかなり頭は賢い。


「もー、里奈はなんでいつもそう授業中寝るかなー?」と遥の横に立っていたもう一人の友達は呆れた口調で担任の先生の様なことを言った。名前は加藤那波という。私の姉の所属しているコンピューター部の部員であり、中学の時からの友達である。


「別に、私は寝てないよ。寝ているふりをしていただけ。」と那波に反論した。


「でも授業聞いとかないと、内申に響くよ?そろそろ期末テストだし。」とまたもや那波が担任の様なことを言ってきた。


「里奈ちゃん、はやくいこっ!休み時間終わっちゃうよ!」と遥は私の腕をツンツンしてきた。


「わかったよ、行きゃいいんでしょ?」と私は言いロッカーから自分のカバンを出し、三人で食堂に向かうことにした。


    ※


「そうだ里奈、今日はお弁当なんだ、珍しいね。」と遥が食堂に向かう道中、訊いてきた。いつも私は学食のカレーやコンビニのパンなどを食べているのだが、今日は自分で弁当を作ってみた。今日は意味もなく朝早くに起きてしまったので久しぶり作ってみたというのが理由である。


「今日は自分で作ってみたんだ、久しぶりに料理やってみようと思ってね。」と私は自慢気に言った。


 私たちがそうこう話しているうちに食堂に着き、いつもの食堂の窓側の四人席に座った。


 私は弁当の包んでいる風呂敷をほどき、弁当箱の中身を遥たちに見せた。


「すごくいい出来じゃん、本当に料理するの久しぶりなの?」と那波が言った。


「おばあちゃんに習って作ってたから体で覚えてたんだよね…、遥このだし巻き卵一つ食べる?」とさっきから私の弁当のおかずを狙っていた遥は首を縦に振り「食べる!食べる!」と言ったので私が弁当箱の中からだし巻き卵を一つ箸でつまんで遥の口にだし巻き卵を持っていった、この現代では死語になっている『あーん』というものだ。


遥は私が作っただし巻き卵を1秒も経たずに口の中から消しさり「里奈ちゃんのだし巻き卵おいしー。」と満足そうな顔で感想を述べた。このやり取りを見ていた那波が「そのだし巻き卵私にも一つちょうだい。」と言ってきたので那波にも『あーん』をしてあげた。


「あ、ホントだ美味しい。」と那波が言った。


私たちはいつも学校の食堂で喋りながら昼食をとっている。私と遥が出会った(遥が半ば強引に誘ってきた)のも食堂だった。その日から毎日食事を食堂でとっている。


「そうだ、柚湖先生が言ってたんだけど明日、うちのクラスに転入生が来るらしいよ。」と遥が言った。


 私たちの通っている学校は私立校なので転入生なんてよっぽどのことがない限り、転入してこないようになっている(転入生はみな、大体は公立校に行くため)。


「それは珍しいね、一体どこから来る人なんだろうね。」と私は言った。


 那波は少し考えるような顔をし「まぁ、明日の自己紹介で言ってくれるでしょ。」と言い、食堂のカウンターに食券を買いに行った。



 食堂での食事を終え三人でいろいろ世間話をし、そろそろ授業が始まるということで喋りながら教室へと帰った。


 というわけで次の5時間目の授業から私の読書の時間だ。え?授業を受けなくていいのかって?そんなこと知るかっ!


 …と思っていたのだがそろそろテスト期間というわけで今は特に眠気もないので授業を受けることにした。


 5時間目は世界史だ。私は昔から世界の歴史の本を読みふっけっていたため世界史に関しては勉強をしなくてもそれなりの点数はとることができる。


 レポートに関してはデータだけあとで遥か那波かに頼んでいつも参考にして書いている。


 とりあえず、次の授業の今日することがまとめられたデータがタブレットに来たので一通り目を通すことにした。『北欧神話について』という見出しで始まっていたそのデータを見るといつも通りの何一つ無駄のないまとめだった。


 突然だが、私が授業中寝てしまうのは今の授業システムのせいであると思っている。6時間も機械的に教育用AIが授業しているとほんとに睡魔がすぐに襲ってくる。昔の授業の環境はどうだったのかと気になるときがある。そう人間の教師が授業をしていた頃だ。聞いたことによると教科ごとにいろんな先生が入れ替わりに授業をしているなんて楽しそうな授業なんだろうか。そんな授業なら私は6時間退屈をせずに起きて授業を受けているだろう。まあそんな話は置いておいて、今絶賛睡眠授業をしかけている。はっきり言って昼ご飯を食べた後の授業は午前の一時間目に相当する睡魔が襲ってくる。最初から寝てればよかった、眠すぎて頭の中がガンガンする。目は勝手に閉じようとするし、話が耳に入ってこない。


「も、もう無理ィ...。」

 

 私はそう言い残して机に突っ伏した。 



 結局私は午後も完全に寝て過ごしてしまった。授業も終礼も終わり放課後、今日は遥は生徒会があり、那波もクラブ活動があるということで今日は一人で帰ることになった。


 私は足早に学校の正門をくぐり、家に帰ることにした。いつも学校帰りの通学路で思うのだが、三人で帰っているときは気にならないがいつも一人で帰るときカップルがいちゃいちゃしながら帰るさまをいつも見せつけられている。

 

 私ももう高校二年生、高校に入ったら彼氏の一人や二人...げふんげふん、まぁそんな幻想を抱いていた私なのだが、完全に思い違いでいまだに陰キャの私には彼氏なんかできたことがない。


 私は前にいるカップルに嫉妬と殺意の目でにらみ聞かせながら歩いていると、ちょうどビルと店の前でカップルが二人とも鼻と口を押えて駅のほうに逃げてしまった。ざまぁみろと私は某死神が出てくる漫画の主人公のがしていたようなゲスい顔をしたがなぜあの二人が逃げていたのか気になり急いでそのカップルが逃げたビルと店の間の路地に向かっていった。

 

 近づくにつれ、何かものすごい血の匂いがした。路地につくと何物かの息をする音が聞こえた。私は好奇心に負け恐る恐るその路地をのぞいてみた。するとそこには黒い動物か何かが血まみれで倒れていた(暗くて姿は見えていなかったが、明らかに血の匂いがしたのでそう思った)。

「え、なに...!?」と声が漏れた、それがまずかった。


 その倒れていた何かが瀕死状態と思いきや、いきなり襲い掛かってきた。私はその襲い掛かってきた何かが私に近づいてきたその瞬間、光でその姿が見え正体が分かった。何か禍々しい雰囲気をまとった黒い毛並みの犬だった。私は歩道に押し倒され、噛みつかれかけたのだがその瞬間なぜかその犬の動きが止まった。


 しかし警備ロボが私が犬に襲われているのを認識したのか高速で犬を追い払おうと私のほうに向かってきた。


 私の上に跨っていたその犬はロボットがこっちに向かっていくのを見たのか、急いでまた路地に逃げていった。その犬にまさかこれからの私の人生に大きくかかわってくるとはその時の私は思ってもいなかった。


「何だったんだろう...?」と私はつぶやき、尻もちをついてものすごく痛くて重い腰をあげて立ち上がり、家に帰るため駅に向かった。

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