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九十三日の幻、永遠の約束  作者: 吾川あず
【第四部】王国崩壊
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【第二章】セレステブルーとそらの歌(一)

そら「この間の陸王観た?」

ユーリ「ああ、観たよ。平原綾香のJupiterがかかってたね?」


リト「あんな風に、すごく盛り上がる場面で感動的なエンディングテーマが流れたら素敵だよねー!」


マキバ「そらも歌う場面になったら読者の方々に手動で流してもらえば?」


そら「じゃあ平井堅の……」

ユーリ「四人でSEKAI NO OWARIできるね!」

リト「私の歌声はMay J.だから!」

マキバ「俺は嵐ー!!」


クロノ「あいつらホント騒がしいな」

ウサ(たのしそう……まざりたい……)


マキバ「嵐五人だった……」

そら「気づいてなかったんだ……」

ウサ 壁|ω・`)チラッ

四人「!!!!」


《ここで嵐のlove so sweetを流す》

 大きな地響きを聞いて、呉羽は慌てて四階の窓を開いた。

 夜中である。空は曇り、今にも雨が降り出しそうだ。昨日まで海だった場所から人々の叫び、金属のぶつかる音、爆発音が聞こえてくる。


「呉羽、あれを見て!」


 反対側の窓を開いた季姫が叫んだ。呉羽は瞬時にそちらへ視線を移した。


「!」


 今や戦場と化した海の真ん中に高い塔が立っていた。何か不思議な力が働いているのか、その塔に屍たちは近づかない。

 薄気味悪い程に明るい月の光を受け、その塔はきらきらと輝いていた。


「何、あれ……」


 季姫の言葉を聞き終えないうちに呉羽は部屋を飛び出した。


「王様!」


 既に王の部屋の扉のまわりには騒ぎを聞きつけた者が集まっていた。


「呉羽様、今の音は一体――」

「みんな、混乱しないで。落ち着くのよ。大丈夫だから、通して」


 呉羽の凛とした声に騒ぎが静まった。彼女は季姫が幼い頃から側近として働いている。皆、彼女には一目置いており、厚く信頼していた。


 鍵が開いた音を聞き、扉を開けると、ちょうど王が椅子に座ったところだった。


「呉羽か。どうすればいいと思う」

「……十数年前に亡くなった秋月という女性を覚えておられますか」

「ああ、兄の……」


 思い出したくない記憶らしく、王はあからさまに困った表情を浮かべた。

 呉羽は気にせず続けた。


「彼女の子が今、憑代と一緒に迷宮神殿の方にいるはずです。彼も彼女と同じ、歌に不思議な力を持っています。その歌声はクレアスで沢山の人達を救いました」

「何っ」


 王は立ちあがり、目を吊り上げた。


「なぜ言わなかった……、呉羽っ……」

「申し訳ありません。そのことを聞けばそらが殺されてしまうのではないかと心配になりました。一応……王族の血が流れていますから。でも、彼は権力も何も望んでいません。ただ、憑代の男と一緒に、静かな暮らしを望んでいるんです」

「――」

「今すぐ城を発ち、彼に助けを求めてみます。きっと力を貸してくれるはず」


「待って、呉羽!」


 いつから聞いていたのだろうか。季姫が大きく開いた扉の外に立っていた。


「私も……連れていって」

「姫っ?」

「お願い。会いたいの。ずっと、ずっと考えてた。私のたった一人の従弟……」


 呉羽はにこりと笑った。


「とても、とてもあなたに似ていますよ」

「でもだめだ。こんな時に外に出るなんて」


 王がそれを許すはずもなく。

 大切な跡取り娘だ。危険に晒したくないのは当然である。

 いつもは素直に引き下がる季姫が、何を思ったのだろうか。今日だけは違った。


「ずっと考えていたわ。もしも私じゃなくて、彼が王を継承するならばどうなるんだろうって。私、分からないの。私に国を背負っていく器があるのか、ないのか。国のために何ができるのか。不安でたまらない。ここにいるのは私でいい? 彼に会って確信したい。私がここにいる理由を。私じゃないといけないことを」

「でも、こんな時に……」


 王が珍しく戸惑っている。

 さらに季姫は続けた。


「こんな時だからこそ会っておかないと。もしかすると、そらに会える最後のチャンスかもしれない。分からないけど……今会っておかないと、だめな気がするの」


「姫」


 呉羽が優しく呼びかけると、季姫は振り向き、強い口調で言った。


「呆れられるのには慣れているわ」


「違います。珍しく自分のお力で……その小さい御頭で色々考えて言っていらっしゃるようなので感心したんです」

「ちょっと!」


 呉羽は王が頷くのを見た。


「姫様は私が命に代えてお守りします」

「……そうだな。呉羽、お前に任せるよ」


 昔、一度だけ、守り切れなかったことがあった。そのせいで季姫は今の今まで外に出られなかった。

 幼かった自分は彼女を守る力がなかったが、この日のために何年もかけて鍛錬を積み力を蓄えてきたのだ。


「呉羽。お前のことも季姫と同じくらいよく見てきたから信じているよ。そしてこれからも苦労をかける。……このお転婆の相手をできる者はお前以外おらん」

「……」

「姫を命懸けで守ると誓え」

「はいっ」


「だが、二人で、必ず帰ってこい」


 呉羽は強く頷いた。そして、季姫に向き直り、その細い腕を引いた。


「行きましょう、姫。姫が私達ツテシフ民にとって必要なことを、私が証明してみせますよ」


***


 その晩、すぐにそらとクロノは湖畔を発ち、元来た方向へ走り出した。

 大変なことが分かった。屍たちが数を増し、海から這い上がってきたらしい。村は南からどうにか北に逃げてくる人々で溢れかえっていた。


 そらとクロノは顔を見合わせ、さらに走る速度を上げた。

 分かれ道で二人は立ち止った。呉羽やリト、そして後を追ったマキバやユーリに事情を説明しなければならなかった。

 城には明かりが点いている。この異例の事態に騒然としているらしい。走れば夜明け前に着くだろうと思い、二人は東へ向かう道へ降りていった。


「そらっ!」


 途中で狐が飛び出してきた。

 それを目にした瞬間、そらの顔に安堵と喜びの表情が浮かび上がる。


「マキバ!」


 丁度彼らも城からこちらに向かう途中だったのだ。

 マキバはそのままそらの懐に飛び込んできた。そして早口で言う。


「姫様の登場だぜ」

「え?」


 そらが前を向くとユーリ、リト、呉羽、そして自分と同じくらい小さな少女が立っていた。

 目立たないよう、地味な格好こそしているが、気の強そうな金色の瞳は王族を思わせた。瞳と同じ色をした、美しい髪。しかしどこか自分とよく似ていると思った。


「姫、彼がそらです」


 そして、呉羽は少女に向けていた穏やかな視線をそのまま自分に向けてきた。


「そら、この子がツテシフの将来を担っていく季姫――貴方の従妹よ」


 季姫はこちらに近づいてきて、自分の両手を取った。


「会いたかったわ、そら……!」


 彼女は馬を連れていた。


「沢山話したいことがあるの。でも今は、まず頼みたいことが――」

「塔のことですか」


 そらが尋ねると、驚いたような表情を見せる。少し残念そうでもあった。彼女がそらと今話せる、唯一の話題だったのだ。


「知っているのね。それなら話が早いわ」


 季姫はクロノとそらの二人に、馬を一頭渡した。

 彼女はクロノをじっと見つめた。


「今まで、沢山苦労したのね。あなたに幸運が訪れますように」

「ありがとう」


 そしてそらに言った。


「貴方は……思ったより普通だわ」

「え?」


 呉羽が横で吹き出す。


「本当は貴方が王になるはずだったって思うと、私は劣ってるんじゃないかって、勝手に怖がってた。でも、やっぱり、そらも私と同じ、人間だった」


「一体どんな想像してたの……?」


「父上みたいに『王です』っていうオーラを纏ってる人かと思ってた」

「それはおじ様が王だからでしょ」

「そうよ、姫。王になれば勝手に身につくわ」


 そらと呉羽につっこまれ、季姫はほっとしたように笑った。


「マキバ達はこれから?」


 そらが視線を向けると、既に彼は人間の姿になっていた。


「死んだ兵が次々と蘇ってるみたいなんだ。もう被害が出てる。それをツテシフの人と一緒に食い止めようと思って」

「……」

「そんな心配そうな顔するなよ」


 マキバはにかり、と笑い、そらの首を抱いた。ひんやりと冷たい腕だった。


「こんな時こそ、クレアスとツテシフで、力を合わせるんだ」


 マキバの力強い声にそらは頷いた。


「気をつけろよ」

「そらもな」

「さ、無駄話してる暇はねえぞ?」


 クロノが後ろから抱き上げ、そのまま馬に乗せてくれた。悔しいが、ちょうどどうやって乗るか思案していたところだった。


「頼みます、二人とも」


 季姫たちの心配そうな視線を背中に受けながら、馬で駆けだした。

 夜明けのことだった。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

次回は、【第2章】セレステブルーとそらのうた(2)です。

よろしくお願いします。

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