【第一章】山小屋(下)
次の朝、クロノが扉を開けるとそこには銀色の世界が広がっていた。
外はまだ薄暗く、月明かりがぼんやりと、地面に姿を映していた。
雪が積もったのと、そらが足を怪我していたのとで、二人が約束の場所へ辿りついた頃には、日が既に傾きかけていた。
「そらっ」
クロノに背負われているそらを見て、リトが心配そうに駆け寄る。
「怪我したの?」
「ちょっと捻っちゃって……」
「随分時間がかかったな、クロノ」
マキバがいやらしい笑みを浮かべながらクロノをつつく。
昨夜の出来事を思い出して、少し顔が熱くなった。
「悪かったよ」
「ま、仲直りできたみたいで良かったぜ」
仲直り……そんな生易しいものだろうか。
言葉が、ひとつひとつの行動が、そらを傷つける。
自分も彼も血まみれだ。
「仲直り、な……」
「できてないのか?」
「……分かんねえ」
一方、ユーリとリトはそらを両側で支え、三人で楽し気に雪を踏んでいる。
リトとユーリの嬉々とした様子に、そらも幸せそうな顔で笑っていた。
ビドから逃げ出せたは良いものの、その後ひとり、はぐれてしまったそらがどれほど心細い思いをしたか。彼のほっとした表情が、それを物語っていた。
「……あいつらの、あーゆー笑顔がなくなったら。そう考えたら、昨日眠れなかった」
ぽつりと、マキバが言う。クロノにしか聞き取れないほどの小声だった。
「なんだ、らしくねえな」
「お前ら勝手にいなくなっただろ。あの後、ユーリは連れ去られちまうし、リトも巻き込んじゃって、ホントやばかったんだぜ」
ビドへ向かう前のことを言っているようだ。
「……」
「リトを連れてきたの、少し拙かったって。後悔してないわけじゃない。お前の気持ち、今はすげえ分かる。俺も偉そうなこと言ってるけど、内心すごく不安だ」
「何とも励ます言葉が見つかんねえな」
「そりゃそうさ。同じことでお前も悩んでんだからな」
「マーキバッ」
同時にユーリとリトに呼ばれ、マキバが顔を上げた。その瞬間、彼の胸辺りに白の玉が飛んでいく。
「わっ」
間髪入れず、そらが自分を呼んだ。
「クロノさんっ」
「お前らッ……」
振り返ったときにはもう遅く。
冷たい衝撃が肩に走った。
「うわっ」
でも柔らかい。
痛みは全くと言っていいほどなかった。
彼らのために雪を丸く固めながら、マキバが言う。
「ま、ごちゃごちゃ考えても仕方ねえよな、来ちまったもんは。最後までお付き合いするぜ、クロノ師範」
マキバはしっかりと前を見つめていた。クロノも負けじとそらに駆け寄り、逃げようとするそらの首元に、そっと雪を添えた。
次回【第二章】廃都ラス(一) は明日2017年5月11日23時 投稿予定です。




