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九十三日の幻、永遠の約束  作者: 吾川あず
【第二部】逡巡
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【第一章】山小屋(下)

 次の朝、クロノが扉を開けるとそこには銀色の世界が広がっていた。

 外はまだ薄暗く、月明かりがぼんやりと、地面に姿を映していた。


 雪が積もったのと、そらが足を怪我していたのとで、二人が約束の場所へ辿りついた頃には、日が既に傾きかけていた。


「そらっ」


 クロノに背負われているそらを見て、リトが心配そうに駆け寄る。


「怪我したの?」

「ちょっと捻っちゃって……」


「随分時間がかかったな、クロノ」


 マキバがいやらしい笑みを浮かべながらクロノをつつく。

 昨夜の出来事を思い出して、少し顔が熱くなった。


「悪かったよ」

「ま、仲直りできたみたいで良かったぜ」


 仲直り……そんな生易しいものだろうか。


 言葉が、ひとつひとつの行動が、そらを傷つける。

 自分も彼も血まみれだ。


「仲直り、な……」

「できてないのか?」

「……分かんねえ」


 一方、ユーリとリトはそらを両側で支え、三人で楽し気に雪を踏んでいる。

 リトとユーリの嬉々とした様子に、そらも幸せそうな顔で笑っていた。

 ビドから逃げ出せたは良いものの、その後ひとり、はぐれてしまったそらがどれほど心細い思いをしたか。彼のほっとした表情が、それを物語っていた。


「……あいつらの、あーゆー笑顔がなくなったら。そう考えたら、昨日眠れなかった」


 ぽつりと、マキバが言う。クロノにしか聞き取れないほどの小声だった。


「なんだ、らしくねえな」


「お前ら勝手にいなくなっただろ。あの後、ユーリは連れ去られちまうし、リトも巻き込んじゃって、ホントやばかったんだぜ」


 ビドへ向かう前のことを言っているようだ。


「……」


「リトを連れてきたの、少し拙かったって。後悔してないわけじゃない。お前の気持ち、今はすげえ分かる。俺も偉そうなこと言ってるけど、内心すごく不安だ」


「何とも励ます言葉が見つかんねえな」

「そりゃそうさ。同じことでお前も悩んでんだからな」


「マーキバッ」


 同時にユーリとリトに呼ばれ、マキバが顔を上げた。その瞬間、彼の胸辺りに白の玉が飛んでいく。


「わっ」


 間髪入れず、そらが自分を呼んだ。


「クロノさんっ」

「お前らッ……」


 振り返ったときにはもう遅く。

 冷たい衝撃が肩に走った。


「うわっ」


 でも柔らかい。

 痛みは全くと言っていいほどなかった。

 彼らのために雪を丸く固めながら、マキバが言う。


「ま、ごちゃごちゃ考えても仕方ねえよな、来ちまったもんは。最後までお付き合いするぜ、クロノ師範」


 マキバはしっかりと前を見つめていた。クロノも負けじとそらに駆け寄り、逃げようとするそらの首元に、そっと雪を添えた。


次回【第二章】廃都ラス(一) は明日2017年5月11日23時 投稿予定です。


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