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九十三日の幻、永遠の約束  作者: 吾川あず
【第一部】王国逃亡
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【第六章】ビド(二)

 長い間、この夜から前のことを思い出せずにいた。記憶が戻ったとき、まず、狐が兄に化けていたことにショックを受けた。

 マキバは自分のために、その罪を一人で背負ってくれていたのだ。


 何度も話そうとしたができなかった。

 自分は卑怯である。ずっと知らないふりをして生きてきた。


「マキバ……」


 苦しくて名前を呼んだ。


 助けてほしい。ここは暗い。どこに出口があるのか分からない。

「マキバ…ッ」

 気が狂いそうな真っ暗闇のなか、最後にユーリは大きく、叫ぶように名前を呼んだ。


***


 目を開けると夜空が広がっていて、そらは慌てて飛び起きた。


 辺りは暗く、ビドがどこにあるのか見当もつかない。しかし、ここで止まる訳にはいかなかった。


(クロノさん……っ!)


 祈るような思いで辺りを散策していると、背負っている荷物のなかからハニが姿を現した。


「ハニ……?」


 背中から飛びおり、小さな耳をぴんと立てて辺りを見回す。暫くしてタカタカと素早い動きで駆けだした。


「ハニッ……」


 その夜は風がとても強かった。びゅうびゅうと北風がそらを襲った。


 ハニに導かれるまま、洞窟に入る。

 そらが中に入ると、コウモリが頭上を慌ただしく飛んでいった。


 だんだん細くなっていく道を這うようにして進んだ。湿った地面が肘を擦ったが、気にしている余裕などない。

 ようやく開けた場所に出た。




 ビドのなかである。


 真夜中であるにも関わらず、向こうが何やら騒がしい。大勢の人々が広場に集まり、地面に伏していた。その先には妙に着飾った者が座している。


 幾つもの明かりが不気味に辺りを白く照らしていた。


 ハニは気にせず進み続ける。騒がしい場所とは逆の方向を目指しているようだった。


 そらは明るい方に注意を向けながらその背中を追いかけた。何か大声で指示している声が聞こえる。


「明日、魔を我が物にする。儀式の用意をせよ、儀式の用意をせよ!」

「永遠の力は我らにあり!」

 

 クロノのことだろうか。


(急がなくちゃ)


 途中で井戸を見つけたため、そらはこっそり水を頂戴し、かばんの中にしまった。周りに家があったから、まさか毒が入っていることはないだろう。


 再び暗闇が辺りを包み込み、段々疲れを感じてきた頃、今まで静かだったハニがきゅう、と鳴いた。


「どうした?」


 ハニはそらを見て、それから目の前の建物に視線を移した。白く、背の低い建物だった。


 目の前に排気口がある。何とか入れそうだったので、短刀の柄で、錆びた鉄の網を叩き壊した。

 ハニの後に続き、ずっと狭い間を抜けていくと、やがて白い光が見えた。


 明かりがついているようだ。


 そらは用心深く、人の気配がないことを確認すると、再び網を壊し、中に入った。


 広い空間に出た。上は丸い屋根になっており、外から見たときより広く感じられた。

 中央に太い柱があり、そこに何十にも鎖が巻かれている。そらはふと、その柱の陰に、誰かがいることに気づいた。


「クロノさん……?」


 恐る恐る尋ねる。

 彼からの返事は無かった。そらは慌てて駆け寄り、その生気のない顔に声をかけた。


「クロノさんっ、クロノさんっ……」


 ぐったりとしたまま彼は動かない。

 いつもは後ろにしっかり結んでいる髪も、今は乱れていた。

 首元から腰にかけて鎖で固く柱に縛りつけられている。端には南京錠がかかっており、解くことができなかった。


 ひどく抵抗したらしい。手首から血が流れていた。


「しっかりしてください……あっ」


 そらは慌てて自分の口を塞いだ。違和感のある匂いに気付いたのだ。ハニが再び駆け出す。その先では香が焚かれていた。


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