7話・ナンパ男
「おおおおおおおおおおおおおおおお!」
群衆の目の前をもの凄い雄たけびのようなものをあげて疾風のごとく駆け抜けてゆく男たちがいた。一人は勇ましい顔付きに赤茶の髪の毛が印象的な男で、それに張り合うように駆け抜けたのは、全身黒を纏った女顔した綺麗な男。
彼らを見送った後、露店をしまいこんでいた人々がやれやれと店を広げ出す。彼らは大通りの両端に広げていた店を、彼らが近付いてきた時にすばやく折りたたんで道の脇にはけていたのだ。
それを観察していたオリナは凄い。と、声をあげた。
「すごいって勇者たちが? 露店の方?」
「もちろん、露店の方よ。皆、あの二人の姿が近付いてきた途端、一瞬でお店をたたんだのよ。すごくない?」
わたし初めて見た。と、興奮するオリナに隣にいるルカから苦笑が返ってきた。
ふたりは最後の聖女、志織が存命していた時代へと飛ばされていたようだ。気がつけば群衆のなかにいて赤と黒の対照的な疾風を見送っていた。
ルカはシマリスの姿から従者姿に変わっていて、元の姿に似せた、部分的に白のシマシマの入った茶色の髪にこげ茶色した瞳を持つ、垢ぬけた容姿の少年となっていた。
はたから見れば、どこかの令嬢に仕える従僕のように見えるだろう。
「この時代の勇者レオナルドは国王で、しょっちゅうあんな風に街中をかけ回ってたみたいだから、国民の耐久性が自然と身についたみたいだ」
「ええっ? 国王さまがあんな風に出歩いてるの? 信じられないわ。わたし達の国の王さまは宮殿のなかにいて滅多なことでは外に出歩けないわ。しかもお供も連れてないだなんて」
「昔は王さまが外を出歩くのは珍しくもなかったみたいだよ。特にあのレオナルド王は個性的で、宮殿のなかで執務をとるよりも外に出て魔物退治をしてる方がお好きだったみたいだ」
ルカがオリナに解説してくれる。オリナはルカは物知りだと感心した。
「ふ~ん。このあとわたし達はどうしたらいいのかしら? わたし達この時代に知り合いも何もないし‥」
「そうだねぇ。聖女さまにまずは近付かないとね」
さあて。困ったわね。と、早くも今後の展開に行き詰ったふたりだったが、そこに声をかけてきた美丈夫がいた。
「綺麗なお嬢さん。お供を連れての旅はどちらまで? きみのような若い女性がお供がこの従者だけというのは心もとないだろう? どうだい? 俺を用心棒に雇わないか? 今ならお嬢さんのキス一つで、ただで御奉仕するが?」
男は金髪に濃い紫色した瞳を持ち、魅惑的な笑みを浮かべてオリナを誘う。なんだか男が軽薄そうに見えてオリナは軽蔑した。彼の容姿がどことなくユミルに似てるのも許せなかった。
「ありがたいお言葉ではありますが、お断り致しますわ。では‥」
オリナはこういう男は苦手だ。かといってあっちにいけ。と、言う訳にも行かず、丁寧にお断りしてその場を辞そうとした。
「お嬢さん。ここであったのも何かの縁だ。俺を傍に置いていて損はないぞ」
「結構ですわ。初めて会った相手にキスを送るほどわたしは軽い女ではないので。そういう女性がお好みならば他を当たって下さい。ルカ、行きましょう」
「はい」