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6話・志織が消える?

 今晩は宮殿に泊まって行けばいい。と、しきりに勧めるシルビオに断りを入れて、公爵邸に戻って来たオリナの部屋を義母が訪ねて来た。ブリアンナを連れていた。  

 何事かと思ったオリナだったが、義母から謝罪を受けた。

「ごめんなさいね。オリナ。この子が勝手にあなたに同行してしまって。叱っておいたから許してね」

 義母が頭を下げて来る。ブリアンナも不貞腐れたように頭を下げて来た。


「悪かったわね。でもオリナ。あなた、王太子さまと婚約してるのなら前もって教えてくれても良かったじゃない? あんな形で知らされて恥をかかされたわ」


「ブリアンナ。なんです? オリナに対してその物言いは」

「謝ったんだからもういいでしょう? これ以上、なにを謝れっての?」

 ふんっ。と、顔を背けると彼女は踵を返した。義母はあの子ったら。と、落胆し、もう一度オリナに謝罪すると後を追って行った。


「‥リ・ナ…」

 それを見送っていたオリナの耳に、誰かの吐息の様な声が聞こえて来たと思ったら視界が揺らぎ始めた。

 きいいいいいん。と、耳鳴りがして目の前が開けたと同時に、昨晩と同じ場所にオリナは立っていた。

「ユミル‥?」


 目の前にあの巨木があって、その巨木に飲み込まれる様にしてユミルが存在していた。昨晩よりも悲痛な顔をしたユミルがいる。

「ユミルっ。ユミル」

 慌てて彼の木に埋もれていない上半身を助け起こすと、を引き起こすとありがとう。と、かすれる声で彼が御礼を言い、なにやら呟き出した。


「大変だ。ああ‥志織‥志織が消えてしまう‥」

 彼が落ち着きのない様子でオリナの左手を掴んで来る。痛みを覚えるくらいに強い力で、両手でオリナの手を握りしめて来た。


「志織が…消滅させられようとしている‥父神さまが過去に手を伸ばそうとしているんだ」

「ええっ? シオリってわたしの御先祖さまの? もし彼女が消えてしまったらどうなるの?」

「きみ達の存在が消えてしまう。それは駄目だ」

「そんな‥嫌よ。どうにかならないの?」


 苦痛の表情を浮かべる彼に、オリナは抱きついた。


「ああ、志織‥志織…!」

 彼女の名を呼ぶユミルが切ない。オリナはずっと彼女を想うユミルを見て来たのだ。彼がどんなに彼女の身を案じてるか分かっている。


「志織…」

「わたしは志織じゃない。オリナよ」

 彼の心は過去に捕らわれたままなのが、オリナには悔しかった。


(わたしを見て。お願い)


 幼い頃から見続けている夢。そのなかに現れる青年に相応しい女性になりたくて駆け足でここまで来たのに、彼にとってオリナはまだまだ子供らしい。


「オリナ」

 自分の頭を撫でて来る彼と目があった。

「頼む。オリナ。志織を守ってくれないか?」

「え?」

「無謀なことは分かっている。だけどこんな事を頼めるのはきみしかいないんだ。お願いだ」

「ユミル」

 オリナは即断した。


「いいわ。わたしで出来ることならなんでも協力する」

「ありがとう。オリナ」

 ユミルはオリナの額に口づけを一つ落とした。

「これからシオリの生きていた時代にきみを送る。きみにはシオリの行動を見届けて来て欲しい。彼女に危害を加えようとしたり、邪な思いを持って近付く者がいたら、それは父神さまの命を受けた者のしわざだ。きみはその者たちからシオリを守れるかい?」

「やって見せるわ。彼女がいなくなったらわたしの未来も消えると言う事だもの。シオリを守って見せる」

 誓うように言えば、ユミルがオリナを抱擁していた腕を放しどこから出して来たのか、木の蔓で作られた様な何重にも輪になったブレスレットを差し出して来た。


「これをきみに。これはイバラの鞭と言って武器になるんだ。使う時は『伸びよ、ムチ』元の形に戻すときは『戻れ、ムチ』と、命ずればいい」

「うん。分かった」

「でもあまり無理はしないで。ぼくは見てる事しか出来ないけど、いつもきみのことを見守っている。ルカ」

 ユミルに呼ばれ、シマリスのルカがひょこっと宙から現れた。


「なあに? ユミルさま」

「ルカ。あなたお話できたの?」

 驚くオリナに、ルカは可愛い声で応えた。


「僕は妖精だからね。当然だよ。ただ人間の前では語らないだけさ。仲間たちは欲深な人間につかまって売り物にされたことがあるからね」

「ルカ。オリナに同行して欲しいんだ。頼むよ」

「了解。お姫さまは僕が守るよ」

 小さい護衛が胸を張って応えるのがなんだか愛らしく思えて、オリナは笑みを漏らした。


「くれぐれも頼んだよ。オリナのことを」

「任せておいて」

 再び耳鳴りがしてきてオリナは、揺らぐ視界のなか目の前のユミルに手を伸ばした。

「ユミル‥」

「気を付けて行くんだよ。オリナ」

 ユミルの声が遠くなる。オリナは声を張り上げた。

「わたし頑張るからっ」


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