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4話・オリナは嘘つきではない

「へぇ。不思議な話だね。ユミルはその森に封印された邪神かもしれないよ。もしそうならどうする?」

「いやだ。お兄さま。脅かさないで。ユミルは邪神なんかじゃないわ。綺麗で優しいもの」

「でも言い伝えで聞く邪神はとても美しく、人間を魅了すると聞くよ。彼はとても美しいんだろう? ぼくよりも?」

「ユミルは確かに綺麗だけど、邪神なんかじゃないわ。お兄さまより美しいかは‥ちょっとわたしには分からないけど」


 拗ねたように言うシルビオに、オリナは困惑した。シルビオも綺麗な若者だが、ユミルの美はそれとは違う、人間の美とは比べ物にならない様な純度に溢れている様な気がして、それに相応しい言葉が思い付かなかったからだ。


「この子、可愛いね。小さな護衛さんか?」

「そうよ。お兄さま。このルカったらね、賢いの」

 オリナを困らせてる事に気が付いたのか、シルビオは話題を変えることにしたらしい。シルビオはシマリスの頬を指でなぞった。シマリスは人慣れしてる様で嫌がるそぶりもしなければ、おとなしくテーブル席の上にいて王太子からもらうお菓子にかぶりついていた。

 

 白亜の宮殿の片隅に用意された茶席。陽光を遮るように枝を張った木の下で、オリナはこの国で高貴な身の上にある従兄のシルビオに招かれていた。

 シルビオはオリナと同じ黒目に黒髪の容姿をしていて、目鼻立ちの整った美男子だ。文武両道に秀いでていて文句のつけどころが無い若者だ。そのシルビオに憧れの目線を向けているのがブリアンナで、彼女はオリナが王太子に招かれたと知って、止める母親を振り切って王家からの迎えの馬車に一緒に乗り込んで来ていた。


 その彼女は扇子で顔を仰ぎ、不愉快そうに眉根を寄せた。

「まるで夢物語ですわね。オリナは夢見がちなんだから。作り話をそのように語ったりして。まあ、それになんてはしたないんでしょう。王太子さまとの茶席を許された場で野生のリスなんか連れ込んで」


 確かにオリナも今朝寝台で目が覚めた時、ユミルとの事は夢ではないだろうかと思った。でも自分のすぐ傍で愛らしい存在が身体を丸めて寝ているのを見たら、信じざる得なかったのだ。


 ブリアンナに朝食後、帽子を返しに行ったら、オリナの肩に乗ってるシマリスを見て派手な悲鳴を上げ、そんなもの自分の目の前に見せないで。自分に対するいやがらせかと怒鳴って来たのだ。

 彼女はオリナが森のなかへ追いやられたことに不満で、動物嫌いのブリアンナに、森から拾って来たシマリスをこれ見よがしに見せつけに来たと思い込んでいたようだ。 


 ブリアンナにされた事は面白くはないが、そんなことで一々仕返しなんかしないのに。と、オリナが思っていると、今までブリアンナの存在を無視続けていたシルビオは、冷たい一瞥彼女に向けた。彼女の発言が気に障ったらしい。


「オリナは嘘つきではない。しかもこの国で尊い血筋の生まれの姫だ。それに対して単なるザカリー公爵家の御令嬢。私はそなたをここへ招いた覚えはないのだが? 招かれてもいないのに堂々と居座っている貴女の神経の方がどうかと思うが?」

「…わたくしはオリナに頼まれて‥」

 底冷えする様な声音で言われ、ブリアンナはしどろもどろになった。

「頼まれたとはおかしなことを言う。オリナを迎えに行かせた女官長や従者たちからは、オリナが拒めない事を良い事に、無理無理馬車に乗り込んで来たと聞いてる。それはそなたの祖国では頼まれたことになるのか。ずい分と厚かましい」

 

 彼女が母親の連れ子で、ザカリー公爵と再婚したことを知っているシルビオは当てこすった。

 物静かな印象の強いシルビオは誰にでも優しいと思われがちだが、実のところ彼はそんなに寛容ではない。ふだんは無愛想になりがちで、そんな彼の顔が綻ぶのはオリナの前だけだ。彼には側妃が産んだ腹違いの兄妹がいたが、彼らよりも国王の実妹である母を持つオリナの方が気を許せるらしく、それ以外の者に対しては排他的な部分があった。


 オリナにとっては最大の理解者で、彼女の話をちゃんと聞いてくれる数少ない理解者の一人だ。こんな荒唐無稽な話が出来るのも彼が分かってくれてると信じてるからだった。


 幼い頃からオリナはユミルの夢を良く見ていた。それを使用人や、父に話すと決まって彼らは適当に相づちをうって本気で話を聞いてはくれなかった。

オリナの話を全面的に信じてくれたのは母と、従兄のシルビオだ。ふたりともオリナの話を楽しむ余裕まであってその続きを知りたがった。母が亡くなってからオリナは、その話題はシルビオの前でしかしなくなっていた。


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