表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/35

25話・新たな波乱の幕開け?

「オリナさま。ああ、オリナさま。心配しましたよ」

「エイン」

 カウチソファーの上に身を横たえていたオリナは、目を覚ました途端、がばりと自分付きの侍女に抱きしめられて驚いた。


「わたしどうしてたのかしら?」


 なんだか長い夢を見てた気がするわ。と、エインが離れてから、両手をついてソファーの上に起き上がると、離れた場所に見慣れた男の姿があった。それも貴族の身なりで凛々しい姿をしていた。

 彼の護衛姿しか見たことのないオリナは、髪を花油で撫でつけ紳士然とした彼の姿を見てけっこうさまになってるではないかと思った。


「こちらのミストラルドのイザベル公爵さまに保護して頂いてようございました。心配致しましたのよ」


 エインが興奮気味に説明をしてくれる。オリナが宮殿に呼ばれてシルビオとお茶会を楽しんだ日(義姉が勝手について来た日)、オリナは何者かに呼び出され、森のなかで誘拐されそうになっていたのを、ミストラルドからの使者で宮殿に赴こうとしていたイザベル公爵が見つけ保護してくれたのだと言う。

 公爵のもとで数週間過ごしてオリナは、この屋敷に戻ってきたと言うことだった。


「そうでしたか。ありがとうございます」

「嫌だな。オリナ嬢。侍女どのの目があるからといってそんな他人行儀にされては」

「イザベル公爵さま?」

 なぜ彼がミストラルドのイザベル公爵になってるのかは不明だが、侍女の話に合わせようとして挨拶しただけなのに、不満そうに彼は顔を寄せて来た。


「どうか、普段のようにディークとお呼び下さい。私の愛しい人」

 見目麗しい男性がその場に跪き、オリナの手の甲に口づけを落とすのを見た侍女のエインからはしたなくもきゃあ。と、いう声が漏れたのが聞こえた。


「あの。公爵様‥」

 侍女の目があるにも関わらず、オリナが座るソファーのすぐ真横に腰を下ろした。近すぎます。と、言いかけたオリナは侍女が動きを止めてる事に気がつく。


「ああ。心配はいらない。ちょっと時を止めた」

「ディーク。これはどういうこと?」


 説明が足りないとオリナが訊ねる。時を止めたと言う事は部外者である侍女には聞かれていい話ではないとディークが判断したのは分かる。だからオリナは聞いた。

 ユミルたちといたあの場所から、気がつけば元の時代に戻っていた。それにはどういう意味があるのかを。


「説明なんていらないだろう? おまえが元いた時代に戻しただけだ。あのままいてもおまえには良い結果をもたらせそうにはないからな」

「じゃあ、どうしてあなたがここにいるの?」

「忘れたのか? ユミルの命を助ける代わりにおまえが俺のものになると言ったことを?」

「‥忘れてはないわ。覚えてる」

「じゃあ、良いよな?」


 オリナは森のなかでのことを思い出した。ユミルに利用されていたと知った悲しみを。それに浸る暇もなく、唇が目の前の男に奪われていた。

「きゃあああっ」

 パシンっと、彼の頬を叩いた瞬間、時が戻った。

「オリナさま」


 侍女のエインが口をパクパクさせていた。小憎らしいことにディークは叩かれた頬に手を当てながら余裕の笑みを浮かべていた。


「人前でキスするなんて。恥じ知らす」

「気持ちが先走ってしまったようです。私の姫は非常に愛らしいので夜まで待てなかったようです。どうかお許しを。我が愛しの姫」


 激昂するオリナをディークが抱きとめる。それを目撃していたエインは顔を赤らめた。彼女には刺激が強かったらしい。オリナもべたべたしてくるのは勘弁してもらいたかったが、耳元でユミルの名前を呟かれると抵抗は出来なかった。

 彼の命はディークの気持ち一つでどうにでもなってしまう。それだけは避けたかった。


 そこへタイミング悪く、他の侍女が従兄の来訪を告げて来た。オリナはディークを前にしてどうしようかと思ったが、シルビオが勝手知ったる他人の家状態で、案内の者をさておいて上がり込んで来てしまった。


「オリナ。大丈夫かい? きみが誘拐されかかったと聞いて気が気でなかったよ」

 部屋に入って来るなりシルビオは、オリナの肩を抱くディークに気がついて眉根を寄せた。


「きみがミストラルドのイザベル公爵だね? 私はこの国の王太子シルビオだ。私の許婚であるオリナ嬢を助けて頂いて感謝している」

「王太子殿下に礼を言われるほどのものでもありませんよ。目の前で美しい御令嬢が危険な目にあいそうになっていれば助けるのは当然のことですから」

 ふたりの間に目に見えない火花が飛んでる様に感じられて、オリナは怖くなった。ディークが顎をしゃくって王太子の後ろをさした。


「シルビオ殿下にはまだ御用事があるのでは? 後ろに待機されてる方がお待ちの様ですが?」

 ディークがオリナを抱いていた腕を腰に回したのを気に留めながら、彼は残念そうに言った。


「また来るよ。オリナ。それまで身体には気をつけてね」

「はい。お兄さま」

 すごすごと引き下がってゆく王太子をディークが可笑しそうに見ていたのに、オリナは気が付いていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ