22話・胸騒ぎの予感
木漏れ日が落ちる林のなか、ならされた道の上をがらがらと一台の馬車が進んでいた。なかに乗っているのはグライフと、オリナとルカである。オリナはこの地に来てからなんだか胸がそわそわして落ち着かなかった。
「どうしたの? オリナ?」
「なんだか妙な胸騒ぎがして‥」
どうしてなのかは分からないが、何かが待ち受けている様なこうしてはいられない様な、今までこんな気持ちになったことなんてないからこれがそうなのかも良く分かってないオリナはそう応えた。
「転移装置で酔いましたかね? あともう少しで城なのですが我慢出来ますか? 馬車を止めましょうか?」
朝早い出発でしたし、疲れが出て来たのかも知れません。と、グライフは御者に命じて馬車を止めさせた。
オリナ達は、魔王救出の為に出掛けた聖女たちの後を追ってデルウィークに来ていた。まさか聖女たちの行く先がデルウィークだとは思わなかった。グライフの説明によると、魔王はデルウィークの者に攫われたらしく、その国の王の協力を取り付ける為、聖女たちは赴いたのだという話だった。
デルウィークの王と聞いて、志織がロベルトと仲が良いことを知っているオリナは複雑な思いがした。
オリナが知ってるのは、今後、彼女はデルウィークの王と出会い結ばれると言う事だけだ。きっと今回志織はデルウィークの王と顔を合わせることになるだろう。その時、同行しているロベルトはどう思うのだろう? 志織のことを満更でもなく思っていそうなロベルトの心境を思うと申しわけない様な思いがして来る。
志織やロベルトと顔を合わせるのが気まずい様な思いが身体を突き動かしたように、オリナはすくっと立ち上がった。
「オリナ?」
「オリナさま?」
ルカとグライフの声が重なる。オリナはそれを気にせずに馬車のドアを開けて外へ飛び出した。
「オリナ。どこ行くの?」
「オリナさま、行けません。外は‥!」
グライフの制止の声が背後から聞こえたが、オリナは気にしなかった。馬車の外は白い霧に包まれていた。オリナはその先で自分を待っている人の気配を感じて飛び出した。
「オリナさまっ」
声が後から追いすがって来たが、それよりもオリナはある者の安否が気になっていた。
(ユミル、ユミル…!)
視界が真っ白な色で覆われる。自分を取り巻くのはひんやりとした霧だけ。
「ユミル。ユミル」
なぜだか分からないが、オリナにはこの場にユミルがいるような気がしていた。
「ユミル。お願い。返事をして。ユミルっ」
オリナは自分だけが取り残されたような白い空間のなかを漂っていた。
「ユミル。ユミル」
ひたすら歩いて行くと、靴のつま先が何かに当たっていた。木の根のようだ。あやうく転ぶ所だったと顔をあげた時、オリナは巨木に捕らわれたままになっている人の姿を深い霧の向こう側に見つけた。
「ユミルっ」
「オリナ、来てはいけない」
駆けだそうとしたオリナを固い制止の声が止めた。
彼の緊張を孕んだ様な声にどうしたのかと見れば、巨木に捕らわれたユミルの傍に、金髪の髪の男がいるのが見えた。