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15話・ロベルトは心配性

「へい。彼女。久しぶりだなぁ」

「あなた…」

 

 ある日、洗濯ものを干していたオリナは、背後から肩を叩かれた。相手の顔をみて顔が強張った。


「どうしてここに?」


 ここの世界に来て早々、オリナに言い寄って来た男がそこにいた。金髪に紫色の瞳が狡猾な笑みを浮かべている。オリナは思わずげっと言いたくなった。


「俺は傭兵なんだ。ここの護衛に雇われたんだが、まさかあんたに出会うとはなぁ。これも運命の出会いってやつだろう」

「何かの間違いですわ」

「照れ隠しか? 無理もない。忘れられなかったんだろう? 俺の事を覚えていたと言う事は」

「違います。あなたに嫌な事をされたので覚えていただけですから。わたしに気軽に話しかけないで下さい」

「つれないな。俺ときみとの仲じゃないか?」


 男がオリナの腰に手を回して来る。オリナは抗った。

「いや。放して。放しなさいっ。放さないのなら‥」

「止せよ。その鞭は俺には痛くもなんともない。まったくきかないからな」

 オリナがブレスレットをした側の腕を、男に向けると彼はせせら笑った。


「あんたみたいに可愛い女にそんな物騒な武器は似合わない。俺の女になるなら金や宝石で覆われたブレスレットをやろう」

 そんな武骨なものは外してしまえよ。と、男がブレスレットにふれた時だった。ピシッと静電気のようなものが走り青白い炎が上がった。

「つ…!」

 男が身体を引いた時、こちらへ駆けて来る者がいた。


「オリナっ」

「オリナ。どうした?」

 ルカとロベルトが来てくれた。オリナはホッとした。


「お前、あん時の? オリナに何のようだ?」

「あの時のガキも一緒だったのか? まあ、いい。俺はディーンだ。今後も顔を合わせる事になると思うしな。宜しくオリナ。邪魔が入ったからまた今度な」


 ルカはオリナに絡んでいた男が、オリナに言い寄って来た男だと気がついて睨みつけたが、ディーンは平気な様子で踵を返し、後ろ手に手を振って去って行った。


「彼は何ものだい? オリナの知り合い?」


「知り合いなんかじゃないわ。前にナンパされたことがあってその時に断ったんだけど、まだ言い寄って来て‥」

 この場を離れてゆくディーンの背中に目を留めたままロベルトが聞いてくる。オリナがディーンと初めて出会った時の事を打ち明けると、なんて奴だ。と、ロベルトが呟いた。


「あいつに何かされなかった? オリナ」

「大丈夫よ。ルカ。あなた達が来てくれたから助かった」

「あの男は恐らく神殿の警備に雇われたんだろう。オリナ大丈夫か? もし、あの男と顔を合わせるのが気まずかったらグライフの所に身を寄せても良いんだぞ」

「ロベルトありがとう。でも何もされてないから」

「何かされそうになってもいけない。きみは嫁入り前の娘さんなんだから。なにかあったらと思うと心配だよ」

「ロベルトったらなんだかわたしのお父さまみたい」

「お父さん? きみからみたらやっぱりぼくはおじさんかな?」

「あの。それは違うの。お父さんみたいに包容力があるというか‥」


 ショックを受けた様な様子のロベルトに、オリナが弁解してると、あははは。と、後方で笑いが起きた。


「リー」

「リーさん」


 振り返ると、どうやら話を聞いていたらしい志織がああ、可笑しい。と、お腹を押さえていた。

「オリナから見たらわたしとあなたはオバサンとオジサンよ。諦めなさいな。ロベルト」

「いや。認めない。認めたくない」

「あの。ふたりともオジサン、オバサンにはまだ早いですから」


 オリナはただお父さまみたいと思っただけなのにな。と、思っていた。




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