13話・仲がいいふたり
「あの、おふたりはずい分と仲が良いんですね?」
オリナの指摘にロベルトは気まずそうに口を閉ざし、彼に代わって志織が笑って言った。
「まあね。初めて会った時からロベルトとは気が合うと言うか、遠慮が無い仲だから」
「それってお友達なんですよね?」
「あら。どうしたの? オリナちゃんは妬いてるのかしら? 大好きなお兄さんが取られる様に思われて嫌なのかしら? 大丈夫よ。わたし達は単なる友達でそれ以上の間柄ではないから」
けらけら笑う志織の傍で、ロベルトは何も言わなかったが複雑そうな顔をしていた。
オリナが心配してるのはロベルトではなく志織だ。万が一、志織が選ぶ相手に間違いが起きてしまったらオリナ達は消えてしまう事になるだろう。初めから存在しなかったものとして。
オリナは怖くなった。でも目の前のふたりは仲がよくてとてもお似合いなのだ。ふたりを引き裂くのは無粋にさえ思えて来る。
(どうしたらいいの?)
接触を望んでいた聖女に会えて良かったものの、新たな悩み勃発にオリナは戸惑っていた。
「そういえばね、ロベルトが今度神殿に来るお客様にお菓子を出す予定なんだけど、そのお菓子に悩んでるの。なにか良いものはないかしら?」
「お。おい。リー」
「いいじゃない。わたし達ふたりで考えてても何も案が浮かばないんだから。オリナちゃんからも聞いてみれば?」
オリナに意見を求めた志織に、ロベルトが困惑する。
「お客さまって魔王さまですか?」
「あら。知ってたの?」
「セレナさんから聞きました。魔王さまを神殿に招いて聖女さまと会談されるんですよね?」
「そうなのよ。その場に相応しいお菓子を。って、ロベルトは思ってるようなんだけど」
志織はロベルトの顔を見た。調理台の上では試行錯誤していたらしく、ケーキ型やメレンゲ、フルーツが手つかずのまま置かれていた。
魔王との会談に相応しいもの? と、聞いたオリナはある菓子の名前を口にしていた。デルウィーク国に伝わる伝統菓子でもある。
「‥タルトタタン…」
オリナの国に伝わる聖女伝のなかに出て来るお菓子だ。そのお話の聖女の結末は悲しいものだが、魔王は勇者と美味しいと食していた。と、いう話が書かれていたように記憶している。
「そうか。タルトタタンだ。オリナ、ありがとう」
なにか閃いたようにロベルトが言い、オリナの手を握って来た。志織を前にしてなんだか気恥かしい。志織は初めて聞く言葉らしく、ロベルトに聞いて来る。
「タルトタタン? それはどんなお菓子なの?」
「焼き菓子だよ。バターと砂糖で炒めたリンゴを型に敷いて、その上からパイ生地を乗せて焼いたものだよ」
「へぇ。美味しそう‥」
「このお菓子には交渉上手って意味もあるんだ。どうだい? 相応しいだろう?」
「そうね。いいんじゃない?」
「そうときまったらさっそく始めるよ」
ロベルトが腕まくりを始める。空腹を覚えたオリナはあっ。と、思った。ぐうう。と、派手な音が響き渡りロベルトに笑われた。
「もちろん、きみの昼食が先だよ」




