11話・知らない事を恥じる必要はない
「二人ともここにいたのか?」
「ロベルトさん」
姿を見せたのは陽だまりのように明るい性格をしたロベルトだった。二人にとって彼は頼れる存在だ。彼は芝の上に座っているふたりの隣に腰を下ろした。
「どうした? ルカ。変な顔して」
「いや‥なんでもない。ロベルトさんこそここにどうして? 仕込みは終わったの?」
ルカは調理場で働いてる気安さで、ロベルトに話しかける。オリナはルカの隣でふたりを見ていた。
「ああ。一通りはな。ようやくお昼休憩さ。オリナはどうだい? ここの生活に慣れたかい?」
「ええ‥分からないことだらけですけどなんとかやってるというか…」
たったいま、ルカを困らせていた自覚はあるのでそう応えると、ロベルトはなんだ。なんだ。と、言い出した。
「そんな辛気臭い顔をして。なにか悩み事でもあるのかい?」
「いえ、わたしが物事を知らなさすぎるというか‥それがなんだか申しわけなくて」
「なんだそんなことか。この世の中みなが知らない事っていっぱいあるよ。ぼくだって料理人はしているが他国の料理に通じてる訳じゃない。ここでは料理長なんて大層なお役目を頂いてるが、他国に行けば初心者だ。一から学ぶ為に熟練者について教えを乞うこともある」
「ロベルトさんのような方でも、他の方から教えを乞うこともあるのですね」
「まあね。だから自分が他の人より知らないことが多い事を恥じることはないよ。いまオリナは学んでる最中なんだから。なあ、ルカ?」
ロベルトの朗らかな人柄に、オリナは自分が気にしていた事がちっぽけなものに思えて来た。
「うん。そうだよ。僕はオリナに聞かれた事を説明しようとして、どうきみに話したら上手く伝わるか考えこんでしまうだけなんだ。説明が上手く出来てないから」
「ルカの説明は上手だわ。わたしとてもよく分かるもの」
「なら、良かった」
ルカが嬉しそうに言う。
「で、ルカ先生はなんの説明に困っていたんだい?」
「オリナに野菜の皮むきについて聞かれて‥」
「ああ。そうか。オリナはお嬢さまだから知らないものな。そういったことは滅多にしないだろうし」
ルカに訊ねたロベルトはなるほど。と、納得した。ロベルトはグライフからオリナ達については、彼の知り合いから預かったお嬢さん。と、聞いてるだけでこちら側の事情は知らないはずなのに、オリナはなんだか見透かされてる様に思われて気まずかった。
「ごめんなさい」
つい、謝ってしまったオリナに、ロベルトは笑って言う。
「そこは謝らなくていいところだよ。オリナ。野菜には色々な調理法があるんだ。料理に合わせて皮をむいたり、そのままで食べたりするんだよ。それは他の食材にも言える事だけどね」
そうなんだ。調理によって野菜は皮をむいたり、生で食べたりするのか。と、オリナは思った。
「オリナ。きみはなんだかぼくのよく知る人に似ているよ。仲の良い友達なんだけどね」
だから放っておけないのかな。と、ロベルトが言う。オリナに似てると言う事は、そのロベルトの知り合いは女性なのだろう。
今まで彼の口から異性の話題など出て来なかったので、オリナは気になった。
「ロベルトさんのお友達はそんなにわたしに似てますか? 一度お会いしてみたいです」
「じゃあ、今度紹介するよ。さあて、そろそろ戻るか」
「あ。僕も」
芝からロベルトが立ち上がる。あとにルカが続いた。それを見送ってオリナも立ち上がる。
「わたしも弱音はいてたら駄目よね。頑張ろうっと」




