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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
五章

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選抜メンバー

 最近は集落もかなり落ち着いてきている。

 魔物は全て倒したようで、一応見回りは続けているが、この二日一体も見つけていない。

 お手製のプールはヒュールミが以前発明したポンプのような魔道具を使うことにより、近くの井戸から直接水を流し込むことが可能になったので、俺が氷を入れる必要が無くなった。

 清流の湖階層は水が豊富なので井戸水が尽きることはないらしいので、プールは毎日使用可能となっている。

 排水用のポンプも設置しているので、水の入れ替えもバッチリだ。


 この階層に戻ってきてから二週間以上が過ぎようとしている。清流の湖階層は騒動が嘘のように活気のある日常が戻りつつある。

 あの酷い状況からここまで、よく立ち直れたものだと感心するが、これはこの階層に限ってのことだ。他の階層がどうなっているのか連絡を取る手段もなく、同じように魔物を追い出していることを願うのみだ。

 ここが平和であればある程、他の階層が気になってならない。いや、行ったこともない階層は正直、そんなに心配はしていない。俺が気に掛けているのは始まりの階層だ。

 園長先生と孤児の子供たち。そして、愚者の奇行団。彼らがいるから、何とかやれていると思いたいが……。


「ハッコン」


 っと、考え込み過ぎていて周りが見えていなかった。隣には真剣な表情のヒュールミとラッミスがいる。


「今から臨時の会議だ。参加してくれ」


「運ぶね」


 これは、転送陣の修復が終わったのかな。だとしたら、ようやく救助に向かえるのか。そう思いながらも口に出すことはせずに、ラッミスに背負われて扉を潜った。

 ホールには既に人が集まっていて、全員が熊会長に注目している。


「ハッコンも来たようだな。では、ヒュールミ説明を頼んでもいいか」


「構わねえぜ」


 ヒュールミが熊会長の隣に移動した。やはり、転送陣関連っぽいな。


「全く移動できなかった転送陣を、オレと爺さんで何とか復旧させた」


「おおおおおっ!」


 人々がにわかに活気づくが、それをヒュールミが手で制した。


「落ち着いてくれ。話には続きがある。ただし、外とは未だに繋がらず、ダンジョンの外に直接転移することは不可能だ」


 何人かは不満そうな表情を見せているが、大半はこの階層で長く暮らしている古参の住民なので、そっちは平然としているな。


「それも、今の調整だと無理やり他の階層と繋ぐとしても、一か所が良いところだと思う。更に、送れる人数は多くて三名ってところだ」


 完全に制御できたわけではないのか。それでも、少人数でも送り込むことが可能で、階層の様子を見て情報を集められるのは、かなりの進展と言えるだろう。


「でだ、問題は誰を送り込むか。そして、どの階層に行くか。それを話し合いたい……で、いいんだよな、会長」


「ああ、そうだ。しかし、皆には悪いが送り込む階層は既に決めてある。始まりの階層だ」


「会長や。その理由は話してくれるのじゃろうな」


 お爺さんがすっと立ち上がり、鋭い眼光を熊会長に向けている。


「もちろんだ。始まりの階層は外と直接繋がっている、唯一の場所だ。あそこが一番生存率が高いと見て間違いがないだろう」


 そういや、始まりの階層には巨大な扉があって、その先にある巨大な階段で地上と繋がっているのだったか。転送陣に不具合が生じているとしても、地上と繋がっているのなら住民の退避も増援も容易か。


「今、転送陣はこちらからの一方通行となっている。向こうの転送陣も何とかすることにより、こちらとの行き来が可能になる筈だ。その為に送り込む人員の一人を、魔道具技師であるヒュールミとしたい」


「ああ、わかっているぜ。オレじゃないと、こっちの魔法陣と繋げられないからな」


 定員三名の内、一名はヒュールミで決定なのか。


「そして、ラッミスとハッコンにも頼みたい。防衛能力に優れた〈結界〉と食料が提供できることが、何よりも大きい。ラッミスはハッコンを運び、その力で皆を救ってやって欲しい」


「うん、いいよ。孤児院のみんなと、愚者の奇行団も心配だったから、立候補するつもりだったからね。ハッコンも大丈夫?」


「う ん いらっしゃいませ」


 俺で力になれるなら、喜んで参加させてもらうよ。

 保存の利く食料を大量に出しておかないとダメだな。今のところ食事の殆どを俺がまかなっている状態なので、最低でも一ヶ月ぐらいは耐えられる量を提供しておこう。

 水は充分すぎる程に確保できているので、糖分の補充を考えて甘いジュースと、熱中症対策のスポーツドリンクも必要かな。


「それで、定員は後一人となるのだが、立候補、もしくは推薦はないだろうか」


 ハンターたちが顔を見合わせて、話し合いが始まった。

 参加したいと思っているハンターも少なくはないようだが、自分では力が足りないのではないか、といった声が幾つも聞こえてくる。

 転移先の状況が掴めない今、必要とされているのは戦力。それは熊会長が口にしなくても全員が理解していた。なので、自然とこの場の強者に視線が集まっていく。

 一人は熊会長。強さは目の当たりにしたので、実力は問題ないのだが、熊会長にやるべきことが山積みだ。

 お爺さんとお婆さんもチラチラ見られているな。この二人はどっちも、ここのメンバーではトップクラスなのだが、高齢なのであまり無理をさせたくないという気遣いと、回復力の遅さがネックだ。

 特にお爺さんは、こっち側に残って魔法陣の操作や解析を、引き続き担当しなければならないので、選ばれることはないだろう。それに、孫娘と引き離すのは申し訳ない。

 となると、門番ズは守りの要なので清流の湖階層に残ってもらいたいし、大食い団は探索能力に長けているが、純粋な戦闘力となるとあと一歩って感じか。

 多くの人が俺と同じ考えに至ったのか、消去法で一人に視線が集中した。彼も自覚していたのだろう。その場に立ち、自ら立候補するようだ。


「微力ではありますが、私も共に」


 イケメンモードになった、ミシュエルの申し出を断る理由はなく、満場一致で最後のメンバーが決まった。

 ちなみに後で、ミシュエルが零していたのだが、


「ハッコン師匠や、少しは仲良くなっていただいた、ラッミスさんとヒュールミさんがいなくなったら、私はどうしたらいいんですかっ!」


 と、コミュ障全開で迫られた。

 確かに、他の人とは、そんなに打ち解けてないからな。ここで取り残されるのは、彼にとっては拷問のようなものなのかもしれない。




 最後の調整があるので出発は明日の早朝ということになり、俺はハンター協会の地下保管庫に食料品を積んでいく作業をしている。

 缶詰の食べ物は賞味期限が長いから、こういった場面で本当に助かるな。缶詰パンとおでんを山盛りにして、他にも長期保存が利く食べ物は……カップ麺だな。これも一ヶ月ぐらいなら余裕で食べられる。

 栄養バランスが気になるから、栄養補助食品であるカロリーなんちゃらも、大量に用意しておこう。そうなると栄養ドリンクも必須か。


「商品ごとに並べて置くよー」


「お ね が い」


 ラッミスが嫌な顔一つせずに運んでくれている。


「この煮物のやつ、もっと増やそうよ! これって何て言う食べ物なんだろう」


「お で ん」


「へぇー、おでんって言うんだ。もっと、肉ばっかりのないの?」


「ペルは肉ばっかりね。私は果物がいっぱいなのがいい」


「スコだって甘い物ばっかりじゃないか。ボクはリーダーとして、気軽に食べられるイモのお菓子がいい」


「ミケネ、リーダーは関係ないだろ。個人的にはしゅわしゅわした飲み物を増やして欲しい」


 大食い団も手伝ってくれているのだが、何かと要求が多い。

 今後の食生活に関わることなので、彼らにとっては命と同等の価値があるみたいだ。

 冷凍食品を保存できる設備があれば、彼らの好物である、から揚げや他の食品も置いていけるのだが、夏場のこの状況では一日も経たずに腐るよな。

 保管庫はかなりの容量があるので、満タンにしたら二ヶ月以上余裕でもちそうだ。それに、もう少し生活が安定したら、外に狩りに行く予定にしているらしく、自給自足で食料を得ることも可能になる。

 この階層の心配はしなくていいと、熊会長も後押ししてくれたので、後の心配はせずに始まりの階層に集中できそうだ。


「ハッコン。始まりの階層どうなっているのかな。みんな、無事だといいけど」


 食料品を運ぶ手を休めずに、ラッミスが顔を曇らせて呟く。

 最悪な展開もあるかも知れないと覚悟はしているが、園長先生に愚者の奇行団が揃っていれば、案外どうにでもなるのではないかと、楽観視している自分も同時に存在している。

 地上と繋がっているのであれば、最悪全員地上に逃げてから、外からもう一度侵攻すればいい話。本来は外への扉を潜るには通行料が必要らしいが、この非常事態だ無料で開放されているだろう。


「あ ん し ん」

「だ ん ち ゅ う」

「も ま も り に」


「そうだね。愚者の奇行団の人たちって、逆境にも慣れたと言ってたもんね。うん、大丈夫」


 言葉足らずだが、何とか伝わったようだ。

 愚者の奇行団の面々がそう簡単にやられるとは、俺も思っていない。

 だから、大丈夫。そう、大丈夫と信じるしかない。


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