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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
四章

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護衛と探索

 今日は日差しがかなりきつい。ハンター協会の室内の不快指数が上がり続けていたのだが、テラスの扉を開けて風魔法により、風を循環させて何とか耐えている。

 テラスの扉を開けっ放しにするのは危険なのだが、どうやら暑すぎて魔物側も活力を失っているようで、勢いがないようだ。

 特に蛙人魔は乾燥に弱いようで、集落にある井戸付近で水を被っているだけで、動こうとしない個体をちらほら見かける。


 そんな中、選出されたスオリ護衛の少数精鋭部隊がテラスに立っている。

 まずは、索敵能力に優れた大食い団からミケネとショート。彼らは嗅覚、聴覚が人間よりも鋭敏で足も速い。そして、集落内部を一度探索済み。今回の作戦に欠かせない人材だ。

 そして、ミシュエルも参加することになった。彼が選ばれたのは単純に戦闘力の高さ。熊会長も立候補したのだが、身体が大き過ぎて目立つとの指摘により却下された。

 ここまでは、意外性のない妥当な人事なのだが、自ら立候補して参加することになった追加人員がいる。それが――シャーリィだった。当人曰く、


「集落内の道は全て把握しておりますわ。裏道も人通りの少ない場所も」


 との事だったので、戦力としても問題がなかったので同行してもらうこととなった。

 残りは、ラッミスと俺だ。俺も大概目立つと思うのだが、集落内でトラブルが発生して戻れなくなった場合、俺がいると食料の心配がないからという理由らしい。

 あと、ラッミスの怪力があれば屋敷が瓦礫と化していた時、撤去作業に向いているからだそうだ。そこは納得できた。

 選ばれた人材はこれだけだが、もちろん、スオリも参加する。それと、彼女の護衛役である黒服から一名付いてくることになった。

 黒のスーツにサングラスを掛けた若い男で、これといって特徴が無い。中肉中背、普通の服装をして歩いていたら気づかないぐらいの、何処にでもいそうなタイプだ。


「皆さん、主共々よろしくお願いします」


「うむ、わらわの護衛頼むぞ」


 いつものように威張り気味のスオリだが、その服装はいつものひらひらした高価なドレスではなく、動きやすさを重視したポケットの多いズボンと、茶色い半袖のシャツを着ている。

 総勢、七名と一台という構成で屋敷を目指す。


「ふむ、揃ったようじゃな。では、派手に行くぞ!」


 当初の予定通り、お爺さんが風の大魔法を発動させて協会が巨大な竜巻で覆われる。瓦礫や砂埃が舞う中、一か所だけ空いた風の隙間を抜けて俺たちは駆けて行く。

 暴風の中を進み、まだ辛うじて原形を保っている民家の中に滑り込む。幸運なことに敵には見つからずに済んだようだ。


「ちょっと、周りを見てくるよ。行こう、ショート」


「ああ、わかった」


 大食い団の二人は身体も小さく、肉球が足音を消してくれるので、偵察は一任することに決めてある。

 潜んでいる場所は平屋の民家で、壁に大穴が空き内部も好き放題荒らされている。

 ミシュエルは窓際に張り付き、外の様子を窺っている。その目つきは鋭く、自然にイケメンモードへ移行しているようだ。


「こちらは鰐人魔が多いようですが、熱さでバテ気味のようです。動きが緩慢で、あれなら気づかれずに進むことも可能かもしれませんね」


 暑さにやられているとなると、日陰がある路地や建物の物陰に居そうだな。移動する際に気を付けないといけないか。


「ただいまー。こっちの方向は敵が少なかったよ。何体かはこっそり倒して欲しいけど」


 戻ってきたミケネの報告に、全員が黙って頷く。

 ミケネを先頭に一列となって廃墟と化した民家の間を進んでいく。こっちは壁に空いた大穴と逆方向なので、比較的建造物が形を保っている。といっても、住めそうな家は皆無だが。


「止まって。この先の十字路の右で、蛙人魔が一体、民家の壁際で涼んでいるよ」


 大人が二人並んで歩くことも困難な道幅の路地にいるのだが、視線を遠くへ向けると確かに十字路がある。


「近くに他の魔物は?」


「いないと思うよ、ねえ、ショート」


「ああ、音も臭いもしないな。少なくとも近くにはいない」


 ラッミスの問いかけに自信を持ってショートが答えている。


「気配も一つしか感じません」


 ミシュエルは気配が読めるのだったか。となると、そいつを処分したら暫くは安全が確保できる。


「では、僭越ながら私が一撃で仕留めてきます」


「待っていただけますか。力量は充分だと承知していますが、音を立てずに始末をするなら、私に任せてくださいな」


 踏み出そうとしたミシュエルに替わり、シャーリィが進み出た。

 ただ歩いているだけなのだが、何と言うか存在が希薄だ。確かにそこにいるというのに、映像を見ているだけの様な違和感がある。


「お見事ですね……完全に気配が消えていますよ」


 ミシュエルの感嘆する声に大食い団も頷いている。


「うん、匂いはするけど、音も立ててないよ」


「闇に潜まれたら、誰にも気づかれないんじゃないか」


 絶賛だな。よく見ると、あの歩法も独特だ。肩の位置が一定で上下にぶれることがないので、すーっと地面を滑っているかのような錯覚に陥る。

 彼女もまた只者ではないってことか。

 交差点の壁に張り付くと、腰に携帯していた鞭を取り外し、腕だけを伸ばし一回振るう。そして、無造作に右の通路から見える位置に飛び出すと、左手を横に薙ぐ。それだけだった。

 こちらに振り返ると、艶やかな仕草で俺たちを手招きしている。

 誰もが疑うことなく彼女の元に駆け寄ると、路地の先に蛙人魔が転がっていた。首には鞭が巻き付き外そうともがいた跡があった。その額には鉄串が深々と突き刺さっている。

 相手に悲鳴の一つも上げさせずに、瞬時に葬ったのか。これからは、シャーリィを見る目が変わりそうだ。


 それから、何度か敵を発見してはシャーリィが手際よく処理していく。数体いる時は、ミシュエルや大食い団と協力して、何とか今のところ見つからずに済んでいる。

 こういった戦いにはラッミスは全く向いていないので、今のところ出番はない。


「今、地図だとここら辺だけど、屋敷って何処?」


「そうですわね、ここから更に北東に進んだところですわ」


 ミケネが取り出した地図を覗き込み、スオリが現在地から自宅までを指でなぞっている。

 まだ距離はあるようだが、この調子なら意外と早く着きそうだ。


「ここを真っ直ぐ行くと近道だけど、敵が密集しているよ。広場になっていて噴水があるから」


 ここぞとばかりに水浴びしていそうだな。

 敵を倒すだけなら、このメンバーならやれるだろうが、増援を呼ばれることだけは避けたい。迂回していくしかないか。


「では、こちらの道を進んだ方がいいですわ」


 シャーリィが別のルートを提案して、誰からも反論が無かったので、その道を進むことに決定した。

 集落内に魔物が存在しているとはいえ、偵察がいるわけでもなく、結構自由気ままに行動している個体がいる。そういえば、この魔物たちを統率している存在はいるのだろうか。

 いない……ということはないだろう。ハンター協会を執拗に狙っているのは指示があってのことだろうし、そもそも、統率する存在がいなければ、魔物たち同士で争いを始め、殺し合いが始まる筈だ。

 蛙人魔、双蛇魔、鰐人魔は仲が悪く、天敵であるというのが周知の事実だ。それが、いがみ合うこともなく、共存している。

 壁の穴を塞ぐよりも、リーダー格を見つけて倒した方が確実かもしれない。帰ったら提案してみよう。


「この辺は見覚えがありますわ」


 スオリが辺りを見回して、少し寂しそうに呟く。

 いつもの見慣れた光景だというのに、人影もなく廃れていることに思うところがあるのだろう。

 この一帯は高級住宅地のようで、どれもこれも金持ちが住んでいそうな立派な屋敷ばかりだ。こういった屋敷に住んでいる人は護衛を雇っていることが当たり前で、抵抗した跡が見受けられる。

 血の跡や壊れた武具、破壊された門扉。死体が転がっていないのは魔物に食われたのか。

 以前の優雅な暮らしが無残に踏み荒らされた、栄華の跡を目にしながら俺たちは、奥へ奥へと進んでいく。

 目的地へ向かうと同時に、生き残りがいないか探しているのだが、ミシュエルの気配察知にも、大食い団の嗅覚、聴覚にも反応はなかった。

 全員が思うところがあるのだろうが、誰も口にすることはなく、単独や少人数でうろついている魔物は、怒りのはけ口と言わんばかりに瞬殺されていく。


「この路地を抜ければ、御屋敷のある場所です」


 黒服が声を潜めて口にすると、全員の足取りが少し早くなった。

 スオリは今にも飛び出したいところを我慢しているようで、前をキッと見据えながら周りと歩調を合わせている。

 まだ、子供なのに立派だよ。これが終わったら、彼女が好きそうなものを何でも提供しよう。自動販売機として、それぐらいしかしてやれないから。

 狭い路地を抜け、魔物がいない事を確認した後に飛び出すと、そこには荒らし尽くされた、見るも無残な姿を晒す屋敷があった。


「わらわの屋敷が……お父様、すみません」


 唇を噛みしめて涙を流し続けるスオリに、掛ける言葉が見つからない。

 ラッミスがそっと後ろから彼女を抱きしめると、


「うっ、うっ、うっ、うえええええぇぇぇ」


 初めて子供らしさを見せ、泣きじゃくる彼女がいた。


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