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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
四章

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お金の力

「作戦会議を始める」


 次の日の朝、一階にハンターたちや住民が集まり、今後の方針を決める重要な会議が始まった。


「やべえな。この冷たいのマジでうめぇ」


「だよね、ヒュールミ。うちもこんなに冷たくて美味しいの初めて食べた。あ、一口交換しようよ」


「おう、いいぜ。ラッミスのも美味そうだよな」


 ヒュールミとラッミスがお互いの手にするアイスを食べ比べしている。ちなみに、ヒュールミがラムレーズンで、ラッミスがチョコバナナ味だ。

 他のハンターたちも全員、床に胡坐をかいて、アイスを手にしながら参加している。生き残っている住民も気になるらしく、階段や二階の廊下に並び見下ろしている。ちゃんと彼らにもアイスは渡してある。

 もちろん、それを提供したのは俺だ。

 朝日が昇ると一気に室内の気温が上昇してきたので、一応氷を配置したのだが夜と違い一時間持たずに溶けてしまった。なので、もう一度氷を配置してから、全員にアイスを配って今に至る。

 好評のようでなによりだ。


「まずは、昨晩まで情報収集をしてくれていた大食い団リーダー、ミケネ。色々と教えてもらえるか」


「もう一個、この冷たいの欲しいなぁ……え、ボク? あ、はい。ええと、集落内を走り回って集めた情報を話すね」


 食べ終えて、アイスの棒をじっと名残惜しそうに見つめながら、ミケネが立ち上がった。

 後で全員にもう一本ずつ配ろう。


「敵の地上部隊は蛙人魔が殆どで、次に多いのが鰐人魔、その次が双蛇魔かな。ボクたちが見たのは、それぐらいだね」


「ふむ、清流の湖階層に生息している魔物だけか。他の階層の魔物はいないようだが、まずは一安心か」


「うん、そうだね。飛んでいるのも、飛魚魔と竜擬魔ぐらいだし」


 確か、飛魚魔というのはトンボの羽が四枚背中から生えた鮎みたいな魔物だよな。

 で、竜擬魔ってのが、全長一メートルぐらいのトカゲの背中から鳥の羽が生えた奴だ。名前通り、竜になろうとして失敗した感があるトカゲだ。

 この階層は爬虫類と両生類と魚類の魔物しかいないらしい。


「おおよその数はわかるか?」


「ええとね、地上部隊が全部で五千ぐらいかなぁ。飛行部隊は数百だと思うよ」


 数を比べると絶望的なのだが、こちらの人材は優秀で相手の魔物はさほど強くない。この程度の物量なら力で覆させることが可能な気がしてくる。


「その程度なら……」


「あ、でも、会長。集落の外から次々と魔物がやってきているよ。王蛙人魔らしいのも数体見かけたし」


 そうなのだ。現存する敵を倒すだけなら、このまま籠城を続けるだけで何とかなるかもしれないが、相手の援軍が今のところ尽きる気配が無いそうだ。

 俺たちはまだ二日目だが、既に一週間近く戦い続けているハンターたちは、敵を幾ら倒してもキリがないとぼやいていた。

 やはり、壁の穴をどうにかして塞がなければ幾らでも敵が入り込んでくる。


「しかし、あの壁の大穴は一体、どのようにして空いたのだ」


 あ、それは俺も知りたかった。門が破壊されたのならまだ理解できるが、あの壁の大穴は誰が開けたのか。


「会長、それについては、こちらのハンターが詳しい事情を知っています」


 ハンター協会職員がすっと立ち上がり、手で示す方向には一人の若いハンターがいた。

 頭に手を当てて俯き気味で立ち上がると、ぺこぺこと頭を下げている。


「ええとですね、俺の元仲間が言っていたのですが、どうやら壁の補修を担当していた、一部の職人とハンターが手抜き工事をしていたようで、あそこは外観を取り繕っていますが、中はかすかすで……ちょっとした衝撃でああなったみたいです」


 その手抜き工事に彼が関わっていたのかどうかは不明だが、今はそこを追及しても意味がないだろう。今は少しでも戦力が欲しいところだからな。


「壁を修復することばかりを考え、検査が甘かったか……」


「会長は悪くありません。我々、職員の管理不行届きが原因です。申し訳ありません」


 手抜きさえなければ、現状はここまで酷くなっていなかったかもしれない。もっと多くの人を助けられた可能性もあっただろう。

 それを理解した住民の何人かの殺気立った視線が熊会長から逸らされる。一概に熊会長が悪い訳ではない事を頭では理解できたが、まだ認めることができないようだ。


「過ぎてしまったことの責任は後に回すとしよう。まずは現状の打破が最優先事項だ。あの大穴をどうにかして塞ぎたいのだが、誰か案はあるか?」


 熊会長が意見を求めると、ヒュールミが手を挙げた。


「ヒュールミ、何かあるのか」


「いや、案と言うか、大穴の周辺には瓦礫が山ほどあるだろ、それを使うか……あと、土を操れる人材はどれだけいるんだ」


「ふむ、そうだな。確か、キミとキミとキミだったか、土系の魔法を扱えるのは」


 熊会長は土魔法を扱えるハンターを覚えていたようで、指というか爪を指していく。

 十代らしき青年が一人に、もう二人は二十代後半から三十代前半といったところか。


「それと、シメライか」


「土魔法か、得意ではないがそれなりには扱えるのう」


 お爺さんは万能だな。この人の得意ではないは、普通の魔法使いの得意を遥かに凌駕していそうなのが怖い。


「それだけの土魔法と瓦礫を組み合わせたら、一時的な補修ぐらい何とかならねえか?」


 穴の大きさは高さ十メートルぐらいだろうか、幅も同じぐらいだと思う。これって巨大自動販売機に変化したら穴に蓋をできそうだが、問題はポイントの消費量だよな。


「あの穴って、ハッコンが昨日化けたデカい奴になれば、防げないか?」


 ハンターの一人が同じことを考えついてようで、全員の視線が俺に集中する。


「またのごりようをおまちしています」


 取り敢えず惚けてみた。


「いや、考えは悪くねえんだが。ハッコンは姿を変えたり商品を出したりする時に、金を大量に消費するらしくてな。たぶん、あのバカでかいのに化けるのには、かなりの金額を必要とするんじゃねえか?」


 ナイスフォローだ。いつも助かるよヒュールミ。


「う ん お か ね」

「た り ま せ ん」

「す こ し し か」

「あ か ん」


 駄目も無理も言えないもどかしさ。最後があれだけど、ラッミスの方言が通用するのだから大丈夫だろう。


「少しであれば化けるのも可能だが、長時間の維持は苦しいのか。時間を稼いでもらえれば、こちらも壁の修復に取り掛かれる。そうなると、金か……ハンター協会の蓄えは、あとどれくらいだったか」


 熊会長に問われ、職員の一人が「少々お待ちください」と言い慌てて二階へ駆け上っていった。確か奥の部屋に貴重な資料やアイテムが入っている倉庫があった筈だ。

 暫くして戻ってきた職員の腕には書類が抱えられていた。


「会長」


 熊会長に耳に口を寄せて、何やら囁いている。まあ、ハンター協会の貯蓄額を教えるわけにはいかないよな。


「たったそれだけか」


「復興作業で大量に消費しましたので」


 そうだよな。集落をぐるっと取り囲む壁を建てるだけでも、膨大な費用を必要とする。それに加え職人やハンターの人件費。金はいくらあっても足りない筈だ。


「ハッコン、金貨六十枚でどれぐらい維持できるか教えてくれないか」


 六十枚!? ってことは日本円で約600万円。ポイントに換算すると100円で1ポイントだから6万ポイントか。こうやってみると、階層主を倒した時のポイントって、とんでもないことが実感できるな。

 かなりの大金であるのは確かなのだが、それでも昨晩の消費したポイントと同じか。〈結界〉を張らなければ長持ちするかもしれないが、ちょっと怖いところだよな。

 昨日と同じぐらいは維持できると伝えたいのだが「きのう」も「さくばん」も言葉が足りない。「き」が使えないのが何より辛い。結構頻繁に使う言葉なのだが。

 今話せる言葉だけで何とか伝えないと。「おなじ」は「な」「じ」が足りない。うーん。


「た り ん か も」


 言葉遣いが悪いのは勘弁してもらおう。正直、ポイントにはもう少し余裕が欲しい。作戦途中で維持できなくなったら、元も子もないからな。


「これ以上となると、高価な武具や魔道具、貴重な素材はあるが、この状況では売買は不可能だ」


 物品はポイントに換算できない。コインの形をしていたら何とかなるかもしれないが、武器や鎧はどうしようもない。


「では、私が貸し付けましょう。担保は武器防具で結構です」


 ここで名乗り出てくれたのは、スーツ姿の似合う両替商のアコウイだった。


「貸していただけるのか」


「もちろんです。お金は使われてこそです。これは慈善事業ではありません。ハンター協会とのパイプ確保と、我が社の宣伝になりますので」


 何処までが本音かはわからないが、彼女の後ろで巨体を縮ませてゴッガイが申し訳なさそうに、頭を何度も下げている。


「感謝する。如何ほど貸していただけるのだろうか」


「金貨五十枚はご用立てできます。もっとも、こちらの倉庫に入っているのですが」


 そういや、ハンター協会の地下には個人用の金庫があって、銀行代わりに大金を預けていると聞いたことがある。証明用の個人カードがなければ、職員であっても開けられない仕組みとかどうとか。


「本当に助かる。金貨五十枚相当の武具なら倉庫に幾つかある。後で職員に案内させよう」


「楽しみにしていますわ」


 更に五十枚追加か。これで、もう少し耐えられる時間が増えた。贅沢を言えばもう少しポイントを稼ぎたいが。


「仕方ありませんわね。我が商会からも金貨百枚ほどお貸ししますわ」


 そう申し出てくれたのは金髪ツインテお嬢様、スオリだった。

 すっかり忘れていたが、かなり大きな商会のお嬢様だったな。


「お、お嬢様、勝手にそんなことをされては」


「黙りなさい。お父様と連絡が取れない状況なのですよ。責任は全てわらわが負います。我々がここで死に絶えては、お金は何の意味も持ちませんことよ」


 止めに入った黒服たちを一喝すると、胸を張って断言した。ただのツンデレ我儘お嬢様と見くびっていたことを謝らないといけないな。


「ただし、我が商会はここに預けずに、屋敷の地下の金庫に置いておりますの。そして、それを開ける権限があるのは、一族の者だけです。つまり、この場では、わらわだけとなります」


「つまり、屋敷まで、お前さんを連れて行って金庫から回収しろって事か」


「左様で。エスコートお願いしますわ」


 ヒュールミの問いに、スカートの端を掴み優雅に頭を下げて肯定する。

 次のミッションは決定したようだ。


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