表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/277

自動販売機の意地

 最近になって気づいたのだが、どうやら俺は命に対しての危機感が徐々に薄れているようだ。

 一度死んで自動販売機の体になり痛覚も感覚も失い、自分の死にも他人の死に対しても認識が鈍くなっていたのだろう。もっと慎重になるべきだった。

 ヒュールミとシュイがあんな目に遭って、復讐心を抱くのは当たり前だが、あれ程の力の差を目の当たりにしたのだから、一度冷静になるべきだった。仲間を大切に想うのであれば、止めるべきだったのではなかったかと、今更ながらに思っている。

 とまあ、そんなことを考えてしまうのも、こんな状況だからだよな。


『我まで辿り着けば、相手をしてもよいのだが……おおっ、魔道具を背負いし、怪力娘もいるのか。ふむ、この短期間にしてはよく仕上がっている。これは今後の期待も大きいか』


 念話の声が良く届くな。俺のように一メートル縛りもなく、広範囲に無秩序に飛ばしているのか。

 冥府の王はラッミスを発見したらしく、値踏みしているような意見だ。クレーターのど真ん中に優雅に浮かび、ハンターたちを見下ろしている。

 自分が負けるなんて微塵も考えていないのだろうな。圧倒的な強者に勝つ方法は、相手の実力を発揮させずに不意を突く。これに限る。その最たるものである暗殺が有効なのは歴史が語っている。

 その為の策はラッミス、ヒュールミと一緒に何パターンも考えてきた、その成果を見せる時が来たようだ。


 まあ、実はその作戦は既に開始されているのだが。

 条件の一つである、冥府の王が俺とラッミスを目視して、その存在を確認するという項目はクリアーした。

 腹を括るか。俺が得た機能の一つに〈氷自動販売機〉があるのだが、これは専用の氷の自動販売機に変化できるようになる機能だが、実は別の〈氷自動販売機〉が未取得の機能欄にあるのだ。

 これはランク2になってから現れたもので、他の自動販売機や機能と比べて大量のポイントを消費するので取る気はなかったのだが、今ここで取得する。

 だが、まだその自動販売機に変化するわけにはいかない。まず〈結界〉の中の空気を排出することにより、位置を微調整する――真下に冥府の王が来るように。


 今、俺は戦場の遥か上空にいる。爆発魔法のどさくさに紛れて、〈ダンボール自動販売機〉に化けた俺は〈結界〉ごと、ラッミスに全力で上空に投げ飛ばしてもらったのだ。

 ちなみにラッミスが今背負っているのは、俺から型を取ったヒュールミお手製、自動販売機風の折り畳み可能な箱だ。俺は戦闘前から自分とそっくりな一回り大きな箱に包まれていた。

 なので〈高圧洗浄機〉のノズルで攻撃した時も、箱の内部で変化したので他の人からは、見た目が変わってないように見えたことだろう。ノズルを箱の下の取り出し口から出したのはその為だ。


 話を戻そう、空高く舞い上がった俺は〈風船自動販売機〉へと変化すると、素早さを生かして前回とは比べ物にならない速度で〈結界〉内部を風船で満たして、上空から戦場を観察していた。

 風船を〈念動力〉で操り位置の微調整をして、冥府の王の上空を確保する。一度いつもの自動販売機に戻り、そこから新たに得た――日本一大きな自動販売機である〈氷自動販売機〉へとその姿を変化させる。

 この自動販売機はTVで紹介されていたのだが、とある漁港に置かれていて、全長十八メートルを越える大きさで、パッと見は細長い四階建てのビルのようなフォルムをしている。そんな珍しい自動販売機をマニアである俺が見に行かない訳がない。


 その巨体が遥か上空から真っ逆さまに落ちて行く。

 これが激突した威力は今までの自動販売機アタックの比じゃないぞ。慢心状態の脳天に直撃してやるよっ!

 風の唸る音がうるさいぐらいだが、そんなものは無視して冥府の王の脳天だけを見つめ落下していく。


『さあ、足掻くがいいハンターたちよ。我が元に辿り着く勇者が現れるのを、我は待ち望んで……何だ、この風の鳴る音は……』


 ご満悦でラスボスの様な語りを始めていた冥府の王が、周辺をキョロキョロと見回し、ふと上空に顔を上げる。俺と見つめ合うような形になった冥府の王の顎ががくんと落ち、骸骨だというのに驚愕していることが手に取るようにわかる。


「な、な、な、何だこれはっ!」


 自動販売機だよっ!

 冥府の王が慌てて杖を掲げると、杖の先端から灰色の壁が広がるが、そんなものは無視して突撃だっ!

 俺の結界と灰色の壁が激突。その瞬間、衝撃波が波紋のように広がり、周辺の魔物が弾き飛ばされている。


「うぬおおおおおお、何だ、何なのだっ!」


 冥府の王の焦り取り乱した声を聞いて、今までの鬱憤が少し晴れる。

 落下の衝撃と重量を空中で支えきれなかった冥府の王は、押し込まれて今はクレーターの上に立ち踏ん張っている状態だ。

 このままでは決め手が足りない。だが、それも考慮済み。

 この自動販売機は漁船に氷を大量に提供する為の機械。ここから流れ出る氷の量は半端ないぞ。

 大量の氷をこの状況で落としていく。灰色の防壁を伝わり氷がクレーターへと流れ落ちる。あの爆炎魔法の影響で大地がまだ熱いのか、氷がすぐさま溶けて水へと液化していった。


「な、何だ、これは氷の粒……そんな物で我をどうにかできるとでもっ」


 俺の体を支えるのが精一杯なのに、氷が解けた水に浸かった状態で饒舌だな。

 これだけでどうにかできる何て思ってもいない。だがな、これだけじゃないんだよ。何で巨大なこの身体になる前に、一度いつもの自動販売機に戻ったと思っているんだ。

 俺は身体に隠していた〈AED〉を取り出す。

 筋力の値を上げたことにより、電気ショックの威力の限界を超えた状態で電極パットを水に浸し、安全装置を無視して強引に作動させた。


「ぐああああああああっ、何だこの電撃がああああっ」


 これで相手を倒せるなんて思ってもいない、この不意打ちで意識がそれてくれれば、それでよかった。そう、この防壁が揺らいでくれたら。

 ギリギリで耐えていた状態で集中力が途切れた冥府の王を待っていたのは、巨大な自動販売機に押しつぶされる末路だった。

 防壁が砕け散り、〈結界〉ごと俺の巨体が圧し掛かる。最後の足掻きに四本の腕で支えようとしたが、受け止められる訳もなく、骨を砕け散らしながら水没していく。

 着水時の衝撃で水飛沫が間欠泉の様に噴き上がり、それがこの戦いの終末を告げる合図となった。


 水飛沫が雨のように降り注ぐ中、俺はクレーターの中で一台佇んでいた。時間制限はまだ余裕があるのだが、いつもの自動販売機に戻っておこう。

 冥府の王が倒されると同時に一帯の魔物は消滅したようで、巨大なクレーターの縁にずらっと並び見下ろすハンターの姿が見える。

 その中には清流の湖階層の面々もいるな。全員無事なようだ。ほっとしたよ。


「ハッコオオオオオオン! 大丈夫うううううぅぅっ、怪我はああああ、なああああいいいぃぃぃ!」


 口元に手を当てて叫ぶ、ラッミスの声がクレーター内に反響している。

 大丈夫だよ、ピンピンしているから。そう、ラッミスに返事をしようとしたのだが、ふと気になることがあり、自分の現在の能力を確認した。

 その途端、俺は〈結界〉を張り直すと同時に「ざんねん」と最大音量で周囲に向けて放った!

 駆け寄ろうとしていた、ラッミスやハンターたちの動きがぴたりと止まる。くそっ、まだ終わって――


『ほおおぅ、我をここまで追い詰めただけのことはある』


 二度と聞きたくない声が直接体内に響いてきた。やっぱり、まだ死んでないのか。さっき、確認したのはポイントだ。冥府の王を倒したのにポイントが一切増えていなかった。

 それはつまり、まだ奴が生きている証。

 目の前の液状化した地面が盛り上がり、そこから骸骨の腕が絡み合うデザインの杖が生えてきた。その杖はそのまま上空へと昇っていき、地上から十メートル程離れた位置で停止した。


『これは貴重な杖でね、回収させてもらう。さて、諸君。我が体の一部……左腕を変化させた分体とはいえ、よくぞ討伐を成功させた。これは称賛に値する』


 あの化け物じみた強さだった冥府の王だと思っていた敵が、奴の左腕を変化させただけの存在だったというのか……冗談だろ。


『理想としては、ここで有能なハンターもまとめて処理したかったのだが、これは欲深すぎたようだ。まあ、本来の目的は達したので良しとしよう』


 本来の目的? ヒュールミが危惧していた何かが、やはりあったというのか。


『おっと、この杖を攻撃しても構わないが、今からキミたちにとって貴重な話をする予定だ。それを聞いてからの方が良いと、老婆心ながら忠告させてもらおう』


 流暢に話し続ける隙を突いて、攻撃を仕掛けようとしていたハンターたちを言葉で牽制している。ただの時間稼ぎの可能性もあるが、そう言われると攻撃を仕掛けにくくなる。


『これは我の一部を倒した、キミたちへの褒美だ。本来の目的とは、有能なハンターをここに集めることだったのだよ』


 ここまではヒュールミの予想が的中しているので、驚くべきことじゃない。問題は、そこから先だ。一体何を話すのか、聞き逃すわけにはいかないぞ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
漁港用氷の自販機やっぱり登場!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ