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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
四章

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逆境

 こちらのメンバーが強すぎて悪目立ちするのではないかと警戒していたのだが、それは杞憂に終わった。他のハンターも相当な腕前でパッと見た感じでは派手さだけなら、向こうの方が上だった。

 新たにもう一チーム参戦したようで、冥府の王は三方から同時に攻められている状況に陥っている。

 少し焦ったのかどうかは不明だが、骸骨の腕が寄り集まった杖を振り上げると、地面が盛り上がり無数の骸骨が追加された。


「ふむ、骨人魔の上位種、骨武魔か。皆、気を付けろ。武芸に秀でた者の屍だと言われておる。今までよりも数段上の実力だ」


 熊会長の警告を耳にして、新たな魔物を注意深く観察した。他の骨人魔よりも骨がどす黒く、何かしらの武器や防具を所有している個体が多い。

 他の骨人魔は無防備な立ち姿だったのだが、骨武魔は武器を構える姿がさまになっている。確かに今までの敵とは違うようだ。

 更に三メートル以上の背丈で、身体中に縫い目がある人型の魔物まで出現している。


「腐集人魔までいやがるのか。あいつは耐久力が異様に高い魔物だ。あと馬鹿力にも気を付けてくれよ!」


 目の前の骨武魔を斬り捨てながら、ケリオイル団長が注意を喚起する。

 フランケンシュタインを彷彿とさせる魔物だな。名前からして死体を縫い合わせて作り出された魔物か。筋肉むっきむきで見るからにパワーキャラだ。

 と呑気に考察していると骨の群れを掻き分け、腐集人魔がラッミスの前に現れた。

 至近距離で見ると筋肉の圧迫感が……見上げているラッミスとの対比が大人と赤子のようだ。

 腐集人魔はまさに赤子の手を捻るような感覚で、ラッミスの頭よりも巨大な拳を振り下ろした。

 いつもなら結界を張る場面だが、ここは任したよ、ラッミス。


 唸りを上げて迫る拳に対して、ラッミスは「左腕を引いて、右を突く!」何度も熊会長に教え込まれた、右正拳突きで迎え打つ。

 拳と拳が激突すると、その衝撃は腕を伝わり肩に抜け、腐集人魔の右腕が腐肉を撒き散らして弾け飛んだ。

 そして怯んだ相手の懐に滑り込むと、軸足を大地にめり込ませて、前蹴りを相手の腹に叩き込む。

 腹から折れ曲がった腐集人魔が低空飛行で他の魔物を巻き込みながら、吹き飛んでいった。

 一つ一つの動きに無駄が少なくなり、怪力をただ振り回すのではなく技を意識しているので、威力が格段に増している。鍛錬の成果が目に見えてわかるよ。


 なら、今度は俺の出番だな。

 右から迫ってきていた魔物たちに対し、取り出し口からにゅっと飛び出てきた〈高圧洗浄機〉のノズルを〈念動力〉で操り先端を向ける。

 そして、水を最大威力で噴き出すことにより、相手を吹き飛ばす。更に発射口の幅を狭くするイメージで高圧の水を放つ。

 水が一本の線となり相手の死人魔の首を捉えると、そのまま横に振る。すると、首の肉が弾け骨ごと切断された頭が、ごろりと地面に転げ落ちた。

 今までなら、こんな芸当は出来なかった。水の発射口を小さく操作することが可能だったのは器用さを上げたおかげだが、それだけでは威力が足りない。相手を吹き飛ばせたのも、切り落とすまでの威力を得たのも、筋力を40まで上げたからだ。


 〈念動力〉と器用さのメリットを把握した時、筋力にも必ず意味がある筈だと試しに10上げて実験を繰り返して、その効果が判明した。

 筋力というよりは馬力が上がったという表現が当てはまる。

〈コイン式掃除機〉を使えば吸引力が上がり、〈高圧洗浄機〉ならさっきの様に噴き出す水の威力を上げることが可能となった。

 これにより、ただの水が魔物を倒す武器と化したわけだ。正直、この程度の威力では冥府の王には通用しないだろうが、直接的な攻撃手段を得たことが重要なのだ。

 これにより自己防衛、迎撃機能を搭載した自動販売機へ進化した。いや、もう、これは、自動販売機じゃない気もするが、今更か。


「ありがとう、ハッコン」


「おおあたり」


 敵はアンデッド系だけあって、仲間が倒されようと動揺することはないようで、次々と襲い掛かってくるのだが360度、全方位を見渡せる俺に隙は無い。

 ノズルを自在に操り近づく敵を捉えると、高圧で飛ばされるウォーターカッターが魔物の体を穿ち、切断していく。

 仲間の何人かが乱戦状態だというのに俺の活躍に気が付き、大きく目を見開くが、その後、大きく息を吐いて一度頷くと、それで納得したように見えた。

 それはまるで「ハッコンなら仕方ない」と言っているかのように感じたのは、気のせいだと思いたい。


 自分が戦力になるとわかると冷静に周囲を見回す余裕も出てきた。

 お婆さんの周囲には生存している魔物が一体もいない。滑らかな切断面を見せつけるようにして、分断された魔物が大地にひれ伏している。

 時折、銀の軌跡が見えたかと思うと骸が一つ増える。それの繰り返しだ。俺が魔物なら絶対に近寄りたくない相手だ。

 さっきから空中に投げ出されている魔物は、熊会長にやられた奴か。鋭い爪で引き裂かれ、腕力だけではなく技術で払い吹き飛ばされた魔物たちが、面白いぐらい簡単に宙を舞っている。


 ミシュエルは竜の姿を模った柄から伸びた刃で、敵を一刀両断しているのだが切り口を見ると焦げたような跡がある。両刃の部分はかなりの高熱を帯びているのかもしれない。

 ケリオイル団長もかなりやる気を出しているようで、地味だが着実に相手を仕留めているな。普通なら目を見張る活躍なのだろうが、他と比べると目立たない。

 周辺には魔物の死体が散乱しているのだが、敵の数が減っているようには見えず、いや、寧ろ攻撃が激しくなってきていないか。


「無限に続くとは思いたくはないが、冥府の王を倒さねば埒が明かぬようだ」


「そうですねぇ。予めこの地に何らかの術を施し、魔物の復活と召喚を速めているのやも、しれませんなぁ」


 熊会長の発言に、お婆さんが地面を杖で突きながら、そう返した。

 相手の魔力残量が目に見えてわかるなら持久戦もありなのだが、異世界には魔力を回復する道具があっても不思議ではない。無限湧きだったら先に力尽きるのはこっちだ。

 本体に近づくには、敵の群れを何とかしなければならない。だが、倒しても直ぐに地面から現れるのでキリがないのだ。

 現状を好転させるには思い切った手が必要なのはわかっているのだが、その一手を誰も思いつかないようで、攻めあぐねた状態のまま時間だけが過ぎていく。


 味方のハンターチームが二チーム追加されたのだが、援軍を嘲笑うかのように魔物も増量される。一進一退の攻防が続く中、戦況を変化させる一言が、突如吹き抜けた風に乗り、俺たちの元へと届いた。


『全員、一旦、そこから離れろ。膨大な魔力が冥府の王に集まってきておる。この魔力の質と流れじゃと、自分を中心とした爆炎系の大魔法である可能性が高い。時間は無い、急がんかっ!』


 それはお爺さんの切羽詰った声であり、即座に俺たちは後退を始めたのだが、魔法で起こした風に運ばせた声は、清流の湖階層のチームにだけ届いたようで、他のハンターたちが誰も退いていない。


「会長このままじゃ、他の皆がっ」


「わかっておる。すぅぅぅぅぅ」


 ラッミスを手で制した熊会長は胸部が膨らむぐらいに空気を吸引している。


「おやおや、皆さん手で耳を塞いだ方がええよ」


 お婆さんは素早く両手で耳を閉じ、仲間にそうするように促す。

 みんなは訳がわからないといった感じではあったが、大人しく従い耳を塞いだ。

 え、えっ、塞ぐ手が無いのですがっ! あ、耳も鼓膜もないか。


「大魔法が来る、退けえええっ!」


 熊会長の口から放たれた咆哮は、大気どころか大地も震わせ、その衝撃波により近くの魔物が吹き飛んでいる。

 戦場の隅までその大声は届いたようで、あまりの大声に敵も味方も動きが一瞬止まったのだが、我を取り戻したハンターたちが一目散に後退を始めた。


『余計な真似を、だが、間に合うかな』


 今度のは脳に直接響く、冥府の王の声か。

 疾走するラッミスの背から、後方の冥府の王の様子を窺うと、天を突き刺すようにして杖を掲げた瞬間、目の前が白で染まった。

 これは閃光なのか。そう認識するよりも早く〈結界〉を発動させる。吹き荒れる爆風に、足元から伝わる振動を一瞬だけ感じた。

 白の世界が終わると今度は視界が赤く染まり、爆炎が巨大な円柱となり天に向かって伸びている、信じられない光景が飛び込んできた。

 仲間は全員、地面に伏せ吹き飛ばされないように耐えていたが、他のハンターたちは逃げ遅れた数名が無残に地面を転がされている。


 視界が一変して、いつもの安定感が失われ不安に心が揺らぎそうになるが、何とか押し留める。

 爆炎が消えると、そこには巨大なクレーターが穿たれていた。

 こいつは前も魔法で地面に大穴を開けていたが、今回の大きさはその比じゃない。野球場一個がすっぽり入る大きさはあるだろう。

 そのクレーターの真ん中、最深部に居座っていた冥府の王が、ゆっくりと浮かび上がっていく。


『精鋭だけあって、お見事と言っておこうか。まさか、今の魔法で死者がおらぬとは。ハンターも侮れないものだ』


 口ではそう言っているが、穴の上に浮かんでいる冥府の王はきっとご満悦の顔をしているのだろう。あー、骸骨だから表情は無いか。


『魔物どもも朽ちてしまったが、補充は幾らでもある、心ゆくまで味わってくれたまえ』


 杖を一振りしただけで穴を埋め尽くさん勢いで、魔物たちが現れる。

 さっきと同量、下手したら増えた敵を前に、もう一度戦闘をやり直せと言うのか。あの大魔法は詠唱から発動までに時間がかかるとしても、あの敵を突破して辿り着いた頃には、魔法の準備は整っているに違いない。

 それでも、味方のハンターたちは四方から、やつを滅ぼす為に攻撃を再開している。

 この状況で戦況を覆す可能性があるのは――俺だよな。


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