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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
三章

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今後の方針

 探索を開始してから一週間も過ぎると、ラッミスもかなり慣れてきたようで、死人魔以外とは戦えるようになってきた。死人魔はビジュアルがあれだから、拳で打ち砕くのには抵抗があるのは良くわかる。

 俺としても前の一件により死人魔には思い入れがあるので、至近距離で粉砕される姿を見なくて済んでいるので助かっているのだが。


「団長、死霊王を見つけたとして、対抗策は考えてあるんだよな」


 戦いとなると出番がないので最近はずっと荷台の中で何やらしているヒュールミが、ひょこっと顔を出して団長に問いかけている。


「ん、あー、まあな。物知りのお前さんに訊くのもなんだが、死霊王がどんな魔物か知っているか」


 荷猪車と並んでのんびり歩いていた団長が首だけ巡らし、質問を質問で返した。


「あれだろ、特大サイズの骸骨で金かかってそうなローブを着込んだ、偉そうな格好をした奴だろ。確か、元偉大な魔法使いの成れの果てとか言われているそうだな」


「おう、間違ってねえぜ。多くの属性魔法を操り、魔力も膨大らしいから魔法の連発も可能。まあ、その代わりと言っちゃあなんだが体が脆いらしい」


 完全に魔法特化タイプなんだな。でかいのを一発当てたら勝ちみたいだが、どうやって魔法を掻い潜って接近できるかが勝負か。

 相手を倒す破壊力ならラッミスかミシュエルが適任だろう。


「で、その魔法をどうすんだ。ここの面子には盾も壁もいねえだろ。まあいたとしても魔法は物理的なもんじゃねえから、役に立たねえぞ」


 ヒュールミの言う盾と壁というのは文字通りの意味ではなく、ハンターの担当する役割らしい。つまり、チーム内で相手の攻撃を集め耐えることにより、仲間も守ることに特化した者のことだ。


「まあな。だがな、ここにはどんな攻撃も防ぐことが可能な頼れる奴がいるだろ?」


 そう言ってウインクをして茶目っ気のある表情で、こっちに視線を飛ばしてくる無精ひげのオッサンがいる。

 あー、そういうことか。なるほど、執拗に俺を探索に連れて行きたがっていた理由が判明したよ。


「え、それってハッコンのこと?」


「正解だラッミス。ハッコンの結界は魔法すら防ぐ万能の盾だからな。お前さんが一気に距離を詰めて倒してくれても、敵の注意を引きつけてくれるだけでも構わねえ」


「それは危険……でもねえか。ハッコンは階層主の攻撃にも耐えている実績がある。ミシュエルを狙っていた奴の魔法も防いだって話だ……可能なのか……」


 ヒュールミが額を指でリズムよく叩きながら考えを巡らしているようだ。

 ポイントには余裕があるから相手の攻撃を防ぎ切る自信はある。攻撃の威力で吹き飛ばされる心配はラッミスが背負うことにより、踏ん張りがきくのでそれも対応は可能。

 あれ、これって案外、名案じゃないか。


「ハッコンどうだ。お前さんが無理と思うなら策を練り直すが、可能か?」


 可能か不可能かで答えるなら可能だろう。ラッミスを危険に晒すことになるが、そこは俺が守れば済む話だ。ハンターなんて危険な職を選んだのだから、危ないからといって避けていては一生前に進めないよな。


「いらっしゃいませ」


「おっ、流石だぜハッコン。男だねぇ」


「ハッコンがいいなら、うちも構わないよ」


 ラッミスは俺を信頼しきってくれている。ならその期待に応えるのが男ってもんだ。自動販売機になったとはいえ、心意気を忘れてはいけないよな。


「死霊王は王を名乗るだけあって、何体もの魔物を従えて現れるそうだ。雑魚の対応は俺たちに任せてくれ」


 愚者の奇行団の実力は疑う余地すらない。ミシュエルもそうだ。大食い団は死人魔とは戦い辛そうだが身軽なので捕まることもなく、骨系には強いようなので問題はない。

 聞いている分にはやれそうな気がしてくるな。


「だが、こんなもん机上の空論だ。基本は臨機応変。やばくなったら、一目散に逃走するぜ。俺の指示を聞き逃すなよ」


 この死んでも戦い抜けではなく、逃走を良しとするスタイル嫌いじゃない。何だかんだ言っても愚者の奇行団は仲間の命を重視している。だから、文句を言われながらも団員に好かれているのだろう。


「もう一つ質問していいか」


「何でも聞いてくれて構わねえぜ、ヒュールミ」


「この策は悪くねえと思うが、今までの奴らはどうやって死霊王を倒したんだ?」


 あ、そうか。俺の〈結界〉を前提として考えられた作戦だが、今までに討伐した他のハンターグループがどうやったのか興味あるな。

 しかし、こうやって作戦を練りだすと他の面子は蚊帳の外というか、聞き役に徹しているな。いつもなら副団長も加わるのだが、今はヒュールミの独壇場だ。


「他の奴らか、俺の知りうる限りだが……数の暴力で犠牲をいとわずごり押し。もしくは、魔法に対して万全の対策をして挑んだって話だな。後者は俺たちの策と似ているな」


 前者は最低な選択をしたもんだ。相手の実力がわからないなら、数で挑むというのは間違いとは言い切れないが、どれだけの犠牲を払ったのだろうか。


「細かい相手の特徴や攻撃手段は資料としてまとめてあるから、目を通しておいてくれよ。ラッミスはハッコンにも教えてやってくれ」


「うん、わかった。ハッコン、後で一緒に勉強しようね」


「いらっしゃいませ」


 文字が読めないからお願いするよラッミス。そろそろ、異世界の文字を勉強したいのだが、教えてもらう方法すら思いつかない。

 この世界の識字率は低くないようで、少なくとも清流の湖に住む人たちが、文字を読めないで困っている姿を見たことがない。何となくアルファベットを崩した感じのような字なのだが、ちゃんとした参考資料か教えてくれる人がいないと自力で覚えるのは難しい。


「ってこった。各自ちゃんとお勉強しておけよー」


「はーい」


 団員と大食い団が手を挙げている。相変わらず、和む光景だ。

 俺も後でしっかり覚えておこう。敵の情報を得ることが出来れば、自分の機能から対応策が思いつくかもしれない。





「ってことだ、わかったか」


「はい、ヒュールミ先生」


 何故か眼鏡を掛けて指し棒を手にしたヒュールミが、資料を手にした全員に詳しく説明をしている。口調はきついところもあるが基本、面倒見がいいので好評のようだ。

 情報を頭で整理しておくか。

 死霊王が出現すると周りに数体の魔物が現れる。その数はランダムで五十近く湧いて出てきた事もあったそうだ。三十を超えている場合は即座に撤退するのも忘れずにいよう。

 死霊王は魔法攻撃がメインで、火、水、風、土の四元素を自在に操り、闇の魔法にも長けている。光属性の魔法が苦手らしく、明るい場所も好まない。光量を最大で放てば怯んだりする可能性もあるかもしれない。

 物理攻撃に弱く、魔法に強い。魔法の効き目が悪いらしいので、直接攻撃メインで対応するそうだ。


 あと、ラッミスと俺は雑魚に構わず死霊王だけを狙うこと。魔法を引き受け〈結界〉で弾き、間合いを詰めて一気に葬れば理想的だが、それができない場合は敵の攻撃を引きつけるだけでいい。そう聞くと簡単そうに思えるが、俺と違いラッミスは生身だ。防御を任されたからには全力で守り抜く。

 一応、各自には治癒薬も渡されていて、少々の怪我ならぶっかけるだけで治るそうだ。ここら辺はファンタジーらしくて助かる。

 これで死霊王を見つけ出し戦うことになったら、階層主と三度も戦うことになるのか。ハンターとしての実績を上げている自動販売機ってどうなんだ。

 異世界転移の物語としては理想的な展開かもしれないが、自動販売機なのが……。いや、ここは発想の転換だ。自動販売機なのに異世界を満喫できている幸せを噛みしめるべきか。

 それもただのお荷物じゃなく役に立っている。そこは誇ってもいいところだよな。


「責任重大だけど頑張ろうね!」


「いらっしゃいませ」


 もちろんだ、ラッミス。前の階層主は美味しいところを掻っ攫っていく展開になったが、今回は一緒に階層主討伐と洒落込もう。ラッミスはもっと評価されてもいい実力の持ち主だと思っている。

 俺としてはラッミスとのコンビとして有名になるのが理想なのだから。

 この階層の雰囲気にも慣れてきて恐怖心も薄れている今なら、ラッミスの活躍も期待できる。慢心には気を付けないといけないが、俺たちが活躍すればするほど、戦闘に参加する仲間の危険度が下がる。それは俺もラッミスも望むところだ。


「ラッミス、気負いすぎるなよ。もし、万が一、戦いでオレたちの誰かが死ぬようなことがあっても、それは誰のせいでもねえ。みんな納得して、この場に居るのを忘れるな」


 そう言ってヒュールミがラッミスの頭に手を置いた。彼女は戦闘力が皆無だが、情報提供や心の支えとして必要不可欠な存在だ。

 その言葉に他の面子も大きく頷いている。誰も死にたいとは思ってもいないし、死ぬ気もないだろう。だが、覚悟だけはしているということか。

 誰も死んで欲しくないよな、やっぱり。悪人にも人権があり、どんな理由があれど人殺しは駄目だ。なんていう気はさらさらない。全く見知らぬ場所で知りもしない他人が死んで心を痛めることもない。

 だけど、俺を一度でも利用してくれたことがある人たちには死んで欲しくない。危険が隣り合わせのハンター稼業をしている人たち相手に、無茶な望みだというのは理解している。

 それでも、ここにいる人たちは誰一人として欠けることなく集落に戻り、また商品を購入して欲しいと心から願うよ。


「まあ、それもこれも、まずは死霊王を見つけてからだ。んじゃ、景気づけにしゅわしゅわするの飲むか」


「うちも大食い大会で飲んでから、はまっちゃって」


 ヒュールミの言葉をきっかけにコーラが売れていき、全員にコーラが行き渡った。


「んじゃ、皆で乾杯でもすっか」


「賛成! 蓋を開けて……かんぱーーい!」


「乾杯!」


 円陣を組むように集まった仲間たちがペットボトルのコーラを合わせ、同時に微笑むとその中身を口にしていく。

 なんか、某コーラのCMを見ているかのような光景だ。この探索が終わったら、また全員で集まって、コーラで乾杯をするのも悪くないな。


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