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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
三章

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メンバー

 毎日、数時間だが過酷な特訓をこなしてきたラッミスはこの環境に適応しつつあった。

 特訓内容は俺を背負って集落内でのお使い。夜一人で宿屋内のトイレに行く。俺を背負って集落内の散歩。

 あまりに辛い内容に何度も心が折れそうになっていたが、不屈の精神で乗り越え、俺を背負った状態なら集落内を自由に動けるようになった――甘いかな、俺って。

 まあその代わりに、いい香りを漂わせながら巨大な鉄の箱を背負って彷徨う少女という、この集落での怖い噂話が一つ増えたらしいが些細なことだろう。


「ヒュールミ、うちはもう完璧だよ! 怯えることもなくなったから」


 急に脇道から人が出てくると未だに跳び上がりそうになるぐらい驚くことはあるが、確かに以前と比べたら着実に進歩している。


「そうかそうか。オレもラッミスの頑張り見てきたぜ。じゃあ、次のステップに進むとしようか」


「何でも、ドンとこいよ!」


 胸を力強く叩き自信満々だ。この数日の特訓でかなりの自信を手に入れたようだ。


「おお、言うじゃねえか。それなら、次はハッコンを背負わずに、集落内を――」


「無理です勘弁してください」


 言い終えるよりも早く腰を九十度曲げて素早く頭を下げた。何と言う潔さ。一瞬の躊躇いもなかったな。まだ一人でぶらつくのはハードルが高いようだ。


「探索でもハッコンが常に一緒だから大丈夫だとは思うがあれだな、問題は集落の外に出ても平気かって話だ」


「だ、大丈夫だよ。ほら、他にも人がいるわけだし。一人じゃないし」


「まあ、そっか。そういや、予定では今日探索メンバーを連れてくるとか言ってたな団長」


 おっ、ようやく本番の死霊王捜索を始めるのか。いつもの愚者の奇行団の面々に加えて誰か別の人も参加するのかな。アンデッド系が多いから、僧侶とか神官みたいな人が来るのだろうか。

 この世界での回復職は俺の知りうる限りでは、傷を癒せる系統の加護を所持している人が担当するらしい。早朝常連四人衆のお婆さんが、その加護持ちだという話だ。

 傷を治す魔法も存在するらしいので、俺としてはシスターっぽい女性や神官戦士風の男性を期待したい。


「っと、ここにいたか。今回、探索する面子連れてきたぞ」


 この声はケリオイル団長か。特訓の為に集落内をうろちょろしていた俺たちを探していたようだ。

 二人が振り返り、俺も視界を団長へと向ける。

 団長の後ろには大食い大会で活躍したベリーショートの吸引娘シュイと大食い団四人。紅白双子がいる。ここまでは、いつものメンバーだが他にも参加者がいるようだ。


「お久しぶりです、ハッコンさん。それにラッミスさんとヒュールミさんも」


 漆黒の鎧に爽やかスマイル。ミシュエルも同行するのか。戦力としては申し分ない人材だが……これだけの大人数、コミュ障の彼は大丈夫なのか。


「ミシュエルはお前さんたちも知っているだろ。今回、お試しで愚者の奇行団に加入することになった。俺たちとしてみれば孤高の黒き閃光が仲間になってくれるなら、もろ手を挙げて歓迎するんだが。今回の遠征でうちの団を見極めるそうだ。なあ、ミシュエル」


「いえいえ、皆様の足を引っ張らないか、私が支障なく共同作業を行えるか。そこを知っておきたいだけです」


 謙遜しているように見えるが実際は後半部分が重要なのを、この場では俺だけが知っている。今も普通に受け答えしている様に見えるが、鎧の中は緊張で汗まみれだと思う。

 追加は彼だけのようだが、聖職者関係はこの世界にいないのか。少し残念だ。


「んじゃ、適当な店に入って遠征内容と簡単な方針を説明するぜ」


 そう言った団長に促されるままに、近くの飯屋に全員が流れ込んでいく。

 そこは中規模の店で飯時ではないので他に客はなく、急な団体に戸惑っているように見える。


「こんな大人数ですまんな。暫く貸切りにさせてもらえないか」


 団長は駆け寄ってきた給仕の女性に、金貨を一枚親指で弾いて渡した。

 それを見た途端に態度をコロッと変え、店の奥の丸い大テーブルへと案内してくれると、入り口の扉前に何か看板のような物を置きにいった。たぶん、貸切り中みたいなことが書かれているのだろう。

 全員が席に着き、俺も椅子を一つどけた後に置かれた。


「食い物と飲料は適当に頼むぞ。ああ、お前ら物欲しそうな目で見んな。わかってるっての、食い物大量に頼んでやるよ」


 シュイと大食い団に潤んだ瞳で見つめられ、団長が大量注文している。この五人がいるとエンゲル係数が一気に跳ね上がるよな。飲食店としては嬉しい客だが。


「でだ、飯は食いながらで構わねえから聞いてくれ。今回はここにいる全員で死霊王を探し出し、葬るのが目的だ。あー、副団長は事情により今回は別行動となっている」


「副団長怖がりっすからね」


「きっとあれだぜ、怖がっている姿を団長に見られるのが恥ずかしいんだ」


「マジか白。副団長にそんな可愛らしい一面があったなんて意外過ぎるぞ」


 団員の囁き合う声で副団長不在の理由が一発で理解できた。つまりラッミスと同じなのか。気が強そうな人ほど怪談苦手だったりするからな。

 しかし、冷静沈着で補佐役のフィルミナ副団長がいないと、遠征が心配になってきた。誰が仕切り役をするのだろう。


「ちなみにだ、大食い団に協力を仰いだのは、こういった雰囲気にのまれることがないってのと、索敵能力に長けているからだ」


「良くわかんないけど、人間は暗い所と死人魔とか骨人魔とか死霊魔とか苦手なんだってね。ボクたちにはわからない感覚だよ」


「死人魔は腐った肉の臭いがやだけど。あの臭い食欲がなくなっちゃうから」


 ミケネの意見にペルが大きく頷いて顔をしかめている。ホラー要素に対する恐怖の感覚が人間と獣人では異なるようだ。そう考えると大食い団は適しているな。

 おまけに耳と鼻の良さ。いざという時の足の速さ。これはかなり貴重な能力と言える。


「今回は探索範囲が広く、辺りは闇だ。夜目が利く点もこっちとしてはありがたい」


 タスマニアデビルは確か夜行性だったから……うん、最適な人材かもしれないぞ。


「シュイと赤白は強引に連れてきた」


「横暴っす! 私も怖いの弱いのにっ!」


「俺もどっちかと言えば苦手なのにっ!」


「俺も俺も!」


 文句たらたらの団員に向かってケリオイル団長は満面の笑みを向け「お前らに拒否権はねえ」ときっぱりと言い捨てた。

 団員たちも負けじと罵声を浴びせ、醜い言い争いへと移行している。見慣れた光景なのでラッミスたちは止めることもせずに、運ばれてきた食事を黙って口に運んでいく。

 ミシュエルは状況を理解できていないが口を挟む勇気もないようで、笑顔を無理やり顔に貼り付けたまま硬直している。

 暫くしてお互いの語彙も尽きたようで、愚者の奇行団の面々は肩で息をしながら深々と椅子に腰を下ろした。


「でだ、話を戻すぞ。亡者の嘆き階層の敵で多いのは死人魔、骨人魔、炎飛頭魔、死霊魔となる。この魔物についての説明は、ヒュールミ頼んでもいいか」


「おう、任せてくれ。炎飛頭魔は迷路階層で散々戦ったから省くぞ。っと、ミシュエルは説明いるか?」


「いえ、大丈夫です。続けてください」


「そうか。んじゃ、まずは死人魔だ。その名の通り死んだ人間が動いている魔物だな。腐って肉が殆ど削げ落ちている個体もあれば、生身の人間と変わらないのもいる。特徴として動きは鈍いが力が強い。組み付かまれたり、咬まれたりしないようにしてくれ」


 つまり、ゾンビだな。ホラー映画だと咬まれたら感染して広まるというのが定番だが、その事に関しての説明がなかったから、その点は心配しないでいいのだろう。


「骨人魔は動く骨格標本だな。肉が全て削ぎ落ちた死人魔の慣れの果てだという研究者もいるが、オレの意見は異なる……って、それはどうでもいいか。動きが速いが力は弱いという特徴があり、あれだ、死人魔と正反対と思って間違いはねえぜ」


 骨って正直弱そうだよな。某映画でも骨の敵って簡単に破壊されていた。ヒュールミの言い方も緊張感がなく雑魚敵のようだな。


「んで、最後は死霊魔だが、半透明の体で直接攻撃が通用しない。って言うと厄介そうだが、弱点は光だ。強烈な光を浴びせると簡単に消滅する。灯りを持っていれば寄り付きもしねえぜ」


 そうなのか。なら、俺が狙われることはないのか。夜は常に光を放っておいた方が良さそうだな。


「まあ、ここらが頻繁に現れる魔物だが、それ以外にも強い個体や別の魔物も少数ながら目撃されている。油断はしないでくれ」


「説明ありがとよ。ヒュールミがいると情報収集の手間が省けてありがたいぜ。明日の早朝出発予定にしている。各自準備しておいてくれよ。まずは半日ほど探索して集落に戻る。これを暫く繰り返す。荷物はそんなにいらねえからな」


 初めの内は日帰り探索を繰り返すのか、ラッミスの事を考えるとそれが良いと思う。夜は魔物が強化されるようだし、日帰り中に敵の情報が集まるのがベストだけど。

 そんなことを考えながらチラリと隣に視線を向けると、俺の体に指をめり込ませて壊れた機械のように何度も頷いているラッミスがいた。

 だ、大丈夫かな明日から。


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この世界に聖職者は居るよ。あとちゃんと愚者の奇行団にも居るよでもなー変態なんだよな「私はアニメを観ています」
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