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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
一章

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門番と集落

「もうすぐで、この階層の入り口に着くから。もう少し辛抱してね。そこは小さな集落になっているから、ゆっくりできるよ」


 階層? 階層って何だ。まるで建物内部の様な物言いだけど、頭上には大空が広がっているから屋内なんてことはないよな。

 良くわからないけど他に人がいるのはありがたい。商品を大量に購入してもらって、ポイントを大量ゲットしたいところだ。


 あれから一度も襲撃を受けていないので〈結界〉も張らずに済んでいる。遠くから様子を伺っているだけで、ちょっかいはかけられてないからな。カエル人間の情報網は優秀なようで。

 しかし、ラッミスは怪力もさる事ながら、体力も大したものだと思う。俺を持ち上げたまま5時間ぐらいは平然と歩き続けていた。やりようによっては優秀なハンターになれると思うのだけど。


「あっ、集落が見えてきた! やったあっ! 生きて戻ってこれたんだ」


 仲間に見捨てられて一度潰えた希望。それが、俺を見つけてここまで戻ってこれた。嬉しさのあまり涙目になるのも無理はないか。

 当たり前のように運ばれていたけど、ラッミス以外の人に見つかっていたら、この体を破壊して中身を取り出されていたかもしれない。彼女は運が良かったと言っていたが、それはこっちのセリフかもしれないな。


 進路方向に見えてきたのは丸太がずらりと並んだ、手作り感満載の防壁だった。高さは2メートルぐらいか。結構な大きさの集落っぽい。

 出入り口らしき場所には薄汚れた革鎧を着込んだスキンヘッドの男と、角刈りっぽい髪型の男がいる。両方プロレスラーのような体型で見張りとしては充分すぎる存在感だ。


「おっ、ラッミスじゃねえか! お前さん、無事だったのか。仲間のやつらが半死半生で戻ってきたから、心配していたんだぜっ!」


 頬に刀傷のようなものがあるスキンヘッドのおっさんが、屈託のない笑みを浮かべ、ラッミスの無事を喜んでいる。見た目に反して人当たりのいい人なのか。


「はい、何とか生き延びていました! カリオスさん、ご心配をおかけして申し訳ないです」


 俺を地面に置いてからペコペコと頭を下げている。腰が低いなラッミスは。

 隣に立つ角刈りの人は目を細めて、二人のやり取りを眺めているだけだ。あれは、微笑んでいるようにも見えるな。


「お前さんが無事だったのは何よりだが、それなんだ?」


「あ、これですか。たぶん魔道具らしくて湖畔で拾いました。お金を入れたら商品を取り出せるんですよ、この子!」


 この子か。ラッミスの方が俺よりもかなり年下だと思うが、異世界で生まれ変わったとするなら、生後まだ数日だからな。


「ほおおぅ、それはどっかの魔法具の開発者が実験の一環として置いたのか、それとも宝か。しかし、清流の湖階層にそんなものがあるなんて話、聞いたこともねえぞ。俺らはここの門番やってもう五年になるが……なあ、ゴルス」


「ああ」


 スキンヘッドの方がカリオスで、無口角刈りがゴルスか。カリオスが交渉ごと担当っぽいな。あっちが無口過ぎるし。


「発明品なら持って来たらダメでした?」


「まあ、ただ憶測だ。それに、階層に落ちている物は拾った者に所有権があるってのは、このダンジョンでの常識だ」


 ダンジョン? え、さっきから階層とか口にしていたけど、もしかしてここってダンジョンの一階層に過ぎないというのか……。え、空あるよ? どう見ても地下には見えないよな、どうなってんだこの世界。


「でだ、金を払えば商品を買えるってことだが、それって俺たちも買えるのか?」


「はい、大丈夫だと思います。いいよね?」


 ラッミスがこちらに振り返り問いかけてきた。答えは決まっている。


「いらっしゃいませ」


「おうあっ!? 何だ、今の男の声は誰だ!?」


 カリオスが上半身を仰け反らして、辺りを見回しているな。ゴルスは訝しげにこっちを凝視している。今のが俺の発言だと理解したのか。


「あははは。大丈夫ですよカリオスさん。今のはこの子が返事したんですよ、ねっ」


「いらっしゃいませ」


「ま、まじか。話もできる魔道具なんて聞いたことねえぞ。これって結構、高値で売れるんじゃねえか……」


「う、売りませんよ! この子は私と一緒にヒュールミに会いに行くんですから」


 俺を守るように前に立ち両手を広げている。

 うううっ、なんて良い子や。ポイントの為とはいえ、金銭巻き上げてごめんよ。


「ヒュールミってあの、いかれた魔道具技師のねえちゃんか。暫く、この集落にいたことがあったよな。知識は半端ねえから、いいかも知んねえな」


 何だろうその不安になる説明は。枕詞にいかれたが付く技術者なんて、良いイメージが全く浮かばない。会うのを遠慮したくなってきた。


「でしょ。それで、何か購入しますか?」


「おう、物は試しだ。お前さんが勧めるなら安全だろう。1000ってことは銀貨一枚か、安くはねえが……これ、商品どうなってんだ」


「ええとね、これが美味しい水だよ。で、これが甘くてミルクが入ったお茶みたい。この二つはとっても冷たいよ。で、下の段のは温かいとろっとしたスープ。あとは赤い筒のは、ズュギウマを揚げたような食べ物だったよ」


「温かいのと冷たいのもあるのか。それじゃ、スープと揚げたの食うか。ゴルスはどうすんだ」


「甘いお茶をもらおう」


「こうかをとうにゅうしてください」


 二人がびくっと体を揺らすが、ラッミスの指示に従い硬貨投入口に銀貨を入れてくれた。

 注文の品を全て渡し終えたので「またのごりようをおまちしています」と礼を言っておく。

 両方ボトル缶なので簡単に開けているが、これプルトップにしたら開けられなさそうだよな。暫くは、プルトップ缶は避けておこうか。


「スープあったけえな」


「こっちは冷たい」


 二人が同時に飲み口を含み、一気に煽る。その瞬間、カッと目が見開かれる。


「なんでえ、これ! おいおい、マジでうめえぞこれっ」


「ほぅ、こちらも美味だ」


「この揚げものはどうなんだ……おおっ、やべえ、あっさりしてるんだが止まらねえ」


「少しくれ」


 成型ポテトチップスを貪り食う二人を眺め、ラッミスは嬉しそうに顔をほころばせている。俺も表情があるなら同じような顔をしてそうだ。

 カリオスが渋るのでゴルスは追加で成型ポテトチップスを購入してくれた。今度はミルクティーを美味しそうに飲み干すのを見て、カリオスが興味をもったようだ。ミルクティー追加入りまーす。

 かなり気に入ってくれたようで、二人とも全商品を購入して、カリオスはコーンスープ、ゴルスはミルクティーがお気に入りのようだ。

 総売り上げ9000、銀貨九枚となった。90ポイントも増えるな、上客に感謝。


「いやあ、これいいぞ。味も相当ランクたけえし、温かいのも冷たいのも飲めるってのが最高だ。ここに設置してくれねえか? 見張りやってると、この場から離れられないからな。これがあったら、めっちゃありがてえぜ」


「確かに」


 あー成程。ここに設置してもらったら、二人は定期的に購入してくれそうだし、見張りも交代するだろうから、その人たちも買ってくれれば悪くない売上かもしれないな。


「うーん、どうしよっかな。私もこの子から離れたくないし……」


「それじゃあ、たまにここに持ってきてくれよ。来たら必ず買うぜ。他の奴にも教えておくからよ」


「そのままだと運びにくいだろう。背負い紐でも買ったらどうだ」


 おーそれは、ナイスアイデアだ。抱きしめられるように持ち運ばれるのも嫌いじゃないが、背負い紐か何かで背負えるようにすると、ラッミスも運びやすくなって良さそうだな。


「あ、それいいかも。貴方もそれでいい?」


「いらっしゃいませ」


「いいんだね。じゃあ、たまにこの子と一緒に来るねー」


「おう、頼むぜ。これで見張りの楽しみが増えたってもんだ」


「助かる」


 これで安定した売り上げが見込めそうだ。ポイントは俺の全てだからな。もっと新商品も仕入れたいし、機能だって追加したい。

 まずはポイントを集めることが最優先事項だ。


「まずは宿屋に戻ろっか。何をするにも先立つ物が……」


 おう、すまない。俺が散財させたからな。余裕が出て来たら売り上げの一部を、ラッミスに渡せたらいいんだが。どうにかできないか、暇な時に調べておこう。

 集落の中は大きなテントが点在している。テントといっても、休日のキャンプで使うような物ではなく、遊牧民族が住居としている円形でしっかりした造りをしている。

 キャンプの一つ一つが商店や住居のようで、入り口付近に立っている人々から奇異の視線が注がれている。小柄な少女が四角い鉄塊を抱きかかえていたら、そりゃ奇妙に見えるか。

 集落の地面は平らに均されている。舗装とまでは呼べないが外と比べれば歩きやすそうだ。


「あれが、私の泊まっている宿屋だよ」


 集落内では珍しく二階建ての木造建築がそこにあった。


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