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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
三章

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リアルとファンタジー

「生理って何? 食べ物?」


「何だろう、ボクも聞いたことないな」


「女が関連するみたいだが、スコ知っているか?」


「ええとね、人間とか猿系種族の女性に多いんだけど、下腹部から血が出る女性特有の症状らしいよ」


 大食い団が集まって、ひそひそと小学校高学年の男子みたいな会話をしているな。

 そういや、人間と一部の動物以外は生理がなく、あったとしても軽いって聞いたことがある。


「ったく、無茶しやがって。ラッミス、生理重い方だったろ。あーあ、下着も布も血塗れじゃねえか。こういうのは綺麗な布に換えないと病気が怖かったりするんだぞ」


「あうっ、はい……」


「別に恥じることじゃねえが、子供を産めるってのは女性の特権だ。もっと大事にしようぜ」


 何をしているのかは見えないが、声だけでもヒュールミがてきぱきと処理しているのがわかる。こういうのって男は弱いんだよな。何か力になれることは……清潔なタオルの提供と後は、あー、まあ、あるな。

 俺は機能から〈手動サニタリー用自動販売機〉を選び出し、フォルムをチェンジさせる。

 清潔さをアピールするかのような純白の体に変化し、かなりスリムにもなった。この自動販売機は手動という名の通り、電気を必要としないタイプで硬貨を入れてレバーを捻ると商品が出てくるようになっている。


 この自動販売機で売られている商品はたった二つ。ナプキンとマスクだ。

 女性ならデパートや駅構内や学校等のトイレで見たことがあるのではないだろうか。男性でこれを見たことがある人は少ないと思う。

 じゃあなんで、自分で購入したことがある物しか商品として選べないという縛りがある俺が、商品を提供できるのか……い、いや、別にやましいことは何もない。

 親戚が清掃業をしていて、学生時代に何度かバイト経験があるのだ。その際に男性トイレ女性トイレの清掃もあって初めて見る自動販売機に、中身も知らずに興味本位で購入した過去が。って、それは今どうでもいい。


「あれ、ハッコン急にどうした。細くて白くなったな。今、変化したって事は何か意味があるってことか。硬貨入れてみるぞ」


 ラッミスやヒュールミ相手だと意思の疎通が楽で本当に助かるよ。

 レバー捻って商品を取り出し、じっと見つめていたようだが、よくわからなかったようで首を傾げている。


「へえ、変わった物だな。この透明の袋はいらねえな。妙な肌触りの布……いや、紙か?」


 考察しながら弄り回し、現状から俺が何をしたいのかを理解してくれたようで、失敗を繰り返しながらも何とか使えたようだ。


「これスゲエな、凄まじい吸水率だぞ。これならダバーッと出た日も安心だな」


 新たに購入したナプキンにペットボトルの水を吸い込ませて感心している。

 生理もリアルな問題だよな。ファンタジー作品で女性冒険者とかを多く見かけることがあるが、実際は陰で結構苦労していそうだ。


「血塗れのズボンと下着はハッコンに水出してもらって洗うか」


「あ、私が洗っておきますよ。姉や母の物を洗うこともありましたので」


 荷台の傍に置かれた俺は、少しも嫌がることなく汚れた下着とズボンを受け取ったミシュエルを見て、感心していた。男なら少しは抵抗が有るものなのだが、女系家族らしいので見慣れているようだ。

 そんな彼の為に新たな機能を追加した。

 これは前々から取ろうと思っていたのだが〈コイン式全自動洗濯機 乾燥機一体型〉へと変化する。これはコインランドリーに置いてある、ドラム式の洗濯機だ。

 ハンターは荷物になるので予備の服を持つとしても一着ぐらいで、不衛生な格好が日常なのが気になっていたのだ。こうやって魔物討伐中や依頼中でも洗濯が出来れば喜ばれるのではないかと考えていた。

 取り敢えずパカッと丸い蓋を開けて、ここに放り込んでくれアピールをする。ミシュエルは好青年でやましい気持ちは皆無だろうけど、ラッミスの下着を手洗いさせるのには抵抗があるよな。


「不思議な形に変化したけど、何かして欲しいのかな?」


「ハッコンはその中に汚れ物を入れろと言っているみたいだぜ」


「いらっしゃいませ」


「では、入れてしまいますよ」


 今回は試運転も兼ねて無料でご奉仕だ。洗剤自動投入装置も付いているので放り込んだら、後は待つだけだ。一応、洗い方や時間設定もできるのだが、そっちの操作は全て俺がやっておこう。

 ミシュエルは洗濯を見ているのが楽しいらしく、ガラスに顔を近づけてじっと中を覗き込んでいる。そんな彼を見て大食い団も好奇心が刺激された様で、全員で洗濯物がぐるぐる回っているのを見つめている。何だこの状況。

 洗濯機の性能では30~40分かかる筈なのだが素早さを上げているので、10分程度で終了した。素早さ上げて正解だったな。二時間しか変化できないので、時間の短縮が無ければ多用できない機能だ。


 終了を伝える音が流れると大食い団が後ろに跳び退り「ヴアアアアアッ!」と驚いている。あの叫ぶ姿にも慣れてきた。

 蓋を開けると躊躇いがちにミシュエルが手を突っ込んで、洗い立てのズボンと下着を取り出し、天に掲げた。荒野を吹き抜ける風に下着とズボンがそよいでいる。

 女性のズボンと下着を握り締めるミシュエル。いくらイケメン補正があるといっても、これはフォローできないな。


「これは凄い、真っ白ですよ!」


 洗濯機になった俺の体をがしっと掴むと、身体が激しく揺さぶられている。あれ、予想以上に食いついてきているな。


「これは他にも汚れ物を洗いましょう! 私も鎧以外全て放り込みます。皆さんも、汚れ物を出してください!」


 俺が止める間もなくバックパックから洗濯物を取り出し、洗濯機に放り込んでいく。ヒュールミなんて荷台の中で服を脱ぎ捨て、下着一枚の格好で荷台から顔を出して洗濯機の中に洗濯物を放り投げている。

 大食い団も例外ではなく、ジャケットを剥がれて靴を履いただけの姿で、呆然と突っ立っていた。


「いいですよね、汚れが取れていく過程というものは。部屋の掃除もそうですが、衣類が綺麗になるのが一番気持ちいいと思いませんか。私の家ではメイドが滅多にさせてくれなかったので、今、凄く楽しいですよ」


 ああ、だから、あんなに目を輝かせて洗濯機の中を見つめていたのか。喜んでくれたのなら何よりだ。さっきの発言でメイドが家にいるという事実が判明したのだが、彼はそれなりに身分の高い人間のようだな。

 しかし、真面目そうなミシュエルしかいないとはいえ、若い女性が下着姿で健康的な身体を晒しているというのは、どうなのだろうか。ラッミスも今半裸状態だよな。体調が悪くて気づいていないだけみたいだけど。

 ミシュエルは荷台の中が見えない位置に陣取っているが、俺の場所からだと彼女たちの姿が良く見える。


 折角だから、彼女たちの下着姿を観察してみるか。これで彼女たちのセンスがわかれば、今後の商品展開にいかせるかもしれないからな。それだけで、他に深い意味は無い。下心とかは全く無い。微塵もない。

 まあ、観察と言っても現代日本とは違って下着も凝ったデザインではない。ただ、肉体労働がメインのハンターなので、ラッミスはTバックなのか。激しい動きをするなら、そっちの方がいいのかもしれない。

 後は小柄な体にしては凶悪すぎる二つの大きな球体が、重力に負けて胸部で押し潰されている。いつもは革鎧で圧迫されているので、ここまで強烈な印象を与えないのだが、薄着になった時の破壊力が半端ない。仰向けだというのに、その大きさが尋常ではない事が一目でわかる。


「ラッミス、また胸デカくなってないか」


「そう……かな。よくわかんない」


 ヒュールミはまじまじと、弱っているラッミスの胸を観察してから、自分の胸元に視線を移し「はっ」と疲れたように息を吐いた。

 そんな彼女の胸部には黒い布が巻かれているだけで、まっ平らに近い。相変わらず肉厚で形のいいお尻をしているのだが、女性としては胸の方が気になるようだ。

 個人的には大きくても小さくても問題ないのだが、男の本能としては胸の大きな女性には思わず目がいってしまうからな。そりゃ、女性も気にするか。


 この状況、男性なら興奮して喜ぶべきなのだろうが、自動販売機の俺にどうしろと。いや、今は洗濯機か。この姿で性欲を持て余しても困るから、文句を口にするのもおかしな話か。

 洗濯と乾燥が終わり、洗い立ての洗濯物を着込んだ全員がほのかに香る洗剤の香りと、肌触りに満足しているようだ。


「では、今日は一日休息ということでどうでしょうか」


「だな。まだ昼過ぎだが、たまにはいいだろう」


 ラッミスの体調を気遣って今日一日は動かない事に決めたようだ。大食い団は大地に寝そべり日向ぼっこをしている。

 ミシュエルは洗濯への欲望がまだ消えてないようで、荷台の幌を外して洗えないか考え込んでいる。ヒュールミは荷台で時折、眠っているラッミスの体調を窺いながら何かの本を読んでいるようだ。

 じゃあ、俺は何をしようかな。取り敢えず、洗濯機からいつもの自動販売機に戻っておこう。あっ、ミシュエルが露骨に残念そうな顔をしている。

 そういやポイントに余裕がある今の内に、ステータスの変化が何に影響を及ぼすか試してみるのもありか。


 自動販売機のステータスには耐久力、頑丈、筋力、素早さ、器用さ、魔力がある。

 耐久力と頑丈は今更検証するまでもない。素早さは、あらゆる動作の速度が上がるので、これからも上げることがありそうだ。

 さて、問題は残りの筋力、器用さ、魔力なのだが、魔力はPTを消費しても上がらないようなので除外する。

 となると筋力なのだが自動販売機の筋力って何だ? 今のところパワーが必要な自動販売機の形態は存在しない。手足が生えたり自力で移動できるようになれば、必須の能力なのかもしれないが。今のところ使い道は無いと思う。


 残りの器用さは……何だろうな。精密動作が可能になるって事なのだろうか。今のところ精密動作が必要な機能が見当たらないし、これも上げる必要性を感じない。

 両方10上げるには1万ポイント必要なのだが、使い道がわからない能力に費やすのは勿体ないよな。

 結局、考察したのみで能力を上げることなく、一日が更けていった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 素早さが商品の排出となると 器用さは言葉が増えるとか? 或いはハッコンが頑張って勉強すればディスプレイに文字を流せる?
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