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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
二章

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四匹と一台

 車輪がついて動かせるようになったとはいえ、重量があるのでかなり体力を持っていかれるらしく、一時間ぐらい押されていると休憩になった。

 そうなると、飲み物が欲しくなるようで飲料を各自一本ずつ選んでいる。

 彼らの体力とやる気が尽きてしまうと俺としても困るので、商品は安めに提供しているのだが、水分はそれ程必要としていないようだ。肉を食べる量に比べたら一般的な量しか飲んでいない。

 休憩を何度も挟んで一日かけて進んだのだが正直実感が湧かない。道の先は見えてこず、周囲の風景も殆ど変わりがないので、本当に進んでいるのかと不安になるぐらいだ。


 たまに脇道が現れるのだが、その先がかなり入り組んでいることを俺は知っている。防犯用カメラで撮影した迷路の全景はバッチリ記録してあるからな。

 夕方になると彼らは早めに野営の準備を始めている。夜の魔物は凶暴化するという話を門番のカリオスがしていたから、それを警戒してのことだろう。

 昼もそうだが夜も大量に商品が売れていく。彼らの食欲には呆れを通り越して感心してしまうよ。愚者の奇行団にいた射手のシュイと大食い対決をさせたら面白いことになりそうだ。


「どれぐらいで入り口につくかな」


「早くても一週間ぐらいじゃないかしら。私たちが迷路階層に入ってから二週間ぐらいだし」


「何日も中で迷っていたもんね。ボクもそれぐらいだと思う」


「大通りは一本道だから迷うことは無いと思うが、その代わり魔物に遭遇する確率が上がる。用心はしておこう」


 豊豚魔以外に会ったことは無いが、迷路階層の中には色々な魔物が生息しているのは当たり前か。上空から眺めた感じでは巨大な人型の岩みたいなのがいたな。一般的なファンタジーなら石や岩でできた魔法生命体ゴーレムってところか。

 後は余りに距離があり過ぎていて、何か蠢いているのがわかったが、正確な姿は確認できなかった。


「もう少し進んだら豊豚魔が出てきた場所だったね」


「うん、そうね。不意に脇道から飛び出してきて、足に怪我しちゃったから良く覚えているわ」


「あの時はびっくりしたなぁ。思い出したらお腹空いてきた」


「もう少しペルは自重しろ」


 豊豚魔がうろついているエリアなのか。スコの足はだいぶ良くなっているので、今度狙われても全力で逃げれば問題ないだろう。

 俺の〈結界〉の事を暴食の悪魔団は知らない。これを伝えておいた方が良いのは理解しているが、彼らに見せたところでちゃんと意味が通じるのか。

 土壇場で戸惑ってミスを犯すぐらいなら、今の内に見せておいた方がいいよな。うん、決めた。


「いらっしゃいませ」


「ヴアアアアッ!? 何、何で急にこの箱は話し出したのっ」


 相変わらず驚いたときの悲鳴と言うか鳴き声と、迫力のあり過ぎる顔が怖い。

 全員が俺に注目したな。じゃあ、いっちょ発動しますか。


「えっ、えっ、青くて透明の壁が」


「ど、どうなっているの。み、みんな大丈夫!?」


 ミケネとスコは押す係ではなく少し離れたところにいたので、結界の外にいるな。押していた二人は自分たちが結界に囲まれていることに気づき、慌てて外に出ようとして結界で頭を打っている。


「で、出られないよっ! ミケネ、スコ、助けてぇぇ」


「ペルうろたえるな。落ち着くんだ」


 閉じ込められることになったペルが慌てふためき取り乱しているが、ショートは冷静に落ち着かせようとしている。


「ヴァアアアア!」


 ミケネとスコが大口を開けて威嚇すると、結界に向かって鋭い爪を振り下ろした。

 だが、その爪は結界を貫くことができずに、簡単に弾かれてしまう。


「これは、この箱がやっているのかっ、ならば」


 今度はショートが大口を開けて俺の体に噛みつこうとしてきた。ショートが結界に入ることを許可しない!

 噛みつこうとした体勢のまま外に弾き出されたショートは、地面を滑りながら四つん這いでこっちを睨んでいる。

 いつもとは全く違う好戦的な対応をしてきたな。ただの大食い癒し系かと思っていたが、いざとなれば中々凶暴な種族のようだ。


「ヴアアアアアッ! どういうつもりだ、魔法道具! 仲間を離せ!」


 ミケネが凶悪な形相で威嚇している。悪魔の名は伊達じゃないな。

 ちょっと予想外な展開になってしまったが、誤解を解く為にもペルも解放しておこう。


「ボ、ボクだけ出られ……あ、出られた」


「無事かペル。何だ一体。この青いのは……それにこれは魔法道具がやったのか?」


「いらっしゃいませ」


 いつもの調子で「はい」の代わりに声を出した。


「舐めているのかっ! 何がいらっしゃいませだっ」


 ショートが怒りのあまり、牙を剥き出しにして唸り声を上げている。

 そう取られたか。この状況でいらっしゃいませ、何て言われたら馬鹿にしていると思われても、しょうがないのか。駄目だな、ラッミスたちを相手にしている時のやり取りが、体に染みついている。

 彼らとコミュニケーションを取るには、新たな手段を模索するしかない。

 となると〈念話〉を選ばなかったことが悔やまれるが、過去を後悔しても意味はないよな。だったら、今やれる最善の方法を試すだけだ。


 以前から迷っていた機能〈電光掲示板〉を取得した。これは結構ポイントを消費するのでずっと躊躇っていた機能の一つだ。理想としては、ここに文字を表示して相手との対話を可能にすることなのだが。物は試しだ、稼働させてみよう。

 商品がずらっと並んでいる上部に黒く長い掲示板が設置される。そして、そこに文字が流れるように意識してみる。


『いらっしゃいませ こうかをとうにゅうしてください ありがとうございました またのごりようをおまちしています』


 やっぱり、定型文だけかっ! これが躊躇っていた最大の理由だ。音声の再生も決まった文章のみだったので嫌な予感がしていた。何と言うか、予想通り過ぎて泣きそうだ。


「え、何あれ。変な絵というか線? が流れている」


「もしかして、文字なのか。見たこともないけど……」


 あ、うん。おまけに日本語表示なんだ。いや、わかっていたよ。缶や自動販売機の文字が通じてない時点でこのオチ読めていたけどな!

 一縷の望みに賭けたのだが、これじゃあ、相手にとって意味不明な文字を垂れ流すだけの装置か。ポイント返してくれませんかね。

 ああ、くそっ、困った。完全に手詰まりだ。どうやって、彼らに俺が無害で結界が守る力だというのをわからせればいい。


「魔法道具の箱はボクたちを拒絶したということだよな」


「ざんねん」


「ほら、やっぱりそうだ」


 いや、違うんだってミケネ。また「いいえ」のつもりで口にしてしまった。

 ほんっともどかしい。ラッミスとヒュールミが恋しいよ。


「手も出せないし、この箱置いて行くしかないか」


「でも、ミケネ。あれを持って帰らないと、お金がなくて飢え死にしちゃうよ」


「ペルの言う通りだ。どうにか持って帰る方法を模索しないか」


「うんうん、そうだよね。ほら、追い出されただけで怪我したわけじゃないし」


 お、まだ望みはあるのか。じゃあ、まずは結界を解除しよう。そして、更に食べ物を提供しようじゃないか。さあ、好物のから揚げだよー。


「はうぅ、あの肉の匂いがぁぁ」


「ペル簡単に誘惑されるなっ」


「そう言うショートだって口から涎垂れているわよ」


「罠かもしれない。まずはボクが毒味をっ」


 悩んでいたのが馬鹿らしくなるぐらい、あっさりと陥落したぞ。から揚げに飛び付いて、また大量購入を始めている。胃袋を掴んだ俺の勝ちということなのだろうか。


「はふっはふっ。こんなに美味しい料理を作れる箱が悪い奴の訳がないよ」


「うん、そうね。こんなに美味しいし」


「まあ、美味しいからいいかな」


「ああ、美味いからな」


 それでいいのかお前たち。もうちょっと、こう、躊躇って葛藤をしたりしないのか。

 さっきまでの警戒ムードは何処かに吹き飛び、から揚げを大量に口の中へ放り込み、満足そうに咀嚼している。

 彼らの幸せそうな顔を見ていたら、どうでもよくなるな。取り敢えず、行動を共にしてくれるようだし、曲がりなりにも結界の存在は伝わった。それだけで、良しとしよう。


「ぶひいいいいぃぃぃ!」


 そんな和やかな空気を吹き飛ばす、豊豚魔の鳴き声が響き渡り、続いてどたどたと地面を叩く音が流れてきた。音の源は少し先にある横道の入り口か。


「今のは豊豚魔! みんな逃げる準備をして!」


 全員が一斉に立ち上がり前屈みになった。逃げる準備は万端か。あ、これ、また置いて行かれるパターンだ。暴食の悪魔団の面々が生き延びてくれるなら、また時間稼ぎ担当するか。

 そんな気持ちで横道に繋がる箇所を眺めていると、豊豚魔が六体飛び出してきた。そして、こっちに向かって走ってきている。体中から汗を流し、武器も手放した状態で全力疾走をして。

 え、何で、今にも泣きだしそうな悲壮な表情なんだ。あれじゃまるで、誰かに追われているみたいじゃ――。


 そんな俺の考えを肯定する様に、豊豚魔の背後の大気が揺らぎ、巨大な骨の手が現れ壁を掴んだ。それはただ大きいだけではない、その手は炎に覆われ、凄まじい熱量に石の壁が溶解して、マグマのように変貌している。

 そして、更にぬっと豊豚魔一体分はありそうな巨大な頭蓋骨が抜き出てきた。腕と同様に顔は炎を纏い目には黒い炎が宿っていた。


「あれは、炎巨骨魔っ! 嘘だろっ、みんな逃げろっ!」

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