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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
二章

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新たな出会い

 はぁぁ、いい天気だねえ。

 中天から降り注ぐ日光を浴びながら、俺はまったりしている。

 あれから三日が過ぎたが人っ子一人訪れません。だが、俺は微塵も焦ってはいない。太陽の光を浴びているだけで幸せなのだから。

 今までならじわじわとポイントが削られていくことに、軽い恐怖を覚えていたかもしれない。だが、今の俺はポイントが増え続けている。

 その理由は頭の上のこれだ。傾斜のある屋根のように設置されているソーラーパネルを新機能として追加したのだ。これで晴れの日は何もしないでポイントが溜まっていく。


 ほら、ランクアップ選んで正解だった! って誰もいないのに何で言い訳しているんだ。

 このソーラーパネルは本来、節電と災害時用対策の一環らしい。俺のはかなり高性能らしく、天気が良ければ一時間で10ポイントは溜まっていく。日中にポイントを稼いでおけば余裕で生きていける。

 この三日、自分の能力を再確認する為に、まずは機種変化の二時間縛りを調べることに費やした。わかったことは、生まれ変わった時の姿であれば何時間でも維持できる。わかりきっていたことだが、それに加え外観は殆どそのままで、内部の機能を変化するだけなら時間制限はない。

 つまり、半分だけカップ麺の機能を入れても時間制限には引っかからないようだ。


 何事もなければ、このまま穏やかに時が過ぎていくだけなのだが。う、うーん、心配事が一つ解決すると、今度は欲が出てくるよな。

 正直暇だ。自動販売機の体に慣れすぎたせいなのかも知れないが、商品を誰かに売らないと落ち着かないのだ。

 迷路階層は本当に人気が無いようだ。もう少し詳しくヒュールミから話を聞きたかったけど、今更だよな。俺から聞きだす方法もないし。

 ラッミスは気を失っていたけど大丈夫なのだろうか。常連のお婆さんがいるから傷は治してくれるだろうけど、後遺症とか残ってないだろうな。


 はぁ、最近はずっと騒がしい日々を過ごしてきたので、一日中誰とも会わない日々は少し寂しい。前後は巨大な壁があり空は見えるが、それだけだ。

 することもないので、いつものように辺りを見回していると、通路の遥か向こうに微かに動く物体を捉えた。

 空中から録画しておいた防犯カメラの映像からして、俺から向かって左側は確か迷路の入り口だったよな。ということは、期待できるかもしれない。上の階層から助けに来てくれるのがベストだけど、他のハンターたちでも構わない。

 素行の悪い連中でなければいいけど。


 何かが徐々に大きくなり、その姿が何とか見て取れるようになった。

 あれって二足歩行の――小型の黒い熊か……いや、猫、たぬきか? 判別の難しい顔をしている。

 数は四。お揃いの緑が鮮やかな革のジャケットを着込んでいるな。ズボンは履いてないというのに靴はあるのか。ジャケットの前を止めていないので胸元が丸見えなのだが、白い三日月模様がある。小型のツキノワグマか?

 熊会長と同じ種族かもしれない。にしてはかなり小さいけど。

 顔も体毛も真っ黒なのだが、鼻も黒くて大きく耳が立っていて内側がピンクだ。髭もあるのだが猫みたいだな。ということは熊じゃないのか。まあ、何にせよ結構愛らしい顔をしている。自動販売機の次に猫が好きな俺としては、うずうずしてしまう。


 な、なんだ、あの可愛い団体は。何か商品を売って購入している間に、もっとじっくり観察したいが、相手はそれどころじゃないようだ。背中にバックパックを背負った状態で懸命に駆けてきている。

 その背後からは弛んだ体の上に豚の顔が乗っかった魔物が三体、手にした棍棒を振り上げたまま追いかけてきている。前を走る熊猫……ってパンダのことだったような、まあいいか。


 追っ手はそいつらの三倍以上はある体躯で足は決して速くはないのだが、熊猫たちは一匹が足を怪我していて、二匹が肩を貸しながら走っているせいで距離が一向に広がらないでいる。

 豚の顔が乗っかった魔物は確か、豊豚魔と呼ばれていた筈だ。清流の湖階層の人たちが太っている人を揶揄して口にしていたのを聞いたことがある。

 まだ距離があるが、俺の前まで何とか逃げ切ってくれ。そうしたら、俺が何とかしてみせるから。


「ヴアアアアアアッ!」


「あっち行ってよぉぉ」


「わたしを置いていって」


「置いていけるわけがないだろっ!」


 見た目に反してしゃがれた鳴き声と大口を開いたときの顔が怖えっ! 口が大きく裂け鋭い牙が覗いている。

 怪我をしているのが猫のスコティッシュフォールドみたいに耳が垂れている個体か。声からしてメスみたいだな。それを支えているのが、黒褐色の他と比べて少し背が高い猫熊。

 威嚇しながら走っているのが細身で。最後尾を走っているのはふっくらとしている。


 同じように見えて結構違うもんだな。まあ、そこは置いておいて、あの調子だと何とか俺の前を通り抜けられそうだ。背後の豊豚魔との距離は十メートル程度か。

 問題は俺がどうやって熊猫たちを助けるかだよな。暇に飽かして、自動販売機でもできる攻撃方法を考えていた成果を見せる時が来たか。

 取り出し口に蓋のないタイプの自動販売機に変化し、瓶ジュースを取り出し口に幾つか落とす。自動販売機の色を周りの壁と同色に変化させて、壁と同化しておく。

 パッと見は壁の一部に見えるだろう。この状況でじっくりと見る余裕もないだろうからな。


 熊猫たちが駆け抜け、少し遅れて豊豚魔が俺の前に差し掛かったところで――瓶ジューススプラッシュ!

 〈結界〉で瓶ジュースを結界の外に押し出す。それなりに速度が出た瓶ジュースが三本だけ豚人間の二体に命中した。ダメージは全く通っていないようだが、外れた瓶ジュースも辺りに散らばったことで、相手が足を止め俺に注目している。

 じゃあ、擬態を解いて「あたりがでたらもういっぽん」を連呼する。


「なんだぶひぃ」


「迷宮のわなぶふぅ」


 こいつらは語尾にぶひとかついちゃうんだ、わかり易いな。この魔物は会話をする程度の知能はあるって事か。熊会長や熊猫たちもそうだし、哺乳類系の二足歩行をする生物は知能が高いのかもしれない。


「こんなところに罠があったぶひぃか?」


 豊豚魔たちが俺に注目している間に熊猫たちは、かなり距離を稼いでいる。更にここで罠を発動だ。豚って確か雑食だったよな。何でも食べると聞いたことがある。

 最近、活躍したばかりの野菜販売自動販売機に変わって、野菜を展示しているガラスの蓋を解放して、野菜を全て〈結界〉で弾き出す。


「ぶひぃ、飯がでてきたぶふ!」


「飯だ飯だぶひいぃ」


 疑いもなく拾って、生のままバリバリと食っているな。かなり飢えていたようだ。

 俺に背を向けて呑気に貪り食っている。熊猫たちに興味を失ったようで、無我夢中で散らばった野菜を拾っては口に放り込んでいく。

 その間に子供用のテーマパークに置いてある背の低い小型の自動販売機に変化をしておき、配色も壁と同じに戻しておいた。

 暫く観察していると、全てを食べ尽して満足したらしく、腹を叩きながらのっそりと豊豚魔たちが立ち上がる。


「満腹だぶひぃ」


「おい、野菜を出した箱がないぶひよ」


 辺りをキョロキョロと見回しているが、目の前の壁と同じ色になった俺を見ても、気にも留めていない。

 首を傾げていたが、腹が膨れて注意力も散漫になっているようで、そのまま道を戻っていった。

 何とか熊猫たちを逃がしてやれたが、彼らも離れて行ってしまった。くそっ、もっと愛でたかった。救えたことには満足しているから、まあ良しとしよう。


 しかし、あの熊猫たち可愛かったな。子供ぐらいの大きさだったのも良かった。でも、あの熊猫たちはここで何をしていたのだろうか。迷宮で暮らす魔物にしては殺意というか、恐怖を感じなかった。

 あの豊豚魔とも敵対していたようだし。熊会長の様に人間と共に暮らす友好的な種族っぽいな。言葉も理解できたから、いいお客さんになれたかもしれないのに。非常に残念だ。


 ただ、ここは異世界だというのに、獣人も魔物も何かしら地球の生物を元にしたような姿をしているが、あの熊猫は何なのだろうか。何処かで、若い頃どこかで見たことがあるような気がするのだが……名前何だったか。

 凄くマニアックな名前だったような。中学ぐらいの時にその名前に惹かれたような……。


「ほんとに戻るの……」


「奥に進んだら魔物が強くなるんだよ……」


「罠がまだいきているかもしれないわ……」


 おおっ、さっきの熊猫たちの声が聞こえる。

 ずっと豊豚魔が消えて行った方向を注意していたから、気づいていなかったが、こっちに近づいてきていたのか。

 視線を移すと周囲を警戒しながら四匹の熊猫が歩いてきていた。

 さて、どうしようか。このまま壁の振りをしていたら気づかれない可能性があるから、まずは配色を普通の自動販売機に戻しておこう。大きさは子供用のままでいいか。熊猫たちの身長だと、この方が使いやすいだろう。

 ああ、手足が短めで和むなぁ。


「あれ何?」


「なんだろう」


「さっき豊豚魔が引っ掛かっていた罠じゃないかな」


 怪我をしている垂れ耳は距離を置いた状態でじっとこっちを見ている。ふくよかな熊猫も後方で控えているようだ。残りの二匹は興味深々といった感じで、忍び足で近づいてくると前足というか手をひゅっと伸ばして、俺の体を突いている。

 まったく痛くないのは、相手も様子を窺っているだけなのだろう。やっぱり、猫っぽい外見だけあって好奇心旺盛なのか。俺を取り囲んで鼻をひくひくさせて嗅いでくる。

 あ、今凄く幸せだ。このまま、熊猫に囲まれる至福の時間を楽しんでいたいが、そういう訳にもいかない。非常に残念だが。


「いらっしゃいませ」


「ヴオオオオオオッ!?」


 一斉に熊猫たちが後方に跳んで、距離を取った。だから、鳴き声と顔が怖いって。悪いことをしたな、驚かせてしまった。


「ヴアアアアアアッ!」


 黒褐色は気が強いようで、大口を開けて威嚇している。

 残りの二匹はじりじりと後退っているな。このままだと逃げられてしまう。ここはフォルムチェンジをして、から揚げを温めて取り出し口に落とすぞ。素早さが上がったからなのか、あっという間に温め終わった。


「光って伸びたよ!」


「み、みんな、気を付けろっ」


「逃げた方がよくない? ねえ、逃げた方がよくない?」


 後方の三匹が更に慌てている。

 細身はリーダーなのだろうか、仲間に注意を促している。ぽっちゃりしているのは臆病らしく一番後方まで下がっている。

 くそっ、怯えた素振りも可愛いじゃないか。


「えっ、この匂い肉か」


 黒褐色が匂いに気づいて鼻がぴくぴくしている。

 猫と言えば魚というイメージがあるが、実は魚よりも鳥肉の方が好きだ。家で飼っていた猫なんて、何度も生の鳥肉や、から揚げを強奪した前科がある。まあ、あれが熊だったとしても肉なら好物だろう。

 罠でないかと警戒はしているようだが、好奇心と食欲に動きを封じられているようだ。


「いらっしゃいませ こうかをとうにゅうしてください」


「ヴアアアアッ……ア? これって物を売っている箱なのかしら」


 お、垂れ耳が気づいてくれたか。


「スコ、騙されてはいけない。物で釣るタイプの罠かもしれない」


 細身は慎重派だな。もこもこしているのなんて匂いにつられてふらふらと、俺に近づいてきているというのに。


「ペル、近づいちゃダメだ。ショートも一定の距離を取るんだ」


「わかった、ミケネ」


 お、登場した熊猫の名前が全て判明したぞ。細身のリーダー格がミケネ、耳が垂れているメスっぽいのがスコ。ぽっちゃりしているのがペルで、黒褐色の気が強そうなのがショートか。

 どうにか熊猫たちに商品を買ってもらえるように誘導しないとな。


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[良い点] 名前の発覚とともに見た目の解像度が爆あがった
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