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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
二章

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新たな力

 100万ポイントで得られる加護から必要な能力と、そうでない能力をまず仕分けする。

 剣技や格闘技といった手足が無ければ使えない能力は論外。

 火属性魔法、水属性魔法といった魔法関連は魔力が無いので除外。

 残った物で自動販売機として便利そうな能力を吟味していこう。まずはこれだ。


《念動力》つまりテレキネシスとかいう、触れずに物を動かすことができる超能力の事だよな。説明を見ておくか。


《自分の周囲半径一メートル以内の物体を操ることが可能になる。ただし、重量に限度があり商品のみとなる》


 半径一メートルはまあいいとしよう。それだけでも充分ありがたいから。だが、何故に商品限定なんだ。でも、この能力があれば、商品の使い方を自らレクチャーすることも可能になる。候補の一つだな。じゃあ、次を見よう。


《念話》

《自分の周囲半径一メートル以内の相手に心の声を届けられる》


 これが実は一番狙っていた加護だ。これさえあればラッミスと会話することが可能となる。効果範囲が狭いが、それでも意思の疎通が可能になるのは大きい。


《瞬間移動》

《自分の周囲半径一メートル以内に瞬間移動することが可能となる》


 俗に言うテレポーテーションだ。しかし、何で効果範囲は一メートル縛りなのだろうか。一メートルしか移動できないとはいえ、自動販売機が移動する方法を手に入れられる。

 この三つが有力候補となる。ただし、それが自分の思い描いた能力であるならばの話だ。結界と同じく、発動にはポイントを消費する可能性がある。

 その場合、燃費も考慮しなければならない。ここにラッミスがいるなら迷わず念話を選んでいた。だが、俺はこの迷宮に一人――一台ボッチだ。この現状で選ぶのは躊躇する。


 瞬間移動もこの広大な迷宮で一メートル移動できたところで、焼け石に水のような気がしてならない。連続で発動可能なら、それこそ空中移動も可能になりそうだが裏があるのではないかと疑ってしまう。

 念動力は自動販売機としての能力を一番いかせられる加護だよな。商品を操れるなら、できることが大幅に増える。これが妥当っぽいが焦る必要はない。100万ポイントを無駄にはできない。


 そういや、ポイントがそれだけあるなら機能でも何か選べないか。10万ポイントを超える機能は取ることが暫くないだろうと思って、殆ど見ていなかったからな。

 まあ加護で決まりだとは思うけど、他にも目を引く機能が――え、こんなのあったか?


《自動販売機ランクアップ》


 なんだこの、自動販売機マニアの魂を揺さぶる文言は。いや、待て。そんなものより加護を選んだ方が効率的に決まっている。ま、まあ、一応、説明だけでも見ておくか。


《自動販売機とは硬貨や紙幣などの対価を支払うことにより、店員を介さず自動的に商品やサービスを受けることをできるようにした機器。この定義に当てはまるものが追加で解放され、更に様々なオプションパーツが取りつけられるようになる》


 なんだと……つまり、今までは選ぶことが出来なかった機能や自動販売機本体の種類が増えるということか。今までは自動販売機と呼ばれている物しか選ぶことが出来なかった。

 自動販売機という呼称ではないが、その定義に当てはまりさえすれば、その類いの機能を選べるようになるということか。

 そんなの選ぶしかな――待て待て。落ち着け俺。まずは深呼吸をして冷静に冷静に。


「いらっしゃいませ いらっしゃいませ」


 よっし、落ち着いた。まず、この異世界で、尚且つ迷路の階層で生き残るには加護を選ぶのが、正しい回答だろう。そうだ、そんなことはわかりきっている。

 だが、だがしかし、俺は自動販売機だ。好きが高じてこの体を得たような物だ。未だに転生した理由は不明だけど。自動販売機として生まれ変わった一人のマニアだということを忘れてはいけない。

 俺は超能力を操れる自動販売機になりたいのか、それとも多機能な優れた自動販売機になりたいのか。

 迷う必要なんて初めからなかったんだ。そう、俺が選ぶのは――自動販売機ランクアップだっ!


《自動販売機のランクが2に上がりました》


 その言葉が脳裏に浮かんだ瞬間、全身に力漲る……わけでもなく、変化は全く感じられない。ランク2ということは更に上のランクがあるのだろうか。ちょっと楽しみになってきた。

 体中から熱が抜けていき、冷静になって思ったことがある。もしかして、やっちまった?

 い、いや、確かに強くなることも便利になることは大事だ。でも、俺は自動販売機。そこを忘れたら本末転倒だろ。今までも不便ではあったが何とかやってこられたからな。

 うんうん。どんな選択でも妥協して選んで失敗するよりも、自分で選択した未来なら失敗しても後悔は少ない。

 反省終わり! 早速、ランク2になって使えるようになった機能の一つを手に入れることにした。


 それは白くすらっと伸びた身体にコイン投入口があるのは当たり前だが、側面に蛇腹のホースが取りつけられ先端部分はプラスチックの素材で出来ている。

 そして、そこには銃の引き金のようなものがあり、それを引くとギュウウウウと異音が鳴り空気が吸い込まれていく。更に引き金の近くにスイッチがあって、それを押すと強烈な風を噴出することもできる優れものだ。

 ちゃんと起動するようだな――セルフ洗車場に置かれているコイン式室内掃除機は。


 説明した通りなのだが、このコイン式掃除機の中でも俺の好きなこの機種は、吸うだけじゃなく風を噴き出すことも可能で、車の椅子の下に潜り込んでいる砂を吹き飛ばすことも可能となっている。

 問題はここからだ。自在に吸引噴出を俺の意思で操作可能なのは確かめた。ならば、ここからすべきことは〈結界〉でホースの先端を外に弾き出す。

 結界の外に弾き出されたホースの先が地面を転がり停止した。この掃除機のホースは軽く二メートル以上あるので、弾き出すのは可能。

 そしてここから、風を噴出、ストップ! っともう少し、風を強くして……っと今度は強すぎたか。もう少し、短く風を出して、位置を微調整して。


 と十分以上悪戦苦闘した結果、何とかホースの先端を理想的な場所に運ぶことに成功した。そう、八本足鰐のコインの近くまで。

 誰かにとられる前に、自分で取り込んだ方がマシだ。という結論に達しミッションは決行された。

 ホースの位置よし! 障害物もなし! 吸引開始!

 吸引口から音が響き地面の砂と共に空気をも一気に吸い込んでいく。本命であるコインも驚きの吸引力には逆らえないようで、にじり寄ってくると吸引口の中に消えた。


 ミッションコンプリート。

 ホースの中をコインが転がっているのがわかる。そういや、このあとコインってどうなるのだろうか。この掃除機は確か後ろの方に排出口があって、そこにゴミ箱が設置されていて、その中にゴミが落ちる仕組みだった筈だが。


《八足鰐のコインが所持品に追加されました》


 はい? え、所持品って何。そんな項目なかったよな。

 疑問に思ったら即実行。能力を確かめてみるか。


《自動販売機 ハッコン ランク2

 耐久力 200/200

 頑丈  50

 筋力   0

 素早さ 20

 器用さ  0

 魔力   0

 PT  18595


〈機能〉保冷 保温 全方位視界確保 お湯出し(カップ麺対応モード) 2リットル対応 棒状キャンディー販売機 塗装変化 箱型商品対応 自動販売機用防犯カメラ 酸素自動販売機 雑誌販売機 ガス自動販売機 ダンボール自動販売機 コイン式掃除機

〈加護〉結界 

〈所持品〉八足鰐のコイン》


 お、所持品の項目が増えている。ポイントがごっそり減ったなとか、ランク2が表示されているとか気になることは他にもあるが、まずは所持品のチェックだよな。


《八足鰐のコイン。階層主を倒した証》


 それだけかいっ! え、他に説明は無いのか。これってコレクターアイテムなのか。それとも何か重要な意味のあるコインなのか。それはわからないが、持っていて損はないだろう。

 ……このコイン取り出せるのだろうか。出せたとしても、もう一度吸い込むのに時間がかかるので今はやらないが。あの階層主って八足鰐って名前なのか。

 ポイントが2万を切ったので、あまり無茶ができなくなってきた。コイン式掃除機って実は2000ポイントも消費するのか。ランク2になってから選べるようになった機能は割高なものが多い、気を付けないと。


 やるべきことをやったので、かなり落ち着いてきた。まあ、そうなると現状がリアルに迫ってくるわけで。一応階層の一つでわかり易い場所だから、ここを攻略に来ているハンターたちと遭遇する可能性は高いと睨んでいる。

 そこで問題になるのが、ラッミスや清流の湖階層の住民の様に良識がある人かどうかということだ。それこそ盗賊団のような輩が来て、壊すか持ち去ろうとしても不思議ではない。客になる保証は何処にもないのだ。


 最悪な展開も考慮しておかないと。まずは〈結界〉を維持できるだけのポイントの確保。それに何かポイントを他にも得る方法があればいいんだけど。ポイントを維持できれば機能が停止する心配もない。

 となると魔物の討伐……は無理だな。八足鰐を倒せたのはただの幸運だ。それにもう一度あれをやれと言われても、正直やりたくないです、はい。

 何事も起こらず機能維持だけでいいなら、一年は余裕で耐えられるのだが、この異世界は何が起こるかわからない。というのに、100万ポイントを何故ランクアップに注ぎ込んだとか、考えたら負けだ。


《自動販売機変形時間が限界の二時間を越えます。直ちに、元の自動販売機に戻ってください。繰り返します。自動販売機変形時間が限界の二時間を越えます。直ちに――》


 なんだ!? 唐突に頭に警報が鳴り響いて、こんな文字が表示されたぞ。変形時間の限界? えっ、か、考えるのは後にして元のってことは、いつもの自動販売機に戻ればいいんだよな。

 即行で、いつもの自動販売機に戻ると、警報も忠告の文字も消えた。これって初めての経験だが、元の自動販売機以外の形には一日最高でも二時間以上は無理って事なのか。

 今まで何度もフォルムを変えてきたが、そういや、別の形だと妙な違和感があって、いつもの自動販売機に戻っていた。二時間以上、別の機種でいたことがなかったのか……気づかなかったな。


 一日二時間が限界なのか。大した理由もなく機種を変更するのは止めた方がいいなこれは。

 こういうことも含めて、最近はラッミスやヒュールミに頼り切ってばかりだった。自動販売機は店員がいなくても何でも買える便利なところが売りだった筈だ。いい機会だ。一人で何処までやれるか試してみるか。


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