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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
二章

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落下

 地が割れ崩壊した。

 土砂と共に俺は急降下中だ。見上げると土の天井が見え、そこにぽっかりと穴が開いている。その穴はそんなに大きなものじゃないので俺は落ちたが、八本足鰐の骨は穴の上に被さっているだけで、落下を免れたようだ。

 で、下に目を向けると雲があった。結界を張っているので風圧は感じないが……凄まじい速度で墜ちているのは理解できる!

 ええええっ、地面抜けたら空ってファンタジーだな!

 うおおおおっ、地面が見えない程の高さってええええっ、あああっ、お、お、落ち着け!

 先ずは現状をどうにかしないと。自分の状況を把握しなくては!


 場所は、雲の中!

 状況は、落下中!

 結果は、激突粉砕!


 これは終わった……と、あっさり諦めてたまるかっ。地面に激突するまでにはまだ時間がある。頭を働かせろ。この絶体絶命の状況を切り抜ける方法を。

 俺に出来ることは機能変化のみ。自動販売機の能力をフル活用すれば何とか、何とかなるのか?

 落下しているということは落下速度を下げればいい。となると、ここで相応しい自動販売機は。あれかっ!

 俺は機能の中から〈風船自動販売機〉を選び出し、身体を変化させた。

 以前はよくスーパーの屋上や遊園地に置かれていたのだが、最近は稀に古い感じのゲームセンター等に置かれているぐらいらしい。

 黄色を基調とした体にはガラスの窓があり、その先に膨らます前の風船がずらっとぶら下がっている。購入者はその中から好きな色を選び、硬貨を投入すると自動で風船を膨らませてくれる仕様になっている。


 って、説明している場合じゃねえ! 色なんてどれでもいいから、風船を大量生産しなければ。

 風船がセットされ中にガスが流れ込んでいく。徐々に大きくなっていく赤い風船――ってこれじゃ時間が足りなすぎる。もっと早く作れないのか。スピードを上げる方法……ステータスの素早さ上げたら、膨らませる速度アップとかしないか!?

 駄目で元々、時間もない、やってみるか。


《10000ポイントを消費して素早さを10増やしますか》


 おうさ、頼む!

 何かが体に入り込むような感覚があった。風船の膨らます速度は……おっ、目に見えて上がっている。さっきの倍以上は早くなっているぞ。なら更に上げれば。


《20000ポイントを消費して素早さを10増やしますか》


 値上げ率酷くありませんかね。くそっ、ポイントの野郎、足元を見やがって。背に腹は代えられない、もう10アップだ。

 まるで早送りを見ているかのように二秒に一個の速さで風船が出来上がっていく。完成した風船は結界内に留まり、結界の内側が風船で詰まってきている。

 下の光景は雲を突き抜け地面が見えてきているが……何だあれ。入り組んだ巨大な迷路? そういや、ラッミスが階層について何か話していたな。確か、清流の湖階層の下は巨大な迷路になっているとかどうとか。

 って、今、過去を懐かしんでいる場合じゃない。迷宮は徐々に大きくハッキリとその全貌を見せつけている。まあ、落下速度は殆ど変わっていないからな。


 風船が数十個あったぐらいで数百キロある自動販売機を支えられるわけがない。昔バラエティー番組で大人一人浮かすのに、二千個以上の風船を使っていた記憶がある。だから、風船でこの自動販売機をどうにかできるなんて初めから思ってもいない。

 迷宮の壁が分厚く、その高さと規模が異様であることが理解できるぐらいに地面が迫ってきた。本格的に時間がないな。ならばっ!

 ここで俺が選んだのは――ダンボール自動販売機へのチェンジだ!


 説明しよう! ダンボール自動販売機とは小学生の間で流行った、ダンボール製の手作り自動販売機の事である! 実際にコイン投入口と商品もセットしてあり、スイッチを押すと商品が落ちてくるこだわりようである!

 ちなみに自動販売機マニアとして、おうちで作れるダンボール自動販売機セットを購入して制作済みだ!

 そう、俺の体は今ダンボール製に変化している。つまり、一気に軽くなりこの数の風船で支えられるぐらいの重さへと変化したのだ。

 はああぁぁ、間に合った。結界内部を埋め尽くす風船のおかげで落下速度が激減して、俺はゆっくりと下降している。


 機能の欄にダンボール自動販売機を見つけた時は、一生取ることは無いだろうと思っていたのだが、まさか命を救ってくれるほどの活躍を見せてくれるとは。ほんと、わからないものだな。

 ようやく心に余裕が持てたので、眼下の景色を楽しんでみるか。

 巨大な円形の迷路は壁が灰色でおそらく材質は石っぽい。直線と曲線で通路が描かれていて、かなり入り組んでいる。全体図が見えている今の内に防犯カメラで録画しておこう。

 高度からなので正確な大きさは不明だが、細めの通路でも俺を何台も横に並べて置くことが可能なぐらい道幅に余裕がありそうだ。

 広場っぽいエリアや池のようなものもあるのか。こんなもの地球で作ったら幾ら費用がかかるのだろう。


 さっきまでいたのが清流の湖階層で、確かその下の階層は迷路階層だったか。正式名称があった気もするが、ヒュールミが迷路階層とばかり口にしていたので、そっちの名前でしか覚えていない。

 この階層はかなり厄介で難易度も高く、ハンターたちに毛嫌いされているという話だった。自然発生する宝箱が存在していて、一攫千金が可能らしいが敵も強く罠も多い。おまけに道も迷路なので思った方向に進めず、餓死するハンターも少なくないそうだ。

 上から見下ろしているので、入り組んだ迷路の性質の悪さが正確に伝わってくる。


 っと、もう少しで地上に降りられそうだ。これって通路の壁の上に着地したら誰も、買いにこられないよな。って、おお、壁の上って鋭角になっているので、登ることが無理な仕様になっているのか。

 このままだと、壁近くの大きめな通路に着地しそうだな。うーん、正直何が正解かわからないので、このまま自然な感じで任せよう。このままだと迷宮の中心近くに降りられそうだ。

 通路の壁は思ったより高いぞ。地上から十メートル以上はありそうだ。厚さも相当なもので、五階建ての団地ぐらいある壁が迷宮を作り出しているのか。


 壁際をゆらゆらと揺れながら降りていき、何とか綺麗に着地できた。いつもの自動販売機に戻っておこう。

 床も壁も石造りに見えるが継ぎ目が一切ない。壁に灯りが存在しないので、日が暮れたら一気に暗くなりそうだ。

 通路の幅が五十メートルはありそうで、左右に長く通路が伸びている。上から見ていた感じだと、迷宮のど真ん中に走る大通りのような通路だったので、ここならハンターと出会う可能性が高いかもしれない。

 ラッミスたちが迎えに来てくれた時にもわかり易い場所だ。暫くはここで暮らすことになりそうだ。


 普通は自動販売機を助け出そうなんて物好きは存在しないだろうが、ラッミスなら必ず来る。普通なら階層割れから落ちたのだから、人であろうが自動販売機であろうが絶望的なのは誰だってわかるだろう。

 それでも、ラッミスはやってくると確信めいたものを感じていた。

 熊会長にも借しがあり、愚者の奇行団も俺を狙っているなら積極的に捜索に参加してくると思われる。何なら、団に入ることを条件にラッミスに協力を申し出ているかもしれないな。

 彼女が無茶をしようとしたらヒュールミが止めてくれる筈だ。助けに来て欲しいと思う反面、無理をして欲しくないという思いもある。矛盾した考えだとはわかっているのだが、これが本音だ。


 まずは、ここで生き延びることを最優先に考えなければならない。他のハンターが通りかかって、助けてくれる可能性もあるしな。

 よっし、周囲の観察からだ。ざっと見た程度だから、じっくりと調べ情報を得ることは生き延びる為に必須。

 今いる場所は大きな通りの壁際。左右に道が伸びているが、遠すぎて先が見えない。真っ直ぐ伸びてはいるが、途中で道沿いに脇道が幾つもあるようだ。

 今のところ魔物を見かけてはいない。上空から見ていた感じではかなり大型の魔物も存在していたが、この大通りには何もいなかったと思う。ここは迷路の安全地帯なのかもしれないな。


 でだ、一番気になっているのは俺の前に落ちている、八本足鰐の絵が描かれているコインだ。結界内に入ったまま、ここまで落ちてきたので、コインも一緒に連れてきてしまった。

 目の前に価値がありそうなコインがあるというのに手が出せないジレンマ。これで、見知らぬ人に拾って持っていかれたら、怒りのあまり商品が全て温かいを通り越して熱いになるぞ。

 どうにかして手に入れたいが、自動販売機ではどうにもならない。はぁ、取りあえず、ここで生き延びる為に能力とポイントの再確認をしておこう。八本足鰐との戦闘で盗賊から巻き上げた金を大量に消費したからな。


《自動販売機 ハッコン

 耐久力 200/200

 頑丈  50

 筋力   0

 素早さ 20

 器用さ  0

 魔力   0

 PT 1020698


〈機能〉保冷 保温 全方位視界確保 お湯出し カップ麺対応 2リットル対応 塗装変化 箱型商品対応 自動販売機用防犯カメラ 棒状キャンディー販売機 酸素自動販売機 雑誌販売機 ガス自動販売機 ダンボール自動販売機

〈加護〉結界 》


 耐久力と頑丈がこれだけあれば、そう簡単に壊されることは無いだろう。素早さは商品を出す時や温める速度が増すのだと思う。これは後で実験しておかないとな。

 他に変わったところは……んー、何だバグか? ポイントの表示がちょっとおかしいような。一、十、百、千、万、十万、百万……ひゃ、百万っ!?

 え、あ、う、ええええっ! 何でポイントが100万もあるんだ。え、犯罪行為に身を染めた覚えもないぞ。

 どういうことだ。ポイントは硬貨と引き換えに得られるものだよな。確か説明にもそうなっていた筈だし。あの時はお金でポイントを得られるって表示されていた。もう一度確認しておこうか。


《100円と1ポイントを交換することも可能》


 そうだよな。ポイントはお金と交換できるって書いてある。でも――他にポイントを得られる方法が無いとも記載されていない。

 もしかして、ポイントって本来は敵を倒して得るものなんじゃないのか。ゲームなら敵を倒して経験値やスキルポイントを得るのが基本。もしかして、お金とポイントを交換する方が異質で、元々は敵を倒して手に入れるものなのかポイントって。

 だとしたら、この大量のポイントは階層主である八本足鰐を倒したことによるものだとしたら納得できる。

 そうか、お金を消費しなくてもポイントを得る方法があるのか。勉強にはなったが、再び魔物を倒すチャンスは無いと思う。今回はたまたま上手くいったけど、あんな場面はもう二度とないだろう。


 やっぱり、自動販売機としてお金を稼ぐ方が現実的だ。

 とまあ現状は把握できたところで、お楽しみの加護タイムだ!

 100万ポイントを越えた今、新たな加護を手に入れることが可能となった。正直、百万なんて馬鹿げたポイントを手に入れられるとは思ってもなかったが、まさかこんな抜け道があったとは。

 さあて、加護をじっくりと厳選させてもらうとしよう。


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― 新着の感想 ―
風圧は結界にかかっていて本体(自販機)にはかからない。でも総重量/浮力は結界全体を系として受けるんじゃない? 結界の有無じゃなくてそもそも自販機は圧力感じないのではとは思ったが。
[気になる点] 風圧は感じないのに風船の浮力の恩恵は得られるの?
[気になる点] 結界の大きさを素早く収縮させることができれば、結界で八本足鰐のコインを弾いたり、結界を手足のように使うことができるのでは? 結界の中にモンスターを閉じ込めて結界を収縮し、自販機本体にぶ…
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