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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
最終章

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ハッコンチーム

 二台の車に分かれて乗り、俺たちは小高い丘から戦場に繋がる道を猛スピードで下っていく。

 合体階層主は畑がなんとかしてくれている、それに加えて大量の魔物を呑み込んでくれた。だが、数が数なので俺たちの進路方向にはまだ千に近い魔物が居座っている。

 冥府の王は顎が落ちそうなぐらい大口を開けて、畑と合体階層主の戦いを凝視しているので、こっちにはまだ気づいていない。


「まずは道を切り開かねばな。炎よ踊れ、風よ叫べ」


 俺と同じ車の荷台に乗っている、シメライお爺さんが赤と薄い水色の扇子を取り出し、同時に扇ぐ。

 炎を帯びた竜巻が前方を貫き、密集していた魔物たちが熱風にあぶられ吹き飛んでいく。

 魔物の軍隊のど真ん中に一本空白地帯が出来上がる。そこを車が全速力で突っ込んでいった。


「おしゃああ、ここで俺は途中下車するぜえええっ! 先に行きなっ!」


 後続の車に乗っていた灼熱の会長が、叫ぶと同時に荷台から飛び降りていくのが見える。

 って、敵のど真ん中に単独で!? 強いのは知っているけど、それは余りにも無謀すぎないか。

 そう思って止めようとしたのだが、灼熱の会長を乗せていた車を運転していたケリオイル団長が窓から顔を出して、こっちを見た。


「俺たちもここで残るぜ! ここでこいつらを誰かがやらねえと、冥府の王との戦いで邪魔だろ……後は任せたぞ、ハッコン!」


 こっちの返事も待たずに一方的に言い放つと、Uターンをして灼熱の会長の元に戻っていく。

 あの車には他にケリオイル団長一家が乗っている。助手席のフィルミナ副団長が窓から上半身を出してこちらに深々と頭を下げた。

 荷台の紅白と灰、そしてスルリィムがこっちに向かって軽く手を振っている。

 止めた方がいいと心が叫ぶが、無理やりその感情を押し留める。この車にいる仲間たちも苦渋の表情をしているが、誰一人として彼らを止めなかった。

 彼らの行動が間違いではないとわかっているから。ケリオイル団長が言いださなければ、自分たちがその役割を果たすつもりだったのかもしれない。


「大丈夫、大丈夫だよね、ハッコン」


「いらっしゃいませ」


 俺の体をきつく抱きしめるラッミスに、いつものように返事をする。

 辛いのは俺だけじゃない。みんな……信じているからね。


「切り替えていかねばなるまい。こちらも、さほど余裕がある訳じゃないのでな」


 そう口にしながら荷台で爪を振るう熊会長の目の前まで接近してきていた、鰐人魔が切り裂かれる。

 そうだ、多くの敵を惹きつけてくれたけど、まだまだ敵は残っているのだ。

 園長先生とシュイがこちらに向かってくる敵をいち早く倒しているが、処理しきれる数ではない。

 だが、敵が雑魚で密集しているとなると――ラッミスの出番だ。

 俺がいつものコンクリート板を出すと、瞬時に理解してくれたようでコンクリート板を掴んで。魔物の群れに投げつけていく。

 これだけ魔物がいればコントロールが悪くても何処かに当たる。あの怪力で投げつけられたコンクリート板の威力は攻城兵器も真っ青な威力で、面白いぐらいに魔物の群れを吹き飛ばし粉砕していく。


「これは、楽じゃのう。では、進路方向の敵に集中するとするか」


「近寄ってくる敵は全部お掃除しますから、お爺さんは気にせんでいいですよ」


 爆走する車の屋根にひょいっと身軽に老夫婦が飛び乗る。前方に立ち塞がっている魔物たちが地面から乱射される石礫に弾かれ、荒れ狂う暴風に切り裂かれていく。

 運よく魔法から逃れた魔物が車に突進してくるが、銀の線が宙を走ると身体を分断されて、自分が死んだことも気づかぬうちに地に伏している。

 うん、相変わらずの最強夫婦だな。


「このままやと、出番が無さそうやなぁ」


「我々は側面から迫る敵の排除だ」


 闇の会長が体中から細い影の刃を伸ばすと、魔物たちを串刺しにしていく。数が数だけに、それでも倒しきれない魔物がいるのだが、そこは熊会長の爪と――、


「はあああっ!」


 ミシュエルの大剣が爆炎を放ち消し炭にする。


「では、私も少しは活躍しておきましょう」


 ヘブイは手にした棘の付いた鉄球の鎖を伸ばし、中間距離の相手を粉砕していく。

 魔物が少し可哀想に思えてしまうぐらいの殲滅力だな。このチームって破壊力がずば抜けているよな。攻撃力特化と言ってもいいぐらいの面子だ。


「ピティー……出番が……ない……」


 魔物の攻撃が車まで届くことがないので、ピティーが寂しそうにポツンと佇んでいる。

 仲間で珍しく防御特化だからね、この状況だと暫く仕事はないかな。でも、冥府の王との戦いでは頼りにしているから。

 戦場で派手に暴れながら冥府の王を目指して走っていると、突如ハヤチさんが言葉を発した。


「申し訳ありませんが、我々は守護者様の元へと向かいます。お世話になりました!」


 走行中の車から飛び降りるという無謀な行為だが、正座した姿でぴょんと外に飛び出すとその足下にウサギが二体潜り込み、背にハヤチを乗せるとそのまま器用に跳ねながら運んでいく。

 信じられない跳躍力で魔物の上を軽々と越えて進んで行く姿を見る限り、心配しなくてもいいな、うん。


「まったく、ハヤチ姉さんは落ち着きのないところが変わらないな」


 ミシュエルが呆れて苦笑いを浮かべているということは、昔からそういう性格なのだろう。見た目はできる女性なのだが、意外と残念な人だというのは短い付き合いでも伝わってきた。

 ちゃんと合流できることを祈っておくよ。

 こっちは順調に敵を蹴散らしながら冥府の王へと迫っていく。

 派手に暴れているので畑の戦いぶりに呆気にとられていた冥府の王も俺たちに気づいたようだ。

 頭蓋骨に表情はないのだが、なんとなく忌々し気にこっちを見下ろしているように思えた。冥府の王としては圧倒的な力で防衛都市を蹂躙して、後に魔王を倒す予定だったのだろう。

 それが俺たちにここまで苦戦させられたら、まあ、キレるだろうな。


『忌々しい。我の計画が貴様らのせいで全てが水の泡だ! この償いどうしてくれようかっ!』


 おっ、念話で直接脳に言葉が届く。

 声から苛立ちが充分すぎるぐらいに感じられる。

 かなりお怒りのようなので、なんとなく打ち上げ花火を上げてみた。

 うむ、戦場に咲く光の花というのもおつなものだな。


『我を愚弄するかああっ!』


 挑発行為として受け取られてしまった。和んでくれるかと思ったのに、残念だなー。

 何故か仲間たちが俺を見てなんとも言えない表情を浮かべている。呆れているような感心しているかのようにも見える。


『そこまでコケにして、覚悟はできておるのだろうな……我をあまり舐めるでないっ! 黄泉路より戻れ、我が忠実なる下僕たちよっ。主に歯向かう愚かな者たちへ冥府の力を示すがいい!』


 右手に掴んだ骨の手が寄り集まった杖を振りかざすと、冥府の王の周辺にいた魔物たちが地面に広がる闇に呑み込まれた。

 そして、代わりに地面の闇から何かが三体、徐々に浮かび上がってくる。

 二つは冥府の王と同じく骨の身体、もう一つは半透明の女性。一体だけは見覚えがないが、他の二体は見知った相手だった。


「小将軍と親将軍……」


 ラッミスの呟きがその答えだ。

 一人は半透明の女性、小将軍カヨーリングス。

 もう一人は冥府の王の母親でありながら、親将軍でもある女性。


「あれは、人差将軍……私が倒したはずなのですが」


 ミシュエルが浪人風骸骨を睨み、声を漏らす。

 もう一体の骸骨が人差将軍か。ウサギとミシュエルが倒したという。

 ここで中ボスが復活して現れるなんて、王道をわかっているな。ゲームなら盛り上がる場面だろうけど、当事者としては勘弁してほしい。

 大量の魔物を生贄に彼らを召喚したので、冥府の王の近くには魔物が殆どいない。このまま車で突っ込めば届く範囲に奴がいる。

 だが、その前には将軍クラスが三人。生半可な敵でないことは学習済みだ。

 全員で一気にかかって倒すしかないが、ここに冥府の王が参戦するとなると……勝ち目が薄いかもしれない。

 足止めされたところに広範囲の魔法で一気に壊滅。あり得るよな。

 あいつは一度死んだ部下を巻きこむことに躊躇しないだろう。

 このまま突撃するのは危険だと判断して、運転手のヒュールミが車を止める。


「となると、我々の出番か」


「そうなりますね。懐かしいですわ、この面子で戦うなんて」


「そうやなぁ。久々に結成やな」


「黒の一団、再結成じゃのう」


「ふふふっ、またこうして皆さんと一緒にチームを組むなんて、長生きするものですね、お爺さん」


 熊会長たちが楽しそうに微笑むと顔を見合わせて、荷台から飛び降りた。


「皆は先に進むがいい。冥府の王は任せたぞ」


 熊会長が口角を上げて笑顔を見せる。その表情には悲痛さは微塵もなく、今から全員で何処かに遊びに行くかのような気楽さで、そんなことを口にした。

 他の面子も全員にこやかに笑っている。


「ま、待って! あの敵に会長たちだけで挑むのは無謀だよ! 私たちも」


「そ、そうっすよ! みんなで戦うべきっす!」


「それは許可できない。我々が戦っている最中に冥府の王が魔法を放てば、それで終わってしまう。誰かに冥府の王の相手をしてもらわねば、負けは確定だ」


 熊会長も俺と同じことを思っていたのか。


「こういう地味な露払いは年寄りの仕事と相場が決まっておる。若いもんはもっと輝ける場所で戦うものじゃて」


「あと四十年若かったら、冥府の王との戦いを譲らなかったのですけど。ねえ、お爺さん」


「あの頃は、先輩方も血気盛んでしたから、懐かしいですわ」


 シメライお爺さんとユミテお婆さんが談笑して、そこに園長先生が割り込んでくる。


「ワイらも脇役になったんやなぁ。昔はブイブイいわしてたんやけど、歳はとりたくないもんや」


 闇の会長も話に乗ってきて、自分の額をぺしぺし叩いている。

 まるで井戸端会議でもしているかのような穏やかな空気だが、熊会長たちは冥府の王たちの存在を忘れている訳じゃない、鋭い視線が彼らに向けられたままだ。

 相手もこちら側に隙がないことを理解しているようで、未だに仕掛けてこない。


「というわけだ。こちらのことは心配無用だ。常勝無敗の黒の一団の名は聞いたことがあろう。ここに再結成だ。皆、あの頃よりも衰えたなど言わせぬぞ」


 自信満々の態度と気迫に、荷台にいた俺たちは圧倒されてしまっている。

 この面子を相手に俺たちが心配するなんて、失礼な話だと即座に理解した。前々からその実力を知っていたが、今の熊会長たちはいつもよりも何倍にも大きく見えた。


「う ん い こ う」


 俺がそう言うと、ヒュールミが再びアクセルを踏む。

 タイヤがキュルキュルと回り、その場から勢いよく発進する。


「後は託したぞ、ハッコン! 皆を守ってやってくれ!」


 いつもより乱暴な口調の熊会長に「いらっしゃいませ」と最大音量で返す。

 ここは任せたよ。大丈夫、熊会長たちなら、大丈夫!

 自分に言い聞かせて、俺たちは冥府の王を目指して突き進むだけだ。


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― 新着の感想 ―
黒の一団の物語も見てみたいね
[良い点] 俺に任せてお前らは先に行け!王道展開だけど、やっぱりめっちゃ熱いよなぁ
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