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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
最終章

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251/277

意気込み

 焼け落ちた森を半日かからずに通り抜けると、防衛都市に向かって突き進む。

 殺意の森から防衛都市までは徒歩だと一ヶ月近くかかるそうだが、車の速度なら数日で辿り着くのではないかと、ヒュールミが地図を睨みながら計算を口にした。

 車のナビが使えたら距離と時間を割り出すことが可能なのだが、異世界の空に人工衛星が上がっているわけがないので、どうしようもない。


 そして、特に問題もなく数日が経過した早朝。


「あれは、冥府の王軍じゃねえか?」


 荷台で双眼鏡にフォルムチェンジをした俺を覗き込んだヒュールミが、声を張り上げる。

 遠くに砂埃が見えるな、それにあれは魔物の背か。更にその先に巨大な四足歩行の化け物――合体階層主。

 追いつくまでに思ったより時間がかかってしまった。

 その理由は森林火災に多くの魔物を巻きこみ戦力を減らしたのはいいのだが、弱い魔物が壊滅したことにより行軍速度がかなり上がってしまったからだ。

 更に俺たちの足止め目的で、魔物が待ち構えているというパターンが繰り返された。

 もう少し早く魔王軍に追いつく予定だったのだが、作戦の場所には達していないので結果オーライだ。


「指定されている場所までは、まだ距離があるから余計な手出しはしないでおこうぜ」


 ヒュールミの言葉に全員が頷いている。

 速度を落として、距離を保って尾行を続けること更に三日。指定場所まで残りわずかとなった。

 防衛都市の面々とは黒八咫の郵便屋さんを使って、三度ほど意見を交わしている。お互いが納得する作戦が練られたので、後は実行に移すのみ。

 空は晴天で時刻は昼に差し掛かったぐらいか。


「みんな、作戦を確認しておくぞ」


 車を止めて全員が車座になり、一人だけ立っているヒュールミが作戦書を手に、声を張り上げている。


「俺たちは後ろから攻撃を仕掛けるわけだが、戦闘開始の合図は合体階層主の足止めに防衛都市側が成功してからだ。その方法は向こうに一任しているが、かなり自信があるとのことで……間違いないよな、ハヤチ」


「うむ、間違いない。守護者様なら必ずアレを止めてくださる!」


 自信満々に言い放つハヤチは成功することを微塵も疑っていない。そこまで信頼を寄せられているのだ、俺たちも信じるしかないよな。

 結局最後まで、その方法を話してくれなかった。ハヤチに訊ねると意味深な笑みを浮かべ「それは、見てのお楽しみですよ」と答えるのみだ。

 非常に気になるが予想はつく。強力な加護持ちか大掛かりな罠を仕込んでいるのだろう。楽しみにさせてもらうよ。

 防衛都市の兵士が足止めに成功して、動けなくなったところで一斉に攻撃を加えるそうだ。


「とまあ、そんな感じだ。後方の魔物を倒しながら、冥府の王へ攻撃も加える。んでもって、こっちに冥府の王がやってきたら……本番だな」


 俺たちの役割は冥府の王を葬ることだ。こればかりは相手がどう動いてくれるかによるので、臨機応変に対応するしかない。冥府の王の注目を引きつけるぐらいの気持ちで派手に暴れよう。


「これが冥府の王との最終決戦になる筈だ、みんな何かあるか」


 そう言って、ヒュールミが目を向けたのはケリオイル団長だった。

 全員の視線を浴びて頭を掻きながら、その場にすくっと立ち上がると、一度咳払いをする。


「命懸けの決戦の前には各自が一言、決意を口にするってのがお決まりだぜ。ってことで、俺から言わせてもらうとするか。一度敵の軍門に下り、殺されたって文句の言えない俺たちを、温かく迎え入れてくれたことを心から感謝する。この一戦でもしも力尽きたとしても、悔いは全くない!」


 拳を握り締め断言するケリオイル団長の手を、フィルミナ副団長がそっと握りしめる。


「私も同じ気持ちですよ。息子の呪いが解けた今、もう心残りはありません」


 見つめ合う二人の両脇に座っていた子供たちも立ち上がっていたのだが、その様子を見て大きくため息を吐く。


「オヤジも母さんも盛り上がるのはいいけどよ、死ぬ気なんてさらさらないからな、俺たちは。なあ、赤」


「当たり前だぜ。人生まだまだ、これからだってえの。恋人つくってイチャイチャするまで、絶対に死んでやんねえ! うおおおお!」


「うおおおお!」


 紅白が拳を振りあげて、雄たけびを上げている。表情は真剣で必死さが伝わってくるなぁ。


「情けないことで気合入れないでよ。兄として恥ずかしい」


「灰には私がいるから、安心してね」


 灰を後ろから抱きしめているスルリィムに笑みを返している。

 両親と兄たちのリア充ぶりに、紅白が唇を噛みしめて地団駄を踏む……少し可哀想になってきた。


「次は俺だな……命の炎を燃やし尽くせ!」


「いやいや、燃やし尽くしたら死ぬ死ぬ。団長もそうやけど、生きて帰ろうや……何で死ぬ前提やねん」


 灼熱の会長か体を燃え上らせて叫ぶと、周りから一気に人が逃げていく。その中で闇の会長だけが平然と横に立ち、炎と化した灼熱の会長に突っ込みをいれている。熱くないのだろうか。


「ワシらは、まあいつも通りやらしてもらうとするかのう。なあ、婆さん」


「そうですね、お爺さん。孫の成長を見守らないといけませんので、まだまだ死ねませんしねぇ」


 老夫婦は相変わらず気負いもなく、今から散歩にでも行くような自然体だ。この二人は死地にでも笑って出かけそうだな。


「私はハッコン師匠がいるところなら、例え地獄でも共に参ります!」


 目を輝かさせている弟子の想いが重いです。最近、信頼を超えて崇拝の域にまで達している気がするが、気のせいだと信じたい。


「守護者殿と共に守り抜くことを誓う。あのお方がいれば勝利は確定だ。なあ、ウサッター殿、ウッサリーナ殿」


 堂々と勝利宣言をするハヤチの周りで、ウサギ二匹が飛び跳ねている。


「怪我したらすぐに言ってください、癒しますので」


「園長先生がいてくれたら、死なない限り治してくれるから安心っす! あと、ガンガン射るから、矢に当たらないで欲しいっす!」


 園長先生とシュイの弓の腕は信頼しているので、余程の事がない限り誤射はあり得ない。安心して任せられるよ。

 射手が二人に魔法使い系が……フィルミナ副団長、スルリィム、シメライお爺さんの三名。充分だな。


「ピティーも……頑張るね……」


 静かに闘志を燃やしているのか、伸びた前髪で見えない眼から熱い視線を感じるような錯覚が。別の意味合いが込められているような気もするけど、自動販売機なのでわからないっす。


「オレは園長とシュイを乗っけてクリュマで走り回るからよ。負傷したら乗っけてやるぜ」


 今までは戦場では出番がなく、いつも隠れていたヒュールミだが、運転手として役に立てることが嬉しいらしく、手を打ち合わせてご満悦の表情だ。

 俺としては戦場に出て欲しくないのだけど、それを口にするのはやる気を漲らせている彼女に対して失礼な話か。

 海外産の車は頑丈だし、荷台には二人もいる。車の速度に追いつける敵がいるとも思えない。ガソリンの量だけチェックしておこう。


「うちは――あれっ、向こうから何か向かってきてない?」


 最後にラッミスが言おうとしたタイミングで、遠方を指差す。

 全員が目を向けるとそこには……猛進してくる巨大な白い猪――あれは、ボタンか! って、その上にまたがっているコートの熊は会長だな。あ、よく見ると背中にヘブイが貼りついている。

 風圧で顔が酷いことになっているけど、あれって車より速いんじゃないか。四足歩行だからオフロードにも最適だし。

 あっという間に俺たちの傍までやってきたボタンは、急ブレーキをかけて地面をズサーっと滑り停止した。


「おおおおっ、ふうう。生きた心地がしなかったぞ」


「久しぶりに、神へ本気の祈りを捧げました」


 風圧で毛並と髪が乱れた二人が、ボタンの背中から降りると大きく息を吐いている。

 あの速度で走られたら、絶叫マシーンより怖いだろうな。


「二人とも防衛都市にいたんだよね、どうしたの?」


「最後の決戦は、やはり気心の知れた仲間と戦いたいであろう。なので、無理を言って運んでもらったのだ。すまぬな、助かった」


 熊会長がボタンに礼を言うと、一鳴きしてからすぐさま走り去っていった。向こうも仲間と一緒に戦いたいのだろう。ありがとう、ボタン。


「こっちで戦う方がやりやすいので。それに、私がいなくては困るでしょう」


 ヘブイが服装の乱れを整えた後に、愚者の奇行団の面々に話しかけると全員が優しい笑みを返した。


「いや、別に」


「園長先生がいらっしゃるので特に」


「困んねえよな、赤」


「だな、白」


「あ、そういや、いなかったっすね」


「何しに……きたの……」


 団員たちのあまりに酷い言葉に、ヘブイが崩れ落ちた。

 あ、背中を向けていじけている。落ち込んでいる彼を見るのは初めてかもしれない。

 もちろん、彼らの言動は冗談なので今、ヘブイを慰めている。なんだかんだ言って、仲のいい一団だと思う。


「これで全員集合だね! えっと、何か言おうとしていたけど忘れちゃった。みんな頑張ろうね!」


 ラッミスの順番だったけど、熊会長たちの乱入でうやむやになっていた。

 全員が集まったことに彼女が心底喜んでいるようだから、これでいいか。

 みんなの意志は固まった。意気込みも充分。あとは最終戦の幕が開くのを待つだけだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 冥府の王に人質を取られないように気を付けないとね。
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