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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
最終章

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241/277

発掘

 地中生活四日目。

 周囲をコンクリートの壁で囲っているので今は〈結界〉も消してある。この壁は俺が呼び出した、最近頻繁にお世話になっているコンクリート板だ。

 それを〈念動力〉で操り自分で地下室を作り上げた。〈結界〉を発動し続けていてもポイントには余裕があるが、今後、何で使うかわからないので節約するに越したことはない。

 一応壁際に花を植えているので殺風景な室内ではなくなり、寂しさが少しだけ紛れた。


 魔物の群れはどこら辺を進んでいるのだろうか。ヒュールミの話だと、ここから防衛都市までは荷猪車で一ヶ月、徒歩で三ヶ月ぐらい? だった気がする。もう少し、真面目に話を聞いておくべきだったな。

 車を出せば一週間以上の遅れでも取り戻せそうだが、何があるかわからないので早めに行動しておきたい。まあ、埋まって待っているだけの身なので自分ではどうしようもないのだけど。

 でも、そろそろ発掘されるのではないかと思っている。数時間前から遠くから音が聞こえる時があるのだ。微かに聞こえる程度なので、掘削している音なのか人の声なのか、その判別さえできない。

 でも、その音が徐々に大きくなってきているので、俺も準備をしておいた方がいい。

 壁際の花を消し、代わりに新商品を軽く地面に埋めておく。あとはこっちの場所がわかるように、声を発し続けておこう。


「いらっしゃいませ いらっしゃいませ いらっしゃいませ いらっしゃいませ――」


 最大の音量で相手が気づくまで続けよう。機械の身体なので喉が枯れることもないから、好きなだけ叫んでいられる。

 どれぐらい音を出し続けていたのか、周りの音が変化したような気がしたので声を消すと、何かが聞こえてきた。


「はっ……おおおおん……まって……ねーーーー……」


 地中を貫き俺の元まで届いた悲痛な叫びは――ラッミスだ。彼女の声だけは絶対に間違えることがない。

 ちゃんと冥府の王から逃げられたんだ。無事なんだね。ああっ、はぁぁぁぁ、ほっとした。

 最悪の未来を考えないように心掛けていたけど、安堵した瞬間に気が抜けて電源が落ちそうだ。コンクリート板が邪魔になるかもしれないから、全部取り外しておくか。土は〈結界〉で維持しておこう。


「いらっしゃいませ」


 かなり声が近くなってきたので、俺も大声で返事をする。


「はっこおおおおおんっ! 直ぐに掘り出すから、待っていてねっ!」


 土って防音性能が高いと聞いたことがあるのだけど、ビックリするぐらいハッキリと聞き取れた。どれだけ大声で叫んでいるのか。

 後でのど飴を渡した方がいいかな……ごめんな、ラッミス心配させて。

 〈結界〉に衝撃があり上に視線を向けるとシャベルの先が見えた。

 続いて手の平が見えたかと思うと、表面に乗っている土を払い覗き込んでいるラッミスとヒュールミの姿がある。


「ありがとう」


 俺がそう言うと、涙目のラッミスと、少し怒ったような表情だったヒュールミの二人が破顔した。


「おかえり、ハッコン!」


「ったく、心配させやがって。無事で何よりだぜ」


 〈結界〉を解除すると二人が落ちてくる勢いのまま、俺に抱き付いてきた。


「ハッコン、ハッコンだあああっ、壊れてないよね、大丈夫だよね!? もうっ、もうっ、本当に心配したんだからねっ!」


「う ん」


「違和感があったらちゃんと言えよ、いつでも調べてやるからな。ったく、無茶しすぎなんだよ、いつもいつも、わかってんのか」


「う ん」


 二人が俺の体をペタペタと触り、心底心配してくれている。

 目が充血して涙目の二人を見ていると、機械の身体なのに泣きそうだ。

 ごめんな、心配させて。無事だから。

 俺も二人が無事かどうかで気が気じゃなかったけど、それは二人も同じだったみたいだ。

 前と違い力いっぱいに抱きしめたり、叩いてこないのは少し寂しくもあるけど、ラッミスも俺の体を気遣えるぐらいに成長したってことだよな。

 そんなことを考えていると、頭頂部に軽い衝撃があった。視線を上に向けると……お尻が二つあった。


「出遅れ……た……」


「ハッコン、無事っすか! ご飯出す能力は壊れてないっすか!」


 消え入りそうな声と真逆の明るく弾むような声。

 ピティーとシュイなのか。


「ハッコン、発掘終了やな。これも陰ながら応援していた、ワイのおかげやなっ! 影だけにっ!」


「面白くありません、闇の会長。ハッコンさん無事でなによりです」


「あー、やっと見つかったんだね。いやー疲れたね、何もしてないけど!」


「でしたら口を噤んでおいた方がよろしいですよ、犬岩山会長。それに、感動の再会を邪魔するような冗談はどうかと思いますわ、闇の会長。口は災いの門と申しますし、お喋りが過ぎますと相手に悪い印象を与えかねませんから。ハッコンさん、お久しぶりです。私の様な個性の欠片もない、何処にでもいる平凡な女性のことなど、忘れられているかもしれませんが、迷路会長――」


「あんたには言われとうないわ」


「うん、右に同じ」


 頭上の穴からこちらを覗き込んでいるのは、闇の会長、始まりの会長、犬岩山会長、迷路会長か。会長ズも無事だったんだね。灼熱と熊会長が見えないけど、別行動なのかもしれないな。


「あ と の」

「か い ち よ う」

「と か」


 ああ、もどかしいな。みんな無事なのか教えて欲しいのに上手く伝えられない。


「ええとね、他のみんなも無事だよ!」


「街の復興している連中もいるし、近隣の町村に危険を伝えに行った奴もいる。熊会長や他の仲間は魔物の群れを追っているぜ」


 すぐさま、ラッミスとヒュールミが答えてくれた。この二人は自分が言葉足らずなことを忘れそうになるぐらい、俺の言葉から正しく読み取ってくれる。

 再会をこんなに喜んでくれている。その事実に俺は商品を全て温かいに対応している商品に変更した。そうしないと、嬉しさのあまり全部温まってしまうから。

 みんなが無事だとわかったのなら憂いは消えた。まずは……商売開始だ!

 町が壊滅しているなら食料は幾らあっても足りないだろう。みんなに大盤振る舞いするぞ!





「いらっしゃいませ」


「食料は充分にあるから、みんな列を守ってー」


「おらおら、子供と年寄り優先だ! 横入りすんじゃねえぞ!」


「いらっしゃい……はい……どうぞ……」


「みんな、すっごく美味しいから期待するっすよ!」


 自慢の売り子四人衆が商品を人々に配っている。

 こういうのは若い子の方が男性陣は喜んでくれるので、わざとラッミス、ヒュールミ、ピティー、シュイの四人に頼んだ。

 本当は女性へのサービスにミシュエルも欲しかったが、熊会長と一緒に先行しているらしい。無茶はしないでくれよみんな。

 今すぐにでもみんなの元に向かいたいが、まずはここの食料事情を何とかしなければならない。

 素早さも更に上げて、滝のように食料を取り出し口から流し、それをみんなが拾って大きな机の上に並べてくれている。

 ここで、住民が暫く過ごせるぐらいの食料を提供するのが先決だ。ここには大事なダンジョンの住民もいるのだから、飢えさせるわけにはいかない。

 ここで唐突に久々のステータス確認いってみよう!


《自動販売機 ハッコン ランク3

 耐久力 1000/1000

 頑丈  100

 筋力   50

 素早さ  50

 器用さ  50

 魔力    0


〈加護〉結界 念動力》


 機能は多すぎるのでスルーするとして、ステータス上がってきたな。

 ゲームなら盾やタンクと呼ばれる前衛でみんなを守る役割を任せられる能力。ステータスだけなら鉄壁と言っても過言ではない。

 たとえ冥府の王が相手でも攻撃を防げることは体験済み。〈結界〉が張れなくても一発は防げるということがわかっているので、次に戦う時はもっと上手く立ち回ってみせる。


「ハッコン、ごめん。もっとご飯貰える?」


 あっ、考え込んでいて食料を出すのが止まっていたみたいだ。心配そうに俺をラッミスが覗き込んでいる。


「いらっしゃいませ」


 ポイントはまだまだ余裕があるからね、幾らでも出すよ。

 迷宮の財宝の価値は噂に違わないとんでもないもので、ポイントの桁がおかしな具合になっている。五千にも満たない人々へ食料を提供するだけなら余裕余裕。ダンジョンマスターからもらった宝石一つでお釣りが来る。

 今はおごりでいいけど、この町が復興したら常連になってもらうよ!

 久しぶりに自動販売機として活躍できることに内心喜びながら、俺は食料を出し続けていた。


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― 新着の感想 ―
それだけポイントあっても念話は手に入れないんだ。 もはや意地だなw
[気になる点] >迷宮の財宝の価値は噂に違わないとんでもないもので、ポイントの桁がおかしな具合になっている。 一体、何ポイントあるのだろう?? ハッコンのステータスで、魔力だけはゼロのままだけど、魔力…
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