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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
最終章

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一家奮闘

「一番忠実だと思っていたお前が裏切るなんてよぉぉぉぉ、驚きだぜえええっ!」


 この人は叫びながらじゃないと話せないのかな。頭を激しく振りつつ、舌を出しながら話すなんて器用だ。あと、半透明なのに鎖がジャラジャラうるさい。


「本当に大切なものを見つけたのよ」


「はっ、冷血女がよく言うぜ。でもよおおぉ、実は嬉しいんだぜえええっ? 前々からてめえは気に喰わなかった。この手で殺せるなんて最高じゃねえかよぉぉっ!」


 同じ将軍だったのにスルリィムお姉ちゃんと仲が悪かったのか。

 お姉ちゃんも半眼で睨んでいるし。


「ふっ、カヨーリングス、貴女は小将軍。私は薬将軍。格が違うのよ、勝てると思っているの?」


 確か、五指将軍って下から、小、薬、中、人差、親と将軍の中でも順位が決まっているのだった。小将軍ってことは将軍の中で最弱なのか。


「てめえは、いつもそうだよなああああっ! いつも俺様を見下しやがって! 確かに単体の戦闘力ではてめえの方が上かもしんねえがよおおおっ、だがな、ここじゃ負けねえぜえええっ! 俺様の能力忘れた訳じゃねえだろおう?」


 相当自信があるのか、自慢げに胸を反らして鎖を振り回している。


「死霊使い……まさか、この場所」


「そうさ、ここはなぁ、半年ほど前に大発生した魔物と人間たちが小競り合いをしている最中に、そこの崖が崩れて生き埋めになったんだぜえええ」


 鎖の先端が指す方向に目を向けると、確かに崖崩れが発生した跡がある山の斜面があった。

 ここは左側に山の斜面があって後は遮蔽物がない平野だけど、言われてみると他と比べて地面が盛り上がっている。雑草もここ一帯だけ生えてないからおかしいなと思っていたけど、そういう理由だったのか。


「目障りなてめえを殺して、更に地位を上げ、鬱陶しい奴らを好き放題に殺しまくってやるぜえええっ!」


 絶叫と共に鎖を地面に突き刺すと、地面の至る所から腐りかけの死体が土を押しのけ湧き出てくる。その数は軽く見積もっても百は軽く超えていないか。


「ふっ、この程度の腐った死体なんて、物の数じゃないわよ」


 そう言って魔物に向けて手を差し向けたスルリィムお姉ちゃんだったが、その手がカヨーリングスに向けられる。

 あっ、目の前に銀色の光が迫っている!

 それがぶつかる直前に氷の壁が目の前に発生すると、半透明の鎖が弾かれた。


「てめえの相手は俺様だぜえええっ! そこの足手まといと一緒なら碌に戦えねえだろうがよおおおおおっ!」


 敵は僕と一緒に居るスルリィムお姉ちゃんを狙ってきたのか。

 僕がいると確かに邪魔になってしまう。後方に下がっていた方がいいのか……でも、魔物たちが取り囲んでいる状況だと、単独行動は命取りになりかねない。

 父さんたちは既に動く死体との戦闘に入っているし、どうしたらいいんだろう。


「足手まとい……ですって? ふふふふふっ、死にたいようねっ!」


 今まで聞いたことがない低い声に振り返ると、見ているだけで全身が凍りつきそうになるぐらい冷たい目をしたお姉ちゃんがいた。

 僕たちの周囲には吹雪が舞い、周囲の地面が一気に凍り付いている。

 遠くで戦闘をしているお父さんたちも寒いみたいで更に距離を取っているのに、僕はちっとも寒くない。ちゃんとこっちを避けて吹雪を出しているなんて凄いな。


『兄貴、一生尻に敷かれるぜ』


『正直、美人を捕まえて羨ましくて悶死しそうだったけど、今はあんま羨ましくねえや』


 赤と白の声が脳内に直接届く。三つ子である僕たちはお互いに声を届ける加護を所有している。それを使って声を送ってきたのか。


『お姉ちゃんにあっち側冷やしてもらうように頼もうかなぁ』


『兄貴めっちゃ羨ましいぜ! 美人の嫁さん候補なんて最高だよなっ!』


『かああっ、流石俺たちの兄貴! 俺たちにできないモテっぷり!』


 冗談でからかうと媚びてきた。そういう、弟たちの変わり身の早さは嫌いじゃない。

 こんな体の小さい僕をちゃんと兄扱いしてくれることが、何よりも嬉しかったりするのだが、それを口にすることはない。だって、調子乗りそうだから。

 敵の数は多いけど体が腐っているから敵の動きが鈍くて、みんなの敵じゃないようだ。着実に敵を倒している。任せても大丈夫そうだね。


「はっ、色ボケに負ける俺様じゃねえよっ!」


 銀の鎖が正面から二本伸びてくるが、お姉ちゃんの生み出した氷の壁にあっさり弾かれている。

 鎖の蛇のようにうねり、何度も四方八方から襲い掛かってくるけど、全てボクたちに届くことなく氷の壁に阻まれた。


「小蝿が飛んでいるようだけど、攻撃はしないのかしら?」


 頬に指を当てて小首を傾げているスルリィムお姉ちゃん。可愛らしく見えるけど、目が笑ってない……。

 対するカヨーリングスは目尻を吊り上げ顔に血管が浮き出ている。激怒しているみたいだ。


「てめえのそういうところが、前からムカついていたんだよおおおっ! なめんじゃねえぞ、この俺様をっ!」


 合計十以上の鎖があらゆる方向から飛びかかってくるが、氷の球体に包まれた僕たちに、その攻撃が届くことはない。

 本当にスルリィムお姉ちゃんの方が格上みたいだ。


「やれやれ、攻撃してこないのならこっちからいくわね……あっさり逝かないでね」


 一つが大人の身長以上はある氷の槍が眼前を埋め尽くす。数える気すら起こらない程のとんでもない数。

 それがお姉ちゃんの軽く腕を振る動作に連動して、全て発射された。


「ちょっ、待てええええっ!」


 氷の槍に視線を遮られて相手の姿は見えないけど、断末魔の叫びだけは聞こえた。

 あれが直撃して無事でいる訳がない、圧倒的な戦力差で蹂躙されてしまった相手が哀れに思えて、思わず手を合わせている自分がいる。


「まあ、ざっとこんなものよ。もう大丈夫よ、灰……えっ?」


 優しく微笑みかけていたスルリィムお姉ちゃんの表情が豹変した。

 正面を見据えているけど、そこって槍が突き刺さった――あっ、何あれ……。

 さっきまで半透明のカヨーリングスがいた場所に、巨大な肉の塊がある。

 それはパンパンに張り詰めた筋肉で、人の形をしているが全長五メートルを軽く超える人間は存在しない。

 皮膚は土色で所々が抉れ、骨や肉が剥き出しになっているが色がくすんでいて、肉に関しては傷口から血ではなく、妙な汁のようなものが流れ落ちていた。

 そして、体中に銀の鎖が巻き付いているけど、巨体過ぎて糸で縫い合わせたように見えてしまう。

本来なら頭のある部分にカヨーリングスの上半身が見える。あの肉の塊に埋まっているのか。


「どうだっ! 死体を繋ぎ合わせて肉の鎧と化す、この腐防鎧はっ! 体中に張り巡らせた鎖に魔力をたっぷり注入して、てめえの魔法に対する抵抗力を上げている! 更に表面部分には魔法抵抗力がある元人間たちを利用することで、てめえの魔法は通用しねえ! 加えて、これは痛みを感じることがねえ! どれだけ撃ち込まれても何の影響も受けねえぜっ!」


 懇切丁寧に説明してくれている。今までの鬱憤が溜まっていたのだろうか、自分が圧倒的に有利なことを教えて悔しがらせたいのかもしれない。

 そんな相手に対するスルリィムお姉ちゃんは――唇が笑みの形になり、すっと目が細くなる。


「口だけじゃないのね、安心したわ。じゃあ、本気で凍てつかせてあげる」


 スルリィムお姉ちゃんが両腕を天に向けて伸ばすと、周囲を吹き荒れていた雪が全て頭上へと集まり、腐防鎧と呼んでいた肉の塊に匹敵する大きさの氷の槍を形成する。


「は、はっ、でかけりゃいいってもんじゃねえんだぜっ!」


 そんな巨体に埋まった状態で言われても説得力がないかな。

 強気な口調だけど表情に焦りの色が見える。これで倒せるかもしれないけど……正直、僕には判断ができないでいる。

 相手は宙に浮かんだ状態で停滞している氷の槍を凝視したまま動かない。あれがかなり危険なものだという認識はあるみたいだ。


「これで、二度とその耳障りな声と気色の悪い顔を見ないで済むのね……貫いて」


 両腕をゆっくり振り下ろすと、氷の槍は一度天高く昇っていく。そして、その姿が点になるまで高度を上げてから急降下してきた。

 あれは避けなければ危険だと誰の目にも明らかなのだけど、あの腐った体の寄せ集めは動きが鈍いらしく、後退っているのだけど僕が歩く速度より遅い。


「く、くそがああっ! 骨壁!」


 腐防鎧に巻き付いていた鎖が地面に突き刺さると、地面から白い壁が飛び出してきた。それは人や動物や魔物の骨を寄せ集めた作り上げた壁だった。

 だけど、その壁は正面に立っているだけなので上からの攻撃を防ぎようがない。

 と思っていたら、あの巨体が壁の両端を掴んで引っこ抜くと頭の上に持ち上げたのだ。

 天から降ってきた氷の槍が骨の壁に激突すると、爆風吹き荒れ砕け散った氷と骨が周囲に飛散する。

 その余波に体が持って行かれそうになったが、何とか耐えきる。

 下から腐防鎧を見上げると、骨の壁が完全に破壊されて相手の右上半身が凍りついているが、頭の部分に埋まっているカヨーリングスは無傷に見えた。


「ひゃーっはーっ! どうだ、てめえの一撃耐えきってやったぜ! 涼しい顔してやがるが、今の一撃に大量の魔力を注ぎこんだのはわかってんだぜええっ!」


 離れた場所にいるスルリィムお姉ちゃんの表情は確かに冴えない。笑顔なのだが、いつもと違って余裕が感じられなかった。

 相手の言っていることは間違いないのかもしれない。

 凍り付いた右上半身を左腕で自ら破壊すると、そのままスルリィムお姉ちゃんへ歩み寄っていく。魔力を大量に消費したお姉ちゃんを一気に葬り去るつもりなのか。


「その、すまし顔を踏み潰せるかと思うと、たまんねえなあああっ!」


 抑え切れない歓喜に身を震わせ奇声を上げているが良く聞こえる。

 あの巨体の一歩は歩幅が尋常じゃない、あと二歩も進めばお姉ちゃんを踏み潰せるだろう。

 更に一歩前に踏み出し、最後の一歩を踏み出そうとした、瞬間、あの巨体が膝を突いた。


「なっ、なんでこけやがった! 動けっ、何をやってやがる!」


 怒鳴り散らしているカヨーリングスは何が起こっているのか理解していないようだ。動かない脚にしびれを切らして、左腕を右脚に叩きつけた。

 すると、叩かれた右脚の膝が砕け千切れ、殴った左腕もぶちゅりと不快な音を立てて折れ曲がる。


「はあああっ!? ど、どうなってやがる……あああんっ、なんで手足の腐敗が進んでんだよっ!」


 ようやく異変に気づいたようだ。歩けないのも殴った腕が折れ曲がったのも、身体の腐敗が進み強度が落ちたからだ。そして、現在もその腐敗は急速に進み肉の殆どが腐り果て、地面に垂れ落ちていた。

 これはもう腐防鎧ではなくただの骨の寄せ集めだ。

 その骨も人型を保てなくなり、崩れると骨の山と化す。


「ごめんね、僕が腐らせちゃった」


 落ち込んでいる相手に僕がそう語り掛けると、こっちを見て大口を開けている。


「てめえ、逃げたんじゃねえのか! なんだ、その翼は! それに腐らせるって何をいってやがるううううっ!」


 髪の毛を掻きむしっているカヨーリングスを見下ろしながら、ニッコリと笑いかけた。

 背中の翼は母の血を濃く引いた影響で蝙蝠の羽が出せるだけ。敵を腐らせたのは僕をずっと苦しめてきた加護〈腐敗〉の力。

 ダンジョンマスターさんに〈腐敗〉を解除してもらう際に、僕は心で語り掛けた。


(この加護を消すんじゃなくて、自在に操れるようにはできませんか)


 と。それを快く受け入れてダンジョンマスターは消し去るのではなく、制御できるように変更してくれた。長年に渡って僕の体をずっと蝕んでいたということは、常に発動し続けていたということになる。

 その結果、〈腐敗〉は磨き上げられここまでの威力を得た。

 氷の槍に意識を取られている隙に低空飛行で近寄って、腐らせたのだけど上手くいってよかったー。


「よくわかんねえが、てめえがやったんだなっ! 死にやが――」


 彼女はそれ以上の言葉を口にすることはできなかった。

 目を赤く輝かせた父さんが短剣を首筋に突き刺し、身体には小剣と槍が突き刺さっていたからだ。


「息子を、やらせるわけがねえだろうが」


「ちっとは、いいとこ見せないとな」


「美味しいところだけいただきだぜ」


 こうして、とどめは父さんと弟たちが刺すことで、この戦いに終止符が打たれた。

 これで一件落着だけど、頬を膨らませてこっちに走り寄ってきているスルリィムお姉ちゃんにどう言い訳しようか。それが一番の問題だったりする。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 灰の知恵に感心した。 確かに戦いに貢献出来る能力は欲しいよな。
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