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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
九章

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自動車の旅

 俺が何をしたいのかを理解してくれたヒュールミが早速、荷台の改造を始めている。車の後ろに接続できるようにしてくれるようだ。

 自動販売機の体では運転席も助手席にも乗れないので、後ろのトランクカバーを上げてもらい、そこに体を押し込んでもらうしか方法がない。

 さっきみたいに〈ダンボール自動販売機〉では四時間が限度なので、通常の運転はそうやってやるしかないのだ。

 安全性も考慮しないといけないので適当に済ませる訳にもいかず、今日は宿屋で泊まることとなり、俺は作業を続けるヒュールミと一緒に付き合うことにした。

 ラッミスたちも当初は必要な部品を清流の階層へ取りに戻ったりしていたのだが、改造となるとやることがなくなり、邪魔になっても悪いからと宿屋へ引っ込んだ。


「ハッコン、もうちょい明るくできるか」


「いらっしゃいませ」


 周囲に松明や魔道具の灯りがあるとはいえ、永遠の階層自体が暗いので光量が足りないようだ。自動販売機の明るさを増したのでこれで少しはましになるだろう。


「おっ、ありがとうな。これなら手元も見やすいぜ」


 額の汗をぬぐいながら工具を手に荷台の改良を続けている。

 仲間たちもここに残って終わるのを待つと言っていたのだが、ヒュールミが強引に宿に行くように促した。


「終わったらオレは荷台で寝させてもらうしな」


 そう言われたら何も言い返せないよな。俺は眠らなくても平気だからこうやって見守っているけど。

 集中しすぎていると寝食を忘れることがあるから、タイミングを見計らって飲み物を提供しないと。


「そういや、荷台に会長からの手紙と小箱が置いてあったんだが、言うの忘れていたぜ。ハッコンは手紙の内容知りたいか?」


「う ん」


「んじゃ、覚えているから言うぜ「最下層の最深部に到達したらこの箱を開け、中に入っているものを使ってくれて構わない。年寄り共からの贈り物だ」だってよ」


 何だろう非常に気になるぞ箱の中身が。最深部に到達したらという言葉がヒントなのだろうか。ちょっと箱を開けて中を覗いてみたいが自重しないとな。

 それから一時間ぶっ続けで作業をしていたので、手が止まった瞬間を狙ってキンキンに冷えたミネラルウォーターをほっぺたにくっつけた。


「ひぅあっ! な、なにすんだよ、ハッコン!」


「の ん で」


「お、おう。ちょっと休憩するか」


 地べたに座り込み俺に背を預けると、頭を後ろに反らして見上げている。

 上気している肌と額に張り付いた前髪が妙に色っぽい。見下ろしても胸の隆起が殆どないのがラッミスとの違いだよな。


「ハッコン、変なこと考えてねえか」


 最近、ヒュールミも勘が鋭くなってきている気がする。


「ウ ウ ン」


「発音が変だぞ、うりうり」


 目つきが鋭くなって後頭部をぐりぐりと押し付けられた。

 こういう姿を見せるのって二人っきりの時だけだよな。口が悪くて気が強いというのは彼女の一面でしかなくて、こういった素の状態の彼女も可愛らしくていい。

 いつもの姉御肌な感じも好きだけどね。


「しっかし、ハッコンが動く荷台を出したのは驚いたな。あれってなんて言う乗り物なんだ」


「く り ゅ ま」


「クリュマか。かっけえな」


 うん、まあ、それでいいか。

 荷台の改良が終わったらヒュールミを車の運転席に座らせてあげようかな。まずは俺が運転するけど彼女なら直ぐに運転を覚えそうだ。


「このクリュマがどれぐらいの速さがわかんねえけどさ、かなり時間が短縮できそうだぜ。ありがとうな……でもさ、ハッコンと一緒なら何年でも一緒に旅してもいいんだぜ」


 自分で口にして照れたようで頬を指で掻いている。


「い っ し よ だ」

「と た の し い」

「よ ね」


「だろ」


 それから、初めて出会った時の話で盛り上がり、和気藹々とした空気で朝まで一緒に作業を続けていた。


「ういーっ、完成したぜぇ。つっかれたぁぁ」


「ありがとう」


 お疲れ様と言いたいのだが、「つ」「れ」がないからな。

 言葉が足りないなら行動で示さないと。〈コンビニ自販機〉になってちょっと高めのロイヤルミルクティーとスイーツを二種用意した。


「お、ありがとうよ。頭使うと甘いもんが欲しくなるよな」


 口一杯にクレープを頬張る幸せそうな顔を眺めていると、彼女の背後に突如指をくわえてしゃがみ込むシュイが現れた。


「美味しそうっすね」


「ぶほっ、ごほごほっ。びびらすなよ、シュイ」


「すまないっす。良い匂いがしたからつい」


「楽しそう……ハッコン……」


 うわっ!? ピティーの顔が闇の中に浮かんでいる。ここまで近寄られていたのに全く気配を感じなかった。

 闇に佇む姿が似合っているのが怖い。ホラー映画とゲームで何度か見たことがある光景だ。


「出遅れたっ!」


 ラッミスが寝起きで慌ててやってきたようで服が着崩れしている。元々露出度の高い格好だからかなり危険な格好になっているぞ。

 全く女性ばかりでまともな男性がいないからいいものを、ハンターとはいえ女の子だから身だしなみはちゃんとしないとな。

 白く細長い自動販売機にフォルムチェンジをする。これはホテルに置いてある〈ヘアセット自動販売機〉でヘアリキッド、ヘアトニック、クシがセットになっていて、その中から櫛だけを取り出して〈念動力〉で操り寝癖が付いたラッミスの頭を梳く。


「んー、ありがとぅ、ハッコン」


 気持ち良さそうに目を閉じている。寝起きが弱いから、たまにこうやって髪の毛をセットをしてあげてもいいな。


「次は……ピティー……」


 ラッミスの後ろに並んでじっとこっちを見つめている。

 断れる雰囲気じゃないので後でやってあげよう。髪の毛がかなり長いからやりがいはありそうだ。


「お忙しいところ悪いっすけど、朝ごはん欲しいっす」


 シュイは相変わらずだな、宿屋で朝ご飯は出なかったのだろうか。

 よく見ると口元に食べかすが付いている。あれだ、量が足りなかったな。


「皆さん、お早いですね」


「髪を梳いてもらっているのですか」


 男性陣もやってきた。ミシュエルがラッミスを羨ましそうに見ているが、弟子にもやってもいいのだけど、これ以上懐かれると色々と危ない気がする。

 全員が揃ったので食後のスイーツを提供しておく。

 食べ終わり準備も全て整ったのはいいのだが、問題は誰が車に乗るかだ。一番頑張ってくれたヒュールミを運転席に乗せるのには反論がなかった。

 となると助手席に座るのは誰になるのか。ヘブイは早々に荷台に乗り込んだのでどうでもいいみたいだ。だが、他の面子は譲る気がないようだ。

 四人が視線を合わせて互いを牽制している。


「ヒュールミと一番仲がいいのはうちやから、隣に座った方がいいと思うんだ」


「そんなの関係ないっす。みんな仲良しっすよ」


「ピティーも……あれに乗って……みたい……」


「どういった乗り物か判明していないので、弟子である私が代表してまず乗ってみるというのはどうでしょうか」


 うん、一歩も引かないな。

 初めて見る車が目の前にあったら乗ってみたくなるのはわかる。俺も彼女たちの立場なら乗ってみたいと思うだろう。


「皆さん、順番に乗ればいいじゃないですか。出発しないといつまでも目的地にたどり着けませんよ」


 ヘブイの正論に黙り込み、今度はお互いに譲り始めた。


「もう、ハッコンに決めてもらおうぜ。隣の席には誰が座ったらいいんだ」


「ら っ い す」


 俺が即答するとラッミスが拳を握りしめて喜んでいる。

 そもそも、隣に座るのは親しい人間の方が良いと思っていたから、これがベストチョイスだと思う。

 個人的にも最初には二人に乗って欲しいので、この二人と自分の運転する車でドライブできるのは嬉しい。


「し ゅ っ ぽ つ」


 俺のしまらない出発の号令をしてから車のエンジンをかけ、アクセルを〈念動力〉で踏み込む。

 後ろの荷台を含めれば乗車人数を軽く超えているが、そこはコンパクトでありながらターボもついてある高性能なエンジンと、ピティーの〈重さ操作〉があるのでスムーズな発進をした。

 数少ない施設の間を抜け、闇の上に伸びる一本道を進んで行く。辺りが真っ暗なので車のライトを付けて走っていく。

 道幅が十メートル近くあるので崖下に落ちる心配はないと思うが、慣れるまでは安全運転を心掛けよう。


「うわあああっ、凄い、凄い!」


「動力源はどうなってんだこれ。それに振動で尻が痛くなることもねえし、スゲエな。後でじっくり調べさせてもらうぜ」


 二人ともフロントガラスから前を覗き込んで盛り上がっている。


「ウナススより、断然早いっすよ」


「風が……気持ちいい……わ……」


「これは爽快ですね」


「流石です、ハッコン師匠!」


 好評みたいだな。車の速度でも長い旅になりそうだが、全員で楽しく日々を過ごせたらいいけど。その為には自動販売機として何でもするつもりだ。


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― 新着の感想 ―
荷台があるんだし「車」という概念はありそうなもんだけどな。 灼熱の階層で馬車も嫌がる、みたいな描写なかったっけ?
[一言] ヒュールミに車の運転をさせつつ、ハッコンは荷台から敵との戦闘に専念する、という戦法の幅が広まるね。 あと、ジュークボックスモードで音楽を流しながら進めば、長旅でも多少は気がまぎれそう。とい…
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