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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
九章

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火力と戦略

新作始めました。よろしければお読みください。

暗殺思考の狂戦士ベルセルクhttp://ncode.syosetu.com/n8588dn/




 荷台を前後から挟むようにして熊会長が引っ張り、ラッミスが押す。

 他のメンバーは荷台の上に陣取り敵陣を眺めているのだが、みんな焦ることもなく平常心どころか、ピクニックに行くのかと勘違いしそうなぐらい落ち着いている。


「お爺さん、そろそろ射程範囲じゃないですか」


「そうじゃのう。よっこらせっ」


 シメライお爺さんが腰を上げると、懐から天高く伸びる竜巻が描かれた扇子を取り出した。


「会長、ラッミスそこで止まってくれんか」


「わかった」


「はーい」


 荷台が急停車したのだが立ち上がっていたシメライお爺さんは転ぶこともなく、平然と敵を見据え荷台の前へと移動する。


「あっ、荷台後ろ向きにしておいた方がいいよね。攻撃を仕掛けたら直ぐに逃げられるように」


「それもそうだな。魔法は少し待ってもらえるか」


 百八十度荷台を回転させて、今度は荷台の後ろへとシメライお爺さんが移動する。

 魔物たちはこっちの存在に気づいているようだが仕掛けてくることはない。指揮官が存在するだろうから指示待ちのようだ。

 だが、前回学んだ経験を思い出すと、操られている魔物たちは危害を加えられると連鎖的に反撃をしてきた。だから、魔法が撃ち込まれたら一気に襲い掛かってくる可能性が高い。


「ホクシー、シュイ、迎撃の準備を頼む」


「お任せください」


「任せて欲しいっす!」


 弓を構え矢も大量に確保している。二人の実力なら蛙人魔程度なら一発で仕留めてくれる。

 仲間に頼り切っていないで、俺も敵の反撃に備えておこうか。


「ら っ い す」


「なーに、ハッコン」


「さ か さ に」

「し て」


 今回はちゃんと問題なく伝わった筈なのに、ラッミスが首を傾げて眉根を寄せてじっと俺を見つめている。


「えっ、聞き間違いかな。もう一回いい?」


「さ か さ に し」

「て か ら だ」


 今度は周りで聞き耳を立てていた仲間たちも首を傾げている。

 あれ、発言間違えてないよな。


「体を逆さにしてって聞こえたけど、逆さって上下逆さま?」


「う ん う ん」


「えと、本当にひっくり返すけど、いいんだよね」


「お ね が い」


 納得がいかない感じのラッミスだったが、俺を持ち上げると上下逆さにして荷台の上に置いてくれた。

 おー、視界が逆さまに映っている。


「ら っ い す」

「よ こ に」


「う、うん」


 俺の意図が読めないラッミスが納得のいかない表情で荷台の側面に移動する。

 よっし、これで俺の準備も万端だ。


「ようわからんが、もうええようじゃな。では、魔法をぶちかますとするか」


 もう一つ同じ柄の扇子を取り出したシメライお爺さんが両腕を大きく広げ、魔物たちを扇ぐように腕を動かした。

 荷台のすぐ近くに巨大な二本の竜巻が現れると、大地を撒き上げつつ魔物の軍勢に迫っていく。

 本当にお爺さんの魔法の威力はとんでもないな。あの竜巻一本だけでも民家なんて軽く解体できるだけの威力を備えていそうだ。

 見惚れている場合じゃなかった、あれが魔物に到達する前にこっちも行動に移そう。

 逆さになった状態のまま俺は足下に基礎用のコンクリート板を出した。今は逆さになっているので、コンクリートの板は仲間たちから見て上に載せられているように見える訳だが。


「ぽ い っ し て」


 隣で竜巻を見入っていたラッミスに話しかけると、慌ててこっちを見てから瞬時に何をして欲しいのかを察してくれた。


「ああっ、だから逆さになったんだね! うん、わかったよ!」


 コンクリート板を掴んだラッミスは軽々と片手で持ち上げると、大きく振りかぶって放り投げた。

 敵があれだけ密集していれば不器用な彼女でも当たるようで、風を破壊する音を撒き散らしながら飛来するコンクリート板が魔物の群れへと着弾する。

 彼女の狙った場所ではなかったようだが、剛腕から繰り出されたコンクリート板の一投は凶悪すぎる破壊力を秘めていた。軌道上の敵を粉砕しながら地面に着弾後、地面ごと敵を空高く巻き上げている。


「見た、見た、ハッコン!」


「う ん ま た」


 自慢げに胸を張るラッミスに追加のコンクリート板を提供する。

 気を良くしたのか楽しそうに魔物の群れへ次々とコンクリートを投擲していく。


「ピティーも……する……」


 対抗心が湧いたのかピティーもコンクリート板を掴み〈重さ操作〉で軽くしてから持ち上げて投げたのだが、そもそもの力が弱いので数メートル先で地面へと落下していた。

 そんなことをしている間に竜巻が敵陣を縦断して、何十もの敵が空へと巻き上げられ地面へと叩きつけられていく。

 コンクリートと竜巻、そして矢の雨が降り注いだ後の敵陣は無残なもので、一方的な暴力により百以上の敵が散ったようだ。

 ここまでされたら敵も黙っている訳もなく、敵が一斉に猛進してきている。


「一定の距離を保ちながら撤退する! ラッミスは荷台に乗り、ハッコンと協力してそれを投げ続けてほしい。ピティーは荷台を軽く、シュイ、ホクシーは片っ端から射ってくれるか」


「はい」「了解」「わかりましたわ」


 熊会長の指示に従いラッミスが荷台に飛び乗ると同時に荷台が急発進した。

 ピティーの加護の力で荷台の重さが激減して、一人で引っ張っているというのに二人で押していた時より速いぐらいだ。

 コンクリート板と矢が追手を容赦なく吹き飛ばし貫く。


「燃えろ、燃えろ!」


 腕だけを炎と化した灼熱の会長が突き出した手のひらから火の球が射出され、魔物たちをこんがり焼き上げていく。

 向こうも槍を投げつけてきているのだが殆どが届かず、届いたところでミシュエルとユミテお婆さんに切り落とされるだけなので、一発も命中することがない。

 敵は俺たちしか見えてないようで、がむしゃらに追いかけてきている。


「これならば、第二案で行くぞ」


「はいっ!」


 熊会長の叫ぶ声に全員が大きく頷いた。

 相手の動きに応じて幾つかの策を考えていたのだが、これは一番都合のいい方向に動いた場合の作戦だった。

 真っ直ぐ門へ向かうのではなく、門扉が面している壁の右端へとルートを変える。

 追いかけている魔物の群れが先端を歪に伸ばした二等辺三角形のような並びへと変わっていく。

 そのまま、こちらに惹きつけながら迎撃を続け大きく迂回しながら壁際に到達すると、今度は壁に沿って左へと走り続ける。

 敵も壁を左手にした状態で俺たちを追い続けているのだが、そんな敵の頭上から槍と矢の豪雨が叩きつけられ、魔物たちが針の代わりに武器の柄を生やしたハリネズミのような姿へと変貌していく。


 一方的な蹂躙劇に普通の状態であれば撤退するか、俺たちの後を追うことを止めて集落を襲うかに切り替えるところだが、髑髏の指輪による洗脳状態がどういったものなのかは既に学習済みだ。

 単純な命令しか通じない魔物たちは今、俺たちを襲うことしか考えられなくなっている。

 指揮官は襲うか撤退するかの二択しか命令ができず、尚且つ俺たちの遠距離攻撃に警戒したのか、魔物たちに全てを任せてあの場から動いていないようだ。

 その証拠に王蛙人魔と百体ぐらいの魔物だけが後を追ってきていない。あの中心にでも指揮官がいるのだろう。

 命令が届かないので魔物の暴走を止められず、むざむざと魔物を殺される羽目になっている。


 壁の端から端まで移動する際に追ってきた魔物の三割近くが屍を晒したが、まだ終わっていないぞ。

 そこから更にUターンして再び壁の前を走る、それを繰り返していく。あれ程いた魔物たちが見る見るうちに数を減らし、三往復した時には数える程となり門から飛び出してきたハンターたちによって殲滅させられた。


「うおおおおおっ! 俺たちの勝利だああああっ!」


 灼熱の会長が叫ぶように勝ちどきを上げると、ハンターたちがそれに同調して拳や武器を掲げ、雄たけびを上げている。

 圧倒的な数の差を物ともせずに圧勝したのだ、その興奮具合は最高潮に達している。まだ、敵の指揮官と王蛙人魔が残っているが、それを口にして気分を害することはないよな。

 戦力が無傷で残っている今なら、問題なく王蛙人魔と指揮官を倒すことが可能だろう。

 歓声を上げ喜び合う人たちをバックに、遠くで動きのない魔物の残りを見つめていた。


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