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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
九章

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騒乱再び

 熊会長に朝から呼び出され、主要メンバー全員がハンター協会の会議室に集まっていた。

 今後の対策と既に得ている永遠の階層の説明を聞いている最中、血相を変えた職員が一人、室内に飛び込んできた。


「会長、会議中申し訳ありません! 緊急にお伝えしたいことがっ」


「何だ、何があったのだ」


 職員を咎めることなく促すと、胸元に手を当て大きく息を吸った。


「閉じ込めていた小将軍カヨーリングスが脱獄しました!」


 おいおい、五指将軍の一人が逃げたのか。

 あの時はフルメンバーだったからあっさり倒せたが、少人数で挑んでいたら勝てたかどうか。そんな危険人物の脱獄を許したとなると担当者はただじゃすまないぞ。


「何とっ! 見張りを担当していた衛兵たちはどうなった!」


「全員が眠らされた状態で命に別状はありません」


「そうか……詳しい説明を頼む」


 逃げた相手のことより見張りの心配を真っ先にするのが熊会長の美点だよな。

 集落を仕切る者としては、そんなことより逃げた敵のことを考えるべきだと言う人もいるだろうけど、俺はそんな熊会長だから住民たちに信頼され親しまれているのだと思う。


「今朝、人員の交代の際に眠りこけている見張りを発見、慌てて牢屋に向かうと小将軍の姿は消えもぬけの殻だったようです。特殊な合金で作られた格子は、鋭利な刃物で切断された跡があったとの報告を受けています」


「加護を防ぐ特殊な牢屋の格子を切り落とすか……純粋な武芸の腕のみでやったということになる。ユミテ、それは可能なのだろうか」


 刀の使い手として並ぶ者がいないと言われているユミテお婆さんに視線が集中する。


「ええ、可能だと思いますよ。同じことをやれますからねぇ」


「流石婆さんだ、おっかないのう」


 茶化すお爺さんに見えるように仕込み杖の中から刃を覗かせると、一瞬で姿勢を正し黙り込んだ。


「どの程度の腕が必要だと思う」


「そうですねぇ、切り口を見れば大体の腕はわかりますよ」


「すまぬが、切断された格子を持ってきてくれ」


「わかりました、直ちに!」


 熊会長の指示に従い職員が踵を返し、足早に退室していった。

 問題が追加されたことに頭を抱えそうな熊会長が気を取り直して、会議を続けようとすると、


「会長、やべえぞ!」


 今度はカリオスが息を切らして室内に乱入してきた。


「小将軍が逃げ出したことは連絡を受けている」


「えっ、そうなのか!? って、こっちは別の要件だ!」


 おいおい、ここで更に問題事が追加されるというのか。

 カリオスがここまで取り乱しているのは珍しい……この先の展開を知りたくない。


「正直、勘弁してほしいが聞かぬわけにもいくまい。何があった」


「遠征に出ていたハンターが慌てて帰ってきたんだが、そいつがこの先に魔物の大群を発見して、それが集落に向かって来ているそうなんだ!」


 会議室の面々がざわついている。この展開前にもあった。

 冥府の王により異変が起こり始めた時、清流の湖階層は魔物の襲撃を受け、壊滅状態に陥っている。それから、何とか魔物を追いだし異変を解決してここまで復興したというのに……また同じことの繰り返しなのか。


「どの程度まで魔物の群れは近づいている。数は」


「肉眼ではまだ発見できてねえ。数はそいつが言うには五百以上は確実にいるそうだ」


 五百ときたか。この集落には犬岩山階層の住民が雪崩れ込んできたので、総人口は今五百を超えていると思う。ただ、戦える人はどれだけいるのか。


「戦えない住民たちに避難させるしかあるまい。ここに住民を集め、女子供優先で協会内に匿うようにしてくれ。衛兵、ハンターたちは門の前に集合するように連絡を頼む」


「わかりました!」


 会議室でメモを取っていた職員がカリオスと一緒に跳び出していった。


「皆、会議はここまでだ。各自、人手の足りない部署の手伝いを頼みたい」


 全員が黙って頷き、俺もラッミスに担がれて協会の外へと出ていく。

 既に話が広まっているようで協会目指して駆けてくる、住民の姿が目に入る。


「うちらはどうしよう」


「も ん に」


「うん、わかった!」


 先ずは門に向かって、敵の確認をしたい。逃げ出した小将軍カヨーリングスも気になるが、この状況だ追手に人員を割く余裕はないよな。

 素直に従ってくれたラッミスに運ばれて門に辿り着くと、壁を登って上に設置してもらう。

 そこで備え付けの双眼鏡にフォルムチェンジをする。もっとも拡大率の高い双眼鏡になり遠方を注視すると確かに蠢く無数の群れが見えた。

 大地を埋め尽くす魔物の群れ、これは五百じゃ済まないぞ。四桁は確実にいる。おまけに王蛙人魔や双蛇魔の姿もある……階層主の八足鰐はいないか。


 これは冥府の王が仕掛けてきたと考えて間違いないだろう。仲の悪い三種の魔物たちが争いもせずに、こちらに向かって来ている時点で確定したも同然だ。

 他の魔物で面倒なのは空にいるのは羽の生えた魚か。あれはハンター協会で籠城戦の時に厄介な敵だった。

 魔物の大群相手に地球の戦国時代の戦略を用いて圧勝する話を、漫画や小説で読んだことがあるが正直無理のある話だよな。

 まず、ここは魔法や特殊能力が存在する異世界なので、そもそもの戦略が成り立たない場合がある。更に相手は魔物なので思惑通り進むとは限らない。

 更に鳳翼の陣やら釣り野伏せといった戦法もある程度の戦力差なら埋められるかもしれないが、一桁違う数の相手に勝つのは夢を見過ぎだろう。

 ここは地球の知識は捨てて、この世界ならではの戦略を考えるべきだよな。ファンタジーな異世界だからこそ可能な戦い方を。

 まあ、それを決めるのも自動販売機の役目じゃなくて会長たちなのだが。


「うわっ、前より酷い数だよね」


「こりゃ、ひでえな。ただ、こっち側からしか現れていないのが、マシか」


 集落の四方を取り囲むのではなく、門のある側からしか敵は進軍してきていない。門を死守できれば何とか凌げる可能性も出てきた。

 敵も今のところ、この階層に存在する魔物だけのようだ。冥府の王がある程度、ダンジョン内を操作できるとはいえ、他階層の敵を呼び出すのは無理らしい。

 下に降りてヒュールミが門を守っていたゴルスに情報を伝えると、門を人がギリギリ一人だけ通れるだけの隙間を残して閉じた。

 まだ外で狩りをしているハンターがいることを考慮しての行動だ。


 続々と門前の広場にハンターたちが集まっている。元々、清流の湖階層に居たハンターもいれば、他の階層から流れてきたハンターも多い。

 下の階層になれば敵の強さが上がる為、ハンターも実力者が増えていく。闇の森林階層と犬岩山階層のハンターはかなり期待できる。


「遠距離攻撃が可能な者は壁の上に移動してくれ! 千里眼や情報収集に適した加護持ちはこっちに!」


 ゴルスが大声を張り上げて指示を出している。こんな状況なのでいつもの物静かなキャラを貫いている場合じゃないのだろう。

 前回破壊されてから壁は改良を施していて、厚みも高さも増したので上に人が乗れるようになっている。

 シュイも壁の上に陣取っているな。あれっ、隣にいるのは園長先生か。弓の腕ならこの階層どころかダンジョン内で一番との噂がある人なので、そこに居てくれるだけでも頼もしい限りだ。


「シュイお姉ちゃんも園長先生も、頑張ってねー!」


 壁の近くまで来ていた孤児院の子供たちが、大きく手を振って応援している。


「はい、頑張りますよ。みんなは大人の言うことを聞いて、迷惑かけないようにしてくださいね」


「みんな、良い子にしていたら、ハッコンが後でお菓子くれるっすよ」


「いらっしゃいませ」


 そんな話は初耳だが、ウィンクをするシュイに話を合わせておいた。

 大人たちに手を引かれて子供たちがハンター協会へ向かっていく。この子たちの為にもここは死守しないとな。

 まだまだ距離があるので開戦までには時間があるが、その間にやれることはやっておくか。


「ら っ い す」


「なーに、ハッコン」


「く あ ろ う」


 そう発言して飲み物と食料を〈念動力〉で浮かせる。


「これをみんなに配るんだね」


 それだけ理解してくれたラッミスと一緒に、壁の上で武器の手入れをしているハンターたちに手渡していく。

 腹が減っては戦ができぬって言うからね、食料を渡しておいて損はないだろう。

 それから、災害用簡易トイレを幾つか設置して、一度ハンター協会に戻って住民たちの食料と飲み物を大量に提供した。

 これだけ住民がいてもこの食料の数なら二日はいけるだろう。


「すまぬな、ハッコン。お主がいてくれるだけで、随分と楽になった」


 熊会長が腰を九十度折り曲げて深々と頭を下げてくれた。


「ハッコン、ありがとうな!」


「マジで助かるぜ。今度大量に購入させてもらうから!」


「このタオルもありがとうね」


 住民も口を揃えて感謝の言葉を投げかけてくれる。


「こ ま っ た ら」

「お た が い さ」

「ま だ よ」


 俺だって随分お世話になっているのだから、こういう時ぐらいは恩返しさせてもらわないと。


「そう言ってくれると助かる。消費した金銭は後程支払わせてもらうので安心して欲しい」


 これを断っても熊会長は律儀に支払おうとするのはわかりきっているので、「いらっしゃいませ」と返しておいた。

 再び門周辺に戻ると、黒服の男女とスオリが大声を張り上げて大量の武器防具を配っていた。


「矢や投げナイフ等の飛び道具の補充はこちらでお願いします!」


「武器防具の修理も承っております!」


「非常時ですので全て無料で提供しておりますわ。遠慮なくご使用くださいませ」


 無料で配るとは太っ腹だな。

 俺たちが近づくとスオリがこっちに駆け寄ってきた。


「お二人ともご苦労様ですわ」


「スオリちゃんも頑張っているね」


「しっかし、無料提供とは大盤振る舞いじゃねえか」


「当然ですわ。父上が良く申しておりました、損して得取れと。我が商会の名を売るには絶好の機会。前回の騒動後に武器防具職人に大量の注文をして、備えていた甲斐があったというものですわ」


 実はスオリって商才があるのだろうか。

 今回の一件で知名度が上がり好印象を与えたのは確かだ。これから利用する際にはスオリの店の品を買おうと思ってしまうのが人情だろう。

 宣伝として考えるなら彼女の行動は正しく理にかなっている。だけど、それが本心かどうかは怪しい。


「そう言っているけど、実は集落の人のことが心配で備えていただけだよな」


「ヒュールミもそう思ったんだね。うちもそう思う」


「いらっしゃいませ」


 俺も同意するよ。理屈を並べていたけど結局はスオリの優しさだと思う。素直になれないところが、可愛らしいところでもあるけどね。

 前回と違って準備は万端に近い。冥府の王がどんな妨害を仕掛けてこようと、集落の仲間たちと乗り越えてみせる。


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[気になる点] 床コンクリートの弾丸と火炎放射器を使って4桁の敵をハッコン1人で倒せば、次のレベルアップまでに不足している63万ポイントを獲得できたりするのだろうか?
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