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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
八章

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口を滑らかにする薬

「で、考えを改める気になったか?」


 朝っぱらから何をしに来たのかと思えば昨晩の繰り返しか。


「いやよ……」


「の う」

「さ ん く う」


「のうさんくうってのが何かわからんが、断られたことは伝わったぞ」


 やっぱり英語は現地の言葉に翻訳されない。他の人でも試したことがあるので知っていたが、これが通じたら言葉が足りない部分を補えるのに残念だ。


「なあ、少し真面目に考えてくれよ。俺がこうやって勧誘している間は、お前たちを傷つけさせたりはしねえけどよ……スルリィムや冥府の王は甘くねえぞ。今は俺が何とか説得するからと願い出ているから許されているが、長くても一週間ぐらいしかもたねえ」


 拒絶し続けていると焦れて魔王軍の奴らが強引な手段を取るのか。まあ、そうだよな。

 俺たちは敵対しているのだから、従わない奴らを生かしておく理由はない。


「わかっているな、期限は一週間だ。忘れるなよ」


 そう言ってケリオイル団長が立ち去っていく。

 最後の一言は脅しというより俺に言い聞かせている様だった。まるで――


「一週間以内に……逃げろって……言っているみたい……」


 ピティーもそう思ったのか。

 期限は最長で一週間。その間に逃走経路と手段を確保しなければならない。

 ラッミスたちが助けに来ることを期待したいが、場所もわからない敵の本拠地に都合よく現れることはあり得ないだろう。

 となると、まずは本拠地の内部構造を把握しておきたい。敵の数も調べておかないとな。その為にはどうすればいいのだろうか。

 考えろ、自動販売機である俺に何ができるのか、考えるんだ。


「ハッコンさん……ご飯……もらっていい……お腹空いた……」


 お、ごめんごめん。朝ごはんの時間はとっくに過ぎていた。

 腹が減っては戦ができぬって言うからね、まずはお腹を満たしてもらおう。

 用意した料理を美味しそうに頬張るピティーを見つめていると、ふと一つの案が思い浮かんだ。

 ドンッと、扉が開かれた音がしたので視線を向けると紅白双子が揃って現れた。


「ハッコン、飯と飲み物頼む! あと、もう少し割り引いてくれっ」


「あんまり金ねえんだよっ! 頼むよ、ハッコン様ぁ」


 縋りつく二人が鬱陶しいので商品の金額を戻しておく。


「おおっ、ハッコンさんマジかっけえっ!」


「食いまくるぞおおぉぉ」


 あまり良い物を食べていなかったのか、二人が好物を貪っている。その姿は適度に飢えた状態のシュイのようだ。


「お ご り だ よ」


「おっ、わりぃな」


「最高の魔道具だぜ、ハッコンは!」


 彼らに俺からカクテルをプレゼントした。甘口で飲みやすいものを選んだので、彼らなら水のように幾らでも飲み干すことができるだろう。

 うんうん、好きなだけ飲んでくれ。こっちのちょっとアルコール度数の高い日本酒もどうぞ。おー、いい飲みっぷりだね、こっちも遠慮なくぐっとやってくれ。





 一時間後、ぐでんぐでんに泥酔した二人がいた。


「ハッコンよぉぉぉ、聞いてくれよぉぉ。俺たちだってよぉぉぉ、ダンジョンのやつらもよぉぉぉ、大切なんだよぉぉぉ」


 何度目だこの話。白は絡み酒なのか、もう少しアルコール度数を抑えておくべきだった。


「えっぐえっぐ、会長にも世話になってるから、うっうっうっ、心苦しいんだぜ、うおおおぉぉぉ」


 赤は泣き上戸だし。前に飲ませた時はここまで酷くなかったのだが、ここでかなりストレスが溜まった結果なのだろうな。

 口が軽くなった二人から情報を引き出した結果、わかったことが幾つかある。

 ケリオイル団長たち四人はここでは歓迎されていない。ダンジョン攻略に必要だから仕方なしに置いてやっているぐらいの立場。


 優秀な配下がいるなら何で人間にダンジョン攻略をさせているのかという疑問があったのだが、外から来た魔物が争った場合、ダンジョンの魔物に対する力が弱体化するそうだ。

 なので自軍の魔物を投入してもダンジョン内の魔物に一方的に蹂躙される可能性が高い。

 スルリィムは雪精人という異種族ではあるが魔物扱いではないので、このダンジョンの魔物相手でも普通に戦える。これはキコユもそうだったから納得だ。

 ただ、魔物に対して力が半減するだけで対人間相手なら問題ない。そこも弱体化してくれるなら冥府の王の相手も少しは楽になるのにな。


「ここにはよぉぉぉ、五指将軍ってのがいてよぉぉぉ。威張りくさっていてむかつくぅぅぅ」


 冥府の王の配下が全員ここに揃っているのは面倒なことこの上ない。


「でもぉぉ、冥府の王も五指将軍も最近、見かけないよな、うっうっぐすっ」


「小指とぉぉぉ、人差し指とぉぉぉ、親指がいねえなぁぁ、あれ何でだ?」


 自分で口にして疑問に思ったようで、酔っ払い二人が顔を見合わせて同時に首を傾げている。

 小指は闇の森林階層で捕えた敵だよな。今は清流の湖階層の地下牢の中だ。残りの親将軍と人差将軍は未知の相手だがここにはいないのか。

 薬将軍はスルリィムのことだから、もう一人の中将軍がこの拠点には滞在していると。忘れないでおこう。


「こ こ ま も の」

「お お い の」


「ああー多いぞぉぉぉ、下っ端は骨ばっかだけで、辛気臭いけどなぁぁぁ」


「最低でも百は、うっうっ、いるんじゃないうおぉぉぉ。あの骨、話し相手にもなってくれないんだぜ、悲しいじゃないかあああ」


 俺が酔わせておいてなんだが面倒臭いなこの二人。

 しかし、情報は有益だ。冥府の王が骸骨なので配下はスケルトン軍団なのだろうか。確かこの世界では骨人魔という呼称だったか。


「が い こ と ぅ」

「い が い あ」


「骸骨以外は、人間もいるぜぇぇぇ。辛気臭いコート着たのがよぉぉぉ」


「うっうっ、人間なのか人間っぽい種族なのかは、ぐすっ、わかんないけど」


 骸骨は単純な命令だけを守って動いている感じなのだろうか。全員ちゃんと意思があると厄介だが、もし思考力がないのであれば何とかなるかもしれない。

 となると、問題は人間かそれっぽい種族だな。

 酔っ払い相手にそれからも情報を引き出すと、二人は完全に酔いつぶれて眠ってしまった。

 無駄も多かったが、有意義な時間だった。この情報は全て〈防犯カメラ〉で記録したので、いつでも引き出せる。


「この酔っ払い……どうするの……扉……開きっぱなし……」


 本当だ。扉は開いて二人は眠りこけている。普通なら絶好のチャンスなのだが、内部の構造も不明だし、敵の配置もわからない。

 おまけに自力で動くのが無理なので、早まらない方が良い気がする。


「ぽ て い さ ん」


「ピティーです……何……」


「か ら だ ま さ」

「く っ て」


「体まさくって……もしかして……まさぐって……かな……」


「う ん う ん」


 少しはハッコン語が通じるようになってきた。ここに連れてこられてから、何だかんだで言葉を交わす機会が多いからな。


「寝ている……男子に……いたずらなんて……できない……」


 そんなこと頼んでいません。何を勘違いしたのか、頬を染めて照れている。


「と う ぽ う に」

「ゃ く た ち」


「とうぼうに……やくたち……逃亡に……役立つ?」


「う ん う ん」


 いいよいいよ、ピティー。そろそろ、ハッコン語初級認定してもいいかもしれない。

 理解してくれたようで、双子の体を調べてくれている。


「こんなの……あった……」


「こ っ ち に」


 俺の前に突きつけられたのは拠点の見取り図だった。

 更に敵の数や配置場所も記入されている。紅白双子たちも見回りをさせられていたのかもしれないな。その全てを録画しておいたので、いつでも確認できる。

 覚えてしまったらもう必要ないので元に戻してもらった。他に重要なアイテムはなかったようで、ピティーが盾に戻っていつものように中に籠った。

 ケリオイル団長たちの立場と、拠点の構造はこれでバッチリだ。後は骸骨の対応力と人間たちがどういった相手なのかを見極めないと。

 今後のことに思考を巡らせていると、半開きだった扉が大きく開け放たれた。


「何しているのかしら、この子たちは」


 そこには冷たく子供たちを見下ろす、フィルミナ副団長がいた。

 魔法で生成した水を紅白双子の顔面にぶちまけると、慌てて飛び起きている。


「貴方たちには後で話があります……ハッコンさん、スルリィム様が呼んでいますので、同行願えますか。ピティーさんは結構ですので」


 俺だけ呼び出しなのか。

 断ることにデメリットしかないから、ここは大人しく従おう。

 俺に何の用があるのかも気になる。いざとなったら〈結界〉で耐えられるから直ぐにスクラップなんてことはないだろう……きっと。


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