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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
八章

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互いの実力

 多種多様な武器がフィルミナ副団長を目指して突き進んでいく。

 筋力と器用さのステータスが上がっている俺の結界弾きは、命中率も高く威力もそれなりにある。

 何十もの武器が迫りくる状況で彼女は右手を前にかざした。前方に円盤状の水が現れたかと思うと渦を巻き、正面衝突した武器たちが呑み込まれていく。

 おー、驚きの吸引力だな。水というのは派手さがないけど、結構万能な能力だよな。まあ、防がれると思ったから、この攻撃を発動させたのだけど。


「どうしよう、ハッコン。全部防がれているよ!」


 まだ慌てる時間じゃないよ、ラッミス。本命はこれだから。

 右端の棚に置いてあるアレは弾き飛ばさないでおいたのだが、ここで使うべきだよな。

 ヒュールミから預かっていた発明品を水の渦に向けて放った。中古武器と同様に渦に呑み込まれると、瞬く間にそれは凍り付いた。

 ラッミスが階層割れの上にできた池を凍らせた際に使った発明品の威力は流石の一言だ。


「えっ、何故、スルリィムが!?」


 水が突如凍りついたので雪精人のスルリィムがやったことだと誤解して、森の方へ視線を向けている。隙ができたな。

 コインロッカーの左端に予め入れておいた二リットルペットボトルを四つ、凍った渦を避けるような放物線を描く軌道になるよう弾き飛ばした。


「スルリィムは戦闘中よね……あっ」


 上から落ちてきているペットボトルに気づいたようだが、もう遅い。ペットボトルを消して中身を解放した。


「水なら私が操れ……えっ?」


 ただの水だと思って油断したな。彼女は水を操れると口にしていたから、一見透明の水に見える液体を目にして操れると思い込んでしまった。それが敗因だ。

 結果、それを頭から大量に被ることになった。


「このぬるぬるした液体は……始まりの階層で」


 正解だよ。潤滑剤――つまりローションで全身を濡らしたフィルミナ副団長は、色々と危険な見た目になっているが狙いはそこじゃない。


「は、羽がっ」


 蝙蝠の羽は薄い膜が張ってあるのだが、それに大量のローションが付着すれば必然的に飛ぶことが困難になる。

 これが容赦の必要ない相手なら灯油を入れた方を投げつけていたが、敵対しているとはいえ割り切ることができなかった。

 バランスを崩したフィルミナ副団長が左右に揺れながら落下してくる。

 基本の自動販売機に戻った俺は、駄目押しとして大量のペットボトルや缶を弾き飛ばす。まともに飛べない状況でも水を巧みに操り、ペットボトルを水の弾丸で叩き落としていく。

 そして、何とか地上に降り立った彼女はローション塗れでこちらを睨んでいる。


「してやられましたが、私の水をうち破ることはでき――」


 その言葉を最後まで言うことなく、彼女は前のめりに倒れた。

 背後には拳を突き出した格好のラッミスがいる。俺が攻撃を続けることで意識を向けさせていたのだが、思いの外、上手くいったな。

 完全な不意打ちとなった一撃をもらって、あっさりと気絶している。

 大気の水分を感じて相手の居場所がわかると口にしていたが、そのセンサーもローションで覆ってしまえば役に立たなかったみたいだな。

 ラッミスが素早く彼女の体を縄で縛っている。あれは相手の魔法や加護を封じる特製の捕縛縄なので、途中で目覚めても無力なままだ。

 先ずは一人目の身柄確保。他の戦況はどうなっている。


「あーもう、うぜえええっ!」


「なんだよ、その戦い方っ!」


 苛立ちを隠そうともせずに叫びながら攻撃を続けている紅白双子だが、その全てが盾に阻まれている。それだけではなく、二枚の盾内部から時折、矢が飛び出してきて攻撃に集中できていない。

 シュイがピティーと背を合わせていて、盾の内側から狙撃を繰り返している。

 更にヘブイが鉄球を振り回して牽制しているので、二人のコンビネーションがまともに機能していない。


「手伝うよー」


 駆け寄っていくラッミスに気づいた紅白双子が顔をしかめた。

 攻めあぐねている状況で俺たちが参入すると勝ち目は消えたといっても過言ではない。


「母さ……副団長も倒されちまったのか」


「こうなったら、オヤジかスルリィムが助けに来てくれるまで、時間稼ぐしかねえぞ、白」


「おうよ、赤。倒せないなら倒されなけりゃいいってわけか」


 さっきまでは果敢に攻撃を加えていたのだが、今は周囲を走っているだけだ。


「おらおら、悔しかったら倒してみろよ!」


「へいへい、殻にこもってないで出て来いよっ!」


 挑発する姿が似合っているな、と感心している場合じゃない。

 動きを目で捉えるだけでもきついのに、逃げの一手となるとこの面子では倒すのは困難になる。

 わざと攻撃を躱す際に変なポーズを取るところが、挑発の意味を理解している。ヘブイはさほど気にしていないようだが、シュイがかなり苛立っているようで矢の精度が落ちている。


「注意を逸らして足止めが出来れば、仕留められるのですが」


 俺の近くまで歩み寄ってきたヘブイが物騒なことを口にしている。平静に見えて実は怒っているのだろうか。


「うちが殴っても当たりそうにないよ」


 あの速度で走り回られたら、ミシュエルだとしても攻撃を当てるのは容易ではないだろうな。でもまあ、実は全く焦っていない。

 紅白双子に対する策は既に練っている。

 脚を封じるならローションを地面に撒けばいいと思われがちだが、ここの地面は海岸の砂地に近いので、撒いたところで染み込んでしまうだけで効果は薄い。

 でも、一瞬だけでいいなら注意を引きつけて足を止めることも可能だ。


「なるほど、そういう手ですか。あの二人なら引っかかるでしょう」


「えっ、ハッコン何かしたの?」


 俺が商品を変えるとヘブイが一瞬にして何をしたいのか理解してくれた。ラッミスからは見えない位置なので気づいてないようだが。

 商品を取り出し口に落として〈念動力〉で操り周囲に浮かび上がらせる。


「ハッコン、何しているの、見えない見えないよ」


 見せる気がないからね。

 素早く後ろに振り返るが、背負っている俺も半回転しているのでラッミスが見ることはできない。


「ら っ い す」

「と っ こ う」


「何か考えがあるんよだね? 後でちゃんと教えてよ!」


 ラッミスが二人に向けて走り出し、ヘブイも並走している。

 突っ込んできた俺たちをちらっと横目で確認したな。あの商品は相手から見えないように背後に隠している。もう少し距離を縮めてからが本番だ。

 あと数歩で手が届く範囲に詰め寄ると、二人がこっちを見てニヤリと笑い距離を取ろうとした。

 今だ!

 俺は隠していた商品を〈念動力〉で操り、紅白双子に突きつけるように範囲ギリギリまで移動させた。


「へっ、ぬおおおおっ!」


「おおおおおっ!」


 紅白双子の足が止まり、その口から絶叫が上がる。

 その目は俺が取り出した――エロ本に釘付けになった。

 特にエロい写真が掲載されている袋とじを開封して、広げた雑誌の破壊力が凄まじかったようだ。

 妖艶な格好をして誘惑する女性の姿。色々と修正が施されているので、スタイルも顔も文句のつけようがない女性の裸体がそこにあった。

 現状を忘れて無防備なスケベ面を晒している双子に、鉄球と矢が迫る。


「って、あぶねえっ!」


 間一髪のところで躱したのか。二人とも我に返り、その場から大きく跳躍している。


「おいおい、そんな手に引っかかるかよ」


 ちっ、引っかかりかけていたくせに。女好きでエロの化身の様な二人でも、そこまで間抜けではなかったか……備えって大切だよな。

 跳び退いた二人が何故か着地で体勢を崩し、鉄球を脇腹に喰らって吹き飛んだ。

 体が横にくの字に折れ曲がっていたが、二人とも死んでないだろうな。


「卑怯だ……ぞ……ハッコン……」


 痙攣している赤がそれだけを口にして気を失う。良かった、死んではいないようだ。

 最後の捨て台詞は人聞きが悪いから、策略と言って欲しかった。


「今、何で二人は着地を失敗したの?」


「そうっすよ、何で変な動きをしたっすか?」


 盾の内側から出てきたシュイも二人の最後に納得がいかないようだ。


「答えは単純明快。あの二人の足元をご覧ください」


 ヘブイは俺の策を理解していたからこそ、あの二人の着地際を狙ってくれた。

 彼の指差す場所には、地面に散乱したエロ本があった。俺が予め周囲にエロ本をばら撒いていたからな。

 ただの写真だとわかっていても、魅力的な女性が足下にあることに動揺して、一瞬だけでも踏むのを躊躇った結果がこれだ。


「最低っす、バカ双子もハッコンも」


「ハッコン……」


 あれっ? ジト目で二人に睨まれている。

 何故に俺が責められる展開に。ここは見事な策略だと称賛される場面では。


「私は評価しますよ」


 俺の体をポンポンと優しくヘブイが叩いてくれた。

 くっ、ヘブイに同情される日がこようとは。


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― 新着の感想 ―
ハッコ〜ン!(≧▽≦)
[一言] う一ん、ローションまみれにしたり、エロ本で釣ったり、罪深い自販機よのぅ
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