総力戦
こちらの現戦力はラッミス、ミシュエル、ピティー、ヘブイ、シュイ。
敵側はケリオイル団長、フィルミナ副団長、紅白双子。
五プラス一台対四で、尚且つ個々の戦力でもこちらが上だと……思っていた。
ケリオイル団長の加護〈破眼〉が厄介なのは覚悟の上でも、総合力でこちらが上回っていると考えていたのだが。
「ハッコン師匠、ケリオイル団長はお任せください」
加護の力に頼り切っていないミシュエルが団長の対応をするのは、予め決めていたことなので、ここは任せることにした。
「ま か せ た よ」
「はい! ケリオイル団長お手合わせ願えますか」
「おっ、俺の担当はミシュエルか光栄だね」
ケリオイル団長ならこちらの意図ぐらい読んでいるだろうが、あえて乗ってきたのか。それぐらい、家族を信用しているとも取れるが。
「では、残りの我々は副団長と」
「バカ息子の相手をするっす」
「うるさいの……苦手……」
「人のことをバカって言う人がバカなんですぅー」
「そうですぅー」
「はいはい、真面目にやりなさい」
元同僚だけあって気負いが一切ない会話だな。まるで今から訓練でも始めそうな雰囲気だが、今からやるのは本気の戦いだ。
どちらも相手を本気で殺す気はないようだが、手を抜く気はない。その結果、死ぬことになっても受け入れる覚悟はしているのだろう。
「しっかし、元仲間相手にマジで戦う日が来るなんてな」
「マジでやらないとこっちがやべえから、しゃーねーだろ、白」
紅白双子が顔を見合わせて笑うと、俺たちに向き直り同時に片腕を掲げた。
そして勢いよく振り下ろすと、二人の体から黒い闇が溢れ出し、彼らの体を覆っていく。変貌はそれだけではなかった、白は右肩から、赤は左肩から蝙蝠の様な羽が一枚だけ生えたのだ。
「そういえば、副団長が吸血魔の血を引いているのでしたね」
ヘブイはノーリアクションだが、隣のシュイは目を限界まで見開いて顔で驚きを表現している。
ピティーは前髪に隠れて表情がわからないが、頭が忙しなく動いているので動揺しているのは確かだ。
「ちょっと、カッコイイね」
ラッミスは呑気だな。フィルミナ副団長が吸血魔という種族だったから、その血を引いているので、あのような姿になったのか。
よく見ると眼球も紅く染まっているな。
「では、私も本来の姿を晒させてもらいますね」
フィルミナ副団長はそう言うと両腕を大きく広げ、それに合わせて蝙蝠の両翼が黒い霧と共に現れた。こっちは一対の羽が揃っているのか。
彼女の場合、吸血鬼や悪魔というより堕天使に見える。
「皆さん、お気を付けください。吸血魔というのは人よりも身体能力が優れた種族です。今までの彼らのイメージを払拭しなければ、やられかねませんよ」
真剣な表情で警告するヘブイに仲間たちは神妙な面持ちで頷いた。
視界の隅では既にミシュエルたちが戦いを繰り広げている。ミシュエルの洗練された剣技を団長が短剣で受け流しつつ、斬り込んでいる。鎧の継ぎ目を狙っているようだが、少し体をずらすことで斬撃を弾く。
ケリオイル団長の動きは驚愕する程素早くもないのだが、受け流しの技能と相手の懐に跳び込むタイミングが秀逸だ。
「その瞳、厄介ですねっ!」
「流石だな、この目の効力を見抜いているのか」
二人の会話から察するに〈破眼〉は加護を打ち消す能力だけではないということか。
「オヤジ、張り切っているな。こっちもガンガンいくとしますか」
「活躍しないと後でどやされそうだからな」
二人の戦いに触発された紅白双子が前傾姿勢で駆けこんできた。
赤は短い槍、白は刀身が真っ直ぐな小剣。二人とも素早い攻撃を得意としていたよな。威力は低いので耐久力のある魔物を相手には苦戦していたが、人間相手となると充分な殺傷力がある。
「相手……は私……」
巨大な盾を構えたピティーがすっと俺たちの前に出て、無造作に二人へ歩み寄っていく。
二人が同時に武器を突き出すが、難なく盾で弾く。左右、上下、側面、裏側、残像が見える速度で周囲を駆け回り、あらゆる角度から攻撃を仕掛けているのだがピティーの体を掠めることすら叶わない。
紅白双子の身体能力の向上にも目を見張るものがあるが、ピティーの防御はまさに鉄壁だ。
盾が大き過ぎて相手の姿は見えない筈なのだが、的確に盾を操り一切攻撃を通さない。
「思ったより……速い……怖い……」
「くっそ、当たんねえなっ!」
「マジでスゲエな!」
苦戦している割には声が若干嬉しそうに聞こえる。これは二人の気質なのだろう。
ピティーに手間取っている紅白双子が突如、その場から大きく跳び退った。
「不意打ちなんて悪役のやることだぞ!」
「そうだそうだ!」
「うるさいっす。勝てばいいっす、勝てば」
「ええ、世の中勝利した者が正義ですので」
どっちが味方なのか疑いたくなるような事を口にしているのは、矢をつがえているシュイと、鎖の伸びたモーニングスターを手にしたヘブイだった。
攻撃に集中している二人に矢と棘の生えた鉄球をプレゼントしたようだ。
「ちゃんとしないと、お父さんに言いつけます……あらっ」
そーっとフィルミナ副団長の裏側に回り込んでいた俺とラッミスが奇襲したのだが、背後に水の壁が現れ、ラッミスの拳が激突すると爆風と共に水飛沫が散った。
俺たちは何もせずに観戦していたわけじゃない。後方で控えている副団長を狙ったのだがあっさりと防がれてしまった。
しかし、今の水の壁は水量が尋常じゃなかった。本気を出せばあれぐらいの水は操れるということか。
「バレてた?」
「ええ、大気に含まれている僅かな水分がこの羽に接近を伝えてくれていましたので」
その羽はセンサーの役割も果たしているのか、チートっぽい能力だな。今までのフィルミナ副団長と同じだと思ったら、痛い目を見る程度では済まない。
「ま も り」
「ま か せ て」
「うん、頼りにしてるよ!」
余計なことはせずに防御に集中しよう。攻撃はラッミスに全て託して〈結界〉の発動と維持に集中するぞ。
ラッミスが踏み込むと大地が爆ぜ、たった一歩で五メートル近くを一気に詰める。
フィルミナ副団長が一瞥しただけで、またも巨大な水の壁が進路方向に現れた。加速のついた拳を叩き込むと、水が弾け飛び二人を隔てる壁が消滅した。
あれだけの水量を拳一つで吹き飛ばすとは思っていなかったのだろう、驚きを通り越して呆れ顔の彼女が見える。
「捕まえたっ!」
跳び込んだ勢いのまま殴ると彼女の威力だと原形を留めないミンチができあがってしまうので、その両腕でしっかりとフィルミナ副団長を抱きしめると――爆ぜた。
「ぎゃあああっ! ハッコン、フィルミナさんが爆発した、どうしよう! 力込め過ぎたのかなっ!?」
半泣き状態で騒いでいるラッミスはびしょ濡れになっている。捕まえた瞬間、相手の体が水になったのを見逃していなかった。
つまり、抱き潰したように見えたのはフィルミナ副団長の形をした水の塊。
「あ っ ち」
落ち着かせる時間も惜しいので、取り出したペットボトルをラッミスの目の前に漂わすと〈結界〉で上空へ飛ばす。
ラッミスの視線がペットボトルを追うと、上空に浮かんでいるフィルミナ副団長がいた。背中の蝙蝠の羽が忙しなく羽ばたいて空中で停止している。
「惜しかったですね。貴女の攻撃は脅威の一言ですが空に逃げれば済む話です」
ただの魔法使いなら俺の〈結界〉とラッミスの破壊力で完封する自信はあったのだが、空に逃げられると手の出しようがない。
「あの水を撃ち出す攻撃も止めた方がいいですよ。この状態の私は水を手足のように操れますので」
あれだけの水量を操る相手に高圧の水をぶつけても、水鉄砲で遊んでいるようなものだろう。下手したら逆に利用されかねない。
確かに今までなら対空手段はなかった。ここで黒八咫がいてくれたら話は違ったのだが、いつまでもいない相手に頼るような自動販売機ではない。
今までなら手段はなかった。そう、今までなら。
以前からずっと考えていたのだ、空中の敵に対する攻撃手段の確立を。
みんなには一度も見せたことはなかったが、前に取得していたあれにフォルムチェンジをするぞ!
「か た ち」
これは新しく形を変える時にラッミスが戸惑わないように、あらかじめ決めておいた台詞だ。
俺の体は横にぐんぐん伸びていく。高さは基本の自動販売機と変わらないのだが、横幅が三倍以上になり、ラッミスが小さな壁を背負っているような姿になっている。
ただ長方形の箱になったのではない。前面には無数の小さな青い扉が規則的に並んでいて、取っ手の傍には硬貨の投入口があり鍵が突き刺さっている。
そう、俺がフォルムチェンジしたのは〈コインロッカー〉だ。駅や空港、プールや銭湯の脱衣所で一度はお目にかかったことがある、あれだ。
本来はここに荷物を収納しておけば、いつでも取り出せるのではないかと思って選んだのだが、あれこれ実験している最中にもう一つの用途を思いついた。
「また、妙な姿になりましたね。そんな大きな箱でどうするのですか」
「こ う す り ゅ」
ラッミスの体が触れている部分の扉以外を全部開く。
開いた扉の先には、闇の森林階層の武器屋で投げ売りしていた中古の武器が大量に収納されていた。
「う で く ん で」
「えっ、うん」
状況を把握していないラッミスだったが、俺の指示通りに腕を組んでくれた。
ちなみに全く意味のないポーズなのだが気分の問題だ。
フィルミナ副団長を見上げているので角度もバッチリだな。俺は〈コインロッカー〉に詰め込んでいた中古の武器を〈結界〉に入ることを拒否する!
ラッミスの背後から勢いよく飛び出していく無数の武器たちが、彼女を貫く為に解き放たれた。




