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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
八章

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再び会う

「あれが……住んでいた島……です……」


 巨大な二枚貝の口が少し開き、そこから伸びた手が指差す方向に島が見える。

 そんなに大きくない島なのか。高校のグランドぐらいの大きさかな。島の半分に木々が生い茂っているが、もう半分は平地で丸太小屋が一軒だけ寂しそうに建っていた。


「あんな所に住んでいたっすか」


「食料はどうしていたのです?」


 元団員の二人がピティーに話しかけているが、貝の口は再び閉じている。中から声が微かに聞こえてくるので返事はしているようだ。


「ハッコン師匠。あちらをご覧ください」


 ミシュエルの指差す方へ視線を向けると、砂浜に一隻の船が接岸していた。

 俺たちの乗る船よりかなり小さく、大人が五、六人も乗れば限界だろう。


「あれはケリオイル団長たちの船なのか、それともピティーのなのか、どっちだ?」


 ヒュールミの問いに貝の内部から返答があった。


「ピティーは……この盾が船代わり……だから……」


「ってことは、団長たちの船っぽいぜ。みんな、言われるまでもないだろうが、油断するなよ」


 船が残っているということは、団長たちが残っている可能性が高い。

 予想はしていたがいざ対面となると警戒よりも緊張が先にくる。あんな別れ方をしておいて、今更何と言って顔を合わせていいものやら。


「私が小細工をしてから、あの船の脇に止めましょう。船長さん、お願いできますか」


「お安い御用だ」


 見事な操舵技術で小型の船近くに停泊した。

 船長と船員を残して俺たちは砂浜に降り立つ。俺たち以外が来ても船は動かさないようにと念を押しておいたが、団長たちが脅してきた場合は自分たちの命優先でとも伝えてある。


「ピティーさん、自力で歩かないと自宅の靴を堪能しますよ?」


「歩くから……やめて……」


 二枚貝を頭から被るような格好でピティーが歩いている。この姿を見たら新種の魔物だと勘違いされそうだ。

 先導する彼女の後に俺たちは並んで進んでいる。

 砂浜から少し進んだ先は岩場になっていて、そこには手作り感溢れる木製の階段があり、そこを登り切った小高い丘に彼女の家があった。

 塀はなく耕された畑があり、色彩豊かな花が家の周りをぐるっと囲っている。


「綺麗な花に囲まれた、素敵なお家だね」


「いずれ、こういう場所で隠棲するのも悪くないな。ハッコンがいれば食料も困らねえし」


 幼馴染コンビには好評で俺もこういう一軒屋に憧れがあるので、二人と一緒に住むのなら悪くないと思う。


「その時はハッコン師匠、私も同居させていただけないでしょうか」


「じゃあ、俺も会長辞めて住むか!」


「ハッコンがいるなら住みたいっす。部屋一つ開けておいて欲しいっす」


 何かここに移り住むことが前提で話が進んでないか。妄想が膨らみ過ぎだ。


「私と……あの人の……愛の住処が……」


 いや、みんな本気じゃないからね。例え話だから、そんなに悲しそうな声を出さないでピティー。


「戯言はそれぐらいで。そろそろ、お静かに」


 唯一話に乗ってこなかったヘブイに注意を促され全員が黙り込んだ。

 ミシュエルが人の気配を察知したら直ぐに知らせることになっているのだが、未だに無反応なのでケリオイル団長たちは既に去った後なのかもしれない。

 だとしたら、あの船は何なのだろうか。


「ただいま……」


 ピティーが木製扉のドアノブを捻り、扉を押し開いた。


「おう、やっとこさ、帰ってきやがったか」


 中から響く声に反応して後退っていくピティーを追うように、ケリオイル団長とフィルミナ副団長、それに紅白双子が現れた。

 全員の表情が少し硬い。こっちを見ていつでも武器を抜けるように構えている。


「ったく、何処かで沈んでねえかと心配したぜ。って、その後ろの奴らは誰だ?」


 四人とも俺たちを見つめて警戒しているようだが、俺たちだと気づいていない。

 それもその筈。事前にヘブイが幻覚を重ねてくれたので、彼らには全くの別人に見えている。

 ちなみに俺は〈ダンボール自動販売機〉にフォルムチェンジして手荷物の幻覚が被さり、ラッミスの小脇に抱えられている。


「最近……海の魔物……暴れている……から護衛……雇った……」


「お前さんは攻撃が苦手だからな。そうか、ご苦労さん。俺からも幾らか報酬渡すぜ」


「いらない……勝手に……人の家に入るの……やめて……出て行って……」


 ピティーの声色が変わったな。少し音量が上がって声に凄味が増してきた。自分の愛の巣に足を踏み入れられたことに本気で怒っている。


「それは、悪かった。居間と風呂だけ借りたが、後は何にも触っちゃいねえ。お前さんの部屋にも入ってないと誓うぜ」


「ええ、馬鹿共をしっかり見張っていたから間違いないです」


「下着漁ったりしたら、殺されるからな。なあ、白」


「実際、未遂で海に放り込まれたよな、赤」


 何やってんだ、紅白双子。

 相変わらずと懐かしむべきか、敵の戯言に耳を傾けるべきではないのか。

 今は敵対してしまったが、未だに彼らの扱いを持て余している。ダンジョンに住む者たちの敵と割り切れたら楽なのだけど、共に過ごした歳月が、感情が、それを許してくれない。


「頼むから、力を貸してくれよ。攻略が不調でな、防御特化のお前さんがいたらかなり楽になるんだ」


「あの人を……待たないと……だから無理……」


「アイツを探すのも手伝ってやるから頼むよー。このままだと、あっちに追いつかれそうなんだよ。手を貸してくれるなら、赤を自由にしていいからよ」


「えっ、白が体を捧げろよ!」


「やだよ。俺はボンッキュッボンしか燃えねえっての。ピティーは無理む、ぐべしっ!」


 白の脳天にフィルミナ副団長の杖がめり込み、床でのたうち回っている。

 そんな白を見て腹を抱えて笑っている赤。この人たちはこんな状況でも自然体なのだな。


「ピティー、考え直してくれませんか。攻略が済みましたら、全力で支援しますので」


「貴方たちは……ダンジョンの人々……よりも……子供が大事……なの?」


「ああ、そうだぜ。それはお前さんもそうだろ。誰だって他人の命なんかとは比べ物にならない、大切な存在がいるもんだ。といっても、俺たちだってダンジョンの住民の命を犠牲にしようとは思っていねえぞ」


 ケリオイル団長は嘘を言っていない。実際、この階層の人々の手助けをしているし、階層を襲う魔物たちに直接手を貸している訳じゃない。

 ダンジョンの攻略だけをメインにやっている。そして、当人たちの言い分を信じるなら、冥府の王を欺こうと企んでいるようだ。


「白い人……前にいた……どこにいるの……」


「スルリィムか。島を散歩しているぜ。部屋に籠ると室内の温度が一気に下がっちまうからな」


 この島にはいるのか。海辺にはいなかったから島の森の中にいるのかもしれないな。いつ現れるかわからないので、〈結界〉をいつでも発動できるようにしておこう。


「俺たちも時間がねえからな、これが最後にするが共に来てくれねえか」


「ダメ……私は……貴方たちとは……いけない……」


 きっぱりと断る際に一度だけピティーの視線が俺を捉えた。あの目は強い意志が宿った目だ。良い意味で吹っ切れたみたいだな。


「はああああぁ、やっぱ無理か。しゃーねえな」


 髪の毛を豪快に掻き毟り、ケリオイル団長が大きくため息を吐いた。

 副団長と紅白双子もこの答えは想定済みだったようで、肩を竦めただけで何も口を挟まない。


「んじゃ、外に出るか。ここで争ったら、ピティーの家がボロボロになっちまうからな。なあ、ハッコン」


「いらっしゃいませ」


 やっぱり、見抜かれていたか。〈破眼〉の加護を持つケリオイル団長に幻覚は通じないとわかっていたので、予想通りの展開だ。

 ただ、意図的に発動して無ければ効力は発揮されない可能性も考慮していたのだが、幻覚程度は普通に見破れるのか。


「えっ、ハッコン!?」


「って、こいつらもしかして……」


「そういうことですか」


 ケリオイル団長以外は気づいていなかったか。本気で驚いているようで、紅白双子が俺たちを指差して右往左往している。


「おう、全員揃っていやがるぜ。何故か灼熱の会長もいるけどよ――破眼!」


 ケリオイル団長の瞳が血のように紅く染まり、俺たちに掛かっていた幻覚が解かれる。

 この加護があれば今後の戦いがかなり楽になるのだが、敵に回すと厄介なことこの上ないな。

 俺たちから小屋の外に出ると、後に続いてケリオイル団長たちが歩み出てきた。

 そのまま小屋から離れて、森の前の雑草が生い茂る一帯で足を止める。


「さて、酒でも酌み交わしながら雑談でもして盛り上がるか? 久々に、ハッコンの飯食いたいしな」


「揚げた肉としゅわしゅわする飲み物が懐かしいぜ、なあ白」


「ああ、思い出しただけで喉が渇くぜ」


「懐かしいですね……本当に」


 そんな穏やかな目でこっちを見ないでくれ。俺たちは敵対する間柄なのだから。


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