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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
八章

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誕生日会

「ぼくたちからは、これを渡すね」


 大食い団を代表してミケから渡されたのは一枚の紙だった。

 何か手書きで書いてあるが全く読めない。勉強中というのもあるのだけど、それ以前に字が汚いような。


「これはいざという時、からあでをくれれば、どんなことでもするという誓約書だ」


 ショートが説明してくれているが、こんなもの無くてもから揚げ渡せば何でもしてくれるよね。でも、ありがたく受け取らせてもらうよ。


「ハッコン師匠、私からはこの指輪を。これは我が一族に代々伝わる指輪でして、永遠の忠誠を誓う証でもあります。己が認めた者に渡す決まりになっています」


 重い! 重すぎるよ、ミシュエル!

 これ誕生日プレゼントで気軽に受け取れる品じゃないよね。いや、そんな潤んだ目で見つめられても困るんですけど。


「駄目ですか」


「あ う ん ありがとう」


 取り敢えず、受け取っておこう。後で落ち着いたら返せばいいだろう。


「私たちからは畑さんが旨味を凝縮させて創りだした作物の種を一つ。これは普通の土で栽培しても意識が吹き飛ぶぐらいの美味しさですので、いつか味わってくださいね」


 キコユから渡された種も人間になってからの楽しみにさせてもらうよ。

 今は悩み事を忘れているのか優しい笑みを浮かべている。この時だけでも悩みが消えたのならいいけど。

 一時期は人間に戻るべきではないのではないかと悩んでいたが、戻った際の楽しみをこんなにも提供されてしまっては、悩むこと自体が馬鹿らしく思えてきた。

 いつか戻った際には、みんなからのプレゼントを使わせてもらうよ。


「残りはオレとラッミスだな。何が良いか前から考えていてな、最近出来上がったこれを受け取ってくれ!」


 ヒュールミがテントの奥から持ってきたのは背負子だった。今まで使用していた物より見るからに頑丈そうで、摩耗が激しそうな箇所が金属で補強されている。


「固定する紐の伸縮機能を強化させているから、急激な形状の変化にも対応できるはずだぜ」


 それは助かるな。たまにフォルムチェンジをした際に振り落とされそうになることがあるから、これがあれば安心していつでも変わることができる。


「えと、じゃあ、最後はうちやね。うちからの贈り物は……」


 ラッミスは一度奥に引っ込むとタイヤの付いた台を二つ引っ張ってきた。その上には白い布が被せてあって、大きさは直径一メートルの半円状のようだが。


「これです!」


 布を取り去ると、そこには巨大な誕生日ケーキが二つあった。

 そこには現地の言葉でハッコンと書かれていて、たぶん下の文字は「おめでとう」だと思う。もう一つの方はキコユだな。

 俺と並んで立つキコユが目を輝かせてケーキを見つめている。


「前にミスダンジョンコンテストの時にもらった本にお祝いの絵があって、これが何なのかハッコンに訊ねたの覚えてる?」


 ああ、あの時の。誕生日に着る服みたいなコーナーがあって、誕生日ケーキと彼女たちが何をしているのかを説明したな。


「いらっしゃいませ」


「あの時に絶対、ハッコンの誕生日にはこれを作ろうって決めてたの。ええと、喜んでくれた?」


「う ん ありがとう」


 まさか異世界で誕生日ケーキと対面するとになるとは。見た感じはシンプルなショートケーキのようだ。上には大きめのローソクが一本立っている。

 そうか、俺は異世界では一歳なのか。

 キコユの方のロウソクの数は触れないのが女子に対する礼儀だ。


「じゃあ、テントの明かり消すぞ」


 魔道具の灯りが煌々と照らしていたのだが、消えるとローソクの光が優しくケーキを照らし出している。


「キコユ、ハッコン、これ吹き消せる?」


 ああ、任せてくれ。フォルムチェンジだ。

 俺は〈コイン式掃除機〉になるとノズルの先端から風を吹きだした。

 威力を調節したのでローソクの火だけが消え、辺りが闇に包まれる。キコユも無事吹き消せたようだ。


「二人とも誕生日おめでとう!」


 拍手が降り注ぐ中、俺は泣きそうになっていた。機械の体で助かったな……涙が出る機能があったら漏電の心配をしないといけないところだったよ。

 自動販売機に生まれ変わった時に人としての幸せは、もう二度と訪れないと覚悟していたのに、まさか生前よりも充実した日々が過ごせるなんて。

 それからはラッミスお手製のご馳走をみんなで食べ、俺の取り出したお酒で場が収拾付かなくなっている。

 双対鬼との戦いで様々な酒を取り扱ったのだが、その時と同様にアルコール度数の高い酒を提供したのが悪かったのかもしれない。と反省したが後の祭りだ。


「ゴルスよぉー、俺は彼女のことが好きだが、お前をないがしろにしているわけじゃあ、ねーんだぜぇぇ。お前は最高の相棒だああぁ」


「わかったわかった」


 酔いが回って絡んでくるカリオスをゴルスが軽くあしらっている。

 彼女ができたことで確執が生まれるかとも思ったのだが、関係が良好なようでホッとしたよ。あと、大量に料理を食べながら期待するような目で二人を見るんじゃない、スコ。そっち系じゃないから。


「この料理美味しいですねぇ、お爺さん」


「余ったら詰めてもらえんか。孫にも食べさせてやりたいのう」


「子供たちに食べさせたいので、私も持ち帰りさせてもらいたいのですが」


 老夫婦と園長先生が料理に舌鼓を打ちながら感心している。

 テーブルに並んでいる料理はラッミスの手作りとスオリが専属の料理人に作らせたものらしい。そして食材の提供者はキコユだ。くっ、食べられないのが悔しいな。


「ちょっと、遠慮するっす! みんなの分がなくなるっすよ!」


「両手に料理抱えて言っても説得力ないよ。それボクの!」


「ペル、落ち着いてしゃへらないふぉ、だふぇふぁふぉ」


 ああ、シュイと大食い団が争いながら料理を流し込んでいる。

 この展開は予想できていたようで、高カロリーな料理を別テーブルに山盛りにして、彼らを隔離しているようだ。


「はああぁ、このお酒、喉越しも良くてほんのり甘いから、うちの子たちに受けそうだわ。ハッコンさんに商談しておかないとぉ」


 シャーリィさんが酔うことにより色気が倍増しているぞ。

 言動が艶めかしくて、男共の視線が釘付けになっている。熊会長と大食い団は種族の関係で興味がないみたいだけど。


「師匠、師匠、私は師匠の為なら何でもできます! 身も心も捧げる覚悟はありますっ! 人間に戻られても捨てないでくださいぃぃ」


 テントの支柱に泣きながら話しかけている酔っ払いの弟子がいるが放っておこう。


「わらわもあの綺麗な酒が飲みたい!」


「駄目です。お酒は若いうちから飲まれると脳に影響を与えるそうです。適正年齢になられてからお飲みください」


「いやじゃ、いやじゃ。あれが飲みたいの!」


「こちらの飲み物はどうですか。甘くてしゅわしゅわしていて美味しいですよ」


 俺が用意した酒に興味津々のスオリを黒服たちが懸命になって押し留めている。

 ちなみにこの世界では十五歳を超えると酒を飲んでもいいらしい。年齢制限が定められている訳じゃないのだが、一般常識としてそう広まっているそうだ。


「今度の発明は凄いぞぉぉぉ。ハッコン、お前もみてみれろふょ。あー、オレの話がきけないだとぉ、なりゃ、こうしてやふぅ」


 地面に座り込み、俺の背に額をぶつけながらヒュールミが何か言っている。完全に酔いが回っているようで呂律も怪しく、自分が何を言っているのか理解していないようだ。


「ハッコオオオン、元気ぃぃ。うちはめっちゃ元気やでぇ」


 酎ハイの缶を片手にラッミスがやってきた。顔面が真っ赤で何処からどう見ても酔っ払いだ。

 千鳥足でこっちに向かってくると何もないところで躓き、俺にしがみ付いてきた。


「ふへへへ、ハッコン冷たくて気持ちええなぁ」


 俺の体に頬をくっつけてすりすりしている。体が火照っているから鉄の体の冷たさが心地いいみたいだ。


「楽しんでるぅ? うちはすっごくたのしいでぇ」


 それは見ていてわかるよ。俺も楽しいよ、心からそう思える。


「いらっしゃいませ」


「良かったぁ。ほんまは迷惑やないかってずっと、心配しとったんにゃかふぁ」


 大欠伸をして俺にしなだれかかっている。

 もう限界が近いみたいだな。既に酔いつぶれている人と食い倒れている人も続出しているようだ。後で全員にバスタオルでもお腹に掛けてあげよう。〈結界〉で上手く弾き飛ばしたら何とかなるかな。


「ハッコン、聞いてんのぉ」


「いらっしゃいませ」


「これからもずーっと一緒やらかなぁ、ずっとやでぇ」


「いらっしゃいませ」


「人間に戻れなくても、一緒やからねぇ、わかってんのぉ」


「いらっしゃいませ」


「ちょっといらっしゃいませ以外の気の利いたこと言わんと、女の子は逃げるんやよぉ」


 うっ、ワンパターンな返事を返していたらダメ出しをくらってしまった。

 そんな潤んだ瞳を向けて期待されてもな。生前でもこういった場面は苦手だったから、どうしていいものやら。


「きゅんとさせる一言、欲しいなぁ」


 くっ、酔っ払いにおねだりされてしまっている。こういうのも可愛いと思ってしまう時点で俺の負けな気がする。

 きゅんとさせる一言か。俺の浅い知識を総動員して、こういう場面で最も相応しい言葉をチョイスしてみよう。ドラマや漫画を参考にして、それっぽい言葉を選び出して。

 よっし、ちょっと恥ずかしいが決まったぞ。あとは使える言葉が限定されているから上手く組み合わせて、完成だ。


「よ っ た す が」

「た も か あ い」

「い よ」


 どうだ、この台詞!

 何かの漫画でイケメンが壁ドンしながら言っていた気がする。さあ、限界を超えて振り絞ったこの言葉でラッミスも――


「んー、くぅぅ……すぅー、ハッコン」


 爆睡していた。あ、うん、わかってたよ、このオチ。むしろ、聞かれなくて良かったと思うべき。冷静に考えたらとんでもない一言だった、これは赤面レベルの失言だ。

 近くに誰もいないようだし、眠ってもらって助かった。


「聞いたでぇぇ、ハッコン」


 床の影が盛り上がると、そこには金ぴかコートの黒い人影、闇の会長がいた。

 くっ、影になって潜んでいたのか! 寄りにもよってこの人に聞かれるとは。動く拡声器みたいな人だから、明日には集落中に広まっていそうだ。


「カッコええ言葉やないか。今度、わいも使わせてもろうて構わんか。あー、誰にも言わへんから安心しいや。男なら女性を魅了する言葉の一つも言わんとな、うんうん」


「ありがとう」


 あれ、意外と話のわかる人だ。からかったり茶化したりギャグにするのを好む人だが、ちゃんと大人としての分別はつくのか、少しだけ見直さないといけないな。

 そうして、騒がしくも楽しい夜は更けていった。





 翌日。いつものように商売をしていると、


「ハッコン、あの二日酔いに効く飲み物あるか」


「同じのを頼む」


 昨日、見事に酔いつぶれていた門番コンビがやってきた。

 額に手を当てて頭痛に耐えているようだな。スポーツドリンクと栄養ドリンクの二日酔いセットを二人に販売する。


「くはああぁ、助かったぜ。頭がスッキリしないと勢いで、酔った姿も可愛いよ、なんて口走りそうだからな」


「おい、カリオス。それは黙っておけと」


 ん? カリオス、今何を口走った。その台詞聞き覚えがありまくりだが。


「も う い っ か」

「い い っ て」


 音声を低く設定して発言すると、カリオスが引きつった笑みを浮かべている。

 逃げようとしたカリオスの後頭部と膝裏にペットボトルをぶつけて動きを止めた。


「ってええ、わ、わかった! 全部話す! 闇会長が帰り際に楽しそうに全員に話していたんだよ。小芝居を交えてな」


 となりでゴルスが頷いているので間違いないようだ。ほおおおぅ、闇の会長がねぇ。秘密にしておいてくれるという話は何処に旅立ったのかな。今度ちゃーんとお礼をしないと。


「ほら、素直に話したからいつもの頼むぜ、ハッコン」


 冷えたおでんと冷えたコーンスープと〈念動力〉で振りまくったコーラ持っていっていいよ。ゴルスにはいつものを普通に渡そう。


「えっ、ハッコンこれ違う……いえ、いいです、はい」


 何か言おうとしていたので背の高い自動販売機にフォルムチェンジをして見下ろしたら、言葉を呑み込んだようだ。

 彼らが立ち去って暫くすると、向こうの方から黒い影がやってきた。

 飛んで火にいる夏の虫とはこのことか。


「ハッコン、今日もええ天気やなぁ。なんか、すっとする飲み物頼むわ」


 俺が知らないと思っているようで上機嫌だ。


「いらっしゃいませ」


 任せてくれ。俺はコーラを受け取り口に置くと、続けて棒状キャンディーも隣に落とした。そして、取り出し口から出す前に〈念動力〉でコーラのキャップを開けて、中にキャンディーを二つほど投入して素早く閉める。

 何食わぬ顔でそれを闇の会長に渡した。


「これはしゅわしゅわするやつやな。刺激的でおまけに、わいと同じく黒ってのがええと思わへんか。ほな、いただくとしますか」


 蓋を開けた途端にコーラが爆発的に噴き出し、狙い通りに闇の会長がコーラまみれになる。


「こ お ら が か」

「か っ て こ お」

「ら ま い っ た」


 俺がそう言うと、びしょ濡れの闇の会長が苦笑いを浮かべたような気がした。


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― 新着の感想 ―
こおらがかかってこおらまいった ハッコンのダジャレも絶好調ですね (^_-)-☆
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