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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
七章

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蹂躙

「では、僭越ながら先陣を切らせていただきます! 咆哮撃」


 前に進み出たミシュエルがお得意の一撃を放つと、火を纏った斬撃が敵の先頭集団を薙ぎ払った。

 炎の軌跡に触れた魔物たちは瞬時に切断、炎上させられただけでは済まず、燃えたままばら撒いてあった灯油に触れると、辺り一面が火の海と化す。

 魔物は俺たちを敵と認識したのだが、数十体の魔物は俺たちを攻撃せずに仲間に襲い掛かっている。あれはヘブイの幻覚で仲間の姿が全て俺たちに見えているそうだ。


「でも、あのおっきくて長い魔物が、私たちの姿に見えるって無理ないかな」


 ムカデの様な足が生えている蛇のことか。確かにサイズ的に無理があるよな。長さが五メートル以上あるし。


「あの場合は私たちが四つん這いになって、更にその尻に他の人が頭をくっつけて四つん這いで連なっているように見えている筈ですよ」


 ヘブイの説明を聞いて想像してみた……人間相手だと無理がある幻覚だ。ギャグにしか思えない。

 余裕を持って他愛のない会話ができるぐらい、今のところは順調だ。

 炎の壁を強引に乗り越えてきた魔物はシュイの矢と黒八咫の上空からの音波爆撃が降り注ぎ、こちらに近づくことができないでいる。

 遠距離攻撃はそれだけではない。最近、マイブームであるパチンコ玉入りペットボトルをラッミスに全力で投げつけてもらい、その剛腕から繰り出された投球――投ペットボトルは唸りを上げて魔物へと向かう。

 途中でペットボトルだけを消せば、中のパチンコ玉が散らばり広範囲の敵を撃ち抜くことが可能となる。散弾銃も真っ青な威力だ。


「これだと命中させなくてもいいから、凄く便利だね!」


 俺とラッミスとの見事なまでの協力攻撃。

 だが、この状態でも数が尋常ではないので、仲間の死体を乗り越えて隣接する個体が数体いるのだが、それは全てヘブイとボタンが潰し、吹き飛ばし、粉砕してくれる。

 ミシュエルは一人で突出して幻覚のかかっていない敵だけを狙って奮闘しているな。腕の良さと大剣の切れ味が相乗効果となり、全ての敵を一撃で両断する姿は男でも惚れそうになるぐらい格好いい。そりゃ、モテる筈だ。

 このまま一気に押し切りたかったのだが、さっきから敵が次から次へと現れて、倒しても倒しても増援がやって来る。


「やっぱ、そう簡単にはいかねえか。やべえな、時間を掛け過ぎると……気づくよな」


「ええ、奥にある上へと繋がる階段に先程、人影が見えましたのでこれを操っている指揮官に情報が伝わったと見るべきでしょう」


 ヘブイが視覚を増強させて奥を観察していたのか。

 指示を待つ魔物と人影。それに上の階では外を見張る人がいたという黒八咫からの報告もある。この魔物たちを操る指揮官と靴を売り捌いたタシテたちが関係者である可能性が強まったな。

 答え合わせは会ってからすればいいか。今はこの魔物の殲滅だけを考えないと。


「ちょっと、この武具試してみるね! ハッコンはギリギリまで手を出したらダメだよ」


 釘を刺されてしまった。砂漠では出番がなかったから、うずうずしていたみたいだな。

 拳を手の平に打ち付け、ラッミスが前屈体勢で魔物の群れに突っ込んでいく。


「えっと、内側のこれに指先を触れて……重くなれぇ」


 口にしなくてもいいんだよ。考えるだけで発動するらしいから。


「うわっ、本当に重くなった。うん、丁度いいかなっ!」


 踏み込みと同時に目の前に現れた巨大なトカゲの顎に、下からすくい上げるように打ち込まれた拳を激突させた。

 衝撃に耐えきれなかった頭が吹き飛び、頭蓋骨の欠片と血飛沫を撒き散らしながら首から上を失ったトカゲの体が、空中で風車のように後方宙返りを繰り返している。


「うん、いい感じ!」


 更にラッミスの破壊力が強化されたのか。

 謎の素材は重さの調整だけではなく硬度もあるので、あの怪力で振るわれている攻撃で破損することもない。

 重さの調整が徐々に慣れてきたのだろう、速さと力強さの使い分けが上手くなっているな。ここって清流の湖階層と比べて上級者向けなのだが、そこの魔物に引けを取らないどころか圧倒している。

 俺もこの世界に転生してから、かなり強化された自信があるが、ラッミスは俺の成長速度を上回っているのではないだろうか。

 元々、戦闘のセンスがあったのに機会に恵まれなかっただけで、ここ最近で一気に花開いたのかもしれないな。


「凄まじいですね、ラッミスさん。悔しいですが、ハッコン師匠の相棒として相応しいですよっ!」


 大剣を振るいながら、近くまで来ていたミシュエルが素直に称賛している。


「みんなに比べたらまだまだ、だよっ!」


 魔物を吹き飛ばしながらラッミスが言葉を返す。

 みんなか……実際環境にも恵まれているからな彼女は。周りのハンターたちは凄腕ばかりで、あらゆる面で参考になることが多い。

 彼らに触発されて日頃の鍛錬にも力が入っているようだし、このまま成長を続ければ最上級のハンターになることも夢ではなさそうだ。

 俺も引き離されないようにしないとな。


 近場は全てラッミスに任せて、離れた場所で身構えている虫が口から酸のような物を吐こうとしていたので照準を合わせて、素早く〈高圧洗浄機〉にフォルムチェンジをする。

 発射口を絞り最大圧力で放たれた高圧の水をぶつける。

 それは高威力のウォーターカッターとなり魔物の皮膚を貫く。この攻撃は距離が開くほど威力が落ちるので、中距離の相手にしか効かないのだがラッミスの攻撃範囲外の敵を葬るには都合がいい。


 敵は無尽蔵ではないのかと思う程に魔物が現れ続けていたのだが、その攻撃が唐突にピタリと止んだ。その全てを斬り捨て粉砕し尽くしたのだ。

 砂漠の柱の一階床を埋め尽くすおびただしい数の魔物の死骸。数百体もの魔物を本当に殲滅したのか。

 途中、危険を覚悟の上で敵陣に突っ込み、暴れ続けていた二人に護衛を頼んで、敵に幻覚を再び掛けたヘブイの活躍が大きかったな。

 その時、ミシュエルは幻覚を完全に防いだのだが、ラッミスが幻覚に掛かって魔物が全て仲間に見えて攻撃できないというハプニングもあったが、ヘブイが即座に解いたのでそれはもういいだろう。

 格下の敵相手だと感覚操作が凶悪な威力を発揮する。同士討ちをさせられるというのは多人数戦だと効果的だ。


「何とかなるものですね、意外と」


 死屍累々の魔物たちを見下ろしながら、ヘブイが大きく息を吐く。


「今回は結構疲れたね……はうぅ」


 元気はつらつが売りの一つであるラッミスでも、今回の戦いで体力の消耗が激しいらしく、俺に背を預けて何とか立っている状態だ。


「矢も尽きたっすよ。回収しないと」


 途中から矢が無くて使い慣れていない投げナイフで何とか対応しようとしていたもんな、シュイは。結局、あまり役に立たないことがわかって死体から矢の回収をする為に走り回っていた。


「黒八咫、ボタン、お疲れ様」


 二匹を労わっているキコユは邪魔にならないように入り口の扉付近でじっとしていた。黒八咫は空からの一方的な音波攻撃で敵を錯乱させつつ、囮も兼任する大活躍ぶり。

 ボタンは近寄ってくる敵を軽々と吹き飛ばしながら、砂漠の柱内部を所狭しと走り回って性質の悪いひき逃げをしていたな。角の貫通力も大したものだが、あの速度で突撃された魔物が面白いぐらいに容易く宙を舞っていたのが印象的だった。


「このまま、二階へ進みたいところだが、一旦休憩しようぜ。体力の消耗が半端ねえだろ」


 後方で控えていたヒュールミは体力が余っているようだが、仲間の疲労状態を見て休息を提案した。

 魔物の死体と血が散乱している場所では気が休まらないのではないかと思ったのだが、畑の欠片である土の球で周辺の死体を吸い込み、キコユが掃除をしてくれている。


「これでかなり畑さんの力が溜まりそうです」


 彼女の目的は畑の復活なので、欠片に力を与えて遠くにいる畑の本体と合流する為なら、どんな苦労もいとわない覚悟らしい。

 それは黒八咫とボタンも同じらしく、他にも同じ目的の仲間がいるとのことだ。

 その話を聞いて、少しだけ畑に転生した見知らぬ人を羨ましく思った。だけど――


「ハッコン。どうしたの、何か考え事?」


「おっ、悩みがあるなら相談しろよ。オレたちは仲間なんだからよ」


「そうっすよ、仲間に隠し事はなしっす」


「悩みですか! ハッコン師匠の為ならドラゴンの巣穴でも同行いたします!」


「モテモテですね、ハッコンさんは。畑さんもそうでしたよ。助力が必要なら何でもおっしゃってください」


 俺にもこんなに素敵な仲間がいる。羨むなんてお門違いだ。

 ここまで恵まれた自動販売機が存在するだろうか。いや、存在しないと断言できる。

 俺に出来ることは自動販売機としての能力。大切な仲間たちに今日も美味しい食事と飲み物を提供するとしますか。

 和気藹々と食事を続けながらも、完全に気を緩めているわけじゃない。今いる場所は壁際で、入り口の扉付近に陣取っている。

 扉の向こう側の音を探り、二階へ続く階段を誰もが注目しているようで、ちらちらっと何度も視線が向けられていた。


「問題はこっからだな。二階に潜んでいそうな本命共は一階がどうなったか気づいていると仮定するぞ」


「これだけ派手に暴れましたからね。様子を窺っていた人影が何度も見えましたし」


 魔物を殲滅してからは一度も顔を出していないのは、二階で歓迎の準備をしているからかもしれないな。


「待ち伏せ、罠を警戒しつつ突撃ってのが妥当だが。この場合、先頭はかなりの危険が生じる。誰を行かすかってことだが」


「うちが行くよ!」


「い く よ」


 ここは俺たちが立候補するべきだろう。〈結界〉が張れる俺なら相手が何を企んでいても、防ぐことが可能だ。ラッミスも同じ考えだったようで声が重なった。


「そうだな、それが妥当か。ハッコンの結界があれば大概は防げるだろうけどよ、油断だけはしないでくれよ」


「う ん う ん」


 俺は兎も角、ラッミスを傷つけさせたりはしない。

 彼女と一緒の時の俺は相乗効果で何倍にも強化されるからな。あらゆる攻撃を防いでみせると胸を張って言えるよ。


「あのぅ、お話し中にお邪魔して悪いっすけど……追加で食べ物いいっすか? お腹空いたっす……」


 申し訳なさそうに無料券を差し出してきたシュイの言葉により、自動販売機としての仕事を再開することにした。


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