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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
七章

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本物の暑さ

「あづぃ……」


「焼け死ぬっすぅぅぅ」


 転送陣で灼熱の砂階層に着き、暑さを確かめたいとラッミスが口にしていたので〈結界〉で熱を遮断することもしなかった。

〈保冷〉〈保温〉の機能は触れている人にも影響があるので、それも切った状態で扉を開け放ち、外に踏み出して開口一番さっきの言葉だ。

 地面から陽炎が立ち昇り景色が揺れて見える。俺は温度を感じない体なので実害はないのだが、背負うラッミスの背が一瞬にして汗で濡れている。

 隣に立つシュイの暑さに強い宣言は熱で蒸発したようで、顔中汗まみれだ。


「この暑さ尋常じゃないよ……」


 元気が取り柄の一つであるラッミスが一瞬にして活力を失っている。

 このまま放置していたらあっという間に汗が蒸発してしおれそうだ〈保冷〉〈保温〉機能を復活させよう。


「あっ、急に涼しくなった! ありがとう、ハッコン」


 これなら〈結界〉を発動しなくても充分か。ポイント消費を気にしなくて済みそうだ。

 一応、対策として〈太陽光発電〉でポイントを補充して賄うつもりだったが、必要ないならそれで構わない。とはいえ燦々と輝く太陽光を逃す手はないので頭頂部に設置はしておこう。


「あっ、ラッミスだけずるいっす! ハッコンにくっつくと涼しいっすかっ」


 シュイが俺に抱き付いてきた。途端に涼しくなったようで、頬を俺の体に擦り付けて冷たさにご満悦のようだ。


「はうううぅぅ。この冷たさ、たまらないっす」


 俺に貼り付いたまま離れる気はないようで、ラッミスはシュイがくっついた状態のまま歩き出している。


「うちも灼熱の砂階層に来たの初めてやけど、ほんまに暑いんやね」


 体感したあまりの暑さに、まだ動揺しているようだ。久しぶりに訛りを聞いた気がする。


「あっ、ハッコンに貰ったあのマント着ておこうっと!」


 もう暑さ対策はしなくても良い筈なのだが、俺が贈ったマントをわざわざ着てくれるのがラッミスの優しさだな。

 縦縞で少し派手だがラッミスには似合っていると思う。


「どう、この格好」


「か あ い い よ」


「えへへ、ありがとう」


 素直に褒めたらラッミスがはにかんでいる。ちゃんと反応してくれると褒める甲斐があるよな。と和んでいる場合じゃないか。

 この階層の住居はレンガか石造りばかりだ。見た感じだと立派な建造物は石造りで、一般の住居はレンガのようだ。

 これだけ熱いと日干しレンガとかに向いているからな。粘土とかを成型して干して作るレンガは暑い地帯に向いていると学生時代に習った気がする。エジプトとかがそうだったような。


「ここの建物って面白いね、赤っぽいよ」


「土を乾燥させて使っているらしいっすよ」


「いらっしゃいませ」


 レンガだからね。同じダンジョン内なのに風土も違うというのは冷静に考えると意味不明なのだが、異世界だからという便利なキーワードで納得するしかない。

 これだけ暑いと人の行き交いがなく、みんな涼しい場所に引きこもっているのかと思えば、普通に人々がうろついている。

 暑さ対策としてターバンのような物やフードや帽子を被っている人が大半だ。

 男性は上半身裸か薄い胸の空いたシャツを着ているぐらいで、下は半ズボンが主流で足元もサンダルが多い。

 女性は逆に肌の露出が少ない。薄手の服なのだが暑くないのかね。

 日焼け対策なのかどうかはわからないが、露出度の高い姿を若干期待していたので正直がっかりだ。


「えっと、ハンター協会にまず行くべきだよね」


「そうっすね。そこで情報収集した方がいいっすよ。会長からの手紙も渡さないといけないっすから」


 そういや熊会長から預かっていたな。あの暑苦しい灼熱の会長に挨拶もしておかないと。

 ハンター協会の場所は予め聞いていたので、そこへ向かっている最中なのだが人々の視線が痛い。

 巨大な鉄の箱を軽々と運ぶラッミスに加えて、その鉄の箱に貼り付いているシュイまでいるのだ、注目を浴びない方が嘘ってものだ。

 奇異の視線を浴びながら何とかハンター協会に辿り着いた。建物は石造りで清流の湖階層程ではないが、ここのハンター協会も頑丈な造りをしている。

 両開きの扉を開けてロビーを抜け、カウンターの職員の前まで歩み寄った。


「いらっしゃいませ。ハンター協会に……」


 営業スマイルを浮かべて対応していた職員が硬直した。俺の姿を捉えて咄嗟に反応できなかったようだな。


「清流の湖階層からやってきました。清流の会長から手紙を預かっていますので、灼熱の会長に取り次いでもらえないでしょうか」


「えっ、あ、はい。少々お待ちください」


 席を外して職員が二階へ向かう際にも視線は俺に釘付けだったのだが、階段前に移動した際に俺の側面が見えたようで、背中側に貼り付いているシュイを見て目を擦っていた。

 待っている間は職員とロビーにいたハンターたちが、じろじろとこっちを見ている。

 ここで新人いびりの中ランクハンターが絡んでくる展開を何度か小説で見たことがあるが、彼らは純粋に興味本位で見ているだけのようだ。

 むしろ、素行の悪い奴から距離を取って観察しているような、関わったらヤバいという空気を感じる。


「おい、声かけてみろよ。どっちも結構可愛いぞ」


「えっ、無茶言うな。鉄の箱を担いでいる女とそれにしがみ付いている女だぞ。どっちも尋常じゃねえ」


「ちげえねえな……」


 ハンターたちの声が微かに届いたのだが、警戒度がマックスのようだ。

 自動販売機を初見で尚且つこの光景。近づいてくる勇者がいないのも当然か。


「ああああっ! ハッコン、師匠!」


 そんな空気を吹き飛ばして駆け寄ってくる人物がいた。

 俺を師匠と呼ぶ人はたった一人だけだ。この暑い階層でも黒塗りの全身鎧を脱ぐこともなく、背中には竜を模った大剣。

 ミシュエル、久しぶりだな。


「ご無沙汰しておりました。ご心配をおかけして申し訳ありません」


「い いらっしゃいませ」


 全く心配していなかったとは言えない。というか最近ダンジョンコンテストで頭がいっぱいで、その存在を若干忘れていたりはしていないぞ、ほ、本当に。

 これでバラバラに飛ばされた全員と合流できたことになるのか。まずは、一安心だな。


「私だけこの場所に飛ばされてしまいまして帰る術もなくどうしようかと悩んでいると魔物の群れが集落に襲い掛かってきまして防衛に関わっていたのですが最近ようやく落ち着いたのでそろそろ戻ろうと思っていたのです」


 この長文を良く一息で言い切ったな。そんなに慌てて言い訳しなくても気にしていないのだが、ミシュエルは律儀な所があるから。


「ミシュエルが無事でよかった。他のみんなは清流の階層にいるから、安心してね」


「無事でなによりっすよ」


「お二人ともお元気そうで良かったです。他の皆さんも既に合流されたのですね」


 貼り付いたままのシュイに物怖じしてないな。

 ミシュエルと会えたのは嬉しいのだが、別れてから一人で何とかやれていたのだろうか。戦闘では全く心配していないが……人間関係はどうだったのだろう。

 コミュ障が少しは改善されていればいいが。

 そんな心配をしていた俺にそっと近寄ると体に顔を寄せてきた。


「師匠に来ていただいて助かりました。気を抜く暇もなく、緊張の日々で胃が、胃がっ」


 胃の辺りを押さえて眉根を寄せている、イケメンが台無しだぞ。

 やっぱり直ぐに改善という訳にはいかないか、精神的にお疲れ様。


「会長がお会いになるそうです。こちらへ」


 上の階から降りてきた職員に案内されるまま、会長室へ向かうことになった。

 ミシュエルはこの階層の情報に俺たちより詳しいだろうからと、付いて来てもらうことにした。俺と離れたくないようだったので、丁度いい。

 太陽のように赤く塗られた片開きの扉を開けて、会長室に足を踏み入れた。

 意外にも殺風景で普通の会長室だな。立派な机の向こう側には会議で見た時と同じ格好の灼熱の会長がいた。

 炎を描いたアロハシャツもどきが妙に似合っている褐色の肌。茶色の髪は天井に向かって逆立っている。この世界には整髪料が存在するのか、それとも地毛なのだろうか。


「よく来たなっ! あの時以来か、歓迎するぞ!」


 声がでかい。会議室と違い部屋が狭いのでよく響くな、この声。


「おっ、ミシュエルも一緒か! 色々と世話になったなっ!」


「いえいえ、困った時はお互い様ですので」


 ただでさえ暑い気候に暑苦しい会長。そんな状況でイケメンモードに切り替えて、爽やかに受け答えをするミシュエルに感心してしまう。

 汗一つかいていないが、あの鎧はラッミスのマントと同じように熱を遮断する機能があるのかもしれないな。

 この部屋が涼しいのかとも思ったのだが、一旦離れたシュイが直ぐに俺へ体をくっつけているので、ここも暑いようだ。


「熊会長からの手紙を預かっています」


 ラッミスから手渡された手紙の封を豪快に破ると、ざっと目を通している。


「へぇー、そっちも結構大変だったのか。ハッコン、水を提供できるってのは本当か」


「う ん」


 会長に対して無礼とも取れる返答だが、この人は気にしないだろう。


「それは助かるぜ! オアシスの水も減ってきていてな。魔物が大量発生していた時には一滴も雨が降らねえから困り果てていたんだぜ。金は出すから、後で請求してくれ!」


 水ならミネラルウォーターでも氷でも出せるだけ出すよ。


「あの、一つ調べて欲しいことがあるのですが、構わないっすかね」


 話が一段落ついたところで、おずおずとシュイが会長に話しかけた。


「おっ、何だ。遠慮すんなよ、何でも言ってみろ!」


「白の法衣を来たヘブイって聖職者が、この階層に来ている筈なので見つけて欲しいっす」


「そんなことか、お安い御用だ。職員に言いつけておくから安心しな」


 これで灼熱の会長の力も借りられることとなり、ヘブイ探索もはかどりそうだ。

 俺は水の提供があるので暫くは動けそうもない。なので助力を得られたのは大きい。


「早速で悪いんだが、まずは飲み物の提供を頼む! ハンター協会の前の広場なら、何処で始めてもらっても構わねえぜ!」


 じゃあ、ハンター協会前に設置してもらって飲み物を売るとしますか。

 あそこなら見通しも良いし、販売中に情報を得られるかもしれない。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 砂漠のような気候だと、服装は逆に厚着になりそうなものだが(砂漠探検隊みたいな恰好、陽射しを避ける為)地球の砂漠とは環境が違うから、陽射しはそんなに強くないのだろうか? 夜は地球の砂漠で…
[良い点] 皮膚が焼け爛れるから……服で覆おうね!
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