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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
六章

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火災の原因

書籍に合わせて 転移陣 ⇒ 転送陣 に変更しました。




 ヒュールミの一見無謀にも思える策は予想以上に上手く進んでいる。

 強風が炎上を後押しして、ヒュールミが放った火が後方へと進み、近くにあった木々が真黒に焼け焦げ炭化していた。

 これなら焼け跡に移動すれば、前方からの火から逃れられることできる。そう思い、口があれば安堵の息を吐くぐらい張り詰めていた気が緩んだ、その時。


「くそがっ、予想より向かってくる炎が早すぎるっ!」


 目尻を吊り上げヒュールミが前方を睨みつけている。そこには今にもこちらへと到達する勢いの炎があった。

 策としては悪くないと思ったけど、現実ってのは非情すぎる。

 後方の焼け跡と必死で伐採した空間。そのおかげで直接火あぶりされることはないだろうが、熱と一酸化炭素中毒が問題になってくる。

 これは全員を〈結界〉で包み込み炎と熱から守るしかない。

 だけど、ここにきて大人数で挑んだことがネックになるとは。ノーマルの自動販売機状態で自分から一メートルしかカバーできない〈結界〉では全員を守ることは不可能。

 となると選べる手段はたった一つしかない。


「で っ か く」

「い と う し て」


 言葉が足りないのは重々承知しているが、今は言葉を選んでいる時間も惜しい。ヒュールミならきっと理解してくれる。


「でっかく……なるから、移動……離れろってことか」


「いらっしゃいませ」


 俺の信頼に応えて即座に理解してくれたヒュールミが仲間にも伝えてくれたので、俺は以前変わったことのある、二人で協力しなければ買うことのできない背の高い自動販売機へとフォルムチェンジした。

 本当は日本一の大きい自動販売機になりたかったのだが、あれをしてしまうとポイントが湯水のように減り、最後まで〈結界〉を維持できる自信が無いのだ。

 このバージョンも普通の自販機よりもポイントの消費が激しいが、仲間の命とポイントならどちらを選ぶのかは考えるまでもない。


「こ こ に」

「し ゅ う ご う」


 最大音量で周囲に伝えると、全員が俺の周りに集まってきた。

 自分から一メートルの範囲しか〈結界〉で覆うことができなくとも、この巨体自動販売機なら体沿いに人が並ぶだけではなく、上に重なってスペースを確保することができる。

 荷台ははみ出ていたので、ラッミスが荷物を全て取り出して、荷台を横に傾けて何とか押し込んでくれた。

 熊会長の両肩にラッミスとヒュールミが座り、ボタンの上にはキコユ、黒八咫が乗っかっている。老夫婦は寄り添い準備は完璧だ。

 シュイは熊会長に押し上げてもらって頭の上で胡坐をかいているな。

 全員が俺の体に密着しているという奇妙な状況で〈結界〉発動!

 青い光が全員を包むと、炎が目前まで迫っていた。

 半径二十メートル以上は木々が取り除かれ、森の中に大きな空き地が出現している。

 そこに俺がそびえ立ち仲間が体に背を預け、〈結界〉に守られた状態で炎が過ぎ去るのをただ待っている。


 炎は完全に防いでいるが、その間にもポイントが湯水のように消耗されていく。火力が思っていた以上らしく、脳内でポイント消費の文字が滝のように流れているぞ。

 これは魔物討伐や商売で稼いだポイントをかなり吐き出すことになりそうだ。

 だけど、ここで節約するわけにはいかない。視界を埋め尽くす炎が消え周りの木々が焼け焦げ崩れ落ちたのを確認してから〈結界〉を一旦解除した。

 酸素が不足していて呼吸が苦しくないか。有害な気体が辺りを充満していていないか。皆が苦しむようなら直ぐにでも張り直せるように注意深く観察する。


「まだ、少し暑いが大丈夫みたいだぜ。ありがとよ、ハッコン」


「で う い た し」

「ま し て」


 ヒュールミが確認してくれたので俺は元の自動販売機へと姿を戻した。

 それなりに貯め込んでいたポイントも残り僅か。久しぶりに万単位を切りそうだ。

 みんなの命を守れたのだから、惜しいとは思わないが暫くは気軽に機能を使えなくなったな。


「ぽ い ん と」

「あ と す こ し」


 俺がポイントを消費してフォルムチェンジや機能を利用していることは、キコユの力を借りて正確に伝えてある。

 なので、今の言葉で仲間たちは、俺が力を控えることに納得してくれるだろう。


「そうか……オレたちの為にありがとうよ、ハッコン。無事帰ったら、硬貨たんまり入れてやるからな」


「ごめんね、ハッコン。後でうちも貯金箱を壊して協力するから!」


 ヒュールミ、ラッミス、その気持ちで充分だよ。


「すまんな。今は手持ちが金貨一枚しかないが、これで少しでも足しにしてくれ」


「いらっしゃいませ」


 熊会長が財布から手持ちの金貨を投入してくれたおかげで、少しポイントが回復した。これなら普通のフォルムチェンジなら大丈夫そうだ。

 ありがとう、熊会長。


「ほな、わいからも金貨払っとくわ。戻ったらちゃーんと礼はするから安心してや。金は大切やけど、ここはケチるとこやない。闇の森林階層はケチで金に小汚いなんて思われたら、一生の恥やわ。見た目は腹も黒いんやけど、実際は腹黒ちゃうで」


 闇の会長も一枚金貨を追加してくれた。後で報酬もあるようだから、それも期待しておこう。

 よっし、少しはポイントも充填された。これなら、現状でも役に立てるだろう。


「皆、燃え残っている炎や崩れていない木々に気を付けて進んでくれ」


「有害な成分が排出されている恐れがある。全員濡らした布で口元を覆って進んでくれ」


 俺がタオルを取り出して、ミネラルウォーターで濡らしていく。

 この程度ならポイントの消費は微々たるものなので何も問題は無い。

 いつもの自動販売機に戻るとラッミスに背負われて、全員が移動を開始した。

 辺りの木々は焼け落ちているのが殆どで、辛うじて立っている木々も焼け焦げ、生物としての生命を終えてしまっている。

 白い煙が地面から立ち昇り、吹きつける強風により後方へと流れていく。


「これで老大木魔が倒されているのであれば、この階層の問題解決となるのだが……被害が甚大過ぎた」


「どこのボケがこんなことをしくさりやがった。見つけたらただでは済ませへんで。ケツの穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタいわしたる」


 闇の会長は怒りが抑え切れないのか、黒い炎のように体の表面が揺らいでいる。

 自分の階層を焼け野原にされたのだ、尋常ではないぐらいに激怒して当然だよな。

 今回、老大木魔に火を放ったのは、実際の話、誰なのだろうか。

 異変に気づかず森を探索していたハンターが階層主と遭遇して、助かる為に禁忌を犯した。

 もしくは、初めから倒すつもりで森に火を放った。

 どちらも、可能性としてはないとは言えないが、魔物が凶暴化している森林階層で今まで無事に過ごせる実力者なら、集落に戻るなりもっと違う手段があったのではないか。

 それに、火を放てば自分たちもただでは済まない。何か別の意味や、想像もしないような理由があるのだろうか。こればかりは幾ら考えても予想でしかないので、実際に現場を見て少しでも情報を収集しないと。


 黒と白の世界となった元闇の森林は、以前と違い見通しが良くなっている。

 そのおかげで目的である老大木魔が良く見えるのだが、葉は全て焼け落ちて枝も細い枝は全滅しているようだ。

 残った大きな枝が二本と未だに健在の太い幹。

 まるで、巨大な黒い人影が天に向かい両腕を広げているかのように見える。

 焼け野原に立つ黒く巨大な巨人。世界の終末を連想させるような光景だ。


「ハッコン、ヒュールミ、あれって死んでるよね」


「表皮が焼けているだけで、中は無事かも知んねえぞ。油断は禁物だぜ」


「う ん う ん」


 木は生命力が強いし、それが階層主の魔物となれば常識では考えられないレベルだろう。でも、生きているとしても弱っているのは確かだ。

 万が一、まだ死んでいないのであれば俺たちで止めを刺させてもらう。


「少し急ぐぞ。火が集落に到達してからでは遅い」


 会長が四足で駆けるとラッミスも俺を背負った状態で追従している。

 ボタンは荷台に人を何人も乗せているというのに、俺たちに楽々と着いてきているのが驚きだ。

 見る見るうちに焼け焦げた老大木魔に近づいていくと、前方の視界の全てを真黒な幹が埋め尽くしている。

 接近して改めて思うことなのだが尋常じゃないぞ、このデカさ。

 本当に高層ビル並みだ。こんなの俺たちは薬で倒せるのだろうか。

 高濃度の毒とはいえあれだけの量で、この老大木魔を枯れさせることができるとは正直思えない。


「あれだな……ここまでデカいのは想定外だったぜ……」


 ヒュールミがてっぺんを見上げ呟いている。

 近くで実際に見るのと遠くからだと、実際の大きさを把握するのは難しいから仕方ないよ。

 老大木魔は微動だにしていない。で、これどうやって死んでいるかどうかの判断をすればいいのだろうか。


「あっ、声がないです。お亡くなりになっているようです」


 幹に手を触れてキコユがみんなに伝えている。

 そうか、彼女なら心の声で判別できるのか。これで死んだことが確定したということは、集落の人々も元に戻り逃げ出せたと信じるしかない。


「ラッミス、念の為に全力で幹を殴ってくれ」


「いいよー。じゃあ、遠慮なくいっくよー」


 本当に死んでいるのか確認の為に殴らせるのか。

 ラッミスは半身になり腰を落として体を限界まで捻じる。

 一歩踏み込むと同時に、捻じった体を戻しつつ、左腕を逆方向に引いて突きの威力を最大にまで高めた渾身の一突きを放った。

 焦げた表皮が弾け飛び、ビル解体用のハンマーでもぶつけたのかと疑いたくなる、大きく陥没した跡が幹に刻まれた。

 風圧と轟音が遮蔽物の消え失せた焼け野原に広がり、この巨大な老大木魔だったものが少し揺れた気がしたのは……気のせいだよな。

 これ程の衝撃を与えたというのに何の反応もない。つまり、死んでいるということなのだろう。

 これにて目的は達成となるのか。あとは無事に集落の人々が逃げ出せたか確認して、この階層の騒動は終了となる。


「では、戻るとし――」


「誰だよ、昼寝の邪魔をした奴は」


 降って湧いた見知らぬ声に反応して、全員の視線が天へ向けられると、そこには――


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