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この世界の強さ

 強力なメンバーを取り揃えて森林破壊に励んでいる今日この頃、如何お過ごしでしょうか。

 指輪を外され統率の取れなくなった魔物たちは集落を襲うことはなくなったのだが、木々を伐採すると目の色を変えて現れるのは変わりなかった。

 結局、木を取り除くには魔物との戦いは避けられず、もう何匹の魔物を倒したのか数えるのも嫌になるぐらいだ。

 でも、次々と敵が現れることのメリットもある。

 ラッミスは木を引っこ抜くことに専念していて、俺は守りと野菜の魔物を殴り倒す仕事を任命されているのだが、強化ペットボトルの一撃で野菜系は倒せるのでポイントが良い感じで溜まっている。

 汁を結構飛ばしてくるのが厭らしいが、それは全て〈結界〉で弾いているので俺とラッミスに実害はない。


 大食い団は噛みついて倒すのがメインの攻撃方法なので汁が体に付着してしまい、匂いが強烈らしく鼻に皺が寄っている。味は悪くないらしいので、齧った箇所はそのまま咀嚼して呑み込んでいるようだ。

 倒している最中に腹一杯で動けなくなるぞ……。

 大食い団を眺めていたら考えが逸れてしまった。

 ポイントについてだが、最近は自動販売機の商品の値段を抑えて販売するか、状況によっては無料で大盤振る舞いしているので、敵を倒して手に入るポイントはとてもありがたい。

 そんなに強い敵ではないので階層主と比べては失礼なぐらい微々たる量だが、商品を提供するぐらいは軽く補える。

 それに、溶岩人魔との戦いで水をぶつけたダメージが結構あったようで、思わず冷たいが温かいになるぐらいのポイントを手に入れている。

 新たな加護を得られるほどのポイントはないが、枯渇の心配をする必要はないぐらいは余裕ができた。


「よいしょっとおおおっ!」


 しかし、見慣れている筈なのだが凄いな。ラッミスの手に掛かれば、根を大地に張った大木も雑草を引っこ抜くような感じで抜かれていく。

 改めて思うことなのだが、木を強引に力で引っこ抜くって尋常じゃない。

 やっぱり、初めて会った頃より〈怪力〉が増しているよな。これは気のせいではなく、ずっと見てきた俺だから確信が持てた。

 そもそも、この世界のハンターの存在に疑問があった。一般市民と実力差があり過ぎるのだ。前からずっと気になっていたのだが、何となくその仕組みの謎がわかった気がする。

 といっても完全に俺の勝手な妄想なのだが。


 まず、俺は敵を倒すとポイントが与えられ、それを自由に割り振ってステータスの強化や商品の購入に充てることができる。

 それがこの世界の住民にはできないのか、キコユに体を触ってもらい訊ねたことがある。

 すると、こんな答えが返ってきた。


「ポイントですか。そういうのはないと思います。魔物を倒せばその生命力を貰い受けることで、身体が強化するというのがこの世界での常識ですよ」


 それを聞いて思いついたのが、普通の人は敵を倒してポイントを得ているのだが、それを自分で割り振ることができずに勝手に配分されるのではないかということだ。

 ポイントで強化される値も個人差があって筋力が上がりやすい人もいれば、能力の上昇率が低い人もいる。俗に言う才能の差。

 ラッミスの場合、筋力が強化されやすいのだろう。

 今まで数々の敵を倒してきた彼女だ。ゲームで例えるなら経験値を大量に獲得して、レベルアップしていてもおかしくない。

 王蛙人魔と戦った際には下が沼地だったとはいえ、俺を背負った状態で大量の怪我人を乗せた荷台をゆっくり引くことしか出来なかった。

 たぶん、今の彼女なら楽々と引っ張れるのではないだろうか。


「やれやれ、おっくうなことじゃ」


 お爺さんが澄んだ空のような色の扇を振るうと、強風が吹き荒れ木々が根元から切断されていく。

 扇をくいっと上に振ると、切断された木々が強風に煽られ空に浮かび、森中に吹き飛ばされていった。

 あの常識外れの魔法だって元から扱えたわけじゃないそうだ。

 若い頃から才能はあったそうだが、熊会長たちと修羅場を潜り抜け数多の魔物を討伐していく際に磨かれていったと、以前お爺さんがミネラルウォーターを飲みながら孫の前で自慢げに語っていた。

 それだって魔物からポイントを得て、能力が強化されたと考えたら納得がいく。

 俺だけがそのポイントを効率よく自分の意思で割り振れる……と戦闘中に考察していると周辺の木々が綺麗さっぱり消え失せていた。


「あっ、抜いたり切った木は捨てないで置いておいてください。吸収しますので」


 キコユが土の球――畑の欠片を手に倒木に駆け寄ると片っ端から吸収していく。あのボーリング玉程度の土の塊に木が吸い込まれる光景は違和感しかない。

 キコユ曰く「植物だと吸収が早いんです」らしいが、それで納得するしかないのか。

 そんなことができるなら、生えている木をそのまま吸い込めばいいと思ったのだが、それは無理らしい。


「他の土に根付いている植物だと、畑さんが遠慮して手を出さないみたいです」


 意識がない筈なのに、そういう配慮はするのか……紳士だな。

 ほんと、一度腹を割って話しこんでみたい人――畑だよ。

 何にせよ、おかげで木の処分もはかどり階層主までの道が着々と整えられている。

 引っこ抜かれて凹んだ地面は、お爺さんが土魔法で平らにしてくれているので、ボタンが引っ張る荷台も滞りなく進み順調そのものだ。

 階層主を倒した後も、この道は今後有効に使われることだろう。

 闇の森林は光が入り込まない場所なので夜目に強いか〈暗視〉といった加護を持たない者以外は昼間であろうが、常時明かりを必要とするそうだ。

 大きく開けた道だから、ここなら陽の光も射し込むので昼間の危険度がぐんと下がる。


「ここの階層主……老大木魔がキレて襲ってこねえな」


 荷台の上で寝転んでいるヒュールミが空を見上げながらぼやいている。

 荷台にはキコユ、ヒュールミ、老夫婦がいるので余程のことがない限り安全が保障されている。なので、まるで緊張感がなく欠伸を噛み殺しながら、ぼけーっと雲を目で追って今にも寝てしまいそうだ。


「まあ、元から温厚な階層主やからなぁ。集落が今回襲われたんは異例中の異例やで。冥府の王の実力は馬鹿にできへんな」


 近くの地面から影が噴き出たかと思うと、それが人の形となり派手なコートを着込んだ。

 影状態だと闇の会長を見つけるのは不可能じゃないのだろうか。


「集落の側まで来たって話だが」


「そうやねん。あんなデカいのが朝っぱらからおっ立ちやがって、ほんまごっつう驚いたわ。壁と建物を傷つけとうないようで、花粉のみの攻撃やったから、まだマシやったけど」


 あんな巨大な木が攻撃をしてきたら、普通は壊滅状態に陥る。

 操られながらも木材を傷つけたくないという本能が残っていたから、ハンターや大人の男たちは生き延びられたのか。


「本来、老大木魔は悪い奴やないんやけどな。攻撃されない限り手ぇ出さへんし、この森の木々が燃えやすいって話を聞いたことあらへんか?」


「おう、知ってるぜ。だから、この階層では火気厳禁なんだよな」


「そうやねん。せやけど、どこにもボケはおってな。追い詰められて火を使うハンターが結構おるんや。そしたら、あっちゅう間に火が広がるんやけど、そないなった時に木々を操って延焼を抑えたり、水魔法を操って火を消すのが老大木魔の役目なんや。この階層の守り神みたいな存在やな」


 命の危機に晒された時、火を使ったら大惨事になるとわかっていても、生き延びる為に火を使うハンターはいるだろうな。

 操られて住民を木にした一件がなければ、老大木魔は見逃すべき存在なのかもしれない。


「しかし、ヒュールミよ。あの老大木魔を本当に倒せるのだろうか」


 熊会長も会話の中身が気になったようで、荷台に近づいてきた。


「まあ、おそらく……だけどな。俺の作った薬は魔物たちへの効き目は抜群だった。それを、直接体の中に流し込めば倒せる……予定だな」


 いつもは発明品のできには自信満々なヒュールミだが、今回ばかりは相手が相手なので歯切れが悪い。


「口と目ん玉あるから、まあ、流し込むことは不可能やないな」


 老大木魔は目と口があるのだが、会話をする程の知能は無いらしい。その穴を狙って薬を流し込む予定なのだが。

 ちなみに、その薬は荷台に満載されている樽に入っている。

 樽が合計六個あり、充分な量を確保できたとヒュールミが言っていた。

 あの巨体なので直ぐに効き目がないかもしれないそうで、樽を口に放り込んだら一度撤退する手筈になっている。


「植物が苦手とする成分を濃縮して作り上げた、対植物用の毒薬だ。人間が飲んでも死んだりはしないが、死ぬ程まずいから飲むなよ」


 近くでじっと樽を見つめていた、シュイと大食い団に釘を刺している。

 食べ物や飲み物が絡むと、この五人組は信用できない。ちゃんと説明しておかないと「隠すぐらい美味しい物に違いないっす」「そうだそうだ!」ぐらい言い出しそうだ……スナック菓子でも渡しておこう。

 今回の討伐はしっかりと対策も考えてあるので、俺の出る幕はないようだな。


「こっちの樽はなんっすか。もしかして、こっそり一人で楽しむようのお酒っすか」


 まだ諦めきれないのか、シュイが並んで置かれている樽から少し離れた荷台の上に転がっている樽を指差して、じっと見つめている。


「空の樽だぜ。思ったより濃度を濃くしちまってな。予定より一樽少なくなったが、その分、威力は増しているから安心してくれ」


「そうっすか……」


 大食い団共々、意気消沈している。そこまで落ち込まなくてもいいだろうに。

 仕方ない好物のから揚げ渡しておこう。あと炭酸ジュースで腹を膨らませておけば、暫く静かになるだろう。


「わーい、からあで、からあでっす!」


「やった、やった」


 もう、からあでで定着してしまっているな。

 大食い団とシュイが輪になって喜んでいる。何だろう、凄く和む光景だ。

 彼女たちは老大木魔との戦いで、周りの雑魚討伐を担当する予定になっているので、やる気を持続させて今の内に英気を養っておかないと。

 階層主を担当するのは、お爺さんとラッミス……それに黒八咫となる。

 風の魔法で口に樽を放り込むか、ラッミスが投げつけるか、黒八咫が掴んで運ぶかぐらいしか手が無い為だ。


 あまりに体が大き過ぎる相手なので口の位置がかなり高い場所にあり、普通なら樽を放り込むことが不可能。今までも似たような攻略方法を考えたハンターたちもいたようだが、その為の手段が無かった。

 その点、こっちは魔法、怪力、空を飛んで輸送と選択肢が幾つも存在している。かなり恵まれている状況といえる。

 ここまで準備万端で挑める心強さ。戦力、戦略共に充実した状況なので、正直、かなり期待している。とはいえ、何が起こるかわからないのが現実。

 油断をしないように気を引き締めていかないと。


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