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自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う  作者: 昼熊
六章

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木製の集落

「ハッコオオオオオオオン! 食べ物、食べ物!」


 シュイが俺に飛び付いてから、ずっと食べ物を連呼していて怖い。

 既にから揚げを幾つか温め終えていたので、シュイの元へ運んでおく。


「はふっ、もしゃ、はううう、うまああああいっす!」


 食べながら叫ぶから肉の破片がそこら中に飛び散っているぞ。ほら、コーラも渡しておくから、喉に詰まったらちゃんと飲むんだよ。


「助かりました。話を聞く前に、皆さんにも食料の提供をお願いしてもいいですか」


「いらっしゃいませ」


 美味しそうに食べるシュイを羨ましそうに凝視していたハンターたちにも、食料品を渡してく。〈念動力〉で物を浮かしているので驚いていたが、ヘブイが説明するとあっさりと納得して受け取ってくれた。

 自動販売機から食べ物が出ることや〈念動力〉についても、魔法や加護が当たり前に存在する世界だと、こういった不可思議なことへの理解が早くて助かる。


「くはああっ、久々の肉だぜ。たまんねえな」


「野菜はもう嫌だ……」


「脂身最高!」


 ハンターたちは野菜ばかりを食べて過ごしていたそうで、俺が提供する肉類の食べ物に歓喜の声を上げている。栄養バランスを無視してこってり系でいくのが正解のようだ。

 から揚げや焼き肉弁当とかがいいだろうか。


「ところで、ヘブイ。ミシュエルはいないのか」


 そうだった、ここにミシュエルがいたら転送陣で飛ばされた全員の所在が判明したことになるが。


「いえ、ここに飛ばされたのは私とシュイだけですよ」


「はうん、はん、ひょうふひゃひゃよ」


 シュイは食事に集中していいから。

 ミシュエルはいないのか。元々、一人でダンジョンを探索していたそうだから、単独行動はお手の者だろう。実力だって俺の知りうる限りだがトップランクだ、一人でも安心できる。

 むしろ、接点の少ない相手と一緒に飛ばされていた方が精神的な負担が大きいよな。ミシュエルなら何処に飛ばされていたとしても、おそらく大丈夫だろう。


「ここは自然が豊かで畑も多く、野菜だけはあったのですが、肉類が乏しくてこの有様です」


 そりゃ、肉に飛び付いて貪り食う訳だ。シュイなんてから揚げを手にしてから口に運ぶまでが速すぎて、残像が見えている。


「野菜だとお腹が膨れないらしく、畑の土まで食べそうな勢いだったので、感覚操作でシュイの満腹感を操って誤魔化していました」


 感覚操作の意外な使い道だな。

 野菜ばかりとはいえ、食料がなかったわけじゃないから比較的元気なのか。


「集落内にあった木ってやっぱ、元人間なのか」


「お気づきになられましたか。その通りです。門が一度開放されて大量の魔物が流れ込んできたことがありまして、その際に階層主の花粉を吸い込んだ老人や女性、子供たちが木になってしまったのです」


「でも、魔物が集落内で暴れたのに家とか壊れていないよ?」


 そうだよな。ラッミスの疑問はもっともだ。魔物が集落内に雪崩れ込んだにしては、瓦礫は見当たらないし、建物も無事だ。


「その事ですか。この階層の建物は全て木製ですよね。この階層の魔物は植物を傷つけることを極端に嫌います。それが切り倒された木だとしても。それがわかっているので壁も含めて、この階層は全て木製なのですよ」


「そうなんだ。でも、それって……家を建てる時に木を切り倒したら、もの凄く怒りそうだよね」


「そうですね。ここでは木を一本だけ切り倒すのも一苦労らしいですよ」


 支配されている魔物でも本能には逆らえないのか。むしろ、支配されているからこそ、本能が強調されているのかもしれないな。


「でもよ、階層主が現れてよく生き延びられたな。ヘブイたちが倒したのか」


「いえいえ。植物は火が苦手だと相場が決まっていますので、全員で松明を手にして何とか追い払いました。火をつけてしまうと集落が火の海になりかねないので、脅しでしか使えませんが」


 植物は火が苦手だと相場が決まっているが、木製の建物が多い集落内だと火事の危険性があるのか。

 森に火を放ったら魔物を一網打尽にできそうだが、集落も全焼間違いなしだろうな。


「確か、この闇の森林階層は時折、強風が吹き荒れるって話だったよな。火は厳禁でこの階層で火の加護や魔法は禁止だったか」


「その通りです。火を使えば容易く倒せるのですが、諸刃の剣ですからね。特にこの階層の木々は燃えやすい性質なので」


 弱点がわかっているのに使えないのは酷な話だ。住民を全員、清流の階層に避難させて火を放つという最終手段も考えたが、そうなると木になった住民をどうするかだよな。


「も と に も と」

「ら ね い の」


「もとにもとらねい?」


「木になった住民は元に戻らないのって、言ったんだよね、ハッコン」


「う ん」


 通訳ありがとう、ラッミス。

 まるで熟年夫婦のような以心伝心。父と母が「あれをあれしたか」「あれですよね。はいはい」みたいな会話をしていて、何故、話が通じるのか不思議でたまらなかったが、今になって理解できた。


「階層主を倒せば元に戻るそうですよ。この状態だと食事も不要だそうです」


 光合成と根から水分と栄養を吸い上げているのだろう。魔物たちは植物に手を出さないそうだから、木になっている今はある意味安全なのか。

 となると、ますます火は使えないな。まずは階層主を討伐か。指揮官も探さないと本当の解決にはならないので、同時進行でやらなければならない。

 除草剤を散布すれば植物系の魔物は一網打尽にできそうだが、自動販売機で除草剤や農薬は売っていない。毒薬なので商品として置けないのだ。

 塩水を大量に流し込めば草木は枯れるだろうが気の長い話だ。それに倒せたとしても土壌が死んでしまう。ダンジョンなので土壌が高速で回復しそうな気もするが、確証がないので試すわけにもいかない。


「でも、この森の中でどうやって階層主を探したらいいんだろう」


 背の高い木々が生い茂る森で階層主を見つけるのは、厄介どころの話じゃないな。


「あー、見つけるだけなら容易です。ここの階層主はかなりの巨木ですので……あれですね」


 ヘブイが指差す方向には、森から頭頂部が突き抜けている巨木の枝葉が見えた。

 距離感がおかしくなりそうな大きさだ。かなりの距離があるというのにハッキリとその姿を捉えられる。どれだけの高さなのか見当もつかない。高層ビルぐらいありそうだけど。

 幹も太く森の木々を圧倒する大きさなので、どこにいるか一目でわかる。


「でも、あんな巨体で動いたら森の木々が倒されるだろ」


「それが、階層主の能力なのでしょうね……あれが動くと普通の木々も道を開けるのですよ。すーっと横に移動して、草木が一本も生えない道ができて、そこを歩くというか進んできます」


 草木が自ら道を譲るのか。不謹慎だが、その光景を見てみたい。

 そんなことができるなら、階層主は巨大な木で植物を操る力があるということだよな。

 森の中で植物を操れる階層主か、これは一筋縄ではいかない相手っぽい。


「今日は皆さんこの調子なので、今後の話は明日にでも」


 野菜以外の食事を腹いっぱい食べたハンターたちが寛ぎ始めている。久しぶりの肉に胃袋の限界を超えてしまったようで、横たわったまま寝息が聞こえてくる者までいた。

 居場所が不明なのはミシュエルだけだし、そこまで慌てる必要はなくなった。

 早く、清流の階層に戻りたいという気持ちはあるが、熊会長たちは無事に戻れたらしいので、心配は無用だ。この階層は腰を据えてじっくり挑んでも大丈夫かな。


「私は見張りをしますので、皆さんも靴を脱いで体を休めてください」


「うちらは大丈夫だよ。見張り手伝うね」


「う ん う ん」


 俺たちは転送陣で飛んで来ただけだから疲労は全くない。

 あと、ヘブイはただの親切心で靴を脱ぐことを勧めたのか、それともやましい気持ちがあるのか判断が難しい。


「手伝っていただけるのですか、助かります。どこぞの誰かさんは、あの状態ですからね」


 顔に笑みを貼り付けたまま、見つめる視線の先には腹部が膨れ上がり、大の字に寝転んでいるシュイがいた。

 周囲にはペットボトルや包み紙が散乱している。


「もう、食えないっす。一歩も動きたくないっす」


 シュイは暫く役立たずか。まあ、限度を考えずに食べ物を与え続けた俺も悪いのだけど。

 彼らの腹が凹むまでの時間ぐらいは、ラッミスと一緒に見張りを担当するよ。





 門近くの見張り台に登って、壁の向こう側を見下ろすと薄暗い森が広がっていた。

 輝くばかりの美しい緑を想像していたのだが、深緑色の明度を落とした黒に近い緑の森。

 空は晴天で眩い日差しが降り注いでいるのだが……森のデザイン間違ってないか、あそこだけ暗いぞ。森の中が暗いのは理解できるが、陽の当たる木々の葉まで暗いのはおかしいだろ。

 闇の森林階層の名は伊達じゃないのか。明らかに不自然だ。夜になったらどの程度まで暗くなるのだろうか。


「森が真っ暗だね。何でだろう?」


 見張り台から身を乗り出して、楽しそうに覗き込んでいるラッミス。俺は見張り台の隅に置かれているのだが、見ているだけで落ちないかと心配になる。

 高さは五メートル程度なので、ラッミスの身体能力なら落ちても大丈夫な気もするが、日本人だった頃の常識がそれを許さない。


「お ち り ゅ よ」


「あ、うん。気をつけるね」


 見張り台の手すりに腰かけて、楽しそうに足をぶらつかしている。

 こんな状況だというのに、不思議に思うぐらい嬉しそうに見えるのだが。


「あれだよね。こうやって二人きりで過ごすのって久しぶりだね」


 言われてみれば確かに。迷路階層は別々だったし、一緒にいる時も他の人が必ず傍にいた。二人っきりでいることが極端に減った気がする。

 そんなことを考えている間に陽が落ち始めたようで、夕焼けが辺りを染めている。

 夕日をバックに微笑むラッミスの姿に少し――見とれてしまった。

 元々、可愛らしい顔だとは思っていたが、やっぱり彼女は笑っている顔が一番素敵だな。

 俺が一人の人間の男としてこの場に立っているのなら絵になる光景なのだろうが、自動販売機に微笑む一人の少女って変に思われそうだ。


「こんな時に言ったら怒られそうだけど、ハッコンと一緒だったら何でもやれる気がするの」


 俺もそう思うよ。ラッミスと一緒なら何でもできる気がする。

 気障な言葉の一つも口にして微笑み返せば、さまになるかも知れないが俺は自動販売機だ。返せる言葉は少ない。


「う ん ありがとう」


「ありがとうって変だよ、ハッコン」


 そこで目を細めて嬉しそうに笑うんだ。

 何だろうこの甘酸っぱい空気は……これはもしかして、いい感じの雰囲気というやつなのでは。自動販売機なのに。

 あれ、ラッミスが潤んだ目でこっちに歩み寄ってきている。

 いや、ラッミスさん、ちょっと待った。ええと、何だ、これは何だ。無機物と少女のとんでもラブコメ展開、開催のお知らせなのかっ。


「ちぇすとおおおっ!」


 剛腕が繰り出され、俺の側面を擦った。

 何かが粉砕される音が響き、遅れて拳圧の風が吹き荒れる。

 動揺しすぎて全方位を見てなかったのだが、魔物が見張り台を登ってきていたのか。はぁ、自動販売機の身でありながら、何を勘違いしているのか……かなり恥ずかしいぞ。


「むっ、見張り中だったね、残念」


 また勘違いしそうなことを口にしているが、これも俺の思い違いだろう。

 真面目に見張りやらないとな。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 植物相手に火を使わずに戦うなら―― グツグツに沸騰したての熱湯をかけることでも植物は枯らせるよ。根まで枯らすためには、何度も熱湯をかけ続ける必要があるけど。
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